青春高校2年A組:それぞれの未来(アオハル・シリーズ)

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『大島拓真~距離の方程式』第2話:バグの向こうにあるもの

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体育祭の準備が佳境に入ってきて、放課後はほぼ毎日、実行委員としての仕事に追われていた。

クラスの競技割り振り、出場者の確認、道具のチェック——そして、なぜか妙にこだわりたくなってしまうポスター作り。

一緒に実行委員をやってる上原蓮は、どこか気の抜けたような雰囲気なのに、ちゃんと責任感はあって、意外と気が合う。ポスターを描く時なんて、何気なく出すアイディアが面白かったり、字が綺麗だったりで、正直ちょっと「お、いいじゃん」って思ってた。

……でも最近。
放課後の帰り道、一緒に歩くとき。
笑い合う会話の途中で、時々——

**「見られてる気がする」**って、感じてた。

誰かに。はっきりとはわからない。
でも確かに、私のことを遠くから見ている視線。背中がそわそわするような、不思議な感覚。

その正体に気づいたのは、意外とあっさりした瞬間だった。

あの日、体育倉庫の道具の確認が終わって、一人で校舎に戻る途中。何となく足が向いたのが、パソコン室だった。

扉が半分開いてて、中からカチャカチャとキーボードを打つ音が聞こえた。

「ん……? 誰かいる?」

好奇心で中を覗いたら、そこにいたのは——

「大島くん?」

そう、大島拓真だった。

同じ2年生で、クラスも近いけど、話したことはほとんどなかった。授業中も静かだし、目立つタイプじゃない。けど、なぜか名前は知っていた。

それはたぶん——
私が無意識に、どこかで彼の視線を感じていたからかもしれない。

あのとき彼が見せてくれた自作のゲームは、本当にびっくりだった。

正直、もっとカチコチの難解なやつを作ってるのかと思ってたけど、見せてくれたのはシンプルで、でもやりごたえのある、めちゃくちゃ楽しいアクションゲームだった。

「ちょっとやってみていい?」とお願いして、いざやってみたら、気づけば夢中になっていて、しかも——

「えっ、初めてでこのスコア!?」

って、彼が目を丸くして褒めてくれた。

そのときの拓真の顔、なんだかすごく新鮮で。

無口で無表情だと思ってたけど、驚いた顔も、嬉しそうに笑う顔も、全部ちゃんとあるんだなって思った。

それが、なんか嬉しかった。

次の日。

帰りの会議が終わって、みんながぞろぞろと帰っていく中、私は気がついたらまた、パソコン室の前にいた。

自分でも「何してるんだろう?」って思ったけど、足が勝手に向いていた。

ドアをそっと開けると——やっぱり、彼はそこにいた。

モニターに向かって、真剣な顔でタイピングしてる。

「……こんにちは。」

思わず声をかけたら、びくっと肩を震わせてこっちを見た。

「……長谷川さん?」

「今日もゲーム作ってるの?」

「……うん。ちょっとバグが出てて、それの修正を……。」

モニターには、昨日私がやったのと同じゲームが映っていた。だけど、キャラがジャンプした後に画面の外に飛び出してフリーズしてる。

「うわっ、何これ、飛んでっちゃった!」

思わず笑ったら、拓真が少しだけ眉を下げて苦笑いした。

「……変数の指定ミス。ループ抜けてない。」

「へえ、よくわかるね、そういうの。」

「……慣れかな。もう何年もやってるから。」

その言葉に、ちょっとだけ胸がきゅっとした。
「私の知らない時間を、ずっとこの子は積み重ねてきたんだな」って、そんな風に思った。

「手伝ってもいい?」って言ったら、「……え?」って、びっくりされた。

「いや、プログラムとかはわかんないけど……何か手伝えるかもって思って。」

少し黙ったあと、「……じゃあ、テストプレイしてみる?」と差し出されたキーボード。私はうん、と頷いた。

それから、何日か。

私は自然と、放課後のパソコン室に通うようになった。

手伝うって言っても、私がやるのはテストプレイがメイン。操作感を試したり、ジャンプタイミングが変じゃないか確認したり、敵の配置がいやらしすぎないか意見したり。

自分でゲームを作るのは難しいけど、一緒に作ってる気分になれるのがすごく楽しかった。

「ここ、ジャンプした後すぐ敵来るの、ちょっと理不尽じゃない?」

「……確かに。距離伸ばしてみる。」

「あと、効果音つけたらもっとワクワクすると思う!」

「それ……ちょっと頑張ってみる。」

気づけば、パソコン室の空気も、私にとって居心地のいいものになっていた。

ただひとつ、心の中で引っかかっていたのは——

「上原くんのこと、どう思ってるの?」

という友達からの問いだった。

実行委員で一緒にいることが多くて、会話も気軽で、しかもカッコいい。そんな彼のことを好きになるって、たぶん自然な流れだった。

だけど、最近の私は、上原くんと話してる時よりも、大島くんと黙ってゲームのバグを探してる時の方が、なんだか落ち着く。

上原くんの隣では「楽しい私」でいようとする。
でも、大島くんの隣では、何も作らなくていい。無理に笑わなくても、沈黙が気まずくない。

——そういう空間って、案外少ない。

私は今、たぶん、二人の間で揺れてる。
だけど、心のどこかではもう、答えが出ている気もしていた。

ある日。

いつものようにパソコン室を出る時、私はふと振り返って言った。

「ねえ、大島くん。」

「ん?」

「また、新しいゲームできたら……私、一番にやらせてね?」

彼は一瞬驚いた顔をした後、うっすら笑って、こう言った。

「……うん。約束。」

その言葉が、どうしようもなく嬉しかった。
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