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クロドゥルフ目線のお話

勇者召喚前日・決意

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 村長の家についたオレは、ハンナの家の時よりは落ち着いていた。
 自分がどうすべきか分かったから。

 一人暮らしのくせに村で一番大きな家の前で、一旦深呼吸する。
 中に入ると、いつも通り窓を眺めながら安楽椅子に揺られているヤギ獣人のじいさんがいた。
 寝てるのか起きてるのか分かりやしねぇけど、オレは躊躇せず背中から声をかける。

「ハンナとオレ、契約魔法の効果はどっちでも一緒だろ。オレにしろよ」
「おお、クロドゥルフか」

 起きていたらしい。
 村長はすぐに、でもゆっくりとオレを振り返った。

 そして何がおかしいのか、オレを見た瞬間に体を震わせて笑い声を上げる。

「ほっほっほ。必死そうな顔じゃのー。お前の耳に入れたらそんなことを言い出すんじゃないかと思っておったわ」

 どうやらオレは相当余裕のない顔をしていたらしい。
 指摘されるとなんとなく落ち着かなくて眉を寄せて表情を引き締める。

 ひとしきり笑った村長は、長く長く息を吐いた。
 肩が力なく落ちているのは、曲がった背中のせいじゃないだろう。

「じゃが、森の村長たちの満場一致で決めたことなんじゃ」

 シワがれた声には明らかに元気がない。
 他の村の状況なんて知ったことじゃないが、ハンナの他にも条件に合うやつはいたはずだ。
 うちの村だけが草食獣人ばかりだから舐められたに違いない。
 そうじゃなきゃ、満場一致になんかなるかよ。

 はらわたが煮えくり返って、言いたいことは山ほど出てくる。
 でもそこは言っても始まらねぇ。
 みんな、自分の村民を守ろうと必死なんだ。

 そして、オレだってハンナの命を譲るわけにはいかねぇ。

「じゃあオレも生贄の祭壇にいく。そんでハンナより先に食われてやる」
「……お前はほんっとうに言い出したら聞かんのう」

 呆れ返った村長は、やれやれと首を振る。
 オレは返事をせずに睨みつけた。
 意志を曲げるつもりは毛頭ない。

「ワシからみんなに伝えておこう」

 オレの性格をよく知っている村長は、また長い長い溜息を吐いた。
 長くて白い眉毛から覗く目が、すごく悲しそうに見える。

「しかし、本当に良いのか?」
「良くなきゃ言いにこねぇ」
「わしがあと数十年若ければ代われたんじゃがのぅ」

 村長は村のみんなを本当に大事に思ってる。
 だから、あっさり決めたように見えて苦渋の決断に違いない。

 オレは最後にほんの少し、ほんの少しだけ。
 小さいころみたいにこの人に抱きしめてもらいたいと思ったけど。
 そんなことを言ったら村長の決意が揺らぐかもしれない。

 甘えを拭い去るために、出来るだけぶっきらぼうな声を出す。

「身寄りのないオレの方が選ばれやすいんじゃねぇのか本当なら。銀狼族ってのはそんなに大事かよ」
「有事の際に勇者を召喚できるという伝説があるからのう。そこを気にする者も多いんじゃ」

 やっぱり、そこを考慮されてオレは選ばれなかったらしい。
 他の村に生贄を押し付けようって連中も、そこは気になったってことだ。

「くだんねぇ」

 勇者召喚なんて伝説だ。
 本当に出来るかなんて、分からないのに。

 オレはチョーカーに付いている黒い飾りを弄りながら、舌打ちした。
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