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天上編
人間風邪を引いてる時が一番優しい
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朝になり、アテナはベッドから起きた。違和感を感じたのは、その直後だった。やけに頭がぼーっとする。妙に体全体が重たい。
「あ、アテナ。おはようございます。」
下の階へ降りた彼女に、彼女は挨拶する。おはよう、と返そうとするが、何故か言葉が出てこない。
「……んだよお前。毎朝見せるテンションの高さはどこ行ったんだ?」
カンダタは、ため息をつきながら彼女に言う。何よ、その言い方。と反論しようとするが、やはり言葉が出てこない。フラフラ、と体が揺れる。めまいがしているのだ。バタリ、と彼女は倒れ込んでしまった。
「アテナ?!ちょっと大丈夫ですか?!」
マカの声が頭に響く。瞼が重い。頭が痛い。色々考えるうちに、彼女の意識は底へと落ちていってしまった。
……………………………………………
「いやー、まさか彼女が風邪を引くとはねえ。」
腕を組みながら額はソファに座り、そう呟く。一同は腕を組み、何か思い悩むように、下を向いてうーんと唸っていた。
「今日悪霊討伐の依頼入ってるんですよねえ……」
マカは周囲の人間一人一人に視線を移す。あいにく暇な人間はいないようである。
「取り敢えず俺飯運んでくるわ。」
カンダタは、お盆に朝食を乗せると、上の階へと運んで行った。だが、戻ってきた彼は、妙に沈んだように暗い顔をしていた。
「……どうだった?」
戻ってきたカンダタに、美琴は聞く。彼は顔を手で覆いながら
「お前行ってみ。」
と上の階を指差した。好奇心半分に美琴は上の階に上がっていき、少し経った後に降りてきた。そして彼はカンダタと同様に顔を手で覆いながら
「……どうしよう。」
と答えた。
「な、何かあったんですか?」
「俺、あいつの世話したくない。」
「僕もだ。」
美琴は、若干食い気味にカンダタに賛同する。理由の説明もない拒絶に、他の人間は呆れ返った。要するに他人任せと言う事じゃないか。他に何か適任はいないだろうか……と一同が考えていたその時だった。
「すいませーん遅れましたー!」
納言が、息を切らしながら玄関の扉を開けた。
「あ、いた。」
一同は彼を指差してそう言った。
……………………………………………
「てな訳でよろしくねー納言くん。」
額は玄関で納言にそう言うと、他のメンバーと共に家を出て行った。どうして、こうなってしまった。納言はため息混じりにアテナの部屋に向かう。正直言って、彼は彼女が苦手だった。高飛車だし、気が強いし、何より自分のことを豚と呼ぶ。恐る恐る、納言は彼女の部屋の扉をノックすると、ガチャリと開けた。
「な、何か必要なものは……」
「ああ、貴方ね。……無いわ、ありがとう。」
アテナはフッと笑うと、そう言った。……ん?なんだ、この違和感。彼は扉をバタンと閉めると、首を傾げる。いつもの彼女なら「自分で考えなさい、豚。」とでも言って自分を急かす筈じゃないか。
………………………………
「カンダタさん……なんでアテナの世話は嫌だったんですか?」
街の中でマカは、聞きたかった質問を彼に投げてみる。カンダタは、神妙な面持ちで答える。
「あいつ……風邪ひいてると可愛くなるタイプだ。」
なんの問題があるのだ、と首を傾げる彼女に対して、彼は言葉を続ける。
「普段のあいつのテンションとのギャップ……ようやくあの性格に慣れ始めた途端にあれだ。俺は嫌だよ!あの状態のあいつに丸一日対応するのは!」
普段の傍若無人な立ち振る舞いからは想像できない、あのおとなしさ。そこに生じる感情は、苦痛とも快楽とも形容し難いものである。そんな状態で1日過ごすと言うのは、カンダタにとっては不可能に近いものだった。
………………………………
「ねぇ……豚。ちょっとだけここにいて。」
