19 / 166
『大島拓真~距離の方程式』第2話:バグの向こうにあるもの
しおりを挟む
体育祭の準備が佳境に入ってきて、放課後はほぼ毎日、実行委員としての仕事に追われていた。
クラスの競技割り振り、出場者の確認、道具のチェック——そして、なぜか妙にこだわりたくなってしまうポスター作り。
一緒に実行委員をやってる上原蓮は、どこか気の抜けたような雰囲気なのに、ちゃんと責任感はあって、意外と気が合う。ポスターを描く時なんて、何気なく出すアイディアが面白かったり、字が綺麗だったりで、正直ちょっと「お、いいじゃん」って思ってた。
……でも最近。
放課後の帰り道、一緒に歩くとき。
笑い合う会話の途中で、時々——
**「見られてる気がする」**って、感じてた。
誰かに。はっきりとはわからない。
でも確かに、私のことを遠くから見ている視線。背中がそわそわするような、不思議な感覚。
その正体に気づいたのは、意外とあっさりした瞬間だった。
あの日、体育倉庫の道具の確認が終わって、一人で校舎に戻る途中。何となく足が向いたのが、パソコン室だった。
扉が半分開いてて、中からカチャカチャとキーボードを打つ音が聞こえた。
「ん……? 誰かいる?」
好奇心で中を覗いたら、そこにいたのは——
「大島くん?」
そう、大島拓真だった。
同じ2年生で、クラスも近いけど、話したことはほとんどなかった。授業中も静かだし、目立つタイプじゃない。けど、なぜか名前は知っていた。
それはたぶん——
私が無意識に、どこかで彼の視線を感じていたからかもしれない。
あのとき彼が見せてくれた自作のゲームは、本当にびっくりだった。
正直、もっとカチコチの難解なやつを作ってるのかと思ってたけど、見せてくれたのはシンプルで、でもやりごたえのある、めちゃくちゃ楽しいアクションゲームだった。
「ちょっとやってみていい?」とお願いして、いざやってみたら、気づけば夢中になっていて、しかも——
「えっ、初めてでこのスコア!?」
って、彼が目を丸くして褒めてくれた。
そのときの拓真の顔、なんだかすごく新鮮で。
無口で無表情だと思ってたけど、驚いた顔も、嬉しそうに笑う顔も、全部ちゃんとあるんだなって思った。
それが、なんか嬉しかった。
次の日。
帰りの会議が終わって、みんながぞろぞろと帰っていく中、私は気がついたらまた、パソコン室の前にいた。
自分でも「何してるんだろう?」って思ったけど、足が勝手に向いていた。
ドアをそっと開けると——やっぱり、彼はそこにいた。
モニターに向かって、真剣な顔でタイピングしてる。
「……こんにちは。」
思わず声をかけたら、びくっと肩を震わせてこっちを見た。
「……長谷川さん?」
「今日もゲーム作ってるの?」
「……うん。ちょっとバグが出てて、それの修正を……。」
モニターには、昨日私がやったのと同じゲームが映っていた。だけど、キャラがジャンプした後に画面の外に飛び出してフリーズしてる。
「うわっ、何これ、飛んでっちゃった!」
思わず笑ったら、拓真が少しだけ眉を下げて苦笑いした。
「……変数の指定ミス。ループ抜けてない。」
「へえ、よくわかるね、そういうの。」
「……慣れかな。もう何年もやってるから。」
その言葉に、ちょっとだけ胸がきゅっとした。
「私の知らない時間を、ずっとこの子は積み重ねてきたんだな」って、そんな風に思った。
「手伝ってもいい?」って言ったら、「……え?」って、びっくりされた。
「いや、プログラムとかはわかんないけど……何か手伝えるかもって思って。」
少し黙ったあと、「……じゃあ、テストプレイしてみる?」と差し出されたキーボード。私はうん、と頷いた。
それから、何日か。
私は自然と、放課後のパソコン室に通うようになった。
手伝うって言っても、私がやるのはテストプレイがメイン。操作感を試したり、ジャンプタイミングが変じゃないか確認したり、敵の配置がいやらしすぎないか意見したり。
自分でゲームを作るのは難しいけど、一緒に作ってる気分になれるのがすごく楽しかった。
「ここ、ジャンプした後すぐ敵来るの、ちょっと理不尽じゃない?」
「……確かに。距離伸ばしてみる。」
「あと、効果音つけたらもっとワクワクすると思う!」
「それ……ちょっと頑張ってみる。」
気づけば、パソコン室の空気も、私にとって居心地のいいものになっていた。
ただひとつ、心の中で引っかかっていたのは——
「上原くんのこと、どう思ってるの?」
という友達からの問いだった。
実行委員で一緒にいることが多くて、会話も気軽で、しかもカッコいい。そんな彼のことを好きになるって、たぶん自然な流れだった。
だけど、最近の私は、上原くんと話してる時よりも、大島くんと黙ってゲームのバグを探してる時の方が、なんだか落ち着く。
上原くんの隣では「楽しい私」でいようとする。
でも、大島くんの隣では、何も作らなくていい。無理に笑わなくても、沈黙が気まずくない。
——そういう空間って、案外少ない。
私は今、たぶん、二人の間で揺れてる。
だけど、心のどこかではもう、答えが出ている気もしていた。
ある日。
いつものようにパソコン室を出る時、私はふと振り返って言った。
「ねえ、大島くん。」
「ん?」
「また、新しいゲームできたら……私、一番にやらせてね?」
彼は一瞬驚いた顔をした後、うっすら笑って、こう言った。
「……うん。約束。」
