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第11話『イスズリくんからの手紙』
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その朝。
教室には、すでに緊張感と若干の諦めが漂っていた。
なぜなら――
「うおおおおおおお!!!」
開口一番、真人が机の下から**何かを引きずり出して叫んだからである。
「ついに……ついに来たぞ早紀ッ!!!」
「まだ話してないのにうるさいなもう……」
真人の手には、折りたたまれた小さなメモ用紙。
そしてその表紙には、ふるえる筆跡でこう書かれていた。
『まことくんへ –イスズリより–』
「ほら見ろ!!!これが何よりの証拠だ!!!」
「はいはい、またあんたが夜に仕込んだんでしょ」
「違う!! 俺はそんなヤラセはしない!! 名探偵は真実とともにある!!」
「って言いながら昨日『机にそろそろ手紙入ってねぇかな~』ってブツブツ言ってたじゃん」
しかし、騒ぎを聞きつけて周囲が集まってくる。
「え、何? 本当に“イスズリくん”から手紙きたの?」
「いやマジで? 怖いやつ?」
「それともギャグ?」
「ギャグだよ」
「ギャグだよな」
「うん、ギャグだわ」
「でも続きは気になるな」
「えっ読むの!?」
真人は堂々と、メモを読み上げた。
『まことくんへ
いつも僕を動かしてくれてありがとう。
でも最近ちょっと、ぐらぐらしてきたから……しばらく静かにしててほしいな。
あと、給食のときにイスに牛乳こぼすのはやめてください。冷たいです。
お友達の机にもよろしくね。
–イスズリ』
「牛乳こぼしたのお前じゃねーか!!」
早紀のツッコミが炸裂する。
「これはあれだ、つまり**“イス視点の苦情”**だよ!!」
「メッセージ性あるな~」
「いや、騙されるなよ!? これ絶対本人が書いてるって!!」
「でも筆跡かわいいよ?」
「ちょっと丸文字なのウケる」
それにしても、この手紙が真人以外の机から出てきたというのが、事態をややこしくした。
「いやでもガチで俺の机じゃなかったからな? ってことは、誰かが本当に乗っかってきてる!?」
「うわ~~“イスズリくんファンクラブ”誕生の予感~~」
「公式グッズ作ろうぜ、“うごかさないで”タオルとか」
「“冷たいです”マグカップ欲しい」
「みんな悪ノリしすぎだろお前らァァァァ!!!!」
その日の昼休み。
教室の後ろの掲示板に、なぜか新しい張り紙が貼られていた。
**イスズリくんの部屋へようこそ!**🪑
今週のメッセージ: 『動きすぎると腰痛になります。みんなも座り方、気をつけよう!』
制作:謎の有志(たぶん笹本&中山)
「いや、もう公式じゃん!?」
真人、両手で顔を覆う。
「お前が火つけたんだから責任持ちなよ……」
早紀は、すでに“諦めとツッコミ”のバランス感覚が名人級である。
そこへ――ふわっと、教室に現れるピンクの旋風。
「おっはようございますぅ~♡ え!? 何これ!? “イスズリくん”!? キャワイイ~~♡」
そう、増渕先生である。
「先生、あの、これ冗談なんで……あんまり信じないで……」
「え~? 先生ね、ちょっと“イスの気持ち”になって考えること、最近大事だと思ってたのぉ~」
「どんな悟り開いてんの!?」
「先生、ちょっとメッセージ書いてきていい?」
「やめて!?!」
そして、放課後。
黒板の隅に、もう一つの紙が貼られていた。
『ますぶちせんせいへ
いつもふんわり座ってくれてありがとう。
たまにペン落とすけど、拾ってくれてうれしいです。
あしたもがんばってください。
–イスズリより』
「お前書いたな!!??」
