再び君に出会うために

naomikoryo

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本編

初めてのお代わり

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この三日間は平日だったため、学校が終わってからニ時間ぐらいの探索作業だった。
時間もないこと、あまり人に知られず手を繋いでいられること、人の往来が多いことから、とりあえず駅前のカラオケボックスを選んだ。
最初にドリンクを取って来てしまえば、あとは貴子の門限の午後六時半に間に合うように部屋でじっとしていればよかったからだ。
しかも、ニ日目に気付いたが、いっそスサノオとオオワタツミに意識を渡して自分は寝てしまっていれば気恥ずかしいこともない。
ただ、寝ているうちにこの二人が何をするかわからないので貴子は逆にドキドキしていた。
そして、力を使うことで、二人とも家に帰るとかなりの空腹に襲われた。

太一はこれまでと変わりもなく、ちょっと量が増えた程度だったが貴子はそうはいかなかった。
そして初日は、今までした事のない『ご飯のお代わり』というのに苦労した
「あ~・・今日は結構運動したから・・・・ちょ、ちょっと・・・・・も、もう少し、御飯を頂こうかしら・・・」
そう言って、お茶碗を持って炊飯器に向かった。
父と母は、
(何?・・・・・一体、何があったのかしら?)
(し、思春期ってやつじゃないのか?)
(あ~、好きな人でも出来て・・・)
(いや、それなら逆に食べなくなるんじゃ??)
(今時は大食い女子っていうのもモテルらしいから・・・)
(いやいや、男なんてダメだ!!)
(そんな事言ったって・・・・・)
(い~や、許さん!!)
(そんなのわからないじゃない)
(まぁ、そうだが・・・・・)
貴子には見えないジェスチャー付きの暗黙の会話をした。
結局それでも空腹が満たされずにプリンをニ個と、こそっと棚からせんべいを数枚持って部屋に行った。
その様子を母はじっと見ていた。

翌日の夕食になると、母が気を利かせて買ってきた、ひと回り大きな桜の絵柄の御飯茶碗になっていた。
「このお茶碗、可愛いからつい買っちゃったのよ~。」
御飯をたっぷり入れたその茶碗を貴子に渡した。
「素敵ね!ありがとうお母さん。」
と貴子もちょっと大袈裟に喜んで受け取った。
それでも、お代わりもした。

三日目はハンバーグだった。
今まではワンプレートの皿に、150gぐらいのハンバーグとそれに目玉焼きが乗っけられサラダが添えられていたが、その日は300gほどのハンバーグに目玉焼きとチーズが乗っけられ、サラダは別盛りだった。
「うわ~おいしそう!!」
満面の笑みで喜ぶ貴子の姿を母は嬉しそうに見ていたが、父はとうとう聞くことにした。
「なぁ、貴子?」
「な~に、おとうさん?」
「最近・・・・・ほら・・・た、沢山食べるようになったんだ?」
「あぁ・・・・・・・・最近・・・・・・・結構・・・・・・走るから・・・・・」
貴子は食べて、噛んで、飲み込んで、喋って、食べて、を繰り返した。
「そ、そうか・・・・・」
「うん・・・・・だから・・・・・まぁ、あと少しの話よ・・・・・・」
「そっか・・・・・そうだな。・・・・・・このまま食べ続けると太るだけだからな。」
「うん・・・・・」
「いや・・・・・まぁ、お父さん的には、女の子は少しぐらいぷっくりしてても可愛いしな!」
箸が止まりそうになった貴子をフォローしたようだ。
「そお?」
「うんうん、貴子は背も高いから、もう少しぐらい太っても良いんじゃないかと思ってたよ。」
「そお、ありがと。」
相変わらず貴子は箸を止めることもなく食べている。
ただ、そう言われて父はとても嬉しそうだ。
「おぉ母さん、もう一本貰おうかな?」
ついには調子に乗って空になったビール瓶を振って見せた。
「はいはい、明日は土曜日ですしね。」
母も機嫌良く冷蔵庫から追加のビール瓶を取り出すと栓を抜いて父へ渡した。

