恋模様

naomikoryo

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三上良子①

1:人物像

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「りょうちゃん、倉庫からの新刊本運搬お願ーい。」
「はーい、陽子チーフ!」
「結構重いから男手使ってねー。」
「りょうかーい!」

開店前の7時半過ぎ。
女性週刊紙コーナーにいた良子はこの書店のチーフである姉の三上陽子から指示をもらった。

この書店は東京都国立市の市役所に面した通りにあるメガマートの一角である。
同じように理容院やパン屋、たこ焼き屋などがあり、地元ではここに来れば何でも揃うぐらい重宝され人気である。
10年前に土地開発と古くなった市役所の移設でできたものだ。
それまでは三上書店は駅前の商店街にあったが、更に数年前から始まった過疎化のため、商店街も店が閉まり始め、たたんでしまうことも考えていた所、駅前の『道の駅計画』とこの『メガマート計画』に上手く乗ることができ今に至る。

もともと地元の学校教科書や市役所内の図書施設を請け負っていたことも救いとなり、かなり破格の値段で、他の店のように貸店舗ではなく、土地及び建物所有となっている。
東京と言っても都心から外れたこの国立市は東京ドーム20個分以上の田んぼがあるぐらい田舎風景を醸し出しているため、そもそもの土地価格もそれほどびっくりしたものでもなかった。

そんなわけでこの書店は、このメガマートが潰れでもしないかぎり安泰なのである。
オーナーである父親が言うには、当時市議会議員をしていた遠い親戚のおじさんが骨をおってもくれたようだ。
昔店舗兼家だったところはすっかり道の駅の大型駐車場となっているが、三上家は市内の中級クラスのマンションを購入し、そちらに家族全員で悠々と住んでいる。
どうせ家にいることも少なく、庭の草むしりに悪戦苦闘していた母親の切なる願いで一軒家ではなくなったが。


この三上家は、
長女で現在、三上書店のチーフをしている陽子26歳と、今年都内の女子短大に行き始めた良子19歳。
店長である修三56歳と妻の真美56歳である。
両親は高校の同級生で二年生の頃から付き合い始めそのまま6年後に結婚したという、かなり稀な種類である。

陽子と良子は市内の同じ女子高を卒業し、陽子は簿記関係の専門学校に行きながら書店のチーフ見習いとして働き始め、今ではすっかり父親がいなくても切り盛り出来てしまう経営者に育っていた。
良子は、子供好きなので小学校の先生になりたかったがそれを口に出すことはなく、家族の様子も考え、秘書系の女子短大へと進んだ。

どちらも社交性は高く、頭脳は陽子、運動神経は良子という感じである。
二人とも中学高校一貫の女子高だったこともあり恋愛経験には乏しかった。
良子に関しては全く皆無であった。

高校時代に周りではアイドルやらどこの学校の誰が格好いいだの騒いでいたが全く関心を持てなかった。
良子の関心事はもっぱら小説であった。
小さい頃から書物は身近に沢山あったため、絵本・雑誌・漫画、そして小説と、とにかく暇さえあれば読み漁っていた。

商店街の頃は店から何十冊も部屋に持ち出し読んでいる始末だった。
それらの本は後に『内容確認済中古本』として3割引で売られ、その売れ行きが良かったこともあった。
読んでいい条件としてその感想文を勉強のため書かせたのが始まりだったが、それを店内に掲示することでお客さんの購買意識につながることが分かった。
今はスマホという便利な物があるのでそんなことはしないが、やはり暇さえあれば青空文庫辺りで読みまくっている。

そうは言っても、決して根暗なイメージはなく、顔は取り分け美人ということはないが目鼻立ちはしっかりとしており髪もボブカットに綺麗に揃えられ、痩せすぎず太ってはいなく、164cmと小さくもなくパッと見てもスポーツ女子と思われてもおかしくなかった。
実際、高校二年生の運動会の時ではクラスの代表にされた400m走で現役の陸上部員を破ってしまい、しばらくスポーツ部から勧誘地獄にあっていたことがあった。
書店の手伝いを理由に断ったことは言うまでもないが。

そこまで小説好きだが、色恋沙汰に疎い良子は、小さい頃は漢字辞書片手にそのあたりの描写は深く捉えず、話の通過点として理解せずとも読み進んだ。
それでも中学を卒業する頃には、だんだん男女のやり取りを想像しながら読んでいるうちに、少しずつだが『恋』に対する楽しさを感じ始めていた。
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