その言葉が、どうしようもなく嬉しかった。
クラスの競技割り振り、出場者の確認、道具のチェック——そして、なぜか妙にこだわりたくなってしまうポスター作り。
一緒に実行委員をやってる上原蓮は、どこか気の抜けたような雰囲気なのに、ちゃんと責任感はあって、意外と気が合う。ポスターを描く時なんて、何気なく出すアイディアが面白かったり、字が綺麗だったりで、正直ちょっと「お、いいじゃん」って思ってた。
……でも最近。
放課後の帰り道、一緒に歩くとき。
笑い合う会話の途中で、時々——
**「見られてる気がする」**って、感じてた。
誰かに。はっきりとはわからない。
でも確かに、私のことを遠くから見ている視線。背中がそわそわするような、不思議な感覚。
その正体に気づいたのは、意外とあっさりした瞬間だった。
あの日、体育倉庫の道具の確認が終わって、一人で校舎に戻る途中。何となく足が向いたのが、パソコン室だった。
扉が半分開いてて、中からカチャカチャとキーボードを打つ音が聞こえた。
「ん……? 誰かいる?」
好奇心で中を覗いたら、そこにいたのは——
「大島くん?」
そう、大島拓真だった。
同じ2年生で、クラスも近いけど、話したことはほとんどなかった。授業中も静かだし、目立つタイプじゃない。けど、なぜか名前は知っていた。
それはたぶん——
私が無意識に、どこかで彼の視線を感じていたからかもしれない。
あのとき彼が見せてくれた自作のゲームは、本当にびっくりだった。
正直、もっとカチコチの難解なやつを作ってるのかと思ってたけど、見せてくれたのはシンプルで、でもやりごたえのある、めちゃくちゃ楽しいアクションゲームだった。
「ちょっとやってみていい?」とお願いして、いざやってみたら、気づけば夢中になっていて、しかも——
「えっ、初めてでこのスコア!?」
って、彼が目を丸くして褒めてくれた。
そのときの拓真の顔、なんだかすごく新鮮で。
無口で無表情だと思ってたけど、驚いた顔も、嬉しそうに笑う顔も、全部ちゃんとあるんだなって思った。
それが、なんか嬉しかった。
次の日。
帰りの会議が終わって、みんながぞろぞろと帰っていく中、私は気がついたらまた、パソコン室の前にいた。
自分でも「何してるんだろう?」って思ったけど、足が勝手に向いていた。
ドアをそっと開けると——やっぱり、彼はそこにいた。
モニターに向かって、真剣な顔でタイピングしてる。
「……こんにちは。」
思わず声をかけたら、びくっと肩を震わせてこっちを見た。
「……長谷川さん?」
「今日もゲーム作ってるの?」
「……うん。ちょっとバグが出てて、それの修正を……。」
モニターには、昨日私がやったのと同じゲームが映っていた。だけど、キャラがジャンプした後に画面の外に飛び出してフリーズしてる。
「うわっ、何これ、飛んでっちゃった!」
思わず笑ったら、拓真が少しだけ眉を下げて苦笑いした。
「……変数の指定ミス。ループ抜けてない。」
「へえ、よくわかるね、そういうの。」
「……慣れかな。もう何年もやってるから。」
その言葉に、ちょっとだけ胸がきゅっとした。
「私の知らない時間を、ずっとこの子は積み重ねてきたんだな」って、そんな風に思った。
「手伝ってもいい?」って言ったら、「……え?」って、びっくりされた。
「いや、プログラムとかはわかんないけど……何か手伝えるかもって思って。」
少し黙ったあと、「……じゃあ、テストプレイしてみる?」と差し出されたキーボード。私はうん、と頷いた。
それから、何日か。
私は自然と、放課後のパソコン室に通うようになった。
手伝うって言っても、私がやるのはテストプレイがメイン。操作感を試したり、ジャンプタイミングが変じゃないか確認したり、敵の配置がいやらしすぎないか意見したり。
自分でゲームを作るのは難しいけど、一緒に作ってる気分になれるのがすごく楽しかった。
「ここ、ジャンプした後すぐ敵来るの、ちょっと理不尽じゃない?」
「……確かに。距離伸ばしてみる。」
「あと、効果音つけたらもっとワクワクすると思う!」
「それ……ちょっと頑張ってみる。」
気づけば、パソコン室の空気も、私にとって居心地のいいものになっていた。
ただひとつ、心の中で引っかかっていたのは——
「上原くんのこと、どう思ってるの?」
という友達からの問いだった。
実行委員で一緒にいることが多くて、会話も気軽で、しかもカッコいい。そんな彼のことを好きになるって、たぶん自然な流れだった。
だけど、最近の私は、上原くんと話してる時よりも、大島くんと黙ってゲームのバグを探してる時の方が、なんだか落ち着く。
上原くんの隣では「楽しい私」でいようとする。
でも、大島くんの隣では、何も作らなくていい。無理に笑わなくても、沈黙が気まずくない。
——そういう空間って、案外少ない。
私は今、たぶん、二人の間で揺れてる。
だけど、心のどこかではもう、答えが出ている気もしていた。
ある日。
いつものようにパソコン室を出る時、私はふと振り返って言った。
「ねえ、大島くん。」
「ん?」
「また、新しいゲームできたら……私、一番にやらせてね?」
彼は一瞬驚いた顔をした後、うっすら笑って、こう言った。
「……うん。約束。」
その言葉が、どうしようもなく嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる