再び君に出会うために

naomikoryo

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再最終章

ワタの覚醒

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観覧車のゴンドラがゆっくりと上昇していく中、貴子はぼんやりと窓の外に広がる夜景を見つめていた。
その時、胸の奥から微かな痛みと共に、何かが湧き上がってくるのを感じた。

「貴子……聞こえる?」
静かな声が彼女の意識に響いた。
その声に、貴子は一瞬驚きながらもすぐに頷いた。

「ワタ……あなたなの?」
彼女は自分の胸に手を当てると、懐かしい感覚が体中を包み込んでいくのを感じた。

「そう、私よ。
ずっと眠っていたけど、今、目覚めたわ。」
ワタの声は優しく、しかし確固たる存在感を持っていた。

「思い出した……全部……」
貴子は静かに目を閉じ、記憶の断片が次々と繋がっていくのを感じた。
太一とスサが語り合っていたこと、そして、彼女自身がこの状況に巻き込まれた理由……
そして、かつての彼女自身の役割。

「そう、私たちの使命……
でも、今はそれよりも、君がここにいてくれて嬉しい。」
ワタの声は穏やかで、貴子の心を温かく包み込んだ。

「太一、私……
全部思い出したわ。」
貴子は太一に向き直り、力強く頷いた。
彼女の瞳には、決意と共に、どこか懐かしさを帯びた光が宿っていた。

「ワタも目覚めたのか?」
太一は彼女の様子を見て、少し驚いたように眉を上げた。

「ええ、ワタも……
そして、全部思い出したわ。
私たちがここにいる理由も、あの時のことも……」
貴子の声には、どこか寂しげな響きが混じっていた。
「そっか……」
太一はその言葉に少しの間、言葉を失った。
彼女が「思い出した」というのは、彼女がかつて何をしていたか、そのすべてを理解したということだ。
それは思い出して欲しくも、そうじゃなくもある事だった。
太一は何となくくすぐったさを感じていた。

「ねぇ、覚えてる?」
始まるであろう思い出話が来たなと、やっぱりむず痒さを感じた。
「あの頃のこと。
あの虫網を片手に手をつないでトンボを一緒に追いかけた日のこと。」
貴子の目には遠くを見つめるような、懐かしそうな表情が浮かんだ。
「えっ?
あっ、うん、も、もちろん覚えてるさ…
ってかなり昔の話だよな?
スサたちに会う前だから、そもそも記憶もあったろ?」
太一は少し笑いながら言った。
「でもあの時、あなたが言った言葉……
『二人なら、どこまでも行ける』って……
あれ、今でも私の中に残ってる。」
貴子は何も動じずにそう言い切った。
そして、そっと太一の手を握り、かすかに笑みを浮かべた。
「…それが言いたかったのか……
あの頃は何も考えずに言ったけど、今でもそう思ってるよ。
二人なら、きっとどこまでも行けるさ。」
太一は彼女の手を握り返し、その手の温かさを確かめるようにじっと見つめた。

「あっ、太一、あのウサギのこと……
覚えてる?」
急に貴子の目が見開き、ようやく確信を想い出した感じだった。
忘れかけていた大切な思い出がよみがえり、涙が滲んでいるようだ。
「…ああ、もちろん覚えてるさ。
あの時、足を怪我して動けなくなっていたウサギを見つけたんだよな。」
太一もまた、彼女の目を見つめながら答えた。
その瞬間、二人は心の中で同じ光景を思い浮かべていた。
「そう、あの子を助けた時のこと……
スサとワタのエネルギーを使って、二人でウサギを治してあげたのよね。」
貴子はそっと太一の手を取り、その時の感覚を思い出すように指を絡めた。
「ああ、そうだった……。
二人で力を合わせて、エネルギーを送り込んだんだ。
君の手をしっかりと握って、ウサギに向かって全ての力を注ぎ込んだんだ。」
太一はその時の感覚を思い出し、心の中に温かな感情が広がるのを感じた。
「あの時、私たちのエネルギーがウサギの体を包み込んで、怪我がみるみる治っていったのを覚えてるわ。
あの子の目が輝いて、立ち上がって、私たちを見上げて……」
貴子は声を震わせながら、あの時の感動を思い出していた。
「でも、そのあと僕は力尽きてしまったんだよな……」
太一は少し苦笑しながら続けた。
「気がついたらスサに入れ替わっていて、貴子に迷惑をかけた。」
「そう……
あの時、スサが貴方の体を借りて、私の太ももを撫で回したのよ。」
貴子は少し頬を赤らめながら、その時の光景を思い出していた。
「えっ、そんなことしてたのか?
スサ……お前な……」
太一は驚きと戸惑いの表情を浮かべ、心の中でスサに抗議した。

「だって、太一が力尽きて意識を失ったから、仕方なく僕が代わりに体を動かしてただけさ。
ちょっと感触を楽しんだのは否定しないけどね。」
スサは悪戯っぽく笑いながら答えた。
「本当にもう……」
太一はため息をつきながら、貴子に向き直った。
「ごめん、貴子。本当に悪いことをした。」
「いいのよ、太一。
あの時は恥ずかしくて驚いたけど、今となっては懐かしい思い出よ。」
貴子は優しく微笑みながら、太一の手を強く握った。
「君がそう言ってくれるなら、救われるよ。」
太一は安堵の表情を浮かべ、貴子の目を見つめ返した。
観覧車は頂上に差し掛かり、ゴンドラはゆっくりと揺れながら街の明かりを見下ろしていた。
二人はその光景を静かに見つめながら、かつての記憶と現在の自分たちを重ね合わせていた。

「これからどうするかは、二人で決めよう。
スサもワタもいる。
僕たちは、これからどう生きていくか、何を守っていくか、ちゃんと決めよう。」
太一はしっかりと貴子の目を見つめ、その言葉に力を込めた。
「ええ、二人で決めましょう。
どこまでも、二人で。」
貴子もまた、強く頷き返した。

観覧車のゴンドラはゆっくりと回り続け、二人の思い出と新たな決意を乗せて、夜空の下で静かに揺れていた。
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