再び君に出会うために

naomikoryo

文字の大きさ
上 下
25 / 69
本編

貴子の想い

しおりを挟む
「えっ、何で?」
太一はあえてもう一度尋ねた。
「何でって・・・・・・・・・・」
「?」
太一はあからさまに首をかしげた。
「・・・・・・じゃあ、逆に・・・・・どうして一緒に帰るの?」
「それは・・・・・・・・ほら!これからの事、考えないと。」
「・・・太一が決めればいいよ。」
「そんな・・・・・」
「太一がこの日のこの時間って決めればいいよ。本当に。」
「そう・・・か?」
「うん。」
貴子は笑顔で答えているが、どこか寂しげだ。

あの保健室の一件以来、3日間ろくに会わなかった。
というよりは、貴子は避けるように放課後になるとそそくさと帰ってしまっていた。
結局、あのセンセイは、昨日付けで学校を辞めてしまった。
あの後、職員室すらも忘れて保健室のベッドに下着姿のままぼーっとしていた所を、翌朝に来た用務員さんに発見されすぐに病院に連れて行かれたそうだ
幸い、警察沙汰な案件ではないと言うことで大事にはならなかったが、どうも記憶が無さ過ぎて手に負えなかったようだ。
まぁ、保健師の資格を取ったのも本人ではないため、保健の先生でいる必要な知識が全くなかったようだから仕方がない。
タマオが言うには、それこそスタイルが良いだけで。センスも頭も悪いようだ。
ちなみに『ハヤタマオを探せ』から始まっていたので、今太一の体に入っている新しい個体はタマオと呼ぶことに決まっていた。
あの日の夜は太一の中でスサとタマオがペチャクチャとうるさかったが、翌朝になるとどうやら合体したらしく、どちらかしか出て来れなくなっていた。
主導権はスサが持っているらしいので基本はスサらしいが。

「・・・もう・・・いつだって・・・実行出来るんでしょ?」
「いや・・・・・あと数日は回復が必要らしい。」
(うそつき・・・)
センセイの記憶を飛ばすためにかなりのエネルギーを消耗した、ことに太一はしたいようだ。
「そう・・・・・」
少し生暖かい風が貴子の髪を揺らした。
校庭で陸上部と野球部とサッカー部が、新入部員の大きな声援と共に掛け声を掛け合いながら練習に励んでいる。
貴子は金網越しにその様子を眺めながら、
「・・・じゃあ・・・・・明後日の日曜日に、あの運動公園へ行って久しぶりにテニスしない?」
「は?・・・・・あ、あぁ・・・・・いいよ。」
「彼等には休んでもらって、二人で・・・・・」
「・・・分かった。」
「その時に・・・・・いつって言ってくれれば・・・・・いい。」
「あぁ。」
実は太一は、貴子が変に避けているので、協力してくれる気が無くなったのかと心配していた。
なのでかなりホッとした声で、
「じゃあ、今日は一緒に帰ろう?・・・・・送って行くよ。」
と言った。
「・・・うん・・・・・」
貴子はそんな太一の気持ちが分かってしまう自分が嫌だったが、とりあえず日曜日は楽しい一日にしよう、と言い聞かせた。
そして屋上を降りた二人は一度も手を繋ぐこともなく、貴子の家の神社下の階段に着いた。

学校を出てしばらくは、貴子も太一の話に楽し気に返答していたがもう10分前ぐらいからは頷くだけで無言だった。
「じゃあ、明後日な。」
太一は気にすることなく去ろうとしたが、貴子が俯いたまま何も反応しない。
「じゃあな?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・どうした?」
少し歩き始めていた太一は戻って貴子の顔を覗こうとした。
が、貴子は顔をそむけた。
「何でもない!」
そう叫ぶと慌てて階段を駆け上がって行った。
「どうしたんだよ?」
太一は貴子の後を追った。
中腹ぐらいですぐに追いついたものの、何か懸命に走っている貴子のすぐ後ろを軽く一段飛ばしで上までついて行った。
「もう、アホ太一!」
上りきって3歩ほど歩いたところで貴子が振り返った。
その目には大粒の涙が溢れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

予言

側溝
SF
いろいろな話を書いていると、何個かは実際に起こってたり、近い未来に起こるんじゃないかと思う時がある。 そんな作者の作品兼予言10遍をここに書き記しておこうと思う。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...