「いや違う!!マジで俺じゃない!!俺こんなやさしい文章書けねぇ!!」
これはもう“学校中を巻き込んだ茶番”になるか――と思ったそのとき。
職員室から、給食を運んでいた用務員さんがふらっと来て言った。
「あー、ごめんごめん、その机の中に入れてたの、昨日の“図工の時間”の作品メモだったわ。
イスの気持ちになって手紙を書くっていう課題。増渕先生が出したやつだよ」
――静寂。
真人、硬直。
早紀、深呼吸。
増渕先生:「あ! あれぇ!? そういえば出したかも~♡ すっかり忘れてたぁ~!!」
クラス:「忘れてたんかーーーーーい!!!!」
◆ラストシーン
その日の夕方。
真人は一人、机に向かってこう呟いた。
「……ふっ……俺の勘、今回ばかりは当たってたな……」
「どこがだよ」
「“机がしゃべった”ってのは、つまり“人の気持ちが机にこもった”ってことだったんだ」
「なにうまいこと言ってる風にまとめてんだよ……」
「でも俺、もう机には優しくする。だって机、働いてるもんな……俺よりも」
「確かにそれはそう」
早紀は笑いながらそう答えた。
こうして、“イスズリくん事件”は完全に幕を閉じた――
はずだった。
次の日の朝。真人の机の上には、また一枚の紙が置かれていた。
『次は……椅子の番だよ。–カタスベり』
「新キャラ出たァァァァァ!!!!!!」
(つづく)
教室には、すでに緊張感と若干の諦めが漂っていた。
なぜなら――
「うおおおおおおお!!!」
開口一番、真人が机の下から**何かを引きずり出して叫んだからである。
「ついに……ついに来たぞ早紀ッ!!!」
「まだ話してないのにうるさいなもう……」
真人の手には、折りたたまれた小さなメモ用紙。
そしてその表紙には、ふるえる筆跡でこう書かれていた。
『まことくんへ –イスズリより–』
「ほら見ろ!!!これが何よりの証拠だ!!!」
「はいはい、またあんたが夜に仕込んだんでしょ」
「違う!! 俺はそんなヤラセはしない!! 名探偵は真実とともにある!!」
「って言いながら昨日『机にそろそろ手紙入ってねぇかな~』ってブツブツ言ってたじゃん」
しかし、騒ぎを聞きつけて周囲が集まってくる。
「え、何? 本当に“イスズリくん”から手紙きたの?」
「いやマジで? 怖いやつ?」
「それともギャグ?」
「ギャグだよ」
「ギャグだよな」
「うん、ギャグだわ」
「でも続きは気になるな」
「えっ読むの!?」
真人は堂々と、メモを読み上げた。
『まことくんへ
いつも僕を動かしてくれてありがとう。
でも最近ちょっと、ぐらぐらしてきたから……しばらく静かにしててほしいな。
あと、給食のときにイスに牛乳こぼすのはやめてください。冷たいです。
お友達の机にもよろしくね。
–イスズリ』
「牛乳こぼしたのお前じゃねーか!!」
早紀のツッコミが炸裂する。
「これはあれだ、つまり**“イス視点の苦情”**だよ!!」
「メッセージ性あるな~」
「いや、騙されるなよ!? これ絶対本人が書いてるって!!」
「でも筆跡かわいいよ?」
「ちょっと丸文字なのウケる」
それにしても、この手紙が真人以外の机から出てきたというのが、事態をややこしくした。
「いやでもガチで俺の机じゃなかったからな? ってことは、誰かが本当に乗っかってきてる!?」
「うわ~~“イスズリくんファンクラブ”誕生の予感~~」
「公式グッズ作ろうぜ、“うごかさないで”タオルとか」
「“冷たいです”マグカップ欲しい」
「みんな悪ノリしすぎだろお前らァァァァ!!!!」
その日の昼休み。
教室の後ろの掲示板に、なぜか新しい張り紙が貼られていた。
**イスズリくんの部屋へようこそ!**🪑
今週のメッセージ: 『動きすぎると腰痛になります。みんなも座り方、気をつけよう!』
制作:謎の有志(たