23 / 76
天上編
神様は大体ヤバいやつ
しおりを挟む
大雨が降る中、俺は傘を刺しながら歩いていた。
「ったくよお……なんで買い物頼まれた日に限ってこんな……」
刺している傘などもはや意味を成さず、横降りの雨はどんどん俺の体を突き刺してくる。地獄のくせに、この世界にも天気は存在するのだ。
曰く、現世と天候は共有されるのだと言う。
ああもう、いっそこの傘を放り捨ててしまおうか、とさえ思う。
そんな時だった。道路の脇に、段ボールに乗せられた何者かを、俺は見つけた。
ちんまりとした印象の体、オレンジ色のもじゃもじゃの毛並み……それはまさしく捨て猫………
ではなく、人間の女だった。そいつは俺をギロリと睨みつける。拾え……拾え……と言わんばかりの目つきで。
段ボールには、『拾ってください♡』と書かれている。
それを俺は完全に無視する。関わらない方がいいに決まってる。
だが、早歩きにその場を離れようとする俺に、そいつは力強くしがみついた。
「拾ええええええ……」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女はうめき声をあげながら、逃げようとする俺の服を掴み続けた。
………………………………………………
「で、連れて帰ってきたと。」
美琴はため息混じりに俺に言う。
「ハイ……」
俺は申し訳なさそうに、か細い声で答えた。
「……取り敢えず風呂に入れてやろう。おーい、マカ。あとは君に頼んだぜ。……なんなら僕がエスコートしてもい…」
「結構です。さ、行きましょ。」
マカに連れられるまま、女は風呂場に入って行った。
「……よし、覗くか。」
俺は背伸びすると、風呂場に向かってダッシュで……
駆け込もうとした所を美琴に組み伏せられた。
「なんでだよ!ぶっちゃけお前もみたいだろマカさんの裸体!」
「僕がそんな邪な感情で彼女を見るかあああ!!」
俺たちの暫く続いた口論は、その数分後に俺が覗きを諦める形で決着がついた。くそ、マタタビでも待っていればこいつを誤魔化せたと言うのに。俺は舌打ちしつつ、リビングへと入っていった。
「カンダタ、クソ野郎。」
「覗きを働くとは見損ないましたよ。」
向こうでは、牛頭と馬頭がひそひそと陰口を叩いていた。
…………………………………………………
風呂場にて、マカは風呂から上がった女にタオルを渡す。
「……堕天使。」
ボソリ、と女は呟き、フッと笑った。しかし、対するマカは何も答えない。少し顔を顰め、彼女の体を拭き続けるのみだった。
…………………………………………………
風呂から上がった女は、先ほどのボロボロ具合が嘘のような、とてつも無い美人だった。外国の顔つきに見慣れていない俺でもわかる。これは、相当高貴な奴だ。
「さて……レディ。君はどうして雨の中あんなところに……」
美琴がそう言って女に手を差し出したその時だった。美琴の顔面は、その女によって蹴り上げられていた。
「ぎゃっふぅぅぅぅぅん……」
美琴は大きく飛び上がると、天井に勢いよく突き刺さった。パラパラ、と木のかけらが僅かばかりに落下する。
俺たちはあんぐりと口を開け、突然起こった事態に呆気に取られていた。そんな状況の中、女は口を開く。
「汚い手で触るな、平民風情が。私は処女神アテナよ?体を洗ってくれた礼に今の蛮行は許しましょう。
……おい、そこの豚!爪を磨きなさい。」
アテナと名乗る女は、こちらを見下ろしながら、納言に向かって言い放つ。
「へ?ぼ、僕?」
戸惑う納言に対してアテナはため息をつき、今度はマカの方を指差す。
「じゃあ堕天使、アンタで良いわ。さっきは中々気の利いた世話をしてくれたもの。」
ギリ、とマカは拳を握る。恐らく堕天使と馬鹿にされた事に対して怒っているのではない。この傍若無人な振る舞いに対して怒っているのだ。
「貴方ねえ……何者か知らないですけど……」
ダン、とマカは踏み込むと、アテナに対して食ってかかる。
「だから私はアテナっていってるじゃない。知らないの?知性、戦争、芸術の神よ?」
