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鬼蜘蛛編
腐敗害虫
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「えーっと……牛肉、霊魂アイスに地獄豚肉……」
スーパーのかごに入った商品を、牛頭はブツブツと数えていく。
「おい待ちたまえ、なんか余計なものも入っているぞ。」
美琴は、そのまま会計に行こうとする彼女の肩を掴む。
「霊魂アイス、必要。」
馬頭は親指を立て、美琴の説得を試みる。
「だめだ、戻してきな……」
「オラァァァ!」
尚も食い下がらない美琴に対し、2人はそれぞれの人差し指で目潰しを強行した。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁ!!」
美琴は龍馬を抑えてその場をのたうち周る。その隙を狙い、2人はレジへと走り始める。
「フッフッフッ……やったね馬頭。」
「作戦…成功。」
2人はハイタッチすると、さりげなくお菓子コーナーにあるクッキーをカゴに入れつつ、会計へと向かった。だが、そこには衝撃の光景が広がっていた。
ポタ、ポタと滴る血。恐らく、その場に倒れる店員たちのものだろう。その中央にある女は、ぐーぐーといびきをかいて眠っている。
彼女たちが取った行動は、当然攻撃だった。眠り続ける女に対し、即座に武器を取り出すと、勢いよく飛びかかり、振り下ろした。
だが次の瞬間、2人の体には傷が走っていた。そして対する女は無傷。ズキリ、と全身に痛みが走り、2人はゴロゴロその場を転がる。
ガシャン、と自動ドアに体を打ちつける。何者だ、こいつ。と2人が女のいる方を見たその時、彼女の姿はなかった。そう、2人の背後に忍び寄っていたのである。女は、スデに何かを振り下ろそうとしている。それにいち早く気づいた牛頭は、咄嗟に地面に斧を当てる。
地面が弾性を帯び、2人は天井に向けて高く飛び上がった。女から振り下ろされたものは、巨大な鎌だった。2人は空中にいる状態のまま、それぞれの武器を振り下ろす。
だが、それは全てかわされ、代わりに彼女たちの全身に傷がついた。やはり先ほどと同じ流れ。このままでは、まずい。と感じた2人は、女から距離を取る。女は、相変わらず目を瞑ったまま眠っている。
「牛頭……生きてる?」
「ひとまずはね。」
2人は、そう一言会話すると、互いに目配せし合う。どうやら、考えは同じか。
2人は瘴気を解放させる。草木が生えるように、ぐんぐんと武器は巨大になっていく。彼女たちの身の丈の3倍以上にも及ぶ大きさに到達したその時、黒い稲妻が、武器に走った。そして急速に、武器は黒みを浴びていく。
禍々しい形状へと姿を変えたそれを、一気に女に向けて振り上げる。
「「破空斬!!」」
時空間ごと削り取る、音速を超えた一撃。それが女に向けて放たれた。天井に逃げても、巻き込まれる。回避など不可能。
な、筈だった。どう言う訳か、女は2人の背後に回り込んでいたのだ。
「今のは良かったね。……でもさようなら。」
女はそう一言だけ言い放つと、2人に向けて鎌を振り上げ………
その時だった。間に割って入った美琴が、彼女の鎌を後ろに弾いたのだ。
「……牛頭、馬頭。無事かい?」
真剣な表情で、美琴は聞く。
「い、一応は……」
「危なかった……」
2人は自身の死が首元にかかっていた事を実感し、ふぅとため息をついた。
「良い攻撃……アンタ、本気出してないでしょ?」
女は瞑っていた目を開くと、ニヤリと笑ってそう言った。美琴は沈黙の姿勢を崩さず、両腕を虎の腕に変化させた。
…………………………………………………
「マカさん、避けて!」
カンダタとマカは、襲い来る触手の大群をかわしていく。その度周囲の家具は破壊されていく。
「クッソ……近づけねえ!」
仮に触手を切断しても、即座に再生される。その故無理やり押し倒すことは難しい。
チラリとカンダタはマカの方を見る。
マカは、鋭い目つきで男を睨みつけ、質問を投げる。
「貴様……何が目的だ。」
「目的ぃ?言う必要あるか?それ。」
ヘラヘラとふざけた様子の男に、マカの表情はどんどんと険しさを増していく。
「マカさん……俺が奴を引きつける。その隙に剣でやってくれ。」
「分かりました……やりましょう。」
小声で両者は会話を交わす。
沈黙が広がる。シーン……と言う無音。2人は男をじっと睨みつける。男は笑顔を崩さず、触手をユラユラと動かしている。
「今だ!」
カンダタは地面を強く踏み込み、男に向かっていく。体をひねらせ、触手を切る。対するマカの取った行動は、その部屋からの退避だった。どこに行くのかわからない方が、相手の読みを覆しやすい。そんな思惑が産んだ行動だった。
「ははははは!何するのかは知らねえが……無駄だぜぇ?!」
カンダタが至近距離に迫ったその時、男は触手を地面から生やし、彼の腹部を抉り取った。
「ごっ……!」
しまった、地面に触手を隠していたのか。カンダタは血を吐き出す。だが、これで良い。
「触手ってのはよお……持ち主に戻るもんだろ?」
カンダタは触手に刀を突き刺す。男に戻る触手に巻き込まれたそれは、カンダタと男の体を接近させた。その勢いに任せ、カンダタは男の腹部に刀を突き刺した。
「痛っ……!」
男は、明らかに痛みに顔を顰めている。だが、体が固定されたと言うことは、カンダタにとっても隙になると言うこと。男はそのまま、大量の触手をカンダタに伸ばす。
その時だった。天井を破壊し、マカが男の右肩に、瘴気で生成した剣を突き刺したのだ。
「ぐああああああ!」
「天罰剣《てんばつけん》!」
マカの剣が傍聴する。瘴気同士を切り離す必殺の一撃を、彼女は振り下ろした。男の右腕は切り落され、赤い血飛沫が上がる。
「ぐぁぁぁぁ!」
「赤い……!」
悪霊は紫色の血のはず。ならば、この男は人間なのか?だが、この男はどう考えても悪霊の構造をしている。
カンダタは、先日の一件を思い出した。ビルを襲ったあの男は、聞くに人間から悪霊に変わったと聞く。てっきり悪霊憑きかと思っていたが、まさか……。
「ふぅ…ふぅ…テメェら……ぜってぇ許さねえ……許さねえええええ!」
男の体が傍聴していく。それはもはや人間の姿ではなく、完全に悪霊そのものだった。
全身が触手に包まれた、四足歩行の怪物。
これをどうやって相手にすれば良いと言うのだ。唖然とする両者を、容赦なく怪物の触手は襲う。わずか数秒のうちに、2人の体は無数の触手に貫かれてしまった。
……………………………………………………
「フーッ……」
正門は、コーヒーを一杯飲んでため息をつく。昼が過ぎ、再び仕事に戻らなければいけないと言う事実に嫌になりそうだった。だが……
カンダタ。彼があの日取った行動が、正門を奮い立たせていた。さて、仕事を戻るか。と己を奮い立たせたその時だった。
「局長!やばいっすよ!」
幽晴が、彼の部屋に飛び込んできた。
「お、おい落ち着け!何があった。」
焦る彼を宥めつつ、正門は聞く。
「何者かが……侵入したっす!既にウチの奴らが18人犠牲に……」
「……今すぐに案内しろ。奴はどこにいる。」
「2階の監視室に行ったとこまでは分かってるっす……ルートからみれば…」
「わかった、じゃあ挟み撃ちだ。」
早口に両者は会話を交わすと、下の階へと駆け降りていく。くそ、誰か、どうか誰か生きていてくれ。そう必死で祈りながら、正門は向かう。
だが、そこに広がっていたのは、残酷な現実だった。そこにあったのは生命の一つもない、凄惨な光景。正門は、背後にいる者に対して問う。
「……何が目的だテメェは。」
「キャハハハ!時期に分かるよ局長さん!」
振り返ると、そこにいたのは、齢13歳ほどの少年だった。正門は咄嗟に金棒を取り出す。
だが、少年は突き出した金棒の上に乗ると、こちらを挑発するように変顔をする。
「キャハハハハ!ついてこれるか?!この動きに!」
少年は、部屋の四方八方を駆け回る。到底常人では捉えきれない速度。彼が移動するたび、正門の体に傷がついていく。
「………」
正門はそれでも微動だにしない。
「じゃーなー!局長サン!」
少年はトドメと言わんばかりに、正門に鋭い爪を伸ばす。
……しかし次の瞬間、彼の顔面は、正門の金棒によって砕かれていた。
「ギャァァァァァァ!あっ…がは…!」
ボタボタと、大量の血が滴り落ちる。
「舐めんじゃねえ。こちとら場数が違うんだよ、クソガキ。」
「キャハハハ…お前んとこ以外にも刺客を送った。時期にやられるだろう…ね!」
少年の体が傍聴する。彼の体は悪霊に変わる……事はなかった。変化するより前に、少年の体は正門の金棒によって吹き飛ばされていたのだ。
「もう良いんだよ、変身は。……あと刺客を送ったのはこっちも同じなんだよ。
んじゃ……ちょっと覚悟しろよぉ?」
正門はニヤリと笑うと、少年に向けて金棒をキラリと光らせる。
「あ…あひ…助けて……」
「無理。」
「ああああああああ!!」
そのまま少年は、気を失うまで正門の金棒に殴られ続けた。
美琴は女と睨み合う。いつ、いつ動き出す。僕が本気を出すことも考えなければ。彼がゴクリと唾を飲んだその時、女の背後に何者かが回り込んでいた。
それは背中から薙刀を引き抜くと、女に向けて振り上げた。咄嗟に女はかわすが、その頬には傷がつけられた。
「どうも、六道の皆様。僕の登場、です。」
早口かつ無表情のまま、湊はピースサインを送った。
「……誰だ?」
霞む視界で、カンダタは手を伸ばす。その先にいたのは、2丁拳銃を握る幽晴だった。
「ま、この前の仮を返すって奴っす。」
「よせ…そいつはあんたでも叶わない。」
ヨタヨタとカンダタは立ち上がり、幽晴引き止める。
「だからなんなんすか。……やってみなくちゃって奴っすよ。」
幽晴は右手を上げる。その瞬間、窓の外から大量の弾丸が発射された。怪物の体に傷がどんどんとついていく。
「はい、発射。」
湊の指示と同時に、弾丸は女に向けて発射されていく。女は咄嗟に体をひねり、弾丸をかわしていく。
「……仕方ない、ちょっとここまでの数の差があるとまずいね。……撤退するか。」
女は小声でそう呟くと、フッとその場から消えていった。
「……撤退かよ。クソッタレ!」
同様に怪物も、幽晴たちの前から消えていった。
「……逃したか。………局長?」
幽晴は、正門からの連絡を無線機で聞く。
「お二人さん、瀕死のところ申し訳ないっすが、ちょっと来てもらうっす。」
2人は幽晴に言われるがまま車に乗せられ、公安へと連れて行かれた。
そのまま彼らは美琴達と合流し、取調室へと案内された。
「これは……」
「捕まえた奴らの仲間っす。本人が証言してるんで間違いないっす。」
幽晴は、ガラス越しに映る少年を指差して説明する。
「さあ、話しな。テメェらは何が目的だ。」
「キャハハハハ……僕らはね……悪霊の時代を作るんだ。それでこの格差社会を覆す!」
少年は、声高々に言い放つ。
「悪霊の…世界?お前らが悪霊になれる仕組みはなんだ。悪霊憑きって訳じゃなさそうだが…」
「え?」
正門が質問したその時、突然少年の顔がこわばる。
「なんだ?どうした?」
「ま、待ってくれよガンド!ま、まだやれるって……待ってくれよ!おい!」
少年は、何者かに対して怯え始める。その顔は死を間近に捉えた人間そのものだった。
「誰か!助けて!助け……」
次の瞬間、少年の頭が爆発し、取調室全体に赤黒い血液、脳の破片が飛び散った。
「どーゆー事だ、これは……」
何か良からぬ事態が起こり始めている事を、カンダタ達は感じ取っていた。
スーパーのかごに入った商品を、牛頭はブツブツと数えていく。
「おい待ちたまえ、なんか余計なものも入っているぞ。」
美琴は、そのまま会計に行こうとする彼女の肩を掴む。
「霊魂アイス、必要。」
馬頭は親指を立て、美琴の説得を試みる。
「だめだ、戻してきな……」
「オラァァァ!」
尚も食い下がらない美琴に対し、2人はそれぞれの人差し指で目潰しを強行した。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁ!!」
美琴は龍馬を抑えてその場をのたうち周る。その隙を狙い、2人はレジへと走り始める。
「フッフッフッ……やったね馬頭。」
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2人はハイタッチすると、さりげなくお菓子コーナーにあるクッキーをカゴに入れつつ、会計へと向かった。だが、そこには衝撃の光景が広がっていた。
ポタ、ポタと滴る血。恐らく、その場に倒れる店員たちのものだろう。その中央にある女は、ぐーぐーといびきをかいて眠っている。
彼女たちが取った行動は、当然攻撃だった。眠り続ける女に対し、即座に武器を取り出すと、勢いよく飛びかかり、振り下ろした。
だが次の瞬間、2人の体には傷が走っていた。そして対する女は無傷。ズキリ、と全身に痛みが走り、2人はゴロゴロその場を転がる。
ガシャン、と自動ドアに体を打ちつける。何者だ、こいつ。と2人が女のいる方を見たその時、彼女の姿はなかった。そう、2人の背後に忍び寄っていたのである。女は、スデに何かを振り下ろそうとしている。それにいち早く気づいた牛頭は、咄嗟に地面に斧を当てる。
地面が弾性を帯び、2人は天井に向けて高く飛び上がった。女から振り下ろされたものは、巨大な鎌だった。2人は空中にいる状態のまま、それぞれの武器を振り下ろす。
