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鬼蜘蛛編
反撃、開始
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悪霊たちは増えていく。凄まじい速度で増えていく。毎秒何体なのかはわからない。何故ならあまりにも多すぎるのだから。
俺たちは、その間掻き分けて突き進んでいた。俺は途中で息を切らした納言を背負いつつ、美琴と奈蜘蛛に質問する。
「どうする?!この先もっと試客が現れるかもだぜ?」
正直あまり質問をしている余裕はないのだが、聞かざるをえまい。先に口を開いたのは、美琴だった。
「……僕が行く。」
「……僕が行く。」
「良いのか?お前がいてくれれば心強いんだが……」
俺は美琴に聞く。
「君ならなんでも解決できる、そんな気がするのさ。……来るよ!」
彼がそう言った瞬間、突如背後に何者かが回り込み、俺たちに攻撃を開始した。それはボコボコと言う音と共に拳を体を膨張させると、その巨大化した拳を振り下ろした。
咄嗟に俺たちは避ける。そこにいたのは、顎に髭を生やした巨漢な男だった。
「六道……と、奈蜘蛛か。お前の裏切りは知っていたよ。」
男は無表情を崩さずにそう言う。俺たちは、それに対して何も答えない。
「無回答……か。この大きさを前に恐怖したか?……まあ良い。我が名は亜門《あもん》。覚悟すると良い。」
男……亜門は続けて、もう片方の手を膨張させていく。肥大化しきったそれは、先日戦った巨人のそれと遜色ない大きさだった。否、先ほどの速度から見ればあれ以上だろう。
俺たちはバラバラの方向に下がり、その攻撃を回避していく。その時だった。美琴が俺たちの背中を押し、前の方へと誘導したのだ。
「言ったろ?僕が行くと。行きたまえよ、カンダタ。スマートに行こうぜ?」
いつものような、美琴の笑顔だった。こいつになら任せて良いかもしれない。俺たち3人は、瘴気の放たれる方へと走って行った。
…………………………………………………
幽晴は、人々を襲う悪霊たちに向け、銃撃を放つ。背中に纏わり付く者、死体を喰らおうとする者と様々に。
しかし、どう考えても戦力と敵の数が見合っていない。この間にも、上空から悪霊たちが供給されて行く。
「くっ……!流石にキツすぎるっすよ!」
そう愚痴をこぼしつつ、銃弾を放つ。このままでは……このままでは……!その時だった。上空に発生する悪霊たちが、一斉に消え去ったのだ。
「……?!」
先ほどまで、悪霊の鳴き声で埋め尽くされていた街中に、沈黙が広がる。まさか、と幽晴は上を向いた。そこにいたのは、羽山額だった。
「無限に湧くなら……斬れば良い。おっと……また湧いてきたか。」
額は、再び発生を始める悪霊を確認すると、再び刀を握りしめた。
「あれが……羽山額。全くもう…あの人1人で解決できるじゃないっすか!」
幽晴は、またもや愚痴を溢す。突然そんな彼の後ろに回り込んだ額は、
「そうでもないよ。地上だと民間人も巻き込みかねないからね。」
と一言呟くように言った。
「うわぁぁ!いきなり話しかけないでくださいっすよ!」
幽晴は、思わず尻餅をつく。だが、そんな暇はないと直後に気がつき、即座に起き上がった。
「ははは……じゃ、地上は任せたよ!」
額はそんな彼の両肩を、手でポンポンと叩くと、再び上空の悪霊へと向かっていった。
「……はあ、つくづくめちゃくちゃだ。」
幽晴は肩を落とすと、再び悪霊への攻撃を開始した。
ビルの屋上、2人の男が見合っている。
ビュービューと吹き荒れる風。
曇り切った空。
遠方から聞こえる悲鳴。
それら全てが、これから始まる両者の戦いを予兆していた。
「よお、侍野郎。」
正門はそう言うと、刀を携えた男に金棒を向ける。
「俺を満たしてくれる奴……ずっと探してたんだ。」
ニヤリ、と男は笑う。
「確か、名前はムラマサと言ったか。……さっさとやろうぜ。」
正門は笑い返すと、金棒をムラマサに向けて振り下ろした。彼はそれを後ろに下がって回避すると、その直後に急速に正門と距離を詰め、腰についた刀を振り上げる。
常人には、視認など不可能に近い速度。剣技も何も無いが、ただただ圧倒的な攻撃の練度。正門は、そのまま首を切り落とされる……
事はなかった。彼にとってその攻撃を避けることは造作もない事だった。正門は、敢えてギリギリのところでそれを回避すると、金棒を上へと振り上げた。
ゼロ距離からの打撃。空気の壁を突破した一撃。とてもじゃないが、避けきれない。マサムネは、刀で自身の体を防御し、その攻撃を相殺させる。しかし、大きく弾かれた彼の体は、隣のビルに激突した。壁から壁を貫通していく彼を、正門は追う。
「鬼の金棒喰らっとけ。」
正門の追撃を、再びマサムネは防御する。しかし、やはりその衝撃を相殺しきれない。そのまま彼は地面に叩きつけられ、ビルの最下層へとまで叩きつけられた。
周囲のガラスは次々と割れ、ビルは倒壊を始める。
「来いよ、欲求不満野郎。何度だって叩き潰してやる。」
正門は、マサムネを挑発する。
起き上がった彼の頬には、一筋の涙が垂れていた。
「ははは……年甲斐もなく泣いちまうぜ。俺はよお……ずっと思ってたんだ。俺が殺そうとしても殺さねえ、そんな奴はいねえのかって。アンタが今!まさにそうだぁぁぁぁ!!」
マサムネの体が膨張していく。そうか、あの形態か。変身させまいと、正門は金棒を振る。しかし、膨張するはずだったマサムネのの体は、途中でその動きを停止させた。
なんだ、と思ったのも束の間、正門の右肩に、傷がついていた。勢いよく、血煙が上がる。
「こっからが本番だぜ……?」
煙に体を紛らせた彼は、姿が見えない。ただ、先ほどより一回り体が大きいことだけが分かる。
正門は右肩をを押さえながら、金棒を構えた。
…………………………………………………
カイナは、牛頭と馬頭を前に、後退する他なかった。なんだ、この双子。先日とまるで動きが違うじゃないか。彼女は、閉じていた目を思わず開いていた。彼女は2人から距離を取ると、鎌を前に構え、警戒を強める。
「なるほど……確かに息巻くだけはあるね。どうゆう原理?」
冷や汗を垂らした彼女は、質問を投げる。
牛頭は、敢えてそれに答える。
「貴方……スーパーで会った時に全く瘴気を感じなかった。それは貴方の能力なんでしょう?瘴気の感知を操る能力。
私たちは常に瘴気を感知して戦う……故に貴方を前にしたら攻撃を読みきれなかった。」
馬頭は言葉を続ける。
「貴方、まだ、本気出してない。さっさと出して。」
馬頭の挑発に、カイナはニヤリと笑う。
なるほど、ならば乗ってやろうじゃないか。彼女は瘴気を解放させる。シュウウウウウ……と、煙のように瘴気漏れ出す。視認可能と言うことは、それほど膨大な量の瘴気と言う事だ。
襲い来る触手の大群を、マカは全ていなしていく。既にカラスは怪物へと姿を変えている。彼女はカラスの顔面に剣を突き刺すと、駆け上がるように剣を振り上げた。
顔から背中にかけて、カラスの体に傷がつく。赤い血煙があがり、彼の体はよろめいた。
「どーゆー原理だ……テメェは一体どうして……!」
「私自身にもわかりませんよ、そんなもの。……ただ、今の貴様には負ける気はしない。」
マカの瞳が黄金に光る。これは、まさか。カラスはギリ、と歯を食いしばる。
この女、天使の力が目覚めつつあるのか。それもただの天使じゃねえ、あの瞳は、最上級の天使だ。この女に?この女に最上級レベルの強さがあるとでも?
「ふざけんじゃねえ……!ふざけんじゃねえええええええええ!」
カラスは怒りを込めて叫ぶ。彼の体から、瘴気の煙が噴き出る。
これは……まさか。マカは目を見開いた。そこにいたのは、先ほどの怪物を人型にしたような姿だった。
そうか、悪霊の形態と人型の形態の中間……それがあった。そうなると、瘴気のムラがなくなり、先程とは別格の強さに……
彼女が考えを巡らせたその時には、既に彼女の体は触手に貫かれていた。
「ゴッ……!」
彼女の口から血が噴き出る。なんと言う速さ。触手を伸ばされた事にすら気付かなかった。
双子は四方八方から攻撃を浴びせる。弾性を浴びた地面を跳ね、武器を振り回していく。
しかし、カイナはあっさりとその攻撃をいなし、双子を吹き飛ばしてしまった。
「がっ……!」
「痛っ!」
そのまま壁まだ吹き飛ばされた牛頭に、カイナは鎌を振り下ろす。
「牛頭!」
馬頭は叫ぶ。
抵抗する暇なく、牛頭の右腕は切り落とされてしまった。
「え……」
唖然とする彼女に、カイナは追撃の蹴りを浴びせる地面に強く叩きつけられた牛頭は、もう動かない。
「牛頭……ねえ牛頭……起きてよ!お姉ちゃん!ねえ!」
馬頭は必死で叫んだ。しかし、彼女からの返答はない。
「はあ……はあ……クソ……!やべぇ。」
正門は、膝をついていた。先ほどとは別格の強さを見せるマサムネを前にし、思わず一歩後退していた。
逃げたい。思わずマカは思った。
逃げたい。思わず馬頭は思った。
逃げたい。思わず正門は思った。
逃げる……?そんな選択肢、あいつは……カンダタは取るだろうか。大事なもののために戦い続けるあいつは、果たして取るだろうか。
いいや、そんな事は思いはしない。3人は、それぞれ立ち上がる。逃げたりしない。負けたりしない。
「まだ立つか、女。」
ニヤニヤと笑いながら、カラスはマカに言う。彼女は下を向いて返答する。
「あの人は……カンダタさんは、私を……私をあの時守ってくれた。彼なら逃げない。逃げたりしない。逃げちゃいけない!」
マカの背中に翼が生える。片翼は、両翼へと姿を変えた。彼女の頭の上に、天使の輪が浮かんでいた。ただし、半分だけ。黒い半分の輪。つくづく不完全だ。だが、これでいい。
「テメェ……天使の力に……!」
馬頭は、武器を瘴気で強化する。時空を切り裂く一撃。アレを、常に発動させる。不可能かもしれないが、やって見るしかない。
牛頭は起き上がると、残ったもう片方の腕で武器を握る。
既に体はボロボロだ。立っているのがやっと。だが、それで良い。
『牛頭、馬頭、お前たちは……』
母が頭を撫でる感触を思い出す。ずっと記憶の奥底に封印していた記憶。だが、今は活力になる。
「馬頭……立派になっちゃって。お姉ちゃんも頑張るか。」
同様に、武器を強化する。
「なんだ……?」
困惑するカイナの目の前に、2人は現れていた。これは、高速移動。否、瞬間移動だ。彼女が察した頃には既に、彼女の右腕は切断されていた。
「ここに誰も……来るんじゃねえぞ。」
正門は瘴気を解放する。彼の体が変化していく。その姿は、鬼そのものだった。あまりに強大な強さを抑えるため、人型に止めた鬼。それがまさしく彼だった。
マカは高速で空を飛び、襲いくる触手をかわしていく。決めるのは一撃。剣を生成し、カラスの首元を狙う。
牛頭と馬頭は瞬間移動し、カイナを壁へと追いやっていく。時空を操る能力を、転移に使用する。そうする事によって編み出した技だった。
正門の金棒は、マサムネを吹き飛ばす。理性を失ったように、正門は暴れる。
それぞれは、瘴気を武器に込め、振り下ろす。
「「「おおおおおおおおお!!」」」
トドメの一撃が、放たれた。
カラス、マサムネ、カイナの身体中から、大量の瘴気が漏れだす。
「ははは……!やっとだ……やっとだよ…!」
マサムネは、笑いながら、瘴気と共に消えていく。
「あーあ……負けちゃった。がんばりなよ、あんたら。」
