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6.疑惑
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悠太は突然の興奮に駆られ、自転車の鍵を握りしめながらアパートを飛び出した。
何かが鳥居の近くにいることを確信し、その謎めいた存在を見てみたいという強い好奇心が彼を駆り立てていた。
少し湿った風を感じながら、自転車で鳥居に向かう悠太。
目的地に到着すると、再びその存在を見つけるために鳥居の前に立った。
そして鳥居の周りを注意深く探し始めた。
しかし、何も見当たらない。
「あれ?何かの見間違いだろうか?」
何かしらの存在が再び姿を現すのを期待して、彼はしばらくゆっくりと動きながら待ち続けた。
空は薄く曇っていた。
(花火は大丈夫かな?)
悠太は少し心配になった。
すると、あの祠に向かう道の林の奥の方でガサガサと何かが動く音が聞こえた。
(祠の方だ!)
鳥居とその道の途中ぐらいにいた悠太は、木々の隙間から目を凝らして奥を見つめた。
(あっ)
微かに女性の後ろ姿が見えた。
しかも、何となく見たことのあるワンピースに麦わら帽子をかぶっている。
一瞬に近いものではあったが、悠太の心はざわついた。
(まさか・・・)
悠太は静かに倒しておいた自転車を起こし、静かに坂道を下りて行った。
悠太は祭り会場に着くと、役場長さんを探した。
主催者テントを見つけそこに行く途中に顔見知りに話しかけられたが、全く耳に入って来なかった。
それで、みんなも諦めてまた他の人に絡んでいた。
少し鼻息も荒く役場長さんの近くに立った悠太は、大きく深呼吸した。
役場長さんは船場の船長さんたちと呑んでいたようで、既にかなり出来上がっていた。
「こんにちわ、役場長さん。」
悠太は静かに言った。
「ん。・・・こりゃ、悠太さん。まぁ、一杯やるか?」
役場の受付の山下京子さんが、さっとプラカップに入った生ビールを渡してくれた。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
悠太は自分を落ち着かせようと、生ビールを一口飲んだ。
「どうだ、盛大だろ?」
船長さんが自慢げに言った。
「そうですね。島中で三日間も続くお祭りなんて、聞いたことないですね。」
「だろ?」
(更に自慢げだ)
「ところで、図書館の小雪さんを探してるんですけど、見かけませんでした?」
「おぅ、小雪様なら・・・」
「さま?」
そこに京子さんが体を割って入ってきた。
「悠太君、この焼き鳥もどうぞ。」
「ありがとうございます。」
悠太はそう言ってパックに乗っていた焼き鳥を一本受け取ると、
「どこかで見ました?」
と、再度船長に向かって尋ねた。
船長はちょっとばつが悪そうに京子さんをチラ見して、
「ん、いやー、今日は見てねえな。」
と言った。
「今日は?という事は昨日は見たという事ですか?」
「あれ?小雪ちゃんは祭りの初日から本土の親戚へ用事で出掛けたんじゃなかったかなぁ。」
と徐に京子さんが言った。
「ね?ねぇ?」
そして役場長と船長にそう言った。
すると二人とも、
「あ、あぁ、そう、そんなこと言っちょったなぁ。」
と口を合わせた。
「祭りの初日は船動いてませんでしたよね?」
悠太が真顔でそう尋ねると、
「いや、・・・そ、そう、朝一番は出しとるよ。本土のもんも迎えにいっちょるし。」
と船長が言った。
役場長は、
「そろそろ花火の準備は出来とるんかな・・・」
と言いながら席を立った。
「小雪ちゃんおらんで残念だったけど、花火は豪華だから見とくと良いよ。」
と京子さんは悠太の片手の焼き鳥を取り上げてパックに戻すと、パックごと悠太に持たせた。
「ビール無くなったら又おいで。」
と優しく言った。
悠太はお辞儀をしてテントをあとにした。
(余程の鈍感じゃなきゃこれはわかるわ・・・)
何かが鳥居の近くにいることを確信し、その謎めいた存在を見てみたいという強い好奇心が彼を駆り立てていた。
少し湿った風を感じながら、自転車で鳥居に向かう悠太。
目的地に到着すると、再びその存在を見つけるために鳥居の前に立った。
そして鳥居の周りを注意深く探し始めた。
しかし、何も見当たらない。
「あれ?何かの見間違いだろうか?」
何かしらの存在が再び姿を現すのを期待して、彼はしばらくゆっくりと動きながら待ち続けた。
空は薄く曇っていた。
(花火は大丈夫かな?)