うるうると目に涙を溜めながら、アテナは納言に言う。それどころか、左手で彼の服を掴んでいるではないか。こ、これはどうすればいいんだ。納言はアタフタと体を動かしながら混乱する。だが、結局行き着いた結論は、その場に正座する事だった。
「え、えーっと……僕は何を話せばいいんですかね?」
「何か話して。……暇なの。」
何か話せと言われても、何を話せばいいのだ。
「えっと……じゃあ怖い話とかしますか?」
「……ん、良いわね。それにして。」
アテナはフッと笑って答える。やりづらい、やりづら過ぎる。なんだこの状況は。大体どうしてこんな事をしているんだ。ダラダラと汗を流しながら納言は縮こまる。そうだ、怖い話を話さなければ。
「えっと……とある人の話なんですけど……曰くその人は深夜に歩いてたらしいんです。そしたら突然黄色いパーカーを被った男が『こんばんわ!』って叫んできたらしくて……それでうっかりその人もそれに答えたらしいんです。問題はその次の日で、そのパーカーの男が殺人容疑で逮捕されてたんです。それで、その殺人理由ってのが、自分に挨拶しなかったから、って事らしくて……。つまりあの時挨拶を返さなければその人も殺されてましたー……なんて話なんですけど……」
「……全然怖くないじゃない。何よそれ。」
アテナはムスッとした表情で答える。しまった、機嫌を損ねてしまったのだろうか。と納言はさらに縮こまった。だが、彼女は続けて
「でもありがと、元気出たわ。」
と笑って返した。
「……」
やりづらい。ああ、やりづら過ぎる。皆んながこれを押し付けてきたのはこの為か。畜生、いつも僕は厄介を押し付けられる。
「み、水持ってくるので……」
「いーじゃない、そんなのは。もう少し話しましょうよ。……ダメなの?」
アテナは、納言に顔を近づける。そう言えば、彼女はかなりの美人なんだった。どうしよう、照れ臭くて目を合わせられない。
「えっと……何を話せばいいんですか?」
「……身の上話で良いわ。そう言えば、アンタの事何も知らないもの。」
その時、納言は気がついた。そうか、彼女は彼女なりに人と分かり合おうとしているのだ。……だったら、僕もそれに応えるべきだろう。納言はよし、と小さく声に出すと、自分の生い立ちを説明し始めた。
「僕……元々実験施設で育ったんです。違法に行われてた実験でして……両親はたった100万蓮と引き換えに、僕を売り飛ばしたと聞きました。……それで、今僕の心臓には、悪魔の心臓が埋め込まれてるんです。その後にここの六道の皆さんに助けてもらって、色々支援貰って生活できてるんですけど……たまに思い出すんです。実験と称して傷つけられまくった日々を。誰かのために傷つくのは構わないですけど……あれだけは嫌だったなあ。結局、この日まで友達も1人しかできなかったし……」
「……」
アテナは、納言が話し終えると、沈黙してしまった。まずい、話が重すぎただろうか。と納言は後悔した。だが次の瞬間、彼女はポロリと涙を流し始め、彼に抱きつき始めた。
「偉い!偉いわよアンタは!今日ここまで生きて来れて良かったわよ!……アンタの友達は1人じゃないわ!それを証明してあげる!」
突然彼女はそう言い放つと、納言を抱え、窓から勢いよく飛び出していってしまった。
「えええええ?!ってかアルコール臭!いつお酒なんか……」
納言は、アテナの持つペットボトルを手に取ると、くんくんと臭いを嗅いだ。そこから放たれる強烈なアルコール臭が鼻を刺した。まさか、まさか……
「……酒と水くらい見分けてくださいよおおおお!!」
納言は、家から家へと飛び移るアテナに抱えられながら叫んだ。
…………………………………
「よーしよしよし……取り敢えず悪霊縛り上げたぜー。」
カンダタは、自身の放った糸で悪霊を拘束し、マカにピースサインを送る。
「よし、これで大丈夫ですね。トドメを差しますから離れてくださーい。」
マカは剣を構える。だが次の瞬間、上空から何者かが降り注ぎ、悪霊を全て吹き飛ばしてしまった。
