再び君に出会うために

naomikoryo

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最終章

歓迎会

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「君は・・・小南教頭とは親戚か何かなのかい?」
「えっ?」
片手にビール瓶を持った校長先生が太一の隣に座り、そう言いながらお酌をしてくれた。
太一もお酌を返しながら、
「いえ、小南先生・・・教頭は中学2,3年の頃の担任でした。」
「そうか。」
「俺、結構・・・ていうかとんでもなく馬鹿だったので、高校受験の時はもの凄くお世話になったんです。」
「補習とかかね?」
「はい!夏休みも冬休みも・・・たまに休日も見ていただきました。」
「・・・昔から彼女は生徒思いだったんだね。」
「はい。」
「そうかい。」
校長は凄く穏やかな顔で太一を見つめている。

「何か?」
「いや・・・・・本当は・・・今時、教育実習生なんぞ面倒だから断ろうと思っていたんだが、彼女がえらく反対して。」
「そうですか・・・」
「君を絶対に迎え入れる。・・・・・私が責任を持って全ての面倒を見る・・・・・なんて、張り切っちゃってね。」
「・・・・・・・」
太一は酔っていたせいもあって涙が零れ始めた。
「そんなに・・・・・」
「それに・・・・・」
「・・・・・・?・・・・・・・・はい・・・・・・・・」
校長先生は太一の耳にそっと、
「初めてですよ・・・10日ぐらいしかいない実習生の歓迎会なんて・・・・・ねぇ?」
とニッコリ笑い席を立つと、他の先生たちの所へ行った。

(・・・・・確かに。・・・・・・・なんで歓迎会なんて?・・・・・・・)
言われて初めて気が付いたが、周りの先生方は最初の太一の自己紹介と少しの質問の後は、てんでに好きに集まって飲んでいるようだ。
美智子も、校長先生が隣に来るまではいたのだが、今は若手の先生方と集まって楽しそうにしている。
(物凄い歓迎ムードだったのは、小南教頭のおかげだったんだな・・・・・)
改めてそう感じたが、寝不足と先生たちのお酌相手でかなり酔いも回ってきていた。
その小南教頭も、何か用事があるとかで遅れて来るという話だった。

会が始まってから1時間ほどは経過しただろう。
太一も他の先生たちにお酌をして回り、また自分の席で落ち着いていた。
食べるものはそこそこ残ってはいるが、みんなもかなり飲んでいるようだ。
校長先生も半分寝かけている様子で、誰かがもう家まで送ってしまおうかなどと話している声が聞こえた。
(寝不足だし、まだ明日も学校だし・・・・・俺も帰ろうかな~?)

そんな中、
「ごめんなさ~い。・・・・・ちょっと送れちゃって!」
小南教頭が宴会場のふすまを開けて入ってきた。
パッと見、髪型も服装も、まるっきり昼間のイメージとは違う。
どこかの飲み屋のママさん風、という表現がまさにぴったりな感じである。
「あらあら校長先生もすっかり出来上がっちゃって~!」
「ん?・・・・・」
校長先生が小南教頭の声に気付き、一生懸命に何度も瞼をパチクリさせて睡魔を追い払おうとしている。
「し・・静香くん・・・・・・遅かったじゃないか~。」
更にそう叫びながら畳をゆっくりハイハイするように教頭へ近付いていく。
(え?・・・・・えっと・・・・・・・・校長?)
あっけに取られて見ていたが、他の先生方には当たり前の光景らしい。
「はいはい、校長先生、大丈夫ですか?」
と言いながら入り口側の先生たちは座ったまま少しテーブル寄りになって出来るだけ後ろを空けて校長が這う道を造っている。
太一は上座に座らされていたのでテーブルを挟んで真正面に教頭が立っているのが見え、更にその後ろに誰かがいるのが見えた。

「もう、聡くんったら・・・っていうか、さっきまで明後日の校外学習の打ち合わせをしていたので・・・・・」
そう言って後ろにいる女性に、
「ほら、入って。」
と言いながら、
「お世話になる道の駅『SARADA』の管理人である、小宮さんも連れて来ちゃいました~。」
とその女性を紹介した。
小宮貴子もすっと宴会場に足を入れると、慣れた感じで小南教頭の足元でくるまっている校長先生を優しく見つめると、
「今年もお世話になります。」
とお辞儀をした。
(た、貴子?!)
そして、辺りを見渡しながら、
「済みません、何だかまたお邪魔しちゃ・・・・・・って?」
太一と目が合った瞬間、声が止まってしまった。
太一は酔っていることもあり、ニヘラニヘラとして少し身体を揺らし気味に貴子を左目で見ていた。
本人は気付いていないが、右目はしばらく前から明いていなかった。

その後、小南教頭は校長先生といちゃいちゃモードで飲み始め、小宮貴子は他の先生方にお酌をしながら順繰りと移動していた。
太一はなるべく薄い焼酎の水割りに変えて美智子と話をしていた。
そこで、校長先生と小南教頭が15歳の年の差で去年結婚したばかりだということや、小南教頭は学校では旧姓を使うことにしていること。
更に、校長が小南教頭にメロメロで、先ほどの醜態(?)も酔っているからではなく、学校以外なら普段でも見られるということ。
話が変わって、半年前に高速インターから程近くの道の駅『SARADA』を小宮グループが統括し、その管理者に貴子がなったこと。
それまでは経理部長としてあまり表に出る事はなかったのだが、1年ぐらい前からこうして地元の学校や役所などにも顔を出すようになったこと。
「貴子ネェ、綺麗になったと思わない?」
美智子に聞かれて内心そうだなとも思ったが、
「ん~・・・・そうか?」
と言った。
実の所、年に数回は何かしらで見ている貴子を昔からずっと綺麗だと思っていたので、綺麗になった、という表現にはピンと来なかったのもある。
去年夏の里帰り中に行った小宮神社の夏祭りで、着物姿でアナウンス係をしている貴子を少し離れた境内で焼きそばを食べながら見とれていた。
いや、4年前の駅前総合施設のオープニングセレモニーで小宮グループの代表で挨拶をしていた貴子も綺麗だった。
高校生の時も、あの時も・・・・・・
(ん?・・・・・・・・観覧車?)
何故か観覧車に一緒に乗っている情景が浮かんだ。

「太一、久しぶり。」
急に耳元で、貴子の甘ったるい鼻にかかったような声がした。
「うっわ~!」
太一は飛び跳ねるように尻を浮かし一気に走馬灯から引き戻された。
いや、妄想なのかもしれない。
びっくりした顔で美智子がいる反対側を向くと貴子がくすくす笑っている。
「何ぼーっとしてたの?」
少し頬を赤らめてちょっと首を横にかしげて言った。
(か・・・かわいい~・・・・・)
「な・・・何も・・妄想なんて・・・・」
「うそうそ。」
そう言って太一の持っているグラスを見ながら、
「お酒が呑めるようになったんだね。」
とニッコリと笑った。
「そ・・そりゃあ・・・・・もう、ハタチ超えてんだし。」
「うんうん・・・・・しかも・・・・・先生になるって?」
「う~ん・・・・・・・それは・・・・・なれればね。」
「そう。」
太一はまだ中身の入っているビール瓶を取ると貴子の空いてるグラスに注いだ。
「おやおや・・・・・あんなにシャイで人見知りな太一君も、すっかり大人になったもんだネェ。」
とおどけるように言った。
「そうだねぇ・・・・・貴子もすっかりキャリアウーマンみたいだよなぁ。」
「あら、そう?」
二人はお互いにアハハハと笑った。
その後、これまで何年も会話をしていなかったことが嘘のように、保育園や小学校の頃の話で盛り上がった。

美智子も時々参加したが、基本は普段から仲が良いのであろう少し年上の先輩先生たちと、やはりそちらも盛り上がっていた。
そこでは、太一と貴子の関係を怪しむ話もあったようだが、美智子の、
「あぁ、あの二人は昔から似たもの同士で気の合うことが多かったから・・・・・でも、小さい頃からだから・・・きっと兄妹みたいなものだろうけど。」
という言葉で、
「そうだよな。これまで何にも浮いた噂もない、ひょっとするとレズさんじゃないか?と言われている小宮さんだもんな。」
「だよな・・・・・ないよなぁ。・・・・・・・・俺も。」
「は?・・・・・・・・・・」
なんて感じでお開きの時間の2時間が過ぎた。

会計を済ませた小南教頭が店から出て来た。
「ご馳走様でした!」
全員が一斉にお礼を言う。
「いいのよ。・・・じゃあ、明日もあるからみんな今日はこれでお開きにするのよ。」
「は~い!」
体格の良い先生二人に肩を担がれている校長が、右手を上げて一番元気に叫んだ。
そしてみんなが散り散りに歩き出すと、
「太一君は貴子さんをちゃんと送り届けてね。」
と太一の傍に来て言った。
貴子は、
「大丈夫ですよ~・・・静香センセ~・・・・・」
と太一の肩に捕まりながら言った。
「そんなに酔ったとこ、初めて見たわ~。」
と教頭が貴子をまじまじと見ながら言った。
「大丈夫です。ちゃんと届けますから。」
太一はそういうと、
「本当に、今日はありがとうございました。・・・・・それに、実習の受入も・・・」
言いかけて教頭が太一の唇を人差し指で押さえた。
「いいのよ。・・・・・その代わり、役目を思い出してね?」
と言った。
「役目?」
太一が聞き返すと、
「はいはい、遅くなるから行って。」
と言った。
「し・・・静香く~ん!・・・・・ぼ、ぼくたちも・・・・」
向こうで校長が叫んでいる。
「じゃあ、おやすみなさい。」
と挨拶をして太一も貴子を気遣いながら歩き始めた。

「お~い、美智子~。」
太一は美智子にも手伝ってもらおうと思って声を掛けたが、もうすでに10m以上先を歩いている美智子の集団には聞こえないようだ。
それなのに、太一の知らないところで美智子は時々振り返って二人の様子を見てニコニコしていた。
貴子は相変わらずよろよろと足元がおぼつかない様子だが、楽しそうに太一に話しかけている。
もう共通する話題が無くなってからは、やたらと太一の近況を尋ねてくるのだ。
「私は女子大の短大だったからわからないけど、共学って楽しい?」
とか、
「女子大生って可愛いのとか綺麗なのとかいっぱいいて、より取り見取りなんじゃない?」
とか、挙句には、
「大学生になってからは、女の子と付き合ったりしたの?」
なんて聞き方もしてきた。
その都度太一は、
「俺も男子だけが良かったなぁ・・・・・女って面倒だよな。」
とか、
「可愛い、綺麗って思ったことないなぁ。」
とか、
「恋愛しようにも、好きな女からは告白されたことないから・・・無いなぁ。」

「うわっ!それ、モテ男子のセリフじゃない!・・・・・引くわ~・・・・・」
「そんなこと言って、貴子だってどう見ても男が黙ってないだろうし。」
「だろうし?」
貴子が肩にもたれながらニヤッと太一を見つめる。
「いっぱい男いたりすんじゃねぇ~の?」
「フフッ・・・そう見える~?」
相変わらず不敵な笑みを浮かべている。
太一は何か悔しくなって、
「・・・んなわけないかぁ~・・・・・こんなメンドクサイの。」
してやったりと貴子を見返すと、急に貴子はしょぼんとした。
「・・・・・メンドクサイ・・・・・・」
ちょっと意地悪のつもりだったのが慌てて、
「嘘だよ、うっそ。・・・・・・貴子はいい女だよ。」
とフォローを入れた。
「本当に~?」
「ほんとほんと。」
「太一にもいい女?」
聞かれてドキッとしたが、
「うん、いい女。」
酔ってどうせ覚えてないだろうと思い言った。

「じゃあ、ようやく独り身じゃなくなるかな?」
と貴子が呟いたが、太一は自分の鼓動がうるさくて聞こえてなかった。
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