地獄の道の罪人ども

酸性元素

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鬼蜘蛛編

破形無常

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 とある廃ビルの会議室に、数人の人影が入る。

「揃ったか?」

 人影の1人は、落ち着いた口調で口を開く。

「うん……1人を除けばね。」

 鎌を背中に携えた女は、チラリと隣を見ながら呟く。

「いーじゃねーの。あいつぶっちゃけ弱えし。」

 そのもう一方の隣にいる男は、触手をチラチラと動かしながら、女に言う。女ははあ、とため息をつくと、軽蔑した目つき……と言っても目を瞑ったままだが、そんな冷たい表情で男に向かって言い放つ。

「カラス……アンタはいっつもそう言うこという。ガンド、正直言って私はケリーを殺した事、納得してないよ。」

 女は、会議室の中央に座るガンドと言う男の方をちらりと見て言った。彼の左隣に座る、スキンヘッドの僧侶は口を開いた。

「戦力が消えたことに関しては……確かに効率的とは言えまい。だが、余計な事を話されては元も子もなかろう。」

「……そんなわけ無い。話された所で大した弊害はないですよね?」

 小柄な少年は、僧侶のような風貌の男に反論する。

「ほお、それは何故?」

「どうせ潜伏場所なんか幾らでもあるし、わかったところで対処のしようがないですよ。……千秋《せんしゅう》、貴方は頭が硬すぎる。」


 少年はそう言うとトントン、と自身の頭を指で叩く。千秋、と呼ばれた男は、怒りを抑え、沈黙した。

「ははは、相変わらず辛辣だなー、
奈蜘蛛《なぐも》。」

 カラスはニタニタと笑いながら、奈蜘蛛と呼ばれた少年に言う。奈蜘蛛は何も答えない。

「……終わったかな?」

 先ほどまで沈黙を貫いていたガンドと言う男は、話始める。先ほどまで会話が入り乱れていた会議室に、緊張が走った。

 ただ唯一、彼の隣に立つ男のみが、表情を崩さず落ち着いていた。

「さて……残り1週間となった訳だが……今回の目的は失敗に終わった、と。そうだな、カイナ。」

 ガンドは、ゆっくりと、低い声で話す。言葉の一つ一つに、凄まじい量の瘴気が放たれている。

 カイナ、と呼ばれた女の身体中から汗が滴り落ちる。まずい、このままでは殺される。この男に、殺される。凄まじい圧に、既に彼女は限界だった。

「まあ良い……このままでは奴らも対策を練るだろう。奈蜘蛛、千秋。今度はお前たちがやれ。」

 奈蜘蛛と千秋はコクリと頷くと、その場から消えていった。

「それでは……残りの2人は準備を怠らないように。……ムラマサはいまだに治療中だ、奴の監視も行え。」

 ガンドはカラスとカイナにそう言い放つと、その場から消えていった。

「……こ、怖かったぁ~~!」

 カイナは、滑り落ちるように肩を落とす。

「……お前のせいだからな。」

 はあ、はあと息を切らしながら、カラスは彼女に向かって一言そう言った。

 …………………………………………………

「なるほど……それはそれは。」

 事情を聞いた額は、コクリコクリと頷く。

「なるほどって……あんたがいれば解決した話なんだぞ。どこ行ってたんだ?」

「パチンコ。」

「テメェ今畜生!」

 俺は額に飛びかかる。そんな俺をマカは必死で引き留めた。

「……それで、奴らの目的っていうのは何なんですかね?」

 納言の質問に、誰も答えられなかった。誰もが知りたがっていた情報であるが故、答えなどなかったのだ。美琴は、真剣な表情で言う。

「何にせよ……このままじゃ勝てないよ、君たち。僕らは今回、完膚なきまでにやられたんだから。」

 シーン……と更に沈黙が広がる。正論だ。あの怪物に、俺とマカはなすすべなくやられた。聞くに、牛頭と馬頭もまるで歯が立たなかったと言うじゃないか。

 そんな時、正門は口を開いた。

「お前らは関わらなくて良い。今回は俺たちの問題だ。……とは言えんな。今回の調査、及び奴らの逮捕、協力してほしい。」

 彼はそう言うと、俺たちに頭を下げる。だが、俺たちに何ができる?額はまだしも、他は完全に足手纏いになる可能性がある。そんな状態で……

「……分かりました。」

 額は、まっすぐな瞳でそう答える。だが、続けて正門に提案する。

「ただし、条件があります。」

「条件?」

 正門は、若干眉を顰める。

「彼を、鍛えてやってください。このカンダタに関しては……瘴気の使い方を知っているだけの素人。戦力というには現状心許ない。」

「……わかった、条件をのもう。だが、奴らがいつ動き出すか分からねえ。いつでも動ける状態にしておいて欲しい……それだけは忘れないでくれ。」

 …………………………………………………

 ザワ…ザワと周囲がざわめく。巨漢な男と小柄な少年。どう考えても相反する2人が並んで歩いている。それどころか、対等な関係であるかのように会話を交わしている。それは羽田からみれば、奇妙な光景であることには違いなかった。

「奈蜘蛛よ、公安はどこだ?」

 千秋は、地図をジロジロと眺めながら彼に問う。

「右に曲がるんだよ、千秋。……本当に君はアレだね。」

「アレだと?何を言いたい?」

「良いや?なーにもー?」

 ニヤニヤと笑いながら、奈蜘蛛は道を右に曲がった。

 …………………………………………………

「はい、どーも。鎮圧部隊の部隊長、湊です。瘴気はイメージ、と言うのは分かりますよね?それでですね…」

 湊は、ホワイトボードにイメージの絵を描いていく。しかし、あまりの絵心の無さが、より一層話をわかりづらくしていた。

「先生!絵が下手くそです!」

 俺は我慢ならず、素早く手を上げる。それは言ってはいけない、と言わんばかりに、マカは俺の右手を抑える。

「……わ、わかりゃ良いんだよわかりゃあ!」

 湊は赤面し、俺に向かって叫ぶ。わからないから言ってるんだけどなあ、と思ったが、これ以上言うのは辞めておいた。

「まず、それぞれ瘴気を出してみてください。」

言われるがまま、俺たちは瘴気をそれぞれの武器にこめる。

「………やっぱり。みんなムラがありすぎる。カンダタさん、貴方は最悪だ。」

 先ほどの恨みをぶつけるように、湊は早口に言う。このガキ……従ってやるのも今のうちだぞ、と俺は歯を食いしばった。



「良いですか?まず瘴気のイメージを具体化させるんです。炎なら、より細かい、具体的な炎に。剣なら、より鋭い剣に。」

 スッ…と目を閉じ、イメージしてみる。炎…炎……。しかし、一向に俺の瘴気に変化は現れない。

「まあ、難しいですよね。普通は徐々に慣らしながらやっていくものなので。例えば……私のイメージは薙刀。大量の刃を眺めながら研究しました。……まずは実践です。カンダタさんは巨人との戦いで成長したとか聞きますし、才能はありそうなのでそこんとこはいけるでしょ。」

 ボリボリと頭を掻きむしりながら、湊は言う。巨人……。そうだ、巨人。戦いで俺は成長した。戦いで……

『ひ、ひぃ……違う!俺は言いなりになってたんだ!奴らの言いなりに……!』

 そうだ、あの戦い。言いなりになっていただのの妙な言い方をしていた。

「なあ……湊さんよ。俺らが倒した化け猫とか巨人とかの規模の悪霊ってどんくらいの頻度で出る?」

「月に1回……ん?」

 どうやら、彼女も気づいたらしい。この短期間で、既に2回出ている。そしてあの化け猫の発言。もし、もし巨人もそれと繋がりがあるのなら……。

「カザリだ。カザリが何か情報を握ってるかもしれない。」

 俺はガタリと立ち上がると、面談室へと走る。

「え?カザリくん?」

 納言は困惑しつつも、カンダタを追いかけた。

 …………………………………………………

「……どう言う要件ですか?」

 久しぶりに会ったカザリは、ひどく疲弊し切った顔をしていた。長い刑務所生活で疲れ切ってしまったのだろう。いや、それ以上に様々な感情のもつれがあるのかもしれない。

「……質問がある。アンタ、何か怪しい奴に合わなかったか?巨人になる前に。」

「……」

 カザリは答えない。どうすれば良いのだろう。

「納言くんは……来てるんですか?」

 彼が発した言葉は、そんな質問だった。

「ああ……来てるよ。」

「だったら伝えておいてください。もう僕と関わらない方が良いって。」

 カザリは椅子から降りると、そのまま部屋を出て行こうとする。俺は立ち上がると、ガラスをバン、と叩き、彼に言い放った。

「良いのかよ?お前はあいつの唯一の友達なんだぜ?……寂しがるぞ、きっと。」

「……」

 カザリは、扉の前でピタリと足を止める。

「良いんですかね……?そんな資格、ぼくにあるんですか?」

「……んなもん今度本人に聞け。」

 フン、と鼻息を吹かして俺は言った。


 カザリは、状況の説明を始める。

「そうですね……うん、そうだ。あの日、黒いフードを被った男に路地裏に連れて行かれたんです。いつものカツアゲかと思ったんですけど、僕の頭をつついて

『君は時期に力を手にする』

 とかなんとか言って去っていったんです。」

「それで……?」

「そうですね……それでその次の日に巨人になったって感じです。そうだ。なんで今まで忘れてたんだろう。まるで何かに……邪魔されてたような。」

 カザリは頭を抑えて顔を顰める。

 その時だった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……と地響きが建物全体に響き渡る。なんだ、と俺が立ち上がったその時だった。ドゴォン、と何者かが壁を突き破り、俺たちの前に飛び込んできた。パリーン、と俺たちを隔てていたガラスが割れる。

「カザリ、下がれぇ!」

 俺は咄嗟に刀を前に構え、襲いかかる男の攻撃をガードする。

「ふむ……今の攻撃を防ぐとは、なかなかどうして。我が名は千秋。覚えておけ。」

 千秋、と名乗った男の風貌は、僧侶そのものだった。彼は、黒い瘴気を体に纏い、俺に襲いかかった。超高速の一撃。喰らえば即死だろう。

 腕を十字に構え、瘴気を纏ってガードする。後ろに弾かれた俺は、面談室から勢いよく飛び出した。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ……」

 カザリは、腰が抜け、千秋を怯えた目で見ている。

「カンダタさん!」

「カンダタ!」

 マカ、牛頭、馬頭、納言が俺に駆け寄る。

「ふむ……丁度いい。実践編です。皆さんやってみてください。」

 後ろにいた湊は、突然俺たちにそう言い放った。

「はあ?!ちょっと待てって!」

 俺たちが混乱する間に、千秋は攻撃を開始した。

「来ますよ……構えて!」

 俺たちはそれぞれの武器を取り出した。
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