再び君に出会うために

naomikoryo

文字の大きさ
上 下
26 / 69
本編

キスの練習

しおりを挟む
二人は境内に座っていた。
あの日の夜、最初に二人が約束をした場所だ。
「とりあえず落ち着いて言いたい事を話しなよ。な?」
太一は貴子の腕を掴んで境内へ座らせたのだ。
それから10分ほど貴子は体育座りで顔を完全に両膝の上に隠すようにして泣いた。
そしてさっきまで軽く揺れていた肩が収まると、
「ねぇ?・・・・・・・・・キスして?」
顔を上げるなり言った。
貴子の前でその辺の小石を拾っては、自分で決めた5mほど離れた木の枝に投げ込んでいた太一はびっくりして、
「え?・・・・・はい?・・・・・・な、なんて?」
慌てふためいて聞いた。
「だって・・・・・どうせその時は来るんだし・・・・・」
「・・・・・」
太一は投げたポーズから固まったまま聞いている。
「急に・・その時じゃ・・・・・・・・気持ちの準備が出来なくて・・・・・・・・・逃げ出しちゃうかも・・・・・・・」
「・・・・・・そ・・・・そうなんだ・・・・・」
ようやく身体を元に戻し、首と肩を回してながら、
「た、貴子は・・・・・その・・・・・したこと・・あんか?」
「何を?」
「だから・・・・・・・き・・・・・キス?」
「・・・・・・・・・・ある。」
「・・・あっ・・・・あ・・・・・そう?」
「あんたもあるでしょ?」
「へ?・・・・・・・・ば~か・・・・・そ、そんなの・・・・・あるわけ・」
「あるの!」
「は?」
「一応あるでしょ?・・・・・私達・・・・・・・」
貴子の顔は真っ赤だ。
「あ~・・・・・あれか・・・・・・・・・・子供の頃・・・・・」
太一も真っ赤な顔になっている。
「バカネェ・・・・・・・気付いてないと思ってるの?」
「あ?・・・・あ~!・・・・・そ、そうかも・・・・・」
太一は空を見上げながら自然に声が大きくなった。
あの帰りの電車の中で先に起きた太一が、つい自分の肩に寄りかかっていた貴子の顔を楽な位置にずらしてやろうとした時にふっと唇が触れたアクシデントだ。
太一もびっくりしてすぐに寝た振りをしたが、貴子も少し前から寝た振りをしていたのだった。

「でも・・・・・」
「ん?」
「タマオさんを吸い出す時のように・・・・・激しいんでしょ?」
「あれは無理やりだったからみたいだよ。」
「そうなの?」
「うん・・・・・・・・・」
二人は見詰め合っている自分達が恥ずかしくなって、同時にパッと目を背けた。
「だから、別に、練習なんて・・・・・」
「練習じゃないけど・・・・・・」
貴子は小さく呟いた。

「でも、まぁ・・・・・いざとなって怖気づくのは案外オレかも知れないしな。」
太一に何かのスイッチが入った。
そして貴子に近付いていく。
「まさか?」
貴子は太一をジッとみたが、顔つきが変わっているわけではなさそうだ。
「太一だよね?」
「うん。」
太一は貴子の横に座りジッと貴子を見た。
「な、なによ!」
「何って、貴子が言い出したんだろ?」
太一が少しずつ顔を近づけている。
「な、何急にやる気になってるのよ!」
貴子は居たたまれなくなり立ち上がった。
「ハハハハハハハ!」
太一は腹をかかえて笑い出した。
「やっぱり無理じゃん!・・・・・貴子の意地っ張り~!」
太一は境内の床をバンバン叩きながら叫んだ。
「も~!なんだっていうのよ~!」
貴子はそんな太一を叩こうと飛び掛った。

丁度背中を床にゴロンとさせた太一の上に被さった格好になった。
太一はとっさに貴子を守るように胸で受け止め、まさに二人の顔は目の前にあった。
太一は思い切って、チュッとキスをして、
「ほ~ら、したぞ!・・・・・なぁ?」
とおどけて見せたのだが、貴子が、
「このまま吸ってしまって・・・・・」
と小さな声で言い、目を閉じた。
「・・・・・・・・・・・」
「貴子が、もう面倒なんだったら・・・」
太一も小さく囁いて、もう一度顔を近づけた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
さっきと違い、今度は慎重に、少しずつ、顔を近づける。
何となく触れたぐらいで、
「やっぱりやめた!」
貴子はパッと身体を起こし、目を開けた。
「へ?」
ちょっと口を尖らせまま太一も目を開けた。
「久しぶりの楽しいテニスがもったいないわ!」
貴子は完全に起き上がると制服の埃をパンパンと叩きながら言った。
「?」
「じゃあ、日曜日の10時頃に公園前で待ち合わせましょ。」
「あ、あぁ・・・うん。」
「お弁当作っていくから楽しみにしててね。」
貴子は鞄を持つと、
「じゃあ。」
と太一にニッコリ笑いかけ、家のほうへ歩いて行った。
「ありがとう・・・太一。」
小さく聞き取れないほど小さく呟いた。

太一は少しボーっとしたままでいたが、色々思い出しまた顔を赤くした。
やはり立ち上がると制服の埃をバンバン叩き落として、
「オレもやるときはやるもんだなぁ・・・・・」
と呟いて神社を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

処理中です...