1 / 120
三上良子①
1:人物像
しおりを挟む
「りょうちゃん、倉庫からの新刊本運搬お願ーい。」
「はーい、陽子チーフ!」
「結構重いから男手使ってねー。」
「りょうかーい!」
開店前の7時半過ぎ。
女性週刊紙コーナーにいた良子はこの書店のチーフである姉の三上陽子から指示をもらった。
この書店は東京都国立市の市役所に面した通りにあるメガマートの一角である。
同じように理容院やパン屋、たこ焼き屋などがあり、地元ではここに来れば何でも揃うぐらい重宝され人気である。
10年前に土地開発と古くなった市役所の移設でできたものだ。
それまでは三上書店は駅前の商店街にあったが、更に数年前から始まった過疎化のため、商店街も店が閉まり始め、たたんでしまうことも考えていた所、駅前の『道の駅計画』とこの『メガマート計画』に上手く乗ることができ今に至る。
もともと地元の学校教科書や市役所内の図書施設を請け負っていたことも救いとなり、かなり破格の値段で、他の店のように貸店舗ではなく、土地及び建物所有となっている。
東京と言っても都心から外れたこの国立市は東京ドーム20個分以上の田んぼがあるぐらい田舎風景を醸し出しているため、そもそもの土地価格もそれほどびっくりしたものでもなかった。
そんなわけでこの書店は、このメガマートが潰れでもしないかぎり安泰なのである。
オーナーである父親が言うには、当時市議会議員をしていた遠い親戚のおじさんが骨をおってもくれたようだ。
昔店舗兼家だったところはすっかり道の駅の大型駐車場となっているが、三上家は市内の中級クラスのマンションを購入し、そちらに家族全員で悠々と住んでいる。
どうせ家にいることも少なく、庭の草むしりに悪戦苦闘していた母親の切なる願いで一軒家ではなくなったが。
この三上家は、
長女で現在、三上書店のチーフをしている陽子26歳と、今年都内の女子短大に行き始めた良子19歳。
店長である修三56歳と妻の真美56歳である。
両親は高校の同級生で二年生の頃から付き合い始めそのまま6年後に結婚したという、かなり稀な種類である。
陽子と良子は市内の同じ女子高を卒業し、陽子は簿記関係の専門学校に行きながら書店のチーフ見習いとして働き始め、今ではすっかり父親がいなくても切り盛り出来てしまう経営者に育っていた。
良子は、子供好きなので小学校の先生になりたかったがそれを口に出すことはなく、家族の様子も考え、秘書系の女子短大へと進んだ。
どちらも社交性は高く、頭脳は陽子、運動神経は良子という感じである。
二人とも中学高校一貫の女子高だったこともあり恋愛経験には乏しかった。
良子に関しては全く皆無であった。
高校時代に周りではアイドルやらどこの学校の誰が格好いいだの騒いでいたが全く関心を持てなかった。
良子の関心事はもっぱら小説であった。
小さい頃から書物は身近に沢山あったため、絵本・雑誌・漫画、そして小説と、とにかく暇さえあれば読み漁っていた。
商店街の頃は店から何十冊も部屋に持ち出し読んでいる始末だった。
それらの本は後に『内容確認済中古本』として3割引で売られ、その売れ行きが良かったこともあった。
読んでいい条件としてその感想文を勉強のため書かせたのが始まりだったが、それを店内に掲示することでお客さんの購買意識につながることが分かった。
今はスマホという便利な物があるのでそんなことはしないが、やはり暇さえあれば青空文庫辺りで読みまくっている。
そうは言っても、決して根暗なイメージはなく、顔は取り分け美人ということはないが目鼻立ちはしっかりとしており髪もボブカットに綺麗に揃えられ、痩せすぎず太ってはいなく、164cmと小さくもなくパッと見てもスポーツ女子と思われてもおかしくなかった。
実際、高校二年生の運動会の時ではクラスの代表にされた400m走で現役の陸上部員を破ってしまい、しばらくスポーツ部から勧誘地獄にあっていたことがあった。
書店の手伝いを理由に断ったことは言うまでもないが。
そこまで小説好きだが、色恋沙汰に疎い良子は、小さい頃は漢字辞書片手にそのあたりの描写は深く捉えず、話の通過点として理解せずとも読み進んだ。
それでも中学を卒業する頃には、だんだん男女のやり取りを想像しながら読んでいるうちに、少しずつだが『恋』に対する楽しさを感じ始めていた。
「はーい、陽子チーフ!」
「結構重いから男手使ってねー。」
「りょうかーい!」
開店前の7時半過ぎ。
女性週刊紙コーナーにいた良子はこの書店のチーフである姉の三上陽子から指示をもらった。
この書店は東京都国立市の市役所に面した通りにあるメガマートの一角である。
同じように理容院やパン屋、たこ焼き屋などがあり、地元ではここに来れば何でも揃うぐらい重宝され人気である。
10年前に土地開発と古くなった市役所の移設でできたものだ。