「ギャァァァァァァ!!!」
そこから巻き起こった衝撃波に2人は吹き飛ばされてしまった。巻き起こった土埃の中、1人の人影がゆらゆらと揺れている。
「カーンーダーター……」
それは、酔っ払ったアテナだった。
「……ん?んんんんんんん??」
彼は目をぱちくりとさせ、自身をロックオンするアテナを見る。
「アンタこいつの友達よねえ?そうよねえ?」
ゆらゆら揺れながら、アテナは彼に聞く。
「お、おう……」
戸惑いながらも、カンダタはその質問に答える。
「だったらあ……ひっく……たまにはこいつに押し付けないで自分でやりなさいよ!友達だってんならあ……頼ってばっかじゃダメよ!……私もだけどさ。」
そう言うと、アテナはストンとその場に座り込み、ぐーぐーと眠ってしまった。
「あー……納言。いろいろ、押し付けてごめんな?」
カンダタは、若干気まずそうに彼に謝罪の言葉を告げる。続けて、マカも彼に頭を下げた。
「私もいつもごめんなさい。」
「ああ……良いんです。帰りましょうか、皆さん。」
納言は照れくさそうに笑うと、アテナを抱え、2人と共にその場を後にした。
次の日になり、風邪が止んだアテナは、相変わらず納言を顎で使っている。どうやら、昨日の一件はよく覚えていないようである。
「ほら、豚。爪でも磨きなさい。」
「は、はい。」
納言は彼女に駆け寄ると、爪を布で磨き始めた。いつもと変わらない光景である。変わった事があると言えば……
「……いつもありがとうね。」
彼女が感謝をするようになった事である。小さいように見えて大きなこの変化に気づき、カンダタ達はニヤニヤと彼女を見る。
「な、何よ?ジロジロ見て……良いわ、昼寝するから。それじゃ……」
彼女は照れ臭そうに自身の部屋に戻って行った。それを見ていた納言は、どこか嬉しそうな表情をしていた。
「……」
アテナは、天井を見つめながら目を開いていた。それもバキバキに。そう、彼女は昨日の事を忘れてなどいなかったのだ。それまでの羞恥心、そして納言の話した怖い話。それが時間差で彼女を苦しめていた。
「ねえ……誰かあ……誰か一緒にいて……ねえ……」
彼女は必死で呼びかけるが、体調が万全の彼女に寄り添うものなど、1人としていなかった。
「あ、アテナ。おはようございます。」
下の階へ降りた彼女に、彼女は挨拶する。おはよう、と返そうとするが、何故か言葉が出てこない。
「……んだよお前。毎朝見せるテンションの高さはどこ行ったんだ?」
カンダタは、ため息をつきながら彼女に言う。何よ、その言い方。と反論しようとするが、やはり言葉が出てこない。フラフラ、と体が揺れる。めまいがしているのだ。バタリ、と彼女は倒れ込んでしまった。
「アテナ?!ちょっと大丈夫ですか?!」
マカの声が頭に響く。瞼が重い。頭が痛い。色々考えるうちに、彼女の意識は底へと落ちていってしまった。
……………………………………………
「いやー、まさか彼女が風邪を引くとはねえ。」
腕を組みながら額はソファに座り、そう呟く。一同は腕を組み、何か思い悩むように、下を向いてうーんと唸っていた。
「今日悪霊討伐の依頼入ってるんですよねえ……」
マカは周囲の人間一人一人に視線を移す。あいにく暇な人間はいないようである。
「取り敢えず俺飯運んでくるわ。」
カンダタは、お盆に朝食を乗せると、上の階へと運んで行った。だが、戻ってきた彼は、妙に沈んだように暗い顔をしていた。
「……どうだった?」
戻ってきたカンダタに、美琴は聞く。彼は顔を手で覆いながら
「お前行ってみ。」
と上の階を指差した。好奇心半分に美琴は上の階に上がっていき、少し経った後に降りてきた。そして彼はカンダタと同様に顔を手で覆いながら
「……どうしよう。」
と答えた。
「な、何かあったんですか?」
「俺、あいつの世話したくない。」
「僕もだ。」
美琴は、若干食い気味にカンダタに賛同する。理由の説明もない拒絶に、他の人間は呆れ返った。要するに他人任せと言う事じゃないか。他に何か適任はいないだろうか……と一同が考えていたその時だった。
「すいませーん遅れましたー!」
納言が、息を切らしながら玄関の扉を開けた。
「あ、いた。」
一同は彼を指差してそう言った。
……………………………………………
「てな訳でよろしくねー納言くん。」
額は玄関で納言にそう言うと、他のメンバーと共に家を出て行った。どうして、こうなってしまった。納言はため息混じりにアテナの部屋に向かう。正直言って、彼は彼女が苦手だった。高飛車だし、気が強いし、何より自分のことを豚と呼ぶ。恐る恐る、納言は彼女の部屋の扉をノックすると、ガチャリと開けた。
「な、何か必要なものは……」
「ああ、貴方ね。……無いわ、ありがとう。」
アテナはフッと笑うと、そう言った。……ん?なんだ、この違和感。彼は扉をバタンと閉めると、首を傾げる。いつもの彼女なら「自分で考えなさい、豚。」とでも言って自分を急かす筈じゃないか。
………………………………
「カンダタさん……なんでアテナの世話は嫌だったんですか?」
街の中でマカは、聞きたかった質問を彼に投げてみる。カンダタは、神妙な面持ちで答える。
「あいつ……風邪ひいてると可愛くなるタイプだ。」
なんの問題があるのだ、と首を傾げる彼女に対して、彼は言葉を続ける。
「普段のあいつのテンションとのギャップ……ようやくあの性格に慣れ始めた途端にあれだ。俺は嫌だよ!あの状態のあいつに丸一日対応するのは!」
普段の傍若無人な立ち振る舞いからは想像できない、あのおとなしさ。そこに生じる感情は、苦痛とも快楽とも形容し難いものである。そんな状態で1日過ごすと言うのは、カンダタにとっては不可能に近いものだった。
………………………………
「ねぇ……豚。ちょっとだけここにいて。」
うるうると目に涙を溜めながら、アテナは納言に言う。それどころか、左手で彼の服を掴んでいるではないか。こ、これはどうすればいいんだ。納言はアタフタと体を動かしながら混乱する。だが、結局行き着いた結論は、その場に正座する事だった。
「え、えーっと……僕は何を話せばいいんですかね?」
「何か話して。……暇なの。」
何か話せと言われても、何を話せばいいのだ。
「えっと……じゃあ怖い話とかしますか?」
「……ん、良いわね。それにして。」
アテナはフッと笑って答える。やりづらい、やりづら過ぎる。なんだこの状況は。大体どうしてこんな事をしているんだ。ダラダラと汗を流しながら納言は縮こまる。そうだ、怖い話を話さなければ。
「えっと……とある人の話なんですけど……曰くその人は深夜に歩いてたらしいんです。そしたら突然黄色いパーカーを被った男が『こんばんわ!』って叫んできたらしくて……それでうっかりその人もそれに答えたらしいんです。問題はその次の日で、そのパーカーの男が殺人容疑で逮捕されてたんです。それで、その殺人理由ってのが、自分に挨拶しなかったから、って事らしくて……。つまりあの時挨拶を返さなければその人も殺されてましたー……なんて話なんですけど……」
「……全然怖くないじゃない。何よそれ。」
アテナはムスッとした表情で答える。しまった、機嫌を損ねてしまったのだろうか。と納言はさらに縮こまった。だが、彼女は続けて
「でもありがと、元気出たわ。」
と笑って返した。
「……」
やりづらい。ああ、やりづら過ぎる。皆んながこれを押し付けてきたのはこの為か。畜生、いつも僕は厄介を押し付けられる。
「み、水持ってくるので……」
「いーじゃない、そんなのは。もう少し話しましょうよ。……ダメなの?」
アテナは、納言に顔を近づける。そう言えば、彼女はかなりの美人なんだった。どうしよう、照れ臭くて目を合わせられない。
「えっと……何を話せばいいんですか?」
「……身の上話で良いわ。そう言えば、アンタの事何も知らないもの。」
その時、納言は気がついた。そうか、彼女は彼女なりに人と分かり合おうとしているのだ。……だったら、僕もそれに応えるべきだろう。納言はよし、と小さく声に出すと、自分の生い立ちを説明し始めた。
