再び君に出会うために

naomikoryo

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最終章

終末の夜

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「明日から休日になりますが、休み中はくれぐれも中学生らしく生活して、危険だと思われる行動はしないように。」
太一はちらっと小笠原先生を見たが、先生は軽く頷いてくれたので安心した。
「は~い。」
生徒たちは元気に返事をしてくれた。
「特に、夜遊びだったり、川での遊泳などは危ないですからね。」
「わかってま~す。」
太一はうんうんと笑顔で頷いた。
「どしたの、先生?」
一番前の席の佳奈が不思議そうに太一に尋ねた。
「いや、やっぱり中学生は素直でかわいいな~と思ってさ。」
「え~、何それ~。」
「・・・素直が一番さ、素直が・・・・・」
太一はここ数日の自分の言動を思い出していた。
勿論、貴子に対する事だ。
(自分もそろそろ素直にならないと、もう貴子とは逢えなくなるかもしれない)
と危機感も感じていた。
「じゃあ、日直さん、よろしく。」
その合図で日直が号令を出し、今日の授業が終わった。

職員室に戻ると案の定、一番先に駆けつけてくれたのは小南教頭だった。
「どうでしたか?、今週終わってみて。」
ストレートな質問だけに太一の頭でも考えられる答えは幾つかあったが、ここは素直に一番最初に思ったことを口にした。
「自分が教わっていただけの時とは全く違う怖さがありました。」
「そう。・・・・・具体的には?」
「はい。」
一呼吸おいて話し始めようとした時、周りの先生方も自分に注目していることに気づきちょっと口ごもってしまった。
「ファイト。」
美智子の小さな声が聞こえた。
「・・・・・え~と。」
そう言って深呼吸をした。
「自分が中学生だった時は、授業で先生が話していることにそんなに意識していなかったけど、自分が教える側だと思うと、きちんと教えられたのかな?、みんな

分かってくれたのかな?って。」
「なるほど。」
校長先生が合いの手を入れてくれた。
「それもクラスのみんなに教え切れたのだろうか?・・・・・もしかすると理解できなかった子がいて、でも質問できずに、そのまま分からないままになってしま

わないか、怖くて・・・」
「・・・・・いい感情ですね。」
「・・・・・そうなんですか?」
「えぇ。・・・・・教師と言うものは教え切ることが基本にあり、それに気付いて生徒たちが教わろうとすること、そう導くことに本質があると思います。」
小南教頭は眼鏡を人差し指で直しながら言った。
「教育実習で一番教わって欲しいのは、人を教える職業につくという事は、自分も一生勉強していかなくてはいけないということに気付くことです。」
「・・・・・はい。」
「こんなに早く気付くのは、むしろあなたに向いている、という事かもしれません。」
「そうですか?」
「・・・・・とも言い切れませんが・・・」
太一はちょっとガクッと体を動かしてしまった。
「でも、自分が学生時代に苦労していた人の方が、より子供の気持ちになれるかもしれませんね。」
「・・・・・はい、それは自信があります。」
「まぁ。」
小南教頭は軽く笑った。
周りの先生たちは一瞬どよめいたが、一緒に軽く笑い始めた。
「では、残り来週だけとなりますが頑張って下さい。あっ、勿論、週明けの報告書はお願いしますね。」
「わかりました。」
教育実習の課題として、レポートに近い報告書を実習学校と自分の学校提出用に書くことになっていた。
「では、他の先生方も今週はお疲れ様でした。」
小南教頭の言葉で1週間が締め括られた。

その後、部活も終え小笠原先生と貴子と3人で、学校近くの居酒屋で軽く呑みながら食事をした。
美智子はデートだとかで来られなかったようだ。
まだ3日間の指導しかしていないのだが、男子のレベルが目に見えて上がったと小笠原先生は喜んでいた。
それでも、県大会に出られるほどの成績は無いので子供達もそこまでは望んでいないのも現実だった。
ただ純粋にバスケが好きで上手になりたい、と思う子たちのためにやっているんだと小笠原先生は言っていた。
貴子もそれなりの指導しか出来ないけど、子供達に関わるのは地域活性という観点からも楽しみだと言った。

初めはうんうんと聞いていた太一だったが、
「でも、勝てるもんなら勝ちたいってことですよね?」
「それはそうだけど・・・・・」
「何なら、物凄い努力をしなくても・・・・・仮にチート的な力が身について、県大会優勝!って事でもいいですよね?」
「・・・・・太一、何言ってるの?」
「そうですね、太一先生。私も実の所、彼らがそれで満足している以上はそれ以上の事は言えなくて・・・」
「昔と違って、今は色々とうるさそうですよね・・・・・」
太一たちの頃と違って、今は運動部のほとんどは日曜・祝日は休みだった。
土曜日は午前中だけ認められたが、進んで行う運動部はあまりなかった。
大会直近で子供達が希望すれば職員とPTAによる会議が行われ、そこで認められれば決められた時間内での活動が認められるという有様だ。

ちなみに小南教頭が朝礼でよく言う言葉は、
「若いうちは色々な事に興味を持って、将来出来ることの幅を広げる為に、勉学に運動に、更には人間関係に努めなさい。」
である。
(確かに言わんとする事は分かるけど、どうなのだろう?)
と太一は思った。
勉強でも運動でも、基礎をしっかり作っておけば将来役立つであろう。
そのために、人によってはかなりの時間と労力を使うこともあるだろう。
でも、みんながみんな同じようにはならないからこそ他の人よりもやっておこう、という気が起きるのではないか。

そんなこんなで1時間ほど経った。
太一は少し酒が進むと、ついつい熱血漢が出てしまう。
貴子は酒が進むと、太一に対しては甘えたになってしまう。
そんな二人を小笠原先生は微笑ましく見ては、
「あんたたちは本当に付き合ったこと無いの?」
と聞いてしまう。
「だから~、いつの頃からか、太一は全く話しかけてくれなくなって・・・・・」
貴子はわざと泣きまねをしながら言った。
「そうなの?太一君。」
「ん~・・・・・・・そうだっけかな~。」
白々しく言った。
本当は、中学生の制服を着た貴子が急に大人に見えて、嫌だったのだ。
「みっちゃんはずっと、貴子ネェって言って声かけてくるのに~。」
今度は何か悔しそうに言った。
「あっ!・・・・・そっかぁ!」
急に貴子は目を見開いて、太一の真正面を捉えて言った。
「な・・なんだよ?」
太一は数cmしか離れていない貴子の顔にドギマギした。
「美智子ちゃんと何かあったのね?」
貴子は何か好奇心に満ちたキラキラした目をしている。
「・・・・・・無い。」
太一はあきれたように言って、つまみに箸を伸ばした。
「うそ~?」
更に言う貴子に、
「美智子は今も昔も妹みたいなもんだから。」
太一は貴子を見ることもなくさらっと言った。

「あっ、ごめんなさい、そろそろダンナが帰ってくる頃だから。」
二人をにこやかに見ていた小笠原先生が席を立ちながら言った。
「あ、そうですね。お疲れ様でした!」
「お疲れっす。」
「あなたたちも適当に帰りなさいよ。・・・・・明日は休みだからって羽目を外さないようにね。」
「は~い。」
「・・・・・さっきから二人同時に・・・気が合いますこと・・ウフフ。」
そう笑いながら五千円札を置いて帰って行った。

「どうする?俺たちも帰るか?」
「う~ん・・・・・じゃあ、もう一杯だけ。」
そう言って貴子は店員を呼ぶと同じアロエヨーグルトサワーを頼んだ。
「じゃあ、俺も角ハイボール、もう一杯。」
小笠原先生が余分に置いて行ってくれたので調子に乗った。
「太一、結構飲むよね~?」
「そっか?」
「向こうで飲み歩いてるんじゃないの?色々と・・・」
「色々って何だ?」
「お姉さんがいるお店とか・・・・・」
「無いな。」
「ほんとに?」
「無い無い、そんな暇も金も。」
太一はちょっと威張った様に言った。
「あれば行くんだ~。」
「・・・・・・・行かないかな、楽しくないし。」
「そうなの?」
「何で知りもしない女と飲んで楽しいんだか分からんよ、静香君。」
校長の真似をして言った。
「アハハハ、似てる~。」
貴子は大笑いした。
二人は取り留めのない話で笑いながら少しして飲み終えると、店を後にした。

「ごちそうさま、貴子ねえさん。」
「やめてよ~、年増みたいに言うの。」
貴子はちょっと拗ねたように言った。
「出世払いってことにしておくわよ。」
意地悪にそう付け加えた。
「はいはい、了解です。」
追加の勘定を払ってくれた貴子に感謝して、太一はまたマンションの前まで送っていくと言った。
そして貴子のマンション手前の神社の階段近くまで色々喋りながら楽しく歩いてきた。

「・・・・・じゃあ、またな。」
太一がそう言って貴子に背中を向けた時、
「・・・・・ねぇ太一。」
貴子は意を決したような声を出した。
「えっ?」
あまりの貴子の大声に太一もびっくりして振り返った。
「あの日・・・・・」
貴子は歩いてきて少しは酔いが覚めたのだろうが、顔は赤かった。
「・・・・・・・・・ん?」
なかなか次を言い出さない貴子が気になって境内に登る階段に腰を掛けた。
貴子はこの神社のすぐ横に立っているマンションの一室に一人暮らしをしている。
セキュリティ万全のマンションだからここまで送れば安心だと太一は前回もここまで送って帰った。

「何だよ?」
貴子も静かに太一の横に座った。
「いい年した大人が・・・」
こんな感じに太一はフフっとにやけた。
昔読んだ青春マンガみたいに思えた。
ちょっとして、
「私たちの病院騒動があった後・・・・・太一と珍しくここで逢ったわよね?」
「・・・・・・あぁ、そんなこともあったね。」
「あれは心配してきてくれたの?」
「・・・・・・あぁ。」
「・・・・・・やっぱり・・・・・・・」
「・・・・・・何だよ、恥ずかしいじゃん。」
太一は急におどけた様に笑って言った。
が、貴子は真顔で太一を見ている。
「あの頃・・・・・私たちって素直だったのかな?」
「素直?」
「素直。・・・・・・・そう、夢ばかり見ていないで・・・・・素直だったら・・・・・」
「夢?」
「うん。」
何か太一は訳が分からなくなってきた。
「・・・・・貴子は何が言いたいんだ。」
「あのね!」
貴子が太一の両手を掴んで自分の方を向かせる感じになった。
「は?」
もしかして告白されるのか?と思った瞬間、太一の鼓動は急に激しくなった。

「いや、そういうことは・・・俺から言う・・・」
「うさぎ!」
太一は男らしく自分からと思ったのに、遮られた。
「そう、うさぎなんだ・・・・・・・うさぎ?」
「うさぎ、覚えてる?」
太一は貴子とも関係してそうなうさぎを思い出そうとしたがまるで出て来ない。
「・・・・・いや、分かんない。」
「私も分からないの!」
貴子が自信満々に言った。
「は?」
太一は訳が分からなかった。
「でもいたの。実際に。」
「・・・・・・・・ん~、貴子さん・・・・・・・・」
「実は調べてみたのよ、昨日。」
「うさぎを?」
「そう、夢だったはずのうさぎを・・・」
これは見栄え以上にだいぶ酔いが回っているんだなと太一は思った。
「おっ、こんな時間だ。・・・・・じゃあ、今日の所はお開きと言うことで・・・・・・」
スマホの時刻を見ながら太一は言ったが、
「・・・・・ちょっと部屋に来て!」
と言うと、貴子は立ち上がり太一の手を引っ張った。
「え?・・・・・・・いきなり?」
一体どうしたいんだ?と思いながらも鼓動の高鳴りは益々大きくなっていく。
セキュリティBOXの前で手を離した貴子は、暗号を押してからカードキーを通した。
「いや・・・・・こんな時間に若い女の部屋に上がるわけには・・・・・」
「つべこべ言わない!」
「・・・はい。」
ある種、凄みのある貴子の言葉に呑まれて、太一は言う通りにエレベーターに乗り扉の鍵を開けて貴子に続いて部屋に入った。
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