カイナは、残念そうに胡座をかくと、双子に手を振って消えていった。
だが唯一、死に恐怖するものがいた。
「嫌だ……嫌だ嫌だいや……だ!死にたくない!死にたくない!」
カラスは恐怖し、のたうち回る。
「……滑稽だな。散々人を嗤った貴様がこのザマとは。」
マカは冷徹な目つきで言う。
「助けて……ください……」
既に下半身が消えてしまった状態で、カラスはマカに懇願する。
しかし、彼女の返答はこうだった。
「バカめ、地獄に天使は微笑まない。」
マカは、彼の頭に剣を突き刺した。
俺たちは、その間掻き分けて突き進んでいた。俺は途中で息を切らした納言を背負いつつ、美琴と奈蜘蛛に質問する。
「どうする?!この先もっと試客が現れるかもだぜ?」
正直あまり質問をしている余裕はないのだが、聞かざるをえまい。先に口を開いたのは、美琴だった。
「……僕が行く。」
「……僕が行く。」
「良いのか?お前がいてくれれば心強いんだが……」
俺は美琴に聞く。
「君ならなんでも解決できる、そんな気がするのさ。……来るよ!」
彼がそう言った瞬間、突如背後に何者かが回り込み、俺たちに攻撃を開始した。それはボコボコと言う音と共に拳を体を膨張させると、その巨大化した拳を振り下ろした。
咄嗟に俺たちは避ける。そこにいたのは、顎に髭を生やした巨漢な男だった。
「六道……と、奈蜘蛛か。お前の裏切りは知っていたよ。」
男は無表情を崩さずにそう言う。俺たちは、それに対して何も答えない。
「無回答……か。この大きさを前に恐怖したか?……まあ良い。我が名は亜門《あもん》。覚悟すると良い。」
男……亜門は続けて、もう片方の手を膨張させていく。肥大化しきったそれは、先日戦った巨人のそれと遜色ない大きさだった。否、先ほどの速度から見ればあれ以上だろう。
俺たちはバラバラの方向に下がり、その攻撃を回避していく。その時だった。美琴が俺たちの背中を押し、前の方へと誘導したのだ。
「言ったろ?僕が行くと。行きたまえよ、カンダタ。スマートに行こうぜ?」
いつものような、美琴の笑顔だった。こいつになら任せて良いかもしれない。俺たち3人は、瘴気の放たれる方へと走って行った。
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幽晴は、人々を襲う悪霊たちに向け、銃撃を放つ。背中に纏わり付く者、死体を喰らおうとする者と様々に。
しかし、どう考えても戦力と敵の数が見合っていない。この間にも、上空から悪霊たちが供給されて行く。
「くっ……!流石にキツすぎるっすよ!」
そう愚痴をこぼしつつ、銃弾を放つ。このままでは……このままでは……!その時だった。上空に発生する悪霊たちが、一斉に消え去ったのだ。
「……?!」
先ほどまで、悪霊の鳴き声で埋め尽くされていた街中に、沈黙が広がる。まさか、と幽晴は上を向いた。そこにいたのは、羽山額だった。
「無限に湧くなら……斬れば良い。おっと……また湧いてきたか。」
額は、再び発生を始める悪霊を確認すると、再び刀を握りしめた。
「あれが……羽山額。全くもう…あの人1人で解決できるじゃないっすか!」
幽晴は、またもや愚痴を溢す。突然そんな彼の後ろに回り込んだ額は、
「そうでもないよ。地上だと民間人も巻き込みかねないからね。」
と一言呟くように言った。
「うわぁぁ!いきなり話しかけないでくださいっすよ!」
幽晴は、思わず尻餅をつく。だが、そんな暇はないと直後に気がつき、即座に起き上がった。
「ははは……じゃ、地上は任せたよ!」
額はそんな彼の両肩を、手でポンポンと叩くと、再び上空の悪霊へと向かっていった。
「……はあ、つくづくめちゃくちゃだ。」
幽晴は肩を落とすと、再び悪霊への攻撃を開始した。
ビルの屋上、2人の男が見合っている。
ビュービューと吹き荒れる風。
曇り切った空。
遠方から聞こえる悲鳴。
それら全てが、これから始まる両者の戦いを予兆していた。
「よお、侍野郎。」
正門はそう言うと、刀を携えた男に金棒を向ける。
「俺を満たしてくれる奴……ずっと探してたんだ。」
ニヤリ、と男は笑う。
「確か、名前はムラマサと言ったか。……さっさとやろうぜ。」
正門は笑い返すと、金棒をムラマサに向けて振り下ろした。彼はそれを後ろに下がって回避すると、その直後に急速に正門と距離を詰め、腰についた刀を振り上げる。
常人には、視認など不可能に近い速度。剣技も何も無いが、ただただ圧倒的な攻撃の練度。正門は、そのまま首を切り落とされる……
事はなかった。彼にとってその攻撃を避けることは造作もない事だった。正門は、敢えてギリギリのところでそれを回避すると、金棒を上へと振り上げた。
ゼロ距離からの打撃。空気の壁を突破した一撃。とてもじゃないが、避けきれない。マサムネは、刀で自身の体を防御し、その攻撃を相殺させる。しかし、大きく弾かれた彼の体は、隣のビルに激突した。壁から壁を貫通していく彼を、正門は追う。
「鬼の金棒喰らっとけ。」
正門の追撃を、再びマサムネは防御する。しかし、やはりその衝撃を相殺しきれない。そのまま彼は地面に叩きつけられ、ビルの最下層へとまで叩きつけられた。
周囲のガラスは次々と割れ、ビルは倒壊を始める。
「来いよ、欲求不満野郎。何度だって叩き潰してやる。」
正門は、マサムネを挑発する。
起き上がった彼の頬には、一筋の涙が垂れていた。
「ははは……年甲斐もなく泣いちまうぜ。俺はよお……ずっと思ってたんだ。俺が殺そうとしても殺さねえ、そんな奴はいねえのかって。アンタが今!まさにそうだぁぁぁぁ!!」
マサムネの体が膨張していく。そうか、あの形態か。変身させまいと、正門は金棒を振る。しかし、膨張するはずだったマサムネのの体は、途中でその動きを停止させた。
なんだ、と思ったのも束の間、正門の右肩に、傷がついていた。勢いよく、血煙が上がる。
「こっからが本番だぜ……?」
煙に体を紛らせた彼は、姿が見えない。ただ、先ほどより一回り体が大きいことだけが分かる。
正門は右肩をを押さえながら、金棒を構えた。
…………………………………………………
カイナは、牛頭と馬頭を前に、後退する他なかった。なんだ、この双子。先日とまるで動きが違うじゃないか。彼女は、閉じていた目を思わず開いていた。彼女は2人から距離を取ると、鎌を前に構え、警戒を強める。
「なるほど……確かに息巻くだけはあるね。どうゆう原理?」
冷や汗を垂らした彼女は、質問を投げる。
牛頭は、敢えてそれに答える。
「貴方……スーパーで会った時に全く瘴気を感じなかった。それは貴方の能力なんでしょう?瘴気の感知を操る能力。
私たちは常に瘴気を感知して戦う……故に貴方を前にしたら攻撃を読みきれなかった。」
馬頭は言葉を続ける。
「貴方、まだ、本気出してない。さっさと出して。」
馬頭の挑発に、カイナはニヤリと笑う。
なるほど、ならば乗ってやろうじゃないか。彼女は瘴気を解放させる。シュウウウウウ……と、煙のように瘴気漏れ出す。視認可能と言うことは、それほど膨大な量の瘴気と言う事だ。
襲い来る触手の大群を、マカは全ていなしていく。既にカラスは怪物へと姿を変えている。彼女はカラスの顔面に剣を突き刺すと、駆け上がるように剣を振り上げた。
顔から背中にかけて、カラスの体に傷がつく。赤い血煙があがり、彼の体はよろめいた。
「どーゆー原理だ……テメェは一体どうして……!」
「私自身にもわかりませんよ、そんなもの。……ただ、今の貴様には負ける気はしない。」
マカの瞳が黄金に光る。これは、まさか。カラスはギリ、と歯を食いしばる。
この女、天使の力が目覚めつつあるのか。それもただの天使じゃねえ、あの瞳は、最上級の天使だ。この女に?この女に最上級レベルの強さがあるとでも?
