【完結】なるほどここは夢の中!〜実は勇者として異世界に召喚されてました〜

清咲 陽

文字の大きさ
上 下
42 / 58
本編

忘れない

しおりを挟む
 どうしたんだろう。
 こんなこと言うやつじゃないのに。
 混乱して声が震えた。

「ど、どうしたの急に」
「勇者の記録が途切れてる理由が分かった」
「そうなのか!?」

 俺はガバッと起き上がる。
 天井を見つめるクロの顔は、真面目そのものだった。
 チラッと青い目だけを俺に向けると、小さく頷く。

「書庫の奥の方まで見せてもらった。その中に、銀狼族にしか読めない本があるって……」
「クロが、銀狼族だから教えてくれたんだ」
「だろうな。で、そこに書いてあった。『勇者は使命を果たすと帰る。そして、その存在は忘れ去られる』ってな」

 衝撃だった。

 役目を果たして帰った勇者は、関わった人たちに忘れられてしまう。
 魔王を倒して世界を救っても、命懸けでドラゴンを倒しても。

 力を合わせて戦った、せっかく仲良くなった友だちに忘れられてしまう。

「……そんな……」
「オレは、アユを忘れたくない」
 
 そうか、クロはそのことを知ったから。
 王都から帰ってきてからに少し様子がおかしかったんだ。

 俺も忘れてほしくない。
 そう言えば良かったけど、なんだか泣きそうだからふざけることにした。

 俺はクロの額をツンツンと突っつく。

「なんか、クロ……らしくなさすぎて怖いぞ」
「茶化すなバカ! テメェどうせもうそろそろ帰るんだろ!」

 クロも勢いよく起き上がって、銀色の尻尾と耳の毛をブワッと逆立ててきた。

 そう言われても、帰れるかどうかについてはさっぱりだった。
 俺は首を傾げて頭を掻く。

「そ、そうなのかな? そんな感じ全然ないけど……!」
「帰らないなら帰らないで良いんだよ! でも! 帰ったら忘れちまうんだ……っ」

 クロはグッと堪えるように息を吸った。
 両手は白くなるほど握り締められている。

 でも我慢の甲斐はなく。
 青い目は涙の膜に覆われてきた。

「オレは! 初対面のオレのために、弱いクセに命懸けで首突っ込んできた大バカ野郎のこと絶対忘れねぇから!」
「クロ……」
「オレ、本当に悪かったって思ってて……っでも、アユの脳天気さに、すげぇ助けられた。帰れねぇかもしれないのにヘラヘラして……ヒョロいけど、強い奴だって……」

 俺はずっと、俺ばっかり助けられてると思ってた。
 グルアとキュウに初めて会った時からずっと、クロは俺のために動いてくれた。
 態度は乱暴だけど、すごく優しいってすぐにわかった。
 
 責任感が強すぎて、人に弱みを見せられなくて1人で全部解決しようとしたクロ。

 そのクロの目から大きな雫がこぼれ落ちた。

 鼻を啜ってるクロにつられそうになりながら、俺は歯を見せて笑う。

「俺も、忘れない。もしクロが忘れても、俺はずっと覚えてるから」
「オレも忘れねぇし」
「じゃあ、約束な」

 泣いてるくせに仏頂面のクロに、俺は拳を向ける。
 クロは目を瞬かせた後、柔らかい笑顔になった。

 コツンと、拳が触れ合った時。

 別に眠くなかったはずなのに。

 俺の意識は途切れた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

精霊の国の勇者ハルト

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
児童書・童話
「小さな子供にも安心して読ませられる優しい冒険譚」を一番のテーマに書きました。 --------- ボク――加瀬大翔(かぜ・はると)は小学5年生。 転校した今の学校になじめなかったボクは、今日も図書室で一人で本を読んでいた。 すると突然本が光りだして、気が付いたら精霊の国『桃源郷』にいたんだ。 「勇者さま、精霊の国にようこそ。わたしはあなたを勇者召喚した、精霊の姫・セフィロトと申します」 そんなセフィロト姫・セフィのお願いで。 この日――ボクは精霊の国を救う勇者になった。 絵本・児童書大賞に参加しています、応援よろしくお願い致します(ぺこり

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~

橘花やよい
児童書・童話
宝石店の娘・ルリは、赤い瞳の少年が持っていた赤い宝石を、間違えてお客様に売ってしまった。 しかも、その少年は吸血鬼。石がないと人を襲う「吸血衝動」を抑えられないらしく、「石を返せ」と迫られる。お仕事史上、最大の大ピンチ! だけどレオは、なにかを隠しているようで……? そのうえ、宝石が盗まれたり、襲われたりと、騒動に巻き込まれていく。 魔法ファンタジー×ときめき×お仕事小説! 「第1回きずな児童書大賞」特別賞をいただきました。

処理中です...