だが、それは全てかわされ、代わりに彼女たちの全身に傷がついた。やはり先ほどと同じ流れ。このままでは、まずい。と感じた2人は、女から距離を取る。女は、相変わらず目を瞑ったまま眠っている。
「牛頭……生きてる?」
「ひとまずはね。」
2人は、そう一言会話すると、互いに目配せし合う。どうやら、考えは同じか。
2人は瘴気を解放させる。草木が生えるように、ぐんぐんと武器は巨大になっていく。彼女たちの身の丈の3倍以上にも及ぶ大きさに到達したその時、黒い稲妻が、武器に走った。そして急速に、武器は黒みを浴びていく。
禍々しい形状へと姿を変えたそれを、一気に女に向けて振り上げる。
「「破空斬!!」」
時空間ごと削り取る、音速を超えた一撃。それが女に向けて放たれた。天井に逃げても、巻き込まれる。回避など不可能。
な、筈だった。どう言う訳か、女は2人の背後に回り込んでいたのだ。
「今のは良かったね。……でもさようなら。」
女はそう一言だけ言い放つと、2人に向けて鎌を振り上げ………
その時だった。間に割って入った美琴が、彼女の鎌を後ろに弾いたのだ。
「……牛頭、馬頭。無事かい?」
真剣な表情で、美琴は聞く。
「い、一応は……」
「危なかった……」
2人は自身の死が首元にかかっていた事を実感し、ふぅとため息をついた。
「良い攻撃……アンタ、本気出してないでしょ?」
女は瞑っていた目を開くと、ニヤリと笑ってそう言った。美琴は沈黙の姿勢を崩さず、両腕を虎の腕に変化させた。
…………………………………………………
「マカさん、避けて!」
カンダタとマカは、襲い来る触手の大群をかわしていく。その度周囲の家具は破壊されていく。
「クッソ……近づけねえ!」
仮に触手を切断しても、即座に再生される。その故無理やり押し倒すことは難しい。
チラリとカンダタはマカの方を見る。
マカは、鋭い目つきで男を睨みつけ、質問を投げる。
「貴様……何が目的だ。」
「目的ぃ?言う必要あるか?それ。」
ヘラヘラとふざけた様子の男に、マカの表情はどんどんと険しさを増していく。
「マカさん……俺が奴を引きつける。その隙に剣でやってくれ。」
「分かりました……やりましょう。」
小声で両者は会話を交わす。
沈黙が広がる。シーン……と言う無音。2人は男をじっと睨みつける。男は笑顔を崩さず、触手をユラユラと動かしている。
「今だ!」
カンダタは地面を強く踏み込み、男に向かっていく。体をひねらせ、触手を切る。対するマカの取った行動は、その部屋からの退避だった。どこに行くのかわからない方が、相手の読みを覆しやすい。そんな思惑が産んだ行動だった。
「ははははは!何するのかは知らねえが……無駄だぜぇ?!」
カンダタが至近距離に迫ったその時、男は触手を地面から生やし、彼の腹部を抉り取った。
「ごっ……!」
しまった、地面に触手を隠していたのか。カンダタは血を吐き出す。だが、これで良い。
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「痛っ……!」
男は、明らかに痛みに顔を顰めている。だが、体が固定されたと言うことは、カンダタにとっても隙になると言うこと。男はそのまま、大量の触手をカンダタに伸ばす。
その時だった。天井を破壊し、マカが男の右肩に、瘴気で生成した剣を突き刺したのだ。
「ぐああああああ!」
「天罰剣《てんばつけん》!」
マカの剣が傍聴する。瘴気同士を切り離す必殺の一撃を、彼女は振り下ろした。男の右腕は切り落され、赤い血飛沫が上がる。
「ぐぁぁぁぁ!」
「赤い……!」
悪霊は紫色の血のはず。ならば、この男は人間なのか?だが、この男はどう考えても悪霊の構造をしている。
カンダタは、先日の一件を思い出した。ビルを襲ったあの男は、聞くに人間から悪霊に変わったと聞く。てっきり悪霊憑きかと思っていたが、まさか……。
「ふぅ…ふぅ…テメェら……ぜってぇ許さねえ……許さねえええええ!」
男の体が傍聴していく。それはもはや人間の姿ではなく、完全に悪霊そのものだった。
全身が触手に包まれた、四足歩行の怪物。
これをどうやって相手にすれば良いと言うのだ。唖然とする両者を、容赦なく怪物の触手は襲う。わずか数秒のうちに、2人の体は無数の触手に貫かれてしまった。
……………………………………………………
「フーッ……」
正門は、コーヒーを一杯飲んでため息をつく。昼が過ぎ、再び仕事に戻らなければいけないと言う事実に嫌になりそうだった。だが……
