再び君に出会うために

naomikoryo

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最終章

長い夜の始まり

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シャワーを浴びながら太一は悶々としていた。
「まさかこの後、何かなっちゃったりはしないだろうなぁ・・・・・」
と呟きながら借りたタオルでごしごしと体中丁寧に洗った。
ふと、頭を洗っていた両手が止まった。
(そう言えば着替えが・・・)
その時、ガチャっと洗面のドアが開く音が聞こえた。
「太一~。着替え置いておくから使ってね~。」
貴子の声が聞こえた。
「あっ、うん。ありがと~。」
太一も大きな声で答えた。
(良かった。・・・・・・・・・・って、貴子の服じゃないだろうな)

貴子が出て行く音を確認して太一は洗面所に戻った。
脱衣かごの中に確かに新品で袋を開けられていないトランクスやTシャツ、スウェット上下セットが置いてある。
(あぁ、おじさんのか・・・)
ホッとして、更にちょっと感激しながらそれらをあけて着だしたが、ふと、
「あれ?おじさんってそんなに大きな人じゃないよな?」
あまりに自分にぴったりなサイズなのに気付き、
「・・・・・あ~・・・・・彼氏のか・・・・・・・」
と思った。
途端にさっきまでの悶々としたキモチや、もしかしたらなんて期待してた自分が恥ずかしくなった。
(やっぱり、俺なんて弟みたいなもんなんだなぁ・・・・・)
気付けば太一の着ていた背広はハンガーに掛けられていて、下着類とかはなく、ドラム式の洗濯機が回っていた。
(男の下着なんかも平気なんだなぁ・・・)

沈んだ気分で居間に戻ると、
「どうすっきりした?」
とソファーに両足をたたんで身体を斜めにして大きなクッションにもたれながら缶ビールを呑んでいた貴子が言った。
「あ、あぁ・・・ありがとう。」
「太一も冷蔵庫から好きなもの出して飲んでね。」
「うん・・・・・でも、帰んなきゃいけないから・・・水貰うよ。」
そう言いながら冷蔵庫に向かった。
「そう・・・・・」
と貴子の声が少し残念そうに聞こえた。

冷蔵庫の前で水を一口飲んで、
「それで、結局・・・それは何?」
と聞いた。
貴子はもたれていた体勢を戻して、
「あの・・・ね。・・・・・・・・・・・・・・・昔の日記・・・」
「そう・・・・・・・・・でも・・・・・」
「分かってる!」
貴子は慌てて両足を伸ばして座り直してテーブルの上の紙を取った。
「私の記憶でも、覚えがあるのはこの最後の1枚だけ・・・」
「・・・・・・・そうだね。」
「でも・・・・・」
「でも?」
貴子は隣りに座れと言わんばかりに自分の横の椅子を叩いた。
太一は黙って隣りに座った。

「私の日記の中で・・・」
「日記?」
「いいの、日記で。・・・・・それで・・・・・・・・・・」
「うん?」
「ほら、途中で邪魔するから分かんなくなった~!」
貴子は怒った顔で太一を睨みつけた。
「ごめん、ごめん。」
そう言いながら太一は軽く貴子の左手を叩いた。
「そう!」
貴子は思い出した顔をして、
「あの病院騒動のちょっと前ぐらいから、急に太一のことが出てくるようになったの。」
「そう。」
「ちょっと恥ずかしいから色々な所は塗り潰してるけど、二人で神様のために何かし始めたって感じなの。」
「・・・・・SFだね。」
「言っておくけど、私は私小説を書いたりはしないからね。」
「はいはい。」
「でね・・・・・・・・・」
貴子は早口にその日記の1枚目からのことを更に話し始めた。
そして、黒塗りされているところも微妙な言い方で表現した。
「甘い感じ?」
「淡いキモチ?」
太一は時々その微妙な言い回しに反応したが、結局イマイチ分からなかった。

そんなことよりも、やけにサイズが丁度いいスウェットのフードを脱いだりかぶったりした。
「やっぱり丁度いいんだね。」
10秒ぐらい黙ってた貴子がふいに言った。
「え?」
「実はね・・・・・」
(あぁ、ついに貴子の口から男の話が出てくるのか・・・・・)
太一はそう思うや、
「あっ、やばい!かなり眠くなった。」
とソファーから立ち上がり急いで洗濯機を見に行こうとした。
「せ、洗濯終わったかな・・・」
「え?」
が、急に動いた為貴子の持っていた缶ビールに足が当たり、結果貴子にビールがかかってしまった。
「・・・も~・・・急に動いて~。」
貴子の白いパジャマの、丁度胸元辺りにかかったようだ。
「ごめんごめん。」
慌てて台所から布巾を取って貴子に渡した。
「ありがとう。」
布巾を受け取って貴子は胸元を拭き始めた。

「!」
少し透けたパジャマを見て太一はすぐに目を背けた。
「ごめん、見てないから!」
悪い事をした気持ちで貴子に謝ったが、胸の鼓動は高速に騒いでいた。
「・・・・・大丈夫よ、太一だから・・・」
「えっ?」
(それって・・・・・どういう意味だ?)
そんな事を考えた時、
(★言っちゃえよ、好きだって!)
頭の中からあの声がした。
(あれ?久しぶりだけど、珍しく肯定的な意見だな)
太一はこの声のことを天使の声と命名していた。
これまでに、女性との関係でここって時にだけ聞こえる声だった。
(これまでは大抵、否定的な意見で相手を断わらせていたのに・・・)

「・・・・・着替えて・・・きちゃうね?」
「う・・・・・うん。」
貴子はゆっくり立ち上がってから寝室に向かったが、太一はちょっと首をかしげていた。
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