地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天上編

操り人形

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 ライトが照らされる倉庫の周辺を、一同は音を殺しながら進んでいた。空を飛び回る天使は、武器を片手に周囲をキョロキョロと見渡している。地上では、監視役の人間が銃を片手に扉の前に立っている。

「……どうする?」

 カンダタはアイリスに聞く。彼女は「任せときなさい。」と自信満々に言うと、腰から自身の短剣型の神器を取り出した。

「神器解放。」

 彼女がその能力を発動した途端、周囲を飛ぶ天使、監視カメラ、果ては門の前に立つ監視……全てがその場で停止した。

「え?」

 カンダタは困惑するが、当然そんな暇はない。即座に移動を始める3人に遅れて、彼はついていく。彼らが門を通り過ぎた直後、再び監視たちは動き出した。

 一同が隠れられる場所に着くと、アイリスはしゃがんだ状態で周囲を見渡す。そんな彼女に対して、カンダタは質問を投げる。

「なあ……さっきの奴もっかい使えねえのか?」

 だが彼女は、両手でバツを作ると、

「今は能力で監視カメラを停止させてる。……何よりさっきやったのは広範囲すぎてインターバルが発生する。」

「なんじゃそりゃ……なんとかならねえのか?」

 2人かま会話をかわしていたその時だった。僅かな物音を聞いた監視が、彼らに一歩一歩と近づいてきたのである。咄嗟にアテナは2人の口に手を当てる。

「なんだ……?誰かいるのか?」

 監視は、4人のいる場所を見る。……だが、すでにそこには彼らの姿はなかった。アイリスとダンが飛行し、2人をそこから持ち上げていたのである。

「……気のせいか。」

 監視は、元の場所に戻る。

「危なかったわよ、今の。」

「勘弁してくれ……」

 アテナとダンは、うんざりしたようにため息交じりに言う。2人は気まずそうに自身の口を両手で抑えた。

 再び地上に戻った一同は、空を飛ぶ天使に視線を移す。肝心の武器庫の前には、大量の天使が飛んでいる。カンダタは、アイリスに無力化できるか、というサインを送る。だが、やはり彼女は両手でバツを作った。

「仕方ねえ……」

 カンダタは、アテナに指示を送る。それと同時に、彼女は道に落ちていた石を握ると、空を飛ぶ天使に向けて勢いよく投げた。それは凄まじい速度で天使の眼球に命中し、当てられた天使はその場から落下する。

「おい、どうした……」

 他の天使が、その天使に駆け寄る。その隙を見計らい、4人は彼らの後頭部を強く殴りつけた。

「よし……やっぱゴリ押しが一番!」

 カンダタは自慢げに言う。それに対してアイリスははあ、とため息をつくと、事前に用意されたカードで武器庫の扉を開ける。4人は、そそくさと中に入ると、誰にも気づかれないように扉を閉めた。


 4人は、それぞれ特殊なゴーグルをつける。周囲に張り巡らされたセンサーが、ゴーグル越しに見ることができる。さて……ここを通り抜けなければいけないわけだが……。ゴクリ、とアテナは唾を飲み込む。

「任せときな。」

 ダンは、3人の肩をポンと叩くと、自身の壺型の神器を解放させる。すると、彼の体が神器と一体化し、ドロドロと溶け始めたではないか。それに困惑するカンダタとアテナを置いて、水となった彼は、レーザーの間を通り抜けていく。目にも止まらぬ速度……と言うわけではない。ただ単に、繊細な、洗練された動きだった。元の彼の筋肉質な体からは想像できないその動きに、2人は呆気に取られていた。

「よし……来たぞ。」

 ダンはダイヤルに手を回すと、アイリスに指示を出す。彼女はそれを確認すると、体を動かしてメッセージを送り始めた。ジリ、ジリとダイヤルを回していく。アイリスの神器、それは感覚を操作する能力。彼女自身の五感を強化することも、一定範囲内の五感を操作することもできる。彼女の限界まで研ぎ澄まされた聴力には、ダイヤルの正解を聞き分ける事が出来たのだ。ガチャ、と扉が開く。よし、来い。とダンは3人に指示を送る。彼らは恐る恐るセンサーを通り抜けながら、部屋の中に入っていった。

 …………………………………………

「……どうかしましたか。」

 ゼウスが、玉座に座る男に聞く。彼は、目を開くと、天井を眺めながらそれに答える。

「……ごめん、何か忘れているような気がして。」

「ところで、奴らを野放しにしても良いのですか?」

「ああ、良いんだよ。……と言うか、既にある程度の手は打ってある。」

 男はそういうと、ニヤリと笑った。

 …………………………………………

 4人が扉を開けた先に、何者かがいた。

「マフェットちゃん、ついに来たね。……ああ、そうだねラファエルくん。」

 その何者か……羽を生やしているところを見るに天使だろう。その天使は、右手につけたマペットと会話を繰り広げる。その天使の名……ラファエルという名を聞いた途端、カンダタを除いた3人の表情が硬直した。

「ラファエルって……まさか……四大天使の……!」

 カンダタは、ウリエルの言葉を思い出した。自分を除く3人の四大天使は敵。つまり、この状況は……

「くそ!嵌められた!」

 4人の背後に、駆け込んできた監視たちにより一斉に銃が向けられる。ここまで誘っていたと言うのか。

「マフェットちゃん、アテナ様がおられるよ。……そうだね、ラファエルくん。でも彼女は指名手配。もう遣えていたお方じゃないよ?」

 ラファエルは、マペットと会話を繰り広げながら、コツ、コツと4人に近づいていく。

「分かってるよ、マフェットちゃん。罪悪感もあるからね、さっさと殺されてください、アテナ様。」

 そう言うと、ラファエルは彼らに襲いかかった。
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