「明日は久しぶりにみんなで出掛けるか?」
ご機嫌な父が言い出した。
「そうねぇ、たまには・・・」
「あっ、ごめんなさい。明日も明後日も用事がある。」
母の言葉を遮って貴子は言った。
「そ、そうか・・・・・まぁ、それじゃしょうがないな。」
父は気落ちしそうになったが気を取り直して目の前に置かれたビール瓶を持った。
「友達とかな?」
「うん・・・・・・まぁ・・・・・」
ちょっと歯切れの悪い返事に父は敏感に反応した。
「ま、まさか、男じゃないよな?」
「えっ・・・・・ん・・・・・・・一応、男の子かな・・・・・」
「何!!」
「あら、そうなの?お母さん達も知ってる子?」
母が楽しそうに貴子に尋ねた。
「うん。・・・・・あっ、でも・・・そういうんじゃないから・・・・・言っとくけど・・・・・」
「そうなの?」
「ただ・・・・・ほら・・・・・人に言われてじゃ嫌だから言っといただけ。」
「何をだ?」
身を乗り出して父が尋ねた。
「だから・・・・・・・誰かがたまたま見てて・・・・・男の子と一緒にいたってお父さんたちに言われるの嫌だから・・・・・先に言っとく。」
「で?誰なの?」
母が目を輝かせて聞いている。
「え~と・・・・・」

さすがにカラオケボックスだけでは、と思い、
「明日は隣町の運動公園に行ってみましょう。」
と提案したのは貴子の方だった。
「あそこは行ってないなぁ。」
太一が言うと、
「小さいけど遊園地もあるし、すぐ隣には大きなメガマートもあるし。」
と貴子はすかさず言った。
「何時に行く?昼飯いっぱい食ってからの方がいいよな?」
「ん~・・・・・でも、午前中だけくる家族とか何か試合とかもやってるかもしれないし。」
「そうだな。」
運動公園内にはスタジアムやテニスコートとやらあって、休日ともなれば何かしらの試合などが行われていた。
「私が・・・・・お弁当作ってくるよ。」
「えっ?」
「ニ時間足らずでこんなにお腹空くのに長い時間だと大変よね。買って食べるんじゃお金かかるし・・・」
「そう・・・・・いいの?」
「人がいるところでいっぱい食べてるの、見られたくないし・・・」
「俺は良いんだ?」
「あんたは一緒になって食べるんだから・・・いいの。」
「そっか・・・・・じゃあ、お願いします。」
何故かそこだけ敬語になった。
「十時ぐらいに駅前集合でいいわよね?」
「了解!!」
太一はちょうど別れ際だったこともあり、パッと敬礼をするようにしてから、
「じゃあ、明日な!」
と言って走って行った。
貴子はどうして心がウキウキしているのか気にもせずに境内に続く階段を登り始めた。

「ねぇ・・・・・内緒なの?」
「あっ・・・」
回想から貴子が戻ると母は顔を近づけてそっと言った。
「う・・・うん。・・・・・・・そんなんではないんだけど・・・・・・後でね。」
貴子は少しごまかした。
と言うのも、年下の太一の名前を出しても、
「あ~、あのガキか!」
といたずら坊主だった太一のイメージが取れない父が言うのは目に見えてるし、勿論、デートという関係でもないし。
かといって、手を繋ぐ必要があるから、そんな場面をもし誰かが見ていてこっそり告げ口されるのも嫌だから、とりあえず用事として言っただけだし。
それにお弁当作りには母の手を借りたい事情もあるし。
そんなことを考えながらハンバーグを食べ終えた。

すると、ビールコップを手に持ってちょこちょこ飲みながらジ~と貴子と母の様子を見ていた父が、
「おまえ!・・・・・まさか・・・・・に・・に・・・・妊娠・・・・・」
パァ~ン!!!
「ぐはっ!!!」
物凄い音がした。
食べるのに夢中になってまともに聞いていなかった貴子がふっと父を見ると、おでこに平手の跡がくっきり付いていた。
「何を言っているんだか・・・」
溜息をつきながらいつの間にかその横で母はハンバーグを箸で細かくしていた。
「あっ、良かったらハンバーグ、まだ幾つか残っているから食べれるなら食べればいいのよ!」
「は~い。」
貴子は早速ニ個目のハンバーグもお代わりしたのだった。
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