彼女は、見下す姿勢を崩さぬままマカに返答する。
「アテナだってぇ?!」
天井に突き刺さっていた美琴は、いきなりそこから頭を引き抜いて着地すると、驚いた表情で説明を始める。
「アテナと言ったら、オリンポス12神の1人だ。……その瘴気からして嘘は言ってないだろう。……なんでそんなのがここにいるんだ?」
すっかり彼は混乱しきっている。
そんな彼に対して、アテナはニヤリと笑う。
「あら、あなた良いじゃない。……まあ、取り敢えずしばらくここに滞在するわ。上質なベッドを用意しなさい。眠くなっちゃった。」
大きくあくびをかくと、アテナは椅子から降りる。
「おはよーみんなー。……ん?その娘、誰だい?」
寝室からようやく顔を出した額が俺たちに聞く。なんて答えたらいいんだろう、と全員が口ごもっていた。
「あら、貴方がここを取り仕切ってるの?取り敢えず、貴方の部屋でも借りようかしら。ほらおどきなさい!!」
アテナは額を突き飛ばすと、彼の部屋に入って行った。バタン、と閉まる扉。シーン……と沈黙が広がる。
「ぼ、僕の部屋……」
ワナワナと額は震える。
「あれ、どうするんです?」
牛頭は、何故か俺に対して聞く。
「拾ってきたの、誰?」
額が聞くと、皆が一斉に俺を指差した。違う違う違う、勝手についてきたんだって。と言う俺の訴えはもはや通用しなかった。すると突然扉が開き
「あ、そことそこ。私の世話係になりなさい。そこの美琴とか言う猫は獣臭いから嫌!」
とアテナが俺とマカを指差した。
「……そこんとこ、よろしく。」
気まずそうに額は俺たちに言うと、寝室を探しに2階に上がって行った。牛頭と馬頭は、さりげなく自分の部屋へと戻って行った。
「ま、マカ……なんとか僕が代わりに……」
「いえ……結構です。」
美琴の提案を、若干放心しつつマカは跳ねのけた。
「なんでこーなるんだ……」
一難去ってまた一難とは、まさにこの事。一体これからどうなってしまうのか、俺は不安で仕方なかった。
「ったくよお……なんで買い物頼まれた日に限ってこんな……」
刺している傘などもはや意味を成さず、横降りの雨はどんどん俺の体を突き刺してくる。地獄のくせに、この世界にも天気は存在するのだ。
曰く、現世と天候は共有されるのだと言う。
ああもう、いっそこの傘を放り捨ててしまおうか、とさえ思う。
そんな時だった。道路の脇に、段ボールに乗せられた何者かを、俺は見つけた。
ちんまりとした印象の体、オレンジ色のもじゃもじゃの毛並み……それはまさしく捨て猫………
ではなく、人間の女だった。そいつは俺をギロリと睨みつける。拾え……拾え……と言わんばかりの目つきで。
段ボールには、『拾ってください♡』と書かれている。
それを俺は完全に無視する。関わらない方がいいに決まってる。
だが、早歩きにその場を離れようとする俺に、そいつは力強くしがみついた。
「拾ええええええ……」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女はうめき声をあげながら、逃げようとする俺の服を掴み続けた。
………………………………………………
「で、連れて帰ってきたと。」
美琴はため息混じりに俺に言う。
「ハイ……」
俺は申し訳なさそうに、か細い声で答えた。
「……取り敢えず風呂に入れてやろう。おーい、マカ。あとは君に頼んだぜ。……なんなら僕がエスコートしてもい…」
「結構です。さ、行きましょ。」
マカに連れられるまま、女は風呂場に入って行った。
「……よし、覗くか。」
俺は背伸びすると、風呂場に向かってダッシュで……
駆け込もうとした所を美琴に組み伏せられた。
「なんでだよ!ぶっちゃけお前もみたいだろマカさんの裸体!」
「僕がそんな邪な感情で彼女を見るかあああ!!」
俺たちの暫く続いた口論は、その数分後に俺が覗きを諦める形で決着がついた。くそ、マタタビでも待っていればこいつを誤魔化せたと言うのに。俺は舌打ちしつつ、リビングへと入っていった。
