地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天上編

神様は大体ヤバいやつ

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 大雨が降る中、俺は傘を刺しながら歩いていた。

「ったくよお……なんで買い物頼まれた日に限ってこんな……」

 刺している傘などもはや意味を成さず、横降りの雨はどんどん俺の体を突き刺してくる。地獄のくせに、この世界にも天気は存在するのだ。

曰く、現世と天候は共有されるのだと言う。

ああもう、いっそこの傘を放り捨ててしまおうか、とさえ思う。

 そんな時だった。道路の脇に、段ボールに乗せられた何者かを、俺は見つけた。

 ちんまりとした印象の体、オレンジ色のもじゃもじゃの毛並み……それはまさしく捨て猫………

 ではなく、人間の女だった。そいつは俺をギロリと睨みつける。拾え……拾え……と言わんばかりの目つきで。

 段ボールには、『拾ってください♡』と書かれている。

 それを俺は完全に無視する。関わらない方がいいに決まってる。

 だが、早歩きにその場を離れようとする俺に、そいつは力強くしがみついた。

「拾ええええええ……」

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 女はうめき声をあげながら、逃げようとする俺の服を掴み続けた。


 ………………………………………………

「で、連れて帰ってきたと。」

 美琴はため息混じりに俺に言う。

「ハイ……」

 俺は申し訳なさそうに、か細い声で答えた。

「……取り敢えず風呂に入れてやろう。おーい、マカ。あとは君に頼んだぜ。……なんなら僕がエスコートしてもい…」

「結構です。さ、行きましょ。」

 マカに連れられるまま、女は風呂場に入って行った。

「……よし、覗くか。」

 俺は背伸びすると、風呂場に向かってダッシュで……

 駆け込もうとした所を美琴に組み伏せられた。

「なんでだよ!ぶっちゃけお前もみたいだろマカさんの裸体!」

「僕がそんな邪な感情で彼女を見るかあああ!!」

 俺たちの暫く続いた口論は、その数分後に俺が覗きを諦める形で決着がついた。くそ、マタタビでも待っていればこいつを誤魔化せたと言うのに。俺は舌打ちしつつ、リビングへと入っていった。

「カンダタ、クソ野郎。」

「覗きを働くとは見損ないましたよ。」

 向こうでは、牛頭と馬頭がひそひそと陰口を叩いていた。
 …………………………………………………
 風呂場にて、マカは風呂から上がった女にタオルを渡す。

「……堕天使。」

 ボソリ、と女は呟き、フッと笑った。しかし、対するマカは何も答えない。少し顔を顰め、彼女の体を拭き続けるのみだった。

 …………………………………………………


 風呂から上がった女は、先ほどのボロボロ具合が嘘のような、とてつも無い美人だった。外国の顔つきに見慣れていない俺でもわかる。これは、相当高貴な奴だ。

「さて……レディ。君はどうして雨の中あんなところに……」

 美琴がそう言って女に手を差し出したその時だった。美琴の顔面は、その女によって蹴り上げられていた。

「ぎゃっふぅぅぅぅぅん……」

 美琴は大きく飛び上がると、天井に勢いよく突き刺さった。パラパラ、と木のかけらが僅かばかりに落下する。

俺たちはあんぐりと口を開け、突然起こった事態に呆気に取られていた。そんな状況の中、女は口を開く。

「汚い手で触るな、平民風情が。私は処女神アテナよ?体を洗ってくれた礼に今の蛮行は許しましょう。

 ……おい、そこの豚!爪を磨きなさい。」

 アテナと名乗る女は、こちらを見下ろしながら、納言に向かって言い放つ。

「へ?ぼ、僕?」

 戸惑う納言に対してアテナはため息をつき、今度はマカの方を指差す。

「じゃあ堕天使、アンタで良いわ。さっきは中々気の利いた世話をしてくれたもの。」

 ギリ、とマカは拳を握る。恐らく堕天使と馬鹿にされた事に対して怒っているのではない。この傍若無人な振る舞いに対して怒っているのだ。

「貴方ねえ……何者か知らないですけど……」

 ダン、とマカは踏み込むと、アテナに対して食ってかかる。

「だから私はアテナっていってるじゃない。知らないの?知性、戦争、芸術の神よ?」

 彼女は、見下す姿勢を崩さぬままマカに返答する。

「アテナだってぇ?!」

 天井に突き刺さっていた美琴は、いきなりそこから頭を引き抜いて着地すると、驚いた表情で説明を始める。

「アテナと言ったら、オリンポス12神の1人だ。……その瘴気からして嘘は言ってないだろう。……なんでそんなのがここにいるんだ?」

 すっかり彼は混乱しきっている。

 そんな彼に対して、アテナはニヤリと笑う。

「あら、あなた良いじゃない。……まあ、取り敢えずしばらくここに滞在するわ。上質なベッドを用意しなさい。眠くなっちゃった。」

 大きくあくびをかくと、アテナは椅子から降りる。

「おはよーみんなー。……ん?その娘、誰だい?」

 寝室からようやく顔を出した額が俺たちに聞く。なんて答えたらいいんだろう、と全員が口ごもっていた。

「あら、貴方がここを取り仕切ってるの?取り敢えず、貴方の部屋でも借りようかしら。ほらおどきなさい!!」

 アテナは額を突き飛ばすと、彼の部屋に入って行った。バタン、と閉まる扉。シーン……と沈黙が広がる。

「ぼ、僕の部屋……」

 ワナワナと額は震える。

「あれ、どうするんです?」

 牛頭は、何故か俺に対して聞く。

「拾ってきたの、誰?」

 額が聞くと、皆が一斉に俺を指差した。違う違う違う、勝手についてきたんだって。と言う俺の訴えはもはや通用しなかった。すると突然扉が開き

「あ、そことそこ。私の世話係になりなさい。そこの美琴とか言う猫は獣臭いから嫌!」

 とアテナが俺とマカを指差した。

「……そこんとこ、よろしく。」

 気まずそうに額は俺たちに言うと、寝室を探しに2階に上がって行った。牛頭と馬頭は、さりげなく自分の部屋へと戻って行った。

「ま、マカ……なんとか僕が代わりに……」

「いえ……結構です。」

 美琴の提案を、若干放心しつつマカは跳ねのけた。

「なんでこーなるんだ……」

 一難去ってまた一難とは、まさにこの事。一体これからどうなってしまうのか、俺は不安で仕方なかった。
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