50 / 58
クロドゥルフ目線のお話
好きにしろよ
しおりを挟む
「召喚した勇者を帰す方法かぁ。聞いたことないなぁ」
クリスと名乗ったそいつは腕を組んで項垂れた。
「そうか」
勇者については詳しいと胸を張っていたから少し期待したが、まぁそんなもんだよな。
物知りの村長ですら「記録に残っていない」と言い切ったのだから。
頭では理解していても、やっぱりがっかりした。
クリスがオレのことをすぐに銀狼族だと分かったのは、勇者伝説が本当に好きで本をたくさん読んだかららしい。
勇者に関する本に詳しいなら、銀狼族の特徴は当然知っているだろう。
(ま、銀狼族はそもそも有名だけどな)
それでも、パッと見ただけでは犬だか狼だか分からない場合が多いからツッコんでくる奴は少ない。
初対面でアユに「見れば分かんだろ」と勢いで言っちまったけど、犬と狼の見分けが付かない奴は実は珍しくない。
大体、白と銀と灰の毛を的確に見分けるのも難しいっての。
とにかくやっぱり地道に調べるしかないと思って、机に開いた本へと改めて目線を落とした。
なのに、性懲りもなくクリスは問いかけてくる。
「というか、なんでそれを調べようと思ったんだ?」
「テメェに関係ねぇだろ」
答える訳にはいかなかった。
アユが別の世界から来た勇者だなんて、皆に知られたら大事だ。
特に貴族や金持ちなんて、利己的な人間の代表だ。
自分たちの地位を守るためならなんでもするイメージしかない。
クリスの親にでも知られてアユがつれていかれたら大変だ。
でも、オレの「これ以上踏み込むな」という気持ちを察する気はないらしいクリスは質問を重ねてくる。
「勇者、召喚したとか?」
「そんなの伝説だ。オレにそんな力はない」
「えー、そうなのかい?」
図星を突かれて動揺しているのがバレないように、とにかく平坦な声を心がける。
それでもまだ、クリスの興味津々な視線を感じて、やべぇなと思ったけど。
「ま、いいさ。楽しそうだからやっぱり手伝うよ」
諦めたらしいクリスは、軽く笑ってオレが積み上げた本の中の1冊を手に取った。
どうしてそこまで手伝おうとしてくるのかわからない。
もう面倒くさくなって、オレは止めなかった。
「好きにしろよ暇人」
「ふふふ、ありがとう」
何故がとても楽しそうに、クリスは本をめくり始めた。
実際に本を読んでみると、やっぱり1人で調べるより2人で調べる方が圧倒的に早い。
当たり前だけど。
ただ早いだけじゃなくて、あーでもないこーでもないこれでもない、こっちも違ったと言い合いながら調べられる。
それは1人で黙々と調べるよりもマシなんじゃないかと感じた。
何よりクリスは本を読むのが早い。
本をよく読むというのは俺に関わってくるための嘘じゃなかったようだ。
クリスが読んだことがある本は省くことができる。
認めるのは癪だが、本当に助かった。
とにかく夢中になって2人で本のページを捲っているうちに、いつの間にか外は真っ暗になっていた。
クリスと名乗ったそいつは腕を組んで項垂れた。
「そうか」
勇者については詳しいと胸を張っていたから少し期待したが、まぁそんなもんだよな。
物知りの村長ですら「記録に残っていない」と言い切ったのだから。
頭では理解していても、やっぱりがっかりした。
クリスがオレのことをすぐに銀狼族だと分かったのは、勇者伝説が本当に好きで本をたくさん読んだかららしい。
勇者に関する本に詳しいなら、銀狼族の特徴は当然知っているだろう。
(ま、銀狼族はそもそも有名だけどな)
それでも、パッと見ただけでは犬だか狼だか分からない場合が多いからツッコんでくる奴は少ない。
初対面でアユに「見れば分かんだろ」と勢いで言っちまったけど、犬と狼の見分けが付かない奴は実は珍しくない。
大体、白と銀と灰の毛を的確に見分けるのも難しいっての。
とにかくやっぱり地道に調べるしかないと思って、机に開いた本へと改めて目線を落とした。
なのに、性懲りもなくクリスは問いかけてくる。
「というか、なんでそれを調べようと思ったんだ?」
「テメェに関係ねぇだろ」
答える訳にはいかなかった。
アユが別の世界から来た勇者だなんて、皆に知られたら大事だ。
特に貴族や金持ちなんて、利己的な人間の代表だ。
自分たちの地位を守るためならなんでもするイメージしかない。
クリスの親にでも知られてアユがつれていかれたら大変だ。
でも、オレの「これ以上踏み込むな」という気持ちを察する気はないらしいクリスは質問を重ねてくる。
「勇者、召喚したとか?」
「そんなの伝説だ。オレにそんな力はない」
「えー、そうなのかい?」
図星を突かれて動揺しているのがバレないように、とにかく平坦な声を心がける。
それでもまだ、クリスの興味津々な視線を感じて、やべぇなと思ったけど。
「ま、いいさ。楽しそうだからやっぱり手伝うよ」
諦めたらしいクリスは、軽く笑ってオレが積み上げた本の中の1冊を手に取った。
どうしてそこまで手伝おうとしてくるのかわからない。
もう面倒くさくなって、オレは止めなかった。
「好きにしろよ暇人」
「ふふふ、ありがとう」
何故がとても楽しそうに、クリスは本をめくり始めた。
実際に本を読んでみると、やっぱり1人で調べるより2人で調べる方が圧倒的に早い。
当たり前だけど。
ただ早いだけじゃなくて、あーでもないこーでもないこれでもない、こっちも違ったと言い合いながら調べられる。
それは1人で黙々と調べるよりもマシなんじゃないかと感じた。
何よりクリスは本を読むのが早い。
本をよく読むというのは俺に関わってくるための嘘じゃなかったようだ。
クリスが読んだことがある本は省くことができる。
認めるのは癪だが、本当に助かった。
とにかく夢中になって2人で本のページを捲っているうちに、いつの間にか外は真っ暗になっていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
両親大好きっ子平民聖女様は、モフモフ聖獣様と一緒に出稼ぎライフに勤しんでいます
井藤 美樹
児童書・童話
私の両親はお人好しなの。それも、超が付くほどのお人好し。
ここだけの話、生まれたての赤ちゃんよりもピュアな存在だと、私は内心思ってるほどなの。少なくとも、六歳の私よりもピュアなのは間違いないわ。
なので、すぐ人にだまされる。
でもね、そんな両親が大好きなの。とってもね。
だから、私が防波堤になるしかないよね、必然的に。生まれてくる妹弟のためにね。お姉ちゃん頑張ります。
でもまさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。
こんな私が〈聖女〉なんて。絶対間違いだよね。教会の偉い人たちは間違いないって言ってるし、すっごく可愛いモフモフに懐かれるし、どうしよう。
えっ!? 聖女って給料が出るの!? なら、なります!! 頑張ります!!
両親大好きっ子平民聖女様と白いモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ、ここに開幕です!!
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる