灯火の約束

儚き存在

灯と出会ってから数週間が経った。
拓真は学校帰りに自然と足があの通りへ向くようになっていた。
灯との時間は、彼にとって日常の何よりも楽しみなひとときだった。
彼女の明るい笑顔と穏やかな声に触れていると、自分の孤独や心の重さが消えていくようだった。

しかし、拓真はある変化に気づき始めていた。
最初は些細な違和感だった。
灯の声が少しかすれるようになり、彼女の顔色も以前より青白く見える。
そして何より、街灯の光が少しずつ弱くなっていることに気づいた。

「灯、最近調子が悪そうだけど、大丈夫なのか？」
ある日、拓真は思い切って尋ねた。

灯は少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。
ただ、少し疲れてるだけ。」

「本当に？」
拓真は疑いの目を向けた。
彼女は何かを隠しているように見えた。

「うん、本当。
拓真君が気にしてくれるのは嬉しいけど、そんなに心配しないで。」
灯はいつも通りの明るい声で答えたが、その笑顔にはどこか儚さが漂っていた。

その夜、拓真は眠れなかった。
灯のことが頭から離れなかった。
「どうして彼女は、時々あんなに悲しそうな顔をするんだ？」
彼は一晩中考え込んだが、答えは見つからなかった。

翌日も、拓真は灯の元を訪れた。
彼女はいつものように街灯の下に立っていたが、その姿はさらに弱々しく見えた。

「灯、本当に何か隠してるんじゃないのか？」
思わず問い詰めるような口調になってしまった拓真に、灯は一瞬戸惑った表情を見せた。
そして、しばらく沈黙した後、小さくため息をついた。

「拓真君に隠しておきたかったんだけど……
もう隠し通せないかもね。」
灯はそう言うと、街灯に手を触れ、その光を僅かに強くした。

拓真はその光景を目の当たりにして言葉を失った。
灯はまるで街灯の光と一体化しているように見えた。
彼女の手から溢れる微かな光が、街灯に吸い込まれていく。

「君、一体……
何なんだ？」
拓真は恐る恐る尋ねた。

灯は微笑みながら答えた。
「私はね、この街灯と繋がっているの。
私はただの人間じゃない。
この街灯がある限り、私はここにいることができる。
でも……
この街灯が消えたら、私はもういなくなるの。」

その言葉を聞いた瞬間、拓真の心に冷たい衝撃が走った。
「いなくなるって……
どういうことだよ？
そんなの、嫌だ……！」

「ごめんね。
でも、これが私の運命なの。」
灯は静かにそう言うと、街灯の光に目をやった。

拓真はその夜、家に帰ると涙をこぼした。
灯との時間が、自分にとってどれほど大切なものになっていたのかを、その時初めて自覚した。
彼女がいなくなるなんて考えられなかった。
彼女と過ごす時間が、自分にとって唯一の救いだったのだから。

「何とかして、この運命を変えられないのか？」
拓真の胸の中に、どうしようもない焦燥感が広がっていった。

次の日、拓真は再び灯に会いに行った。
彼女はいつものように微笑んでいたが、その姿は少しずつ薄れていくように見えた。

「拓真君、大丈夫だよ。」
灯は優しく言った。
「私がいなくなっても、君にはちゃんと未来がある。
だから、今を大切にしてほしいの。」

その言葉を聞いた拓真は、彼女が自分に言い聞かせるように話しているのだと気づいた。
そして、自分がどうしても彼女を失いたくないという気持ちを、胸の中でさらに強く抱いたのだった。

灯の儚さは、彼女自身の存在の美しさと裏腹に、拓真の心に深い悲しみと決意を刻んでいく。
彼は、彼女を救う方法を探すことを誓った。