雨の向こう

naomikoryo

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11.2度目の夏祭り

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「麗華さんがそっちへ向かったから島の案内をするように。」
そんな電話が悠太の兄からかかってきたのは夜中だった。
「えっ?・・・・・はっ?」
寝惚けた頭で電話には出たものの、やはり回っておらずに朝起きて悠太はボーっとしていた。
そこへ、
トントン
とドアをノックする音が聞こえた。
悠太は前と同じアパートの同じ部屋を借りていた。
前回も今回もきちんとした期限を決めずに借りているが、会社として契約しているため大家さんも不確定要素が多少多くても気にしていないようだ。
「・・・はい?」
頭をぼりぼり掻きながらドアを開ける。
どうせ大した来客など来るわけもないと、そこだけは腹を括っていた。
ガチャ
ドアを開けるとそこには大きめの真っ赤なキャリーケースを引き連れて、真っ赤なワンピースにつばの長いキャスケットを深めに被った、いかにもどこぞのお嬢様が立っていた。
ちょっと息は荒いが凛とした姿勢で仁王立ちだ。
「御機嫌よう、悠太君!」
「・・・麗華さん?」
悠太は心底驚いた顔をした。
それを見て、
「あら?お兄様からご連絡はありませんでした?」
そう言われて、夜中の電話を思い出した。
が、
「済みません、寝惚けて聞いていたみたいで・・・」
「そうですか。」
麗華はこれと言って気に留めることもなく、
「では。」
と荷物と一緒に部屋に乗り込んできた。
「えっ、ど、どうされたんですか?」
悠太はその挙動に戸惑いながら麗華の前に立つ。
「一緒に住むことになる島だから、二人でよく見て来いと、・・・お父様が。」
「ちょ、ちょっと済みません。」
悠太は慌てて電話機に向かった。
「この島って、一切電波が通じないんですってね。」
そう言いながら、麗華は冷蔵庫の横にキャリーバッグを置き、食器棚からグラスを探し出すと、徐に冷蔵庫を開けた。


「はぁ・・・」
溜息をつきながら悠太は麗華の姿を少し離れた所から眺めていた。
案の定、電話を掛けた兄さんも全く相手にしてくれず、父に限っては、
「早く孫の顔を見たいもんじゃ。」
と笑いながら電話を切る始末。
振り返れば麗華は下着姿で着替えの真っ最中だし、特に気にする様子さえなかった。
そして一人で浴衣を着こなして・・・
いや、少し手伝わされたが。
ご丁寧に悠太の浴衣も一式持参してきていた。
「おや、今年は彼女を連れて来とったか?」
そう声を掛けてきた役場長さんたちと関係者テントの中で盛り上がってしまっている。
「麗華は人誑しだから、どこにでも連れて歩くとええ。」
麗華の父親でもある、笠岡財閥三代目党首の話を思い出した。
それこそもう十年ほど前のことになるが、今でもはっきりと覚えている。
そして、
「ゆくゆくは君に、麗華とこの家を守ってほしい。」
とも言われていた。

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