「カンダタ、クソ野郎。」
「覗きを働くとは見損ないましたよ。」
向こうでは、牛頭と馬頭がひそひそと陰口を叩いていた。
…………………………………………………
風呂場にて、マカは風呂から上がった女にタオルを渡す。
「……堕天使。」
ボソリ、と女は呟き、フッと笑った。しかし、対するマカは何も答えない。少し顔を顰め、彼女の体を拭き続けるのみだった。
…………………………………………………
風呂から上がった女は、先ほどのボロボロ具合が嘘のような、とてつも無い美人だった。外国の顔つきに見慣れていない俺でもわかる。これは、相当高貴な奴だ。
「さて……レディ。君はどうして雨の中あんなところに……」
美琴がそう言って女に手を差し出したその時だった。美琴の顔面は、その女によって蹴り上げられていた。
「ぎゃっふぅぅぅぅぅん……」
美琴は大きく飛び上がると、天井に勢いよく突き刺さった。パラパラ、と木のかけらが僅かばかりに落下する。
俺たちはあんぐりと口を開け、突然起こった事態に呆気に取られていた。そんな状況の中、女は口を開く。
「汚い手で触るな、平民風情が。私は処女神アテナよ?体を洗ってくれた礼に今の蛮行は許しましょう。
……おい、そこの豚!爪を磨きなさい。」
アテナと名乗る女は、こちらを見下ろしながら、納言に向かって言い放つ。
「へ?ぼ、僕?」
戸惑う納言に対してアテナはため息をつき、今度はマカの方を指差す。
「じゃあ堕天使、アンタで良いわ。さっきは中々気の利いた世話をしてくれたもの。」
ギリ、とマカは拳を握る。恐らく堕天使と馬鹿にされた事に対して怒っているのではない。この傍若無人な振る舞いに対して怒っているのだ。
「貴方ねえ……何者か知らないですけど……」
ダン、とマカは踏み込むと、アテナに対して食ってかかる。
「だから私はアテナっていってるじゃない。知らないの?知性、戦争、芸術の神よ?」
彼女は、見下す姿勢を崩さぬままマカに返答する。
「アテナだってぇ?!」
天井に突き刺さっていた美琴は、いきなりそこから頭を引き抜いて着地すると、驚いた表情で説明を始める。
「アテナと言ったら、オリンポス12神の1人だ。……その瘴気からして嘘は言ってないだろう。……なんでそんなのがここにいるんだ?」
すっかり彼は混乱しきっている。
そんな彼に対して、アテナはニヤリと笑う。
「あら、あなた良いじゃない。……まあ、取り敢えずしばらくここに滞在するわ。上質なベッドを用意しなさい。眠くなっちゃった。」
大きくあくびをかくと、アテナは椅子から降りる。
「おはよーみんなー。……ん?その娘、誰だい?」
寝室からようやく顔を出した額が俺たちに聞く。なんて答えたらいいんだろう、と全員が口ごもっていた。
「あら、貴方がここを取り仕切ってるの?取り敢えず、貴方の部屋でも借りようかしら。ほらおどきなさい!!」
アテナは額を突き飛ばすと、彼の部屋に入って行った。バタン、と閉まる扉。シーン……と沈黙が広がる。
「ぼ、僕の部屋……」
ワナワナと額は震える。
「あれ、どうするんです?」
牛頭は、何故か俺に対して聞く。
「拾ってきたの、誰?」
額が聞くと、皆が一斉に俺を指差した。違う違う違う、勝手についてきたんだって。と言う俺の訴えはもはや通用しなかった。すると突然扉が開き
「あ、そことそこ。私の世話係になりなさい。そこの美琴とか言う猫は獣臭いから嫌!」
とアテナが俺とマカを指差した。
「……そこんとこ、よろしく。」
気まずそうに額は俺たちに言うと、寝室を探しに2階に上がって行った。牛頭と馬頭は、さりげなく自分の部屋へと戻って行った。
「ま、マカ……なんとか僕が代わりに……」
「いえ……結構です。」
美琴の提案を、若干放心しつつマカは跳ねのけた。
「なんでこーなるんだ……」
一難去ってまた一難とは、まさにこの事。一体これからどうなってしまうのか、俺は不安で仕方なかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる