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クロドゥルフ目線のお話

好きにしろよ

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「召喚した勇者を帰す方法かぁ。聞いたことないなぁ」
 
 クリスと名乗ったそいつは腕を組んで項垂れた。
 
「そうか」
 
 勇者については詳しいと胸を張っていたから少し期待したが、まぁそんなもんだよな。
 物知りの村長ですら「記録に残っていない」と言い切ったのだから。
 
 頭では理解していても、やっぱりがっかりした。

 クリスがオレのことをすぐに銀狼族だと分かったのは、勇者伝説が本当に好きで本をたくさん読んだかららしい。
 勇者に関する本に詳しいなら、銀狼族の特徴は当然知っているだろう。

(ま、銀狼族はそもそも有名だけどな)

 それでも、パッと見ただけでは犬だか狼だか分からない場合が多いからツッコんでくる奴は少ない。
 初対面でアユに「見れば分かんだろ」と勢いで言っちまったけど、犬と狼の見分けが付かない奴は実は珍しくない。
 大体、白と銀と灰の毛を的確に見分けるのも難しいっての。
 
 とにかくやっぱり地道に調べるしかないと思って、机に開いた本へと改めて目線を落とした。
 なのに、性懲りもなくクリスは問いかけてくる。

「というか、なんでそれを調べようと思ったんだ?」
「テメェに関係ねぇだろ」

 答える訳にはいかなかった。
 アユが別の世界から来た勇者だなんて、皆に知られたら大事だ。

 特に貴族や金持ちなんて、利己的な人間の代表だ。
 自分たちの地位を守るためならなんでもするイメージしかない。
 クリスの親にでも知られてアユがつれていかれたら大変だ。

 でも、オレの「これ以上踏み込むな」という気持ちを察する気はないらしいクリスは質問を重ねてくる。

「勇者、召喚したとか?」
「そんなの伝説だ。オレにそんな力はない」
「えー、そうなのかい?」

 図星を突かれて動揺しているのがバレないように、とにかく平坦な声を心がける。
 それでもまだ、クリスの興味津々な視線を感じて、やべぇなと思ったけど。

「ま、いいさ。楽しそうだからやっぱり手伝うよ」

 諦めたらしいクリスは、軽く笑ってオレが積み上げた本の中の1冊を手に取った。
 どうしてそこまで手伝おうとしてくるのかわからない。
 もう面倒くさくなって、オレは止めなかった。

「好きにしろよ暇人」
「ふふふ、ありがとう」

 何故がとても楽しそうに、クリスは本をめくり始めた。
 
 実際に本を読んでみると、やっぱり1人で調べるより2人で調べる方が圧倒的に早い。
 当たり前だけど。

 ただ早いだけじゃなくて、あーでもないこーでもないこれでもない、こっちも違ったと言い合いながら調べられる。
 それは1人で黙々と調べるよりもマシなんじゃないかと感じた。

 何よりクリスは本を読むのが早い。
 本をよく読むというのは俺に関わってくるための嘘じゃなかったようだ。
 クリスが読んだことがある本は省くことができる。

 認めるのは癪だが、本当に助かった。

 とにかく夢中になって2人で本のページを捲っているうちに、いつの間にか外は真っ暗になっていた。
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