悠太は少し心配になった。
すると、あの祠に向かう道の林の奥の方でガサガサと何かが動く音が聞こえた。
(祠の方だ!)
鳥居とその道の途中ぐらいにいた悠太は、木々の隙間から目を凝らして奥を見つめた。
(あっ)
微かに女性の後ろ姿が見えた。
しかも、何となく見たことのあるワンピースに麦わら帽子をかぶっている。
一瞬に近いものではあったが、悠太の心はざわついた。
(まさか・・・)
悠太は静かに倒しておいた自転車を起こし、静かに坂道を下りて行った。
悠太は祭り会場に着くと、役場長さんを探した。
主催者テントを見つけそこに行く途中に顔見知りに話しかけられたが、全く耳に入って来なかった。
それで、みんなも諦めてまた他の人に絡んでいた。
少し鼻息も荒く役場長さんの近くに立った悠太は、大きく深呼吸した。
役場長さんは船場の船長さんたちと呑んでいたようで、既にかなり出来上がっていた。
「こんにちわ、役場長さん。」
悠太は静かに言った。
「ん。・・・こりゃ、悠太さん。まぁ、一杯やるか?」
役場の受付の山下京子さんが、さっとプラカップに入った生ビールを渡してくれた。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
悠太は自分を落ち着かせようと、生ビールを一口飲んだ。
「どうだ、盛大だろ?」
船長さんが自慢げに言った。
「そうですね。島中で三日間も続くお祭りなんて、聞いたことないですね。」
「だろ?」
(更に自慢げだ)
「ところで、図書館の小雪さんを探してるんですけど、見かけませんでした?」
「おぅ、小雪様なら・・・」
「さま?」
そこに京子さんが体を割って入ってきた。
「悠太君、この焼き鳥もどうぞ。」
「ありがとうございます。」
悠太はそう言ってパックに乗っていた焼き鳥を一本受け取ると、
「どこかで見ました?」
と、再度船長に向かって尋ねた。
船長はちょっとばつが悪そうに京子さんをチラ見して、
「ん、いやー、今日は見てねえな。」
と言った。
「今日は?という事は昨日は見たという事ですか?」
「あれ?小雪ちゃんは祭りの初日から本土の親戚へ用事で出掛けたんじゃなかったかなぁ。」
と徐に京子さんが言った。
「ね?ねぇ?」
そして役場長と船長にそう言った。
すると二人とも、
「あ、あぁ、そう、そんなこと言っちょったなぁ。」
と口を合わせた。
「祭りの初日は船動いてませんでしたよね?」
悠太が真顔でそう尋ねると、
「いや、・・・そ、そう、朝一番は出しとるよ。本土のもんも迎えにいっちょるし。」
と船長が言った。
役場長は、
「そろそろ花火の準備は出来とるんかな・・・」
と言いながら席を立った。
「小雪ちゃんおらんで残念だったけど、花火は豪華だから見とくと良いよ。」
と京子さんは悠太の片手の焼き鳥を取り上げてパックに戻すと、パックごと悠太に持たせた。
「ビール無くなったら又おいで。」
と優しく言った。
悠太はお辞儀をしてテントをあとにした。
(余程の鈍感じゃなきゃこれはわかるわ・・・)
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