地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天上編

叛逆の先

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 反乱軍と言う言葉を聞いた一同は、目をぱちくりとさせる。ウリエルはそんな彼らを無視し、

「さあ、こちらに来てください。集会が始まります。」

 と不気味な笑顔を崩さずに言った。ここまで来て、後戻りなどできる訳がない。一同はゴクリと唾を飲み込むと、ウリエルの後についていった。

 集会場らしき場所は、酷く錆びつき、こじんまりとした家だった。家の中の中央には、ディスプレイに表示された地図らしきものと、それを取り囲む形で何十人もの男女が立っている。

「皆さん、新しいメンバーです。さ、皆さん自己紹介を。」

 いきなり連れてこられ、いきなり自己紹介をしろと言われても、訳がわからない。こいつ、相当強引な奴だぞ。カンダタは目を細めてウリエルを見る。

「……待て。そいつらが『操作』されていない確証は?」

 突然その場にいた数人のうちの1人の男が、ウリエルに質問する。彼は何処から来る自身からか、

「大丈夫です。私が保証します。」

 と胸を張ってキメ顔で言った。どうやら彼には『操作』とやらを見分ける能力があるらしく、その言葉に男は引き下がった。

「じゃあ、あなたから自己紹介ですね。」

 ウリエルはいきなりカンダタを指差した。

「ち、ちょっと待ってくれ。助けてくれたのは感謝するがよ、何でいきなりメンバーだとか……」

 カンダタはウリエルに問い詰める。なんだか六道に入った時のような流れになっている。2度目は止めないと。だが、彼は表情を崩さずにカンダタに返す。

「だって…… そもそも瘴気からしてただものじゃないですし、オリンポス12神を連れていて観光に来ただなんて無理があるじゃないですか?」

 不気味な笑顔を崩さずに、彼女は言う。周囲から、突然どよめきが上がる。それは、カンダタ達も同じ事だった。アテナの存在を知っていたのか、と彼らは思わず後ろに一歩下がる。ウリエルは、奥にいるアテナに近づくと、ストンと跪いた。

「アテナ様……よくぞご無事で。」

 彼のその顔には先ほどまでの笑顔はなく、忠誠心を誓った騎士の顔があった。

「ちょっと待て、オリンポスの12神がいるのか?……というかよく見たら堕天使もあるじゃないか!」

 先ほどとは別の男がウリエルに聞く。周囲のどよめきはさらに増していく。彼は凛々しい表情を崩さずに、

「ええ、そうです。知っているでしょう?アテナ様は追放された……それに私の目でも『操作』された反応はない。」

「しかしだな……」

 尚も周囲のどよめきは消えない。それを解消する為に、彼は笑顔を作り、一つの提案を投げた。

「じゃあ……今夜行う作戦に参加させましょう。それで成果をあげれば、信用に値するはずですよね?」

 周囲はさらに混乱する。だが、そのうちの1人の男は、冷静な口調で、

「良いぜ、乗ってやろうや。アンタの事だからいつもの賭けなんだろ?」

 と言った。よく見ると、その男の背中には羽が生えている。どうやら、この中には天使もいるらしい。

「よし、じゃあ取り敢えず皆さんに作戦を説明しますね。」

 相変わらず強引に話を進めようとするウリエルに対して、マカはそれに割って入るように質問投げる。

「ま、待ってください……今現在の天界の事は私たちは知らないんです。どうか、そこから教えてくれませんか?」

 彼女の問いかけに対して、ウリエルはしばらく上を向いて考えた後、中央のディスプレイを操作し始めた。

「じゃあまず知らない人のために……この天界は今現在、神の独裁体制が強いられています。逆らうものは無論虐殺。既に500名が犠牲になった。その原因は『操作』によるものです。」

 ディスプレイが映像を表示する。そこには、天使達によって大量虐殺される民衆が映し出されていた。

「天界でここまでのことがあったら報道の一つでもされるんじゃ……?なんで地獄まで届いてこなかったんだ?いや、そもそもここまでの事があってどうして入国が……」

 ブツブツと呟く納言に対して、ウリエルは答える。

「それが『操作』です。この天界に住む誰もが、何らかの手段で記憶を操作されてしまっている。だから誰も声を上げないし、どこも報道しようとしない。」

「でも……みんな見たところ神への恐怖は感じていたわ。それは、どうしてなの?」

 アテナの質問に対して、ウリエルはどこか苦い表情を浮かべ、こう答えた。

「……分からないんです。記憶を奪うなら、都合の悪い所は奪うだけ奪って置けばいいのに。……だから私はこう結論づけました。黒幕は、恐怖で支配したい欲求を持っていると。」

 恐怖で支配したい欲求。だとすれば、相手は、どうしてそのような状態へと至ったのだろう。疑問を浮かべる一同に対して、ウリエルは真顔で説明を続ける。

「我々を除いたものは、神々を含めて皆記憶を操作されてしまった。我々が生き残れたのは偶然に過ぎない。故に、我々が相手をするのは、この天界の神々です。私を除いた四大天使の三人も、敵となって現れるでしょう。」

 カンダタは、ゴクリと唾を飲む。これから、神々を相手にするのか。反乱軍がいたのは、正直心強い。だが……

「何人、いるんだ?あんたら全員で。」

 思わず、カンダタは聞いていた。

「……1500人。天使含め、神々は2万います。」

 1500で、2万。その数字を前にした一同は、何かに押しつぶされるような感覚を覚える。たかが数字、されど数字。だが、ここまで絶望的な戦力差で、どう立ち向かえと言うのだ。

「我々大天使は、相手の精神や脳の状態を読む能力を備えている。だからあなた方が操作されていないのは知っています。……協力するかは、あなた方次第です。」

 ウリエルは、一同に手を差し伸べる。この手を、握っていいものだろうか。と、カンダタ達は戸惑った。この先、後戻りできなくなる。仮に失敗すれば、死よりも恐ろしい末路を辿るであろうことが、そこからは察する事ができた。だが、それでも……それでも、彼らは前に進むことを決めた。額はその手を握ると、

「ええ、協力させてください。」

 と承諾した。これで、もう後戻りなどできない。カンダタ達は、垂れる冷や汗を拭った。

「じゃあ、今回の作戦を説明しましょう。……今回の目的は、すなわち武器の収集です。」

 ウリエルは机をバン、と叩いてそう言った。
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