「ふざけんじゃねえ……!ふざけんじゃねえええええええええ!」
カラスは怒りを込めて叫ぶ。彼の体から、瘴気の煙が噴き出る。
これは……まさか。マカは目を見開いた。そこにいたのは、先ほどの怪物を人型にしたような姿だった。
そうか、悪霊の形態と人型の形態の中間……それがあった。そうなると、瘴気のムラがなくなり、先程とは別格の強さに……
彼女が考えを巡らせたその時には、既に彼女の体は触手に貫かれていた。
「ゴッ……!」
彼女の口から血が噴き出る。なんと言う速さ。触手を伸ばされた事にすら気付かなかった。
双子は四方八方から攻撃を浴びせる。弾性を浴びた地面を跳ね、武器を振り回していく。
しかし、カイナはあっさりとその攻撃をいなし、双子を吹き飛ばしてしまった。
「がっ……!」
「痛っ!」
そのまま壁まだ吹き飛ばされた牛頭に、カイナは鎌を振り下ろす。
「牛頭!」
馬頭は叫ぶ。
抵抗する暇なく、牛頭の右腕は切り落とされてしまった。
「え……」
唖然とする彼女に、カイナは追撃の蹴りを浴びせる地面に強く叩きつけられた牛頭は、もう動かない。
「牛頭……ねえ牛頭……起きてよ!お姉ちゃん!ねえ!」
馬頭は必死で叫んだ。しかし、彼女からの返答はない。
「はあ……はあ……クソ……!やべぇ。」
正門は、膝をついていた。先ほどとは別格の強さを見せるマサムネを前にし、思わず一歩後退していた。
逃げたい。思わずマカは思った。
逃げたい。思わず馬頭は思った。
逃げたい。思わず正門は思った。
逃げる……?そんな選択肢、あいつは……カンダタは取るだろうか。大事なもののために戦い続けるあいつは、果たして取るだろうか。
いいや、そんな事は思いはしない。3人は、それぞれ立ち上がる。逃げたりしない。負けたりしない。
「まだ立つか、女。」
ニヤニヤと笑いながら、カラスはマカに言う。彼女は下を向いて返答する。
「あの人は……カンダタさんは、私を……私をあの時守ってくれた。彼なら逃げない。逃げたりしない。逃げちゃいけない!」
マカの背中に翼が生える。片翼は、両翼へと姿を変えた。彼女の頭の上に、天使の輪が浮かんでいた。ただし、半分だけ。黒い半分の輪。つくづく不完全だ。だが、これでいい。
「テメェ……天使の力に……!」
馬頭は、武器を瘴気で強化する。時空を切り裂く一撃。アレを、常に発動させる。不可能かもしれないが、やって見るしかない。
牛頭は起き上がると、残ったもう片方の腕で武器を握る。
既に体はボロボロだ。立っているのがやっと。だが、それで良い。
『牛頭、馬頭、お前たちは……』
母が頭を撫でる感触を思い出す。ずっと記憶の奥底に封印していた記憶。だが、今は活力になる。
「馬頭……立派になっちゃって。お姉ちゃんも頑張るか。」
同様に、武器を強化する。
「なんだ……?」
困惑するカイナの目の前に、2人は現れていた。これは、高速移動。否、瞬間移動だ。彼女が察した頃には既に、彼女の右腕は切断されていた。
「ここに誰も……来るんじゃねえぞ。」
正門は瘴気を解放する。彼の体が変化していく。その姿は、鬼そのものだった。あまりに強大な強さを抑えるため、人型に止めた鬼。それがまさしく彼だった。
マカは高速で空を飛び、襲いくる触手をかわしていく。決めるのは一撃。剣を生成し、カラスの首元を狙う。
牛頭と馬頭は瞬間移動し、カイナを壁へと追いやっていく。時空を操る能力を、転移に使用する。そうする事によって編み出した技だった。
正門の金棒は、マサムネを吹き飛ばす。理性を失ったように、正門は暴れる。
それぞれは、瘴気を武器に込め、振り下ろす。
「「「おおおおおおおおお!!」」」
トドメの一撃が、放たれた。
カラス、マサムネ、カイナの身体中から、大量の瘴気が漏れだす。
「ははは……!やっとだ……やっとだよ…!」
マサムネは、笑いながら、瘴気と共に消えていく。
「あーあ……負けちゃった。がんばりなよ、あんたら。」
カイナは、残念そうに胡座をかくと、双子に手を振って消えていった。
だが唯一、死に恐怖するものがいた。
「嫌だ……嫌だ嫌だいや……だ!死にたくない!死にたくない!」
カラスは恐怖し、のたうち回る。
「……滑稽だな。散々人を嗤った貴様がこのザマとは。」
マカは冷徹な目つきで言う。
「助けて……ください……」
既に下半身が消えてしまった状態で、カラスはマカに懇願する。
しかし、彼女の返答はこうだった。
「バカめ、地獄に天使は微笑まない。」
マカは、彼の頭に剣を突き刺した。
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大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
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※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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