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本編
うさぎ
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「ほらほら太一~!!うさぎだよ、うさぎ!!」
二人は小さな『ふれあい広場』という名の小動物が20匹ほど放されている柵の中にいた。
貴子はテンションマックス状態であちこちのうさぎやモルモットを捕まえては抱きしめて、撫でて、近くにいる小さな子供達にも触らせている。
昼の弁当の時、検索はもう夕方にしてそれまでは折角だから遊んでいよう、ということになった。
そこで貴子が真っ先に言い出したのがこの広場だ。
「はいはい、可愛いね!!」
太一はちょっと付いていけない、といった感じで離れて見ていた。
それでも、太一もまんざらな訳ではなく、自分に近付いてくるモルモットを興味深そうに眺めていた。
しばらくすると貴子の傍にいた年長さんぐらいの女の子が、貴子に問いかけた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。どうしてあのウサギさんはピョンピョン跳ねていないの?」
「え?」
貴子はその少女が指差した5mぐらい離れたところに1匹だけいるうさぎに気付いた。
じっと見ていると、確かに動くときに右足を引きずるようにゆっくり歩いているように見える。
「ホントだね。」
貴子は抱きかかえていたうさぎをそっとその少女に抱かせると、立ち上がってそのうさぎに近付いた。
人の気配を感じたからか、うさぎはじっとうずくまるように動かなくなった。
「よしよし、どうしたのかな?」
貴子が話し掛けると、
「その子うさぎは交通事故で足をやられていたのを保護したんだよ。」
ちょっと離れたところにいたこの公園の職員さんであろう人が貴子に近付きながら言った。
「しかも、一緒にいたお母さんうさぎはそのまま死んでしまったんだよ。」
「そんな・・・・・」
貴子は切なそうな顔をした。
確かに見ればまだ子うさぎなのだろう大きさではある。
周りの同じくらいのうさぎ達が丸々と太っている中、かなり痩せて体が小さくも見える。
職員さんは寝床のわらを片付けると、
「もう足は治らないだろうけど、うまく餌を食べて育ってくれれば良いけど・・・・・」
と呟くように言ってあちらの方へ歩いて行った。
その子うさぎの背中を静かに撫でていた貴子が少し涙ぐんだようにして太一を見た。
太一は、
「そこでうさぎの餌を買ってくるよ。」
と言って小走りで柵の外側にある餌用の自販機へ向かった。
そして餌を1袋買って貴子の元へ駆け寄った。
「ほら。」
太一は割とぶっきらぼうに袋を差し出したのだが、貴子はそれを大事に受け取るとすぐに袋の中からにんじんの切れ端を一つ取り出した。
「ありがとう、太一・・・」
貴子の声は静かで優しく震えていた。
太一は照れたように柵の外のベンチに座った。
明らかに泣いている貴子の傍にはいない方がいいと思ったのだ。
(俺に見られたくないだろう・・・・・)
太一には、貴子の泣き顔など一度も見た記憶が無かったのだ。
美智子の家の葬式の時も、太一の家はどちらかと言えば身内みたいなもので、特に太一は裏方で一生懸命手伝っていた。
そのため、本来の葬式自体には出ておらず、お客さんの送迎やらお寺さんの送り迎えやら役場の届出やらと父と一緒に走り回っていた。
恐らくそこでは貴子もいて、涙を流していたに違いないのだが、その姿を見ることも無かったのだ。
次第に貴子の周りに子供達が集まってきて、貴子は子供達に少しずつ餌を渡しながら気持ちを落ち着かせているようだ。
(貴子の泣き顔は見たくないな・・・・・)
太一はそう思ってその子うさぎを見て、ハッと気が付いた。
(あれって、治せるんじゃないか?)
(そうだよ!!死んだカナヘビを生き返らせれるくらいだから、怪我ぐらい、もっと簡単だよな!!)
太一は早速スサノオを起こす事にした。
「おい!ちょっと起きろよ!!」
(・・・・・・・・・・・)
散々好き勝手に身体を使い始めたスサに対して、太一は最近ではこんな対応だった。
「なぁ、起きろってば!!」
(ん~~~~~)
「ちょっと、聞きたいことがあんだよ!」
(ん~~~~~・・・・・・・・・なんだい?・・・・・・・・)
「あれ見てくれよ。」
(あれ?・・・・・・・・・・・・・ワタ?)
「・・・いや、貴子だけど・・・・・・・そうじゃなくて、その足元にいる・・・・・・」
(あれは・・・・・・・う・・・・・なぎ、だっけ?)
「おしい!!うさぎな。で、そのうさぎが足を怪我してるみたいなんだけど・・・治せるよな?」
(ん~、すっきりしたつっこみ!!・・・・・・うん、まぁ、生きてるんなら簡単じゃないかな。)
「そうか!!」
(多分、丸1日動けなくなるぐらいで済むんじゃないかな。)
「・・・・・・そりゃまずいな・・・・・・」
まさか、ここで動けなくなったんじゃ帰るに帰れない。
「あっ、貴子に協力してもらえばいいんじゃないか?確か、膨張・・・」
(増幅ね。そうだね、それなら今日はもう力が使えないぐらいで済むかも。)
「済むかもって・・・・・済まないかももある?」
(大丈夫じゃない!!その時は僕が太一になって帰ればいいんだから。)
「俺の力が無くなるの?・・・・・いや、お前がやってくれれば・・・・・」
(いいの?)
「え?」
(いいならそれでもいいけど?)
「・・・・・なんか怖い・・・・・」
(子供達が見てる前だけど、あんなことやこんなこともしちゃおうかな~)
「い、いや、いい。俺がやる!!・・・・・・・もしもの時は、ちゃんと、よ・ろ・し・く!!」
(はいはい)
「・・・・・・・やばい・・・・・・・それも不安・・・・・・・」
それでも太一は思い立って腰を上げた。
「あっちは起こさなくていいんか?」
(ワタのこと?・・・大丈夫、あっちはあくまでも伝導だから僕達に触れてさえいれば)
「そっか。」
太一は貴子の隣まで来て同じようにしゃがんだ。
ちょうど餌袋も空になり、貴子もすでに涙を拭いた後のようだ。
「なぁ、貴子。」
「ん?」
「実はさ・・・・・」
「ん?」
「ん~、何ていうかさ・・・・・・」
「・・・・・・」
「信じないかもしれないけどさ・・・・・・」
「・・・・・・」
「実は・・・」
「何?何なの?何が言いたいの!?」
(貴子が逆切れた!)
「あ・・・・・あのな・・・・・俺たち、この子うさぎを治せるんだよ・・・」
「そ、そうなの!?」
貴子は太一の両肩をがばっと掴んでもの凄く目を見開いている。
「あ、あぁ・・・・・・こいつらの力で・・・・・・」
「そんな力も持っているの!?・・・・・・あっ・・・・・・・神様だもんね・・・・・・・昔のとはいえ・・・・・・・」
(ごめん、宇宙人だけど・・・・・・)
「しっ!・・・・・・・・あ、いや、そうなんだよ、そう!」
「うんうん、で、どうすればいいの?」
「実は前に1度やった事があるんだけど・・・」
「うんうん・・・」
「その物体に触れて力を流し込む感じで・・・」
「うんうん・・・」
「ただ、光が発生するから、周りに人がいたらやばいな。」
「そうね、見られないように隠しながらとかね。」
「あと、エネルギーを大量に使うだろうから、もしかすると俺はすぐには動けなくなるかもしれない。」
「おぶって帰ってあげるわよ!」
「いや、そんときはえ~、スサ?に代わって任せることになると思う。」
「あ~・・・・・・・私も?」
「いや、貴子のほうはそんなに使う事は無いらしいから大丈夫かと・・・」
「それも、スサノオ様が言ってるの?」
「うん・・・・・」
「・・・・・・・・・・・まぁ、分かんないものはしょうがないわ!!この子が治るんならそれぐらい!!」
「今のうちに言っておくけど・・・」
太一も肩を掴まれている貴子の右手を軽くポンと触った。
「な、何?」
「俺がなんかしたらごめんな!」
そう言って太一はその右手を子うさぎの背中にそっと当てた。
「え?なんかって、何?・・・・・・も、もう!!」
貴子は慌てながら周りをキョロキョロしたが、うまい具合に子供達はみんな元気なうさぎを追いかけて柵のあっちの方へ集まっていた。
「しっ!!・・・・・・・・そのまま掴んでて。」
子うさぎを真ん中にして正面向きで貴子は太一の両肩を掴んだままだった。
「あっ・・・・・」
太一の手が青白く光り始めた。
「蛍みたい・・・・・」
そして子うさぎの身体がパッと一瞬明るく光った。
「ふう~」
太一は一度両膝を地面につけて、それから前に傾いたものの頑張って後ろ側に倒れ込んだ。
「太一!!」
貴子の大きな声で子うさぎは驚いて、勢い良くピョンピョン跳ねてその場から逃げて行った。
「跳ねてる・・・・・・・元気に跳ねてる!!」
貴子はすぐに太一の身体を起こし、背中に付いた藁やらを叩き落としている。
「太一、治ったよ!!ちゃんと跳ねてるよ!!」
嬉しさのあまり上半身だけ起き上がった太一に抱きついた。
