再び君に出会うために

最終章

天使の声②

大学生になってからも、バスケ部の先輩に始まりつい最近の近所の喫茶店のアルバイトの子まで、総勢・・・・・といっても5人ほどだが。
やはり、何かそんな感じになってくるとこの天使の声はちゃちゃを入れ始め、挙句に遠ざけるよう指示してくるのだ。
自分の中のもう一人の自分だと信じて疑わない太一は、場合によると多重人格症とかでまずいかな、と思いながらもそれ以上深くは考えずに従うのだ。
勿論、
（お前は心に決めた女性がいるだろう！）
ともう一人に自分に言われてしまえば、
「そうだな。・・・・・うん、その通りだ。」
となってしまうのだ。

その天使の声が、しきりに騒いでいる。
（寝室に追いかけていけよ）
と。
「いやいや、それはまずいだろう。」
太一は貴子が置いていった缶ビールを一気に飲み干した。
（きっと太一を待ってるって！）
「そうかなぁ・・・・・・・！」
（せめて、大丈夫かってドア越しに声をかけてみろよ）
「・・・・・・・・・・」
（そうすりゃ、イヤだったら何か言うって！）
「・・・・・・・・・・・・」
（オイ！聞いてんのか！）
「・・・・・・・・・お前誰だ・・・・・・・・」
（え？）
「さっき俺の事を、太一って言ったな・・・・・」
（・・・・・・・・・・）
「俺が俺の事を名前で呼ぶなんておかしいよな？」
（・・・・・・・・・・）
静かになったが、もう太一はだまされなかった。

「お・ま・え・は・だ・れ・だ！」
険しい表情になっている太一は、出来る限り低い声で静かに言った。
（・・・・・・・・・・はぁ）
「！！」
（ばれちゃったか・・・）
「何だと！」
（忘れたままで結ばれてもらおうと思ったのに・・・）
「は？」
太一は訳が分かんない、といった表情で天井を見た。

（しょうがないなぁ・・・）
その言葉の後、一瞬であの空白になった記憶が蘇った。
まるで走馬灯のように・・・