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クロドゥルフ目線のお話
びっくりすると思ったのに
しおりを挟む「そんな場所があるのか!?」
クリスが教えてくれた情報に、思わず声が大きくなった。
静かな図書館に声がボワンと反響する。
周囲の目線がこちらに向かってきた気がして、オレは慌てて口を抑えた。
「銀狼族しか、開けられない部屋……」
「そう。この図書館の地下にあるんだって。何か有力な情報がありそうだろう?」
楽しそうに紫の目をキラキラさせたクリスと顔を寄せ合う。
オレは口を覆いながら、くぐもった声で頷いた。
驚きと期待と疑問で頭が大混乱だ。
「ありそう……だけど……」
「けど?」
「なんでそんなこと分かったんだ?」
「色々と聞いて回ったのさ」
顎に指を添えて笑うクリスは、えっへん、と聞こえてきそうなドヤ顔だ。
貴族の情報網すげえ。
王都の近辺とはいえ、森の奥で暮らしてる獣人とは全然違う。
勇者は国の存亡に関わる事件の時に召喚される。
本当かどうかも分からない存在だけど、王都では勇者について真剣に情報をまとめている研究者もいるんだろう。
身分の高いクリスなら、そんな情報も教えてもらえるってわけだ。
そう思うと、オレはらしくもなく自分の服装を見下ろした。
ごく一般的な格好なので恥ずかしがることはないが、だからこそ信頼度が低い気がする。
銀狼族とは言っても、オレはその辺にいるただの子どもだ。
「オレだけで入れて貰えるか分かんねぇな……貴重な場所だろうし……」
「持ち出したり壊したりしなきゃ大丈夫だよ。王太子の僕もついてるしね」
「そ、そうか。……王太子……?」
オレは固まった。
クリスはまるで普通のことのようにサラリと口にしたが。
今、何かすごい単語を復唱してしまった気がする。
微動だに出来ないでいるオレに対して、クリスは親指で自分を指し示した。
「そう。王太子」
「……マジか」
それ以上の言葉は出てこなかった。
色々と急展開すぎる。
オレは改めてクリスを見た。
ふんわりとした短い金髪。
白いブラウスに今日は真紅のベストを着ていて、ズボンは深い紺色だ。
(王女、だったのか)
言われてみれば、綺麗な顔は男とも女とも思える中性的な雰囲気だ。
だけど、喋り方や服装のせいで性別を勘違いした。
城下町で貴族の娘たちを見かけることがある。
フリルのついたドレスに煌びやかな髪飾りをつけているのが大半だ。
まぁそういう格好をしていなかったら「貴族の娘」とオレが判断しない可能性が高いが。
貴族の娘たちは喋り方もマリーのように、いつも丁寧な口調で笑い合っている。
「あれ、もっとびっくりすると思ったのに」
新事実を受け入れることに必死なことは、クリスには伝わらなかったらしい。
唇を尖らせてガッカリしたような声をだしてくる。
驚かせようとしてたってことは、王族どころか性別を黙っていたことも確信犯なんだろう。
俺は机に肘をつき、自分の髪をぐしゃっと握りしめた。
「してるっつーの。王子ではないってそういうことかよ」
「ふふふ。クリスは愛称でね。正式にはクリスティーネっていうんだ」
オレは大きく息を吐いた。
なんで隠してたって思うけど。
オレがクリスを何者か知らなかったように、クリスだってオレがどんなやつなのか知らなかったんだ。
もしもオレが悪いやつなら、人攫いとかに報告して王太子のクリスが危険な目に合うかもしれないし。
自分を守るために仕方がないことだったんだろう。
でも、性別を隠す意味は分からない。
勝手に勘違いしたのはオレってことは棚にあげる。
「なんでそんな格好してんだよ」
「え? こっちの方が動きやすいし好きなんだ」
「ふーん」
服装に深い意味はないらしい。
スカートやドレスは着たことないけど、動きにくそうだから納得だ。
ま、クリスが男だろうと女だろうと関係ない。
オレは頭を切り替えて、クリスと一緒に図書館の職員に声を掛けた。
もしかしたら、子どもには見せられないと言われるかと覚悟していたんだが。
図書館の人たちはクリスが王太子であることを知っていたらしい。
あっさり地下に案内してくれた。
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