「そう、良かったね!」
太一はにっこり微笑みながら、そっと貴子の太ももを撫でた。
二人は小さな『ふれあい広場』という名の小動物が20匹ほど放されている柵の中にいた。
貴子はテンションマックス状態であちこちのうさぎやモルモットを捕まえては抱きしめて、撫でて、近くにいる小さな子供達にも触らせている。
昼の弁当の時、検索はもう夕方にしてそれまでは折角だから遊んでいよう、ということになった。
そこで貴子が真っ先に言い出したのがこの広場だ。
「はいはい、可愛いね!!」
太一はちょっと付いていけない、といった感じで離れて見ていた。
それでも、太一もまんざらな訳ではなく、自分に近付いてくるモルモットを興味深そうに眺めていた。
しばらくすると貴子の傍にいた年長さんぐらいの女の子が、貴子に問いかけた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。どうしてあのウサギさんはピョンピョン跳ねていないの?」
「え?」
貴子はその少女が指差した5mぐらい離れたところに1匹だけいるうさぎに気付いた。
じっと見ていると、確かに動くときに右足を引きずるようにゆっくり歩いているように見える。
「ホントだね。」
貴子は抱きかかえていたうさぎをそっとその少女に抱かせると、立ち上がってそのうさぎに近付いた。
人の気配を感じたからか、うさぎはじっとうずくまるように動かなくなった。
「よしよし、どうしたのかな?」
貴子が話し掛けると、
「その子うさぎは交通事故で足をやられていたのを保護したんだよ。」
ちょっと離れたところにいたこの公園の職員さんであろう人が貴子に近付きながら言った。
「しかも、一緒にいたお母さんうさぎはそのまま死んでしまったんだよ。」
「そんな・・・・・」
貴子は切なそうな顔をした。
確かに見ればまだ子うさぎなのだろう大きさではある。
周りの同じくらいのうさぎ達が丸々と太っている中、かなり痩せて体が小さくも見える。
職員さんは寝床のわらを片付けると、
「もう足は治らないだろうけど、うまく餌を食べて育ってくれれば良いけど・・・・・」
と呟くように言ってあちらの方へ歩いて行った。
その子うさぎの背中を静かに撫でていた貴子が少し涙ぐんだようにして太一を見た。
太一は、
「そこでうさぎの餌を買ってくるよ。」
と言って小走りで柵の外側にある餌用の自販機へ向かった。
そして餌を1袋買って貴子の元へ駆け寄った。
「ほら。」
太一は割とぶっきらぼうに袋を差し出したのだが、貴子はそれを大事に受け取るとすぐに袋の中からにんじんの切れ端を一つ取り出した。
「ありがとう、太一・・・」
貴子の声は静かで優しく震えていた。
太一は照れたように柵の外のベンチに座った。
明らかに泣いている貴子の傍にはいない方がいいと思ったのだ。
(俺に見られたくないだろう・・・・・)
太一には、貴子の泣き顔など一度も見た記憶が無かったのだ。
美智子の家の葬式の時も、太一の家はどちらかと言えば身内みたいなもので、特に太一は裏方で一生懸命手伝っていた。
そのため、本来の葬式自体には出ておらず、お客さんの送迎やらお寺さんの送り迎えやら役場の届出やらと父と一緒に走り回っていた。
恐らくそこでは貴子もいて、涙を流していたに違いないのだが、その姿を見ることも無かったのだ。
次第に貴子の周りに子供達が集まってきて、貴子は子供達に少しずつ餌を渡しながら気持ちを落ち着かせているようだ。
(貴子の泣き顔は見たくないな・・・・・)
太一はそう思ってその子うさぎを見て、ハッと気が付いた。
(あれって、治せるんじゃないか?)
(そうだよ!!死んだカナヘビを生き返らせれるくらいだから、怪我ぐらい、もっと簡単だよな!!)
太一は早速スサノオを起こす事にした。
「おい!ちょっと起きろよ!!」
(・・・・・・・・・・・)
散々好き勝手に身体を使い始めたスサに対して、太一は最近ではこんな対応だった。
「なぁ、起きろってば!!」
(ん~~~~~)
「ちょっと、聞きたいことがあんだよ!」
(ん~~~~~・・・・・・・・・なんだい?・・・・・・・・)
「あれ見てくれよ。」
(あれ?・・・・・・・・・・・・・ワタ?)
「・・・いや、貴子だけど・・・・・・・そうじゃなくて、その足元にいる・・・・・・」
(あれは・・・・・・・う・・・・・なぎ、だっけ?)