「僕……元々実験施設で育ったんです。違法に行われてた実験でして……両親はたった100万蓮と引き換えに、僕を売り飛ばしたと聞きました。……それで、今僕の心臓には、悪魔の心臓が埋め込まれてるんです。その後にここの六道の皆さんに助けてもらって、色々支援貰って生活できてるんですけど……たまに思い出すんです。実験と称して傷つけられまくった日々を。誰かのために傷つくのは構わないですけど……あれだけは嫌だったなあ。結局、この日まで友達も1人しかできなかったし……」
「……」
アテナは、納言が話し終えると、沈黙してしまった。まずい、話が重すぎただろうか。と納言は後悔した。だが次の瞬間、彼女はポロリと涙を流し始め、彼に抱きつき始めた。
「偉い!偉いわよアンタは!今日ここまで生きて来れて良かったわよ!……アンタの友達は1人じゃないわ!それを証明してあげる!」
突然彼女はそう言い放つと、納言を抱え、窓から勢いよく飛び出していってしまった。
「えええええ?!ってかアルコール臭!いつお酒なんか……」
納言は、アテナの持つペットボトルを手に取ると、くんくんと臭いを嗅いだ。そこから放たれる強烈なアルコール臭が鼻を刺した。まさか、まさか……
「……酒と水くらい見分けてくださいよおおおお!!」
納言は、家から家へと飛び移るアテナに抱えられながら叫んだ。
…………………………………
「よーしよしよし……取り敢えず悪霊縛り上げたぜー。」
カンダタは、自身の放った糸で悪霊を拘束し、マカにピースサインを送る。
「よし、これで大丈夫ですね。トドメを差しますから離れてくださーい。」
マカは剣を構える。だが次の瞬間、上空から何者かが降り注ぎ、悪霊を全て吹き飛ばしてしまった。
「ギャァァァァァァ!!!」
そこから巻き起こった衝撃波に2人は吹き飛ばされてしまった。巻き起こった土埃の中、1人の人影がゆらゆらと揺れている。
「カーンーダーター……」
それは、酔っ払ったアテナだった。
「……ん?んんんんんんん??」
彼は目をぱちくりとさせ、自身をロックオンするアテナを見る。
「アンタこいつの友達よねえ?そうよねえ?」
ゆらゆら揺れながら、アテナは彼に聞く。
「お、おう……」
戸惑いながらも、カンダタはその質問に答える。
「だったらあ……ひっく……たまにはこいつに押し付けないで自分でやりなさいよ!友達だってんならあ……頼ってばっかじゃダメよ!……私もだけどさ。」
そう言うと、アテナはストンとその場に座り込み、ぐーぐーと眠ってしまった。
「あー……納言。いろいろ、押し付けてごめんな?」
カンダタは、若干気まずそうに彼に謝罪の言葉を告げる。続けて、マカも彼に頭を下げた。
「私もいつもごめんなさい。」
「ああ……良いんです。帰りましょうか、皆さん。」
納言は照れくさそうに笑うと、アテナを抱え、2人と共にその場を後にした。
次の日になり、風邪が止んだアテナは、相変わらず納言を顎で使っている。どうやら、昨日の一件はよく覚えていないようである。
「ほら、豚。爪でも磨きなさい。」
「は、はい。」
納言は彼女に駆け寄ると、爪を布で磨き始めた。いつもと変わらない光景である。変わった事があると言えば……
「……いつもありがとうね。」
彼女が感謝をするようになった事である。小さいように見えて大きなこの変化に気づき、カンダタ達はニヤニヤと彼女を見る。
「な、何よ?ジロジロ見て……良いわ、昼寝するから。それじゃ……」
彼女は照れ臭そうに自身の部屋に戻って行った。それを見ていた納言は、どこか嬉しそうな表情をしていた。
「……」
アテナは、天井を見つめながら目を開いていた。それもバキバキに。そう、彼女は昨日の事を忘れてなどいなかったのだ。それまでの羞恥心、そして納言の話した怖い話。それが時間差で彼女を苦しめていた。
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