雨の向こう

naomikoryo

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7.花火

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屋台の灯りが眩く見え始めると、空もうっすらと暗くなり始めた。
漁港横の公園も防波堤も、家族や仲間連れの観客で埋まっていた。
確かに島の住民だけではこれほどの数にはならないだろう。
悠太はそれらを横目にゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。
自転車のかごにはペットボトルの天然水日本と焼きそばのパックが二つ入っている。
焼きそばのパックは輪ゴムで止めてあり、割りばしが挟まっていた。
悠太の職場のおじさんから貰ったものだった。
「彼女と食べや。」
そう言われて渡されて、
「は、はい。・・・ありがとうございます。」
とにこやかに受け取ったはいいもののどうしたものか、とちょっと考えた。
考えて、
(とにかく、もし、あれが精霊様だったとして・・・)
悠太は初日の役場長の後を付けたあの祠でのことを思い出していた。
(・・・もし、あの祠にいるのが・・・小雪さんだとして・・・)
段々、自転車を漕ぐスピードも上がってくる。
(・・・島にいるのに・・・逢えないとして・・・)
(祭りの間、ずっとあそこにいるのか・・・)
(そういえば何で雨が降らないんだろ?)
色んな疑問が頭の中に浮かんでくる。
そしてあの上り坂まで来て、悠太は立ち漕ぎで登り始めた。
(・・・とにかく・・・俺には逢いたくないってことなのかな?)
首をぶんぶん振りながら、体も左右に大きく揺れながら、一心に漕ぐ。
いつの間にかジトーっと汗が滲んでいた。
(・・・それとも・・・・・)

悠太は『雨の精霊』については、大まかには聞いていた。
恩恵のことは勿論だが、これまで代々子供に受け継がれていくことや外見が変わらず短命であるということ。
何より、必ず一人の女の子しか生まれないことにその伴侶となった男も短命になるという事も。
それらをどこか物語を聞くように受けていたが、それが小雪の事となるとは。
あの道の手前で自転車から降り、水と焼きそばを持って祠へと向かった。
まだどうするかは決めていない。
入り口に置いて帰ろうか・・・
声を掛けて一緒に食べようと言おうか・・・
黙ったまま入り込んでしまおうか・・・
いや、勿論小雪だと決まったわけではない。
ずっとイメージしていた、どこか妖怪のような小さな生き物かもしれない。
精霊って言うくらいなんだから・・・


祠が見えてくると、木々に囲まれたこの辺りはかなり暗い。
上を見上げても所々に薄暗い空が少し見えるだけだ。
(どこか開けた所は無いんかな?)
そう思いながらゆっくりと祠に近づいて歩いた。
(あれ?誰かいる?)
祠の全体が遠目に見える位置まで来ると、祠の上に人影らしいものが見えた。
悠太は咄嗟に近くの太い木の陰に隠れた。
ジーっと目を凝らすと、誰かが祠の上に立って両手を胸のあたりで握って空を見ているようだ。
祠の真上は割と大きく空が開けていた。

ウーウウーウウー
その時、花火開始のサイレンが鳴り響き一発目の大きな花火が空に広がった。
その灯りではっきり人物が認識出来た。
「・・・小雪・・・さん・・・」
悠太は小さく呟いた。
思っていた以上のショックが悠太を襲った。
悠太は木に寄りかかるように背中を預け、目を瞑った。
息を大きく吸い込み静かにゆっくり吐いた。
そして、再び考える。
ドーン、ドドーン
と花火の音が響き渡る。

ここで何気ない感じで
「一緒に食べながら花火見ない?」
と出て行ったらどうなるだろうか?
「なぁーんだ、ばれちゃったの?」
と明るく返してくれるだろうか?
「ハハハ・・・・・」
小さく笑う悠太の目からは涙が零れていた。
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