「おしい!!うさぎな。で、そのうさぎが足を怪我してるみたいなんだけど・・・治せるよな?」
(ん~、すっきりしたつっこみ!!・・・・・・うん、まぁ、生きてるんなら簡単じゃないかな。)
「そうか!!」
(多分、丸1日動けなくなるぐらいで済むんじゃないかな。)
「・・・・・・そりゃまずいな・・・・・・」
まさか、ここで動けなくなったんじゃ帰るに帰れない。
「あっ、貴子に協力してもらえばいいんじゃないか?確か、膨張・・・」
(増幅ね。そうだね、それなら今日はもう力が使えないぐらいで済むかも。)
「済むかもって・・・・・済まないかももある?」
(大丈夫じゃない!!その時は僕が太一になって帰ればいいんだから。)
「俺の力が無くなるの?・・・・・いや、お前がやってくれれば・・・・・」
(いいの?)
「え?」
(いいならそれでもいいけど?)
「・・・・・なんか怖い・・・・・」
(子供達が見てる前だけど、あんなことやこんなこともしちゃおうかな~)
「い、いや、いい。俺がやる!!・・・・・・・もしもの時は、ちゃんと、よ・ろ・し・く!!」
(はいはい)
「・・・・・・・やばい・・・・・・・それも不安・・・・・・・」
それでも太一は思い立って腰を上げた。
「あっちは起こさなくていいんか?」
(ワタのこと?・・・大丈夫、あっちはあくまでも伝導だから僕達に触れてさえいれば)
「そっか。」
太一は貴子の隣まで来て同じようにしゃがんだ。
ちょうど餌袋も空になり、貴子もすでに涙を拭いた後のようだ。
「なぁ、貴子。」
「ん?」
「実はさ・・・・・」
「ん?」
「ん~、何ていうかさ・・・・・・」
「・・・・・・」
「信じないかもしれないけどさ・・・・・・」
「・・・・・・」
「実は・・・」
「何?何なの?何が言いたいの!?」
(貴子が逆切れた!)
「あ・・・・・あのな・・・・・俺たち、この子うさぎを治せるんだよ・・・」
「そ、そうなの!?」
貴子は太一の両肩をがばっと掴んでもの凄く目を見開いている。
「あ、あぁ・・・・・・こいつらの力で・・・・・・」
「そんな力も持っているの!?・・・・・・あっ・・・・・・・神様だもんね・・・・・・・昔のとはいえ・・・・・・・」
(ごめん、宇宙人だけど・・・・・・)
「しっ!・・・・・・・・あ、いや、そうなんだよ、そう!」
「うんうん、で、どうすればいいの?」
「実は前に1度やった事があるんだけど・・・」
「うんうん・・・」
「その物体に触れて力を流し込む感じで・・・」
「うんうん・・・」
「ただ、光が発生するから、周りに人がいたらやばいな。」
「そうね、見られないように隠しながらとかね。」
「あと、エネルギーを大量に使うだろうから、もしかすると俺はすぐには動けなくなるかもしれない。」
「おぶって帰ってあげるわよ!」
「いや、そんときはえ~、スサ?に代わって任せることになると思う。」
「あ~・・・・・・・私も?」
「いや、貴子のほうはそんなに使う事は無いらしいから大丈夫かと・・・」
「それも、スサノオ様が言ってるの?」
「うん・・・・・」
「・・・・・・・・・・・まぁ、分かんないものはしょうがないわ!!この子が治るんならそれぐらい!!」
「今のうちに言っておくけど・・・」
太一も肩を掴まれている貴子の右手を軽くポンと触った。
「な、何?」
「俺がなんかしたらごめんな!」
そう言って太一はその右手を子うさぎの背中にそっと当てた。
「え?なんかって、何?・・・・・・も、もう!!」
貴子は慌てながら周りをキョロキョロしたが、うまい具合に子供達はみんな元気なうさぎを追いかけて柵のあっちの方へ集まっていた。
「しっ!!・・・・・・・・そのまま掴んでて。」
子うさぎを真ん中にして正面向きで貴子は太一の両肩を掴んだままだった。
「あっ・・・・・」
太一の手が青白く光り始めた。
「蛍みたい・・・・・」
そして子うさぎの身体がパッと一瞬明るく光った。
「ふう~」
太一は一度両膝を地面につけて、それから前に傾いたものの頑張って後ろ側に倒れ込んだ。
「太一!!」
貴子の大きな声で子うさぎは驚いて、勢い良くピョンピョン跳ねてその場から逃げて行った。
「跳ねてる・・・・・・・元気に跳ねてる!!」
貴子はすぐに太一の身体を起こし、背中に付いた藁やらを叩き落としている。
「太一、治ったよ!!ちゃんと跳ねてるよ!!」
嬉しさのあまり上半身だけ起き上がった太一に抱きついた。
「そう、良かったね!」
太一はにっこり微笑みながら、そっと貴子の太ももを撫でた。
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