再び君に出会うために

naomikoryo

文字の大きさ
上 下
19 / 69
本編

果報者

しおりを挟む
月曜日の中学校舎は朝から大騒ぎだった。
特に3年生の教室では、あの『小宮貴子』に彼氏が出来た、しかも1学年下のあの『神山太一』だと

あちこちから情報が飛び交った。
太一も3時限目が終わった休み時間から、クラスメートからの質問攻めにあった。
ただ、男子連中はやっかみに似た軽い冷やかしのようなもので、あっという間に、
「いいなぁ~、年上の姉さん女房かぁ~」
「あっという間に大人の階段を突っ走るんだろうなぁ~」
と言いながら、勝手にテンション駄々下がり状態になっていった。
この日、ショックで早退した男子生徒は10人以上いたとかいないとか。
その点女子達は、
「あんな大人っぽい綺麗な人が何でこんなのを?」
「何か弱みを握られてるんじゃないかしら?」
「これのどこに魅力を?」
と、日頃アホな事ばかり言ったりしたりしている太一に疑問しか持てずにいた。
「・・・美智子は知ってるのかしら?」
と、やはり昔からの幼馴染な近藤静香がポツリと言ったのを気にはしたが、太一はもう腹をくくった

いた。
もし美智子が聞いてきても、例の生き返りの話はしないでおこうと考えていた。
ただ美智子から話しかけられることも2学年になってクラスが変わってからはほとんど無かった。
これについても、別段美智子から何か話をしてくる事は無いと思った。
それに、おそらく夕べ健に言ったことを明日香経由で聞くだろうと。
昨日、手を繋いだまま神社の階段まで送りながら大体の口裏は合わせたので、その内容になるが。

太一からどうのこうのと言うのは今までからしても不自然だから、貴子からモーションをかけた、と

いうことにした。
二人とも保育園の頃からの仲だから、小さい頃の約束を忘れずにいた貴子が、中学卒業を前に気持ち

にけじめを付ける為に言った告白めいたものに太一が答えたと。
何なら、嫌いなわけは無いのだから少し付き合ってみなさい、と言われ付き合い始めたぐらいでもい

いわよ、というのを太一は了承した。
少し情けない気もするが、実際その手の事は考えるだけ無駄な太一なので、非常にありがたい提案だ

った。
ただあの時・・・
「あったりまえだろ!嫌いなわけねぇじゃん・・・・・っていうか、むしろ俺も好きだから、でいい

んじゃねぇ?」
と言った言葉に、
「い、いいのよ!・・・・・・・それだと・・・・・・・・・・・あとで・・・・・・・」
貴子がぼそぼそ言って、そうではない方が良いと言うのだ。
(別に俺から告白した、でもいいんだけどな・・・・・)
そうは思ったがそんな貴子の様子から、それ以上口にする事はしなかった。

太一は結局、昼休みも放課後になってもあちこちからの質問攻めに合う事となった。
ただ、上級生でも太一が手伝っている運動部の人たちはかなり穏やかムードで、やはりただの興味本

位でちょっと聞きたいだけのようだった。
太一も答えてるうちに、やはり『自分も好きだから』というワードが抑えきれずに言ってしまい、
「どういうとこが好きなんだ?」
という質問もかなりされてしまった。
最初は悩みこそしたが、結局、
「気が強いけど、基本は甘ったれなとこ。」
とか、
「姉御肌のくせに寂しがりやなとこ。」
と、本当に昔から思っていることを言うことにした。

ようやく放課後二人になれたのはもう下校10分前だった。
「・・・今日はもう帰りましょ。」
という貴子に、
「そうだな・・・・・・・・送りながら、ちょっとだけ探索しておく?」
「・・・・・・いや、あんた・・太一も疲れてるみたいだし・・・・・・」
「・・・とりあえず、図書委員も電気消したくてソワソワしてるみたいだから行こっか。」
「そうね。」
二人で校舎を出て歩き始めると、やはりあちこちの運動部の連中がこちらを見てこそこそ言っている


すれ違う見知らぬ生徒達の視線も刺さっていた。
「あ~~、みんなハイキックしてしまいたい!」
貴子がイラっとした顔で呟いたので、
「付き合うことにしてしまおうって言ったのは貴子だろ?」
「だって、こんなに面倒だなんて・・・・・」
「まぁ、すぐほとぼりも覚めるよ。」
「そうだけど・・・・・」
「こうして二人でいるのも、みんなにも当たり前に見えるようになるよ。」
太一が屈託の無い笑顔で言った。
「それとも・・・・・・・貴子はほんとは嫌だった?」
「そ、そんなわけないじゃん!」
「じゃあ、いいじゃん。」
「・・・・・・・・・相変わらずの超プラス思考ねぇ~。」
軽く溜息をつきながら言った。
「溜息をつくと、幸せが逃げちゃうよ。」
太一がふっと言ったので、
「何か見たの?」
「うん、夕べ、何たらサスペンスってやつ!・・・・・・・・・なんか、こう、最後に必ず犯人は崖

に来るやつ。」
ニコニコ顔で話し始めた。
「あ~、あの手ね。」
「こう、男と女の欲望がぐちゃぐちゃに入り乱れて・・・・・」
「それは?」
「健が言ってた!」
「全く・・・・・・・・そんなの見たってあんたには大して分からないでしょう?」
「甘いな、貴子!」
「えっ?」
「俺だって、数日だけど貴子とこうしていたことで成長したのさ。」
「ふ~ん。」
「クラスの連中は今後俺の事を『恋愛マスター』と呼ぶらしいぜ。」
「・・・・・・・・・・」
「それに、どうやら俺はこの街で一番の果報者らしいぜ。」
「果報者って・・・・・・・・意味知ってる?」
「ヒーローってことだろ?」
「・・幸せ者ってこと・・・・・・タナボタ系の・・・・・」
「いいじゃん!」
太一は嬉しそうに言った。
「それってどうして言われてるか・・・・・・・まぁ・・・・・いいわね。」
貴子は面倒になった。
「貴子と付き合ってるのが幸せ者ってことなんかな?」
「そうそう、そういう言われ方よ?」
「それでいいじゃん!」
「えっ?」
「こんな綺麗な貴子と手を繋いだり、おにぎり作ってもらったり・・・・・・幸せなんじゃね?」
「は?・・なんで・・・・そんな・・・・・ストレートな・・・・・・・」
貴子の頬が少し赤く染まった。
それで、困ってしまって、ちょっと眉間にしわが寄ってしまった。
すると更に、
「ほらほら、そんな恐い顔しない・・・折角の綺麗な顔が台無しだよ。」
軽く手を繋いできてそう言った。
「・・・・・あんた・・・・・・それもドラマの影響でしょう?」
貴子は繋がれた手をギュッと握り締めながら、真っ赤な顔で太一を睨みつけて言った。
「うん。」
太一の目は夕日が映り込み、きらきら輝いているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...