カンダタ。彼があの日取った行動が、正門を奮い立たせていた。さて、仕事を戻るか。と己を奮い立たせたその時だった。
「局長!やばいっすよ!」
幽晴が、彼の部屋に飛び込んできた。
「お、おい落ち着け!何があった。」
焦る彼を宥めつつ、正門は聞く。
「何者かが……侵入したっす!既にウチの奴らが18人犠牲に……」
「……今すぐに案内しろ。奴はどこにいる。」
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「わかった、じゃあ挟み撃ちだ。」
早口に両者は会話を交わすと、下の階へと駆け降りていく。くそ、誰か、どうか誰か生きていてくれ。そう必死で祈りながら、正門は向かう。
だが、そこに広がっていたのは、残酷な現実だった。そこにあったのは生命の一つもない、凄惨な光景。正門は、背後にいる者に対して問う。
「……何が目的だテメェは。」
「キャハハハ!時期に分かるよ局長さん!」
振り返ると、そこにいたのは、齢13歳ほどの少年だった。正門は咄嗟に金棒を取り出す。
だが、少年は突き出した金棒の上に乗ると、こちらを挑発するように変顔をする。
「キャハハハハ!ついてこれるか?!この動きに!」
少年は、部屋の四方八方を駆け回る。到底常人では捉えきれない速度。彼が移動するたび、正門の体に傷がついていく。
「………」
正門はそれでも微動だにしない。
「じゃーなー!局長サン!」
少年はトドメと言わんばかりに、正門に鋭い爪を伸ばす。
……しかし次の瞬間、彼の顔面は、正門の金棒によって砕かれていた。
「ギャァァァァァァ!あっ…がは…!」
ボタボタと、大量の血が滴り落ちる。
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「キャハハハ…お前んとこ以外にも刺客を送った。時期にやられるだろう…ね!」
少年の体が傍聴する。彼の体は悪霊に変わる……事はなかった。変化するより前に、少年の体は正門の金棒によって吹き飛ばされていたのだ。
「もう良いんだよ、変身は。……あと刺客を送ったのはこっちも同じなんだよ。
んじゃ……ちょっと覚悟しろよぉ?」
正門はニヤリと笑うと、少年に向けて金棒をキラリと光らせる。
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「無理。」
「ああああああああ!!」
そのまま少年は、気を失うまで正門の金棒に殴られ続けた。
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幽晴は右手を上げる。その瞬間、窓の外から大量の弾丸が発射された。怪物の体に傷がどんどんとついていく。
「はい、発射。」
湊の指示と同時に、弾丸は女に向けて発射されていく。女は咄嗟に体をひねり、弾丸をかわしていく。
「……仕方ない、ちょっとここまでの数の差があるとまずいね。……撤退するか。」
女は小声でそう呟くと、フッとその場から消えていった。
「……撤退かよ。クソッタレ!」
同様に怪物も、幽晴たちの前から消えていった。
「……逃したか。………局長?」
幽晴は、正門からの連絡を無線機で聞く。
「お二人さん、瀕死のところ申し訳ないっすが、ちょっと来てもらうっす。」
2人は幽晴に言われるがまま車に乗せられ、公安へと連れて行かれた。
そのまま彼らは美琴達と合流し、取調室へと案内された。
「これは……」
「捕まえた奴らの仲間っす。本人が証言してるんで間違いないっす。」
幽晴は、ガラス越しに映る少年を指差して説明する。
「さあ、話しな。テメェらは何が目的だ。」
「キャハハハハ……僕らはね……悪霊の時代を作るんだ。それでこの格差社会を覆す!」
少年は、声高々に言い放つ。
「悪霊の…世界?お前らが悪霊になれる仕組みはなんだ。悪霊憑きって訳じゃなさそうだが…」
「え?」
正門が質問したその時、突然少年の顔がこわばる。
「なんだ?どうした?」
「ま、待ってくれよガンド!ま、まだやれるって……待ってくれよ!おい!」
少年は、何者かに対して怯え始める。その顔は死を間近に捉えた人間そのものだった。
「誰か!助けて!助け……」
次の瞬間、少年の頭が爆発し、取調室全体に赤黒い血液、脳の破片が飛び散った。
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