再び君に出会うために

naomikoryo

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本編

夢の中で

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さっきまでなんだかんだと質問責めにしていたが、太一がいつも通りに夕飯を食べているのを見て一同は安心した。
特に、いつもは居間でテレビを見ながら晩酌している父ちゃんでさえ、太一の横でじっと話を聞いている始末だ。
「本当に大丈夫だから。」
そう言ってようやく風呂に入るまで、家に着いてから3時間ほどかかった。
風呂の中でも色々と考えようとしてみたが、その墓場に行くまでの記憶が全く出て来ない。
いや、いつぐらいからの記憶が無いのかさえ記憶が無い、といった感じだ。
「マジでUFOに連れ去られたんかな?」
健の言葉を思い出しそんな言葉を呟いてしまった。

その夜、不思議な夢を見た。
あの小宮貴子と楽しく観覧車に乗ったり、テニスをしたりしているのだ。
そして、貴子が作ってきたお弁当をレジャーシートに座って食べている。
太一が好きだった、笑顔いっぱいの小学生の頃の貴子がそのまま成長した感じだった。
極めつけに、神社の境内で貴子とキスを・・・・・なんていうラブシーンまで登場した。
朝、目が覚めて、
「・・・昨日久しぶりに見たからかな?」
と鏡に向かって呟くとうっすら口元がにやけていることに気付いた。
「あれ~?・・・珍しく兄ちゃんが早起きしてる!」
顔を洗いに洗面所に来た健が太一を見つけて叫んだ。
「うるせ~な!・・・・・ちょっとジョギングしてくるわ。」
太一は台所にいる母ちゃんに聞こえるように大きな声で言って玄関を飛び出した。
「行って来るな、ジロー!」
「ワオワオワオ~ン」

気が付くと小宮神社の前まで走ってきていた。
「あれ?」
今まで何年も来ていなかった神社の階段のはずなのに、懐かしく感じない・・・
階段の先を見上げて、
「久しぶりに夢も見たからだな・・・・・」
そう呟いて走り出そうとしたとき、
「太一・・・」
後ろから声が聞こて振り向いた。
「お~貴子!・・・久しぶり。」
屈託の無い笑顔で言った。
「・・・そうね・・・・・」
貴子は静かに言った。
「昨日振りだな!大丈夫か体は?」
「えぇ・・・太一も?」
「俺は体だけが取り柄だから」
自慢げに言った。
「そうよね・・・」
貴子は片手にコンビニ袋を持っていた。

「あのさぁ・・・・・なんで俺たち一緒だったんだろうな?」
「・・・太一も分かんないんだ・・・」
「うん。」
「そう・・・・・」
貴子は相変わらず感情のない顔で、それでもじっと太一を見ている。
「まぁ、大丈夫ならいいんだ・・・・・じゃあな。」
太一は夢の中の貴子を思い出して照れくさくなってしまった。
「うん・・・・・」
貴子はそう言うと、すっと階段の方へ歩き出した。
太一は5段目ぐらいまで貴子の背中を見ていて、それから家の方へ向かって走り出した。

太一の足音を聞いて貴子は階段の途中で止まった。
「あれ?」
視界がぼやけて、足元が上手く見えないのだ。
「どうして?」
貴子の目からは、いつの間にか大粒の涙がこぼれだした。


その後しばらくは町中で、狐に化かされた、だの宇宙人に連れ去られた、だの騒ぎが続いたがいつしかそんな話も消えていった。
そして、貴子とはその後なんの接触もないまま、高校を卒業した太一は体育大学へ推薦で行くことなり、この町を後にしたのだった。
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