それまでは三上書店は駅前の商店街にあったが、更に数年前から始まった過疎化のため、商店街も店が閉まり始め、たたんでしまうことも考えていた所、駅前の『道の駅計画』とこの『メガマート計画』に上手く乗ることができ今に至る。
もともと地元の学校教科書や市役所内の図書施設を請け負っていたことも救いとなり、かなり破格の値段で、他の店のように貸店舗ではなく、土地及び建物所有となっている。
東京と言っても都心から外れたこの国立市は東京ドーム20個分以上の田んぼがあるぐらい田舎風景を醸し出しているため、そもそもの土地価格もそれほどびっくりしたものでもなかった。
そんなわけでこの書店は、このメガマートが潰れでもしないかぎり安泰なのである。
オーナーである父親が言うには、当時市議会議員をしていた遠い親戚のおじさんが骨をおってもくれたようだ。
昔店舗兼家だったところはすっかり道の駅の大型駐車場となっているが、三上家は市内の中級クラスのマンションを購入し、そちらに家族全員で悠々と住んでいる。
どうせ家にいることも少なく、庭の草むしりに悪戦苦闘していた母親の切なる願いで一軒家ではなくなったが。
この三上家は、
長女で現在、三上書店のチーフをしている陽子26歳と、今年都内の女子短大に行き始めた良子19歳。
店長である修三56歳と妻の真美56歳である。
両親は高校の同級生で二年生の頃から付き合い始めそのまま6年後に結婚したという、かなり稀な種類である。
陽子と良子は市内の同じ女子高を卒業し、陽子は簿記関係の専門学校に行きながら書店のチーフ見習いとして働き始め、今ではすっかり父親がいなくても切り盛り出来てしまう経営者に育っていた。
良子は、子供好きなので小学校の先生になりたかったがそれを口に出すことはなく、家族の様子も考え、秘書系の女子短大へと進んだ。
どちらも社交性は高く、頭脳は陽子、運動神経は良子という感じである。
二人とも中学高校一貫の女子高だったこともあり恋愛経験には乏しかった。
良子に関しては全く皆無であった。
高校時代に周りではアイドルやらどこの学校の誰が格好いいだの騒いでいたが全く関心を持てなかった。
良子の関心事はもっぱら小説であった。
小さい頃から書物は身近に沢山あったため、絵本・雑誌・漫画、そして小説と、とにかく暇さえあれば読み漁っていた。
商店街の頃は店から何十冊も部屋に持ち出し読んでいる始末だった。
それらの本は後に『内容確認済中古本』として3割引で売られ、その売れ行きが良かったこともあった。
読んでいい条件としてその感想文を勉強のため書かせたのが始まりだったが、それを店内に掲示することでお客さんの購買意識につながることが分かった。
今はスマホという便利な物があるのでそんなことはしないが、やはり暇さえあれば青空文庫辺りで読みまくっている。
そうは言っても、決して根暗なイメージはなく、顔は取り分け美人ということはないが目鼻立ちはしっかりとしており髪もボブカットに綺麗に揃えられ、痩せすぎず太ってはいなく、164cmと小さくもなくパッと見てもスポーツ女子と思われてもおかしくなかった。
実際、高校二年生の運動会の時ではクラスの代表にされた400m走で現役の陸上部員を破ってしまい、しばらくスポーツ部から勧誘地獄にあっていたことがあった。
書店の手伝いを理由に断ったことは言うまでもないが。
そこまで小説好きだが、色恋沙汰に疎い良子は、小さい頃は漢字辞書片手にそのあたりの描写は深く捉えず、話の通過点として理解せずとも読み進んだ。
それでも中学を卒業する頃には、だんだん男女のやり取りを想像しながら読んでいるうちに、少しずつだが『恋』に対する楽しさを感じ始めていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
学年一の不良が図書館で勉強してた。
山法師
恋愛
春休み。4月になったら高校2年になる成川光海(なりかわみつみ)は、2年の予習をしようと、図書館に来た。そしてそこで、あり得ないものを見る。
同じクラスの不良、橋本涼(はしもとりょう)が、その図書館で、その学習席で、勉強をしていたのだ。
「勉強、教えてくんねぇ?」
橋本に頼まれ、光海は渋々、橋本の勉強を見ることに。
何が、なんで、どうしてこうなった。
光海がそう思う、この出会いが。入学して、1年経っての初の関わりが。
光海の人生に多大な影響を及ぼすとは、当の本人も、橋本も、まだ知らない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
なるべく調べて書いていますが、設定に緩い部分が少なからずあります。ご承知の上、温かい目でお読みくださると、有り難いです。
◇◇◇◇◇◇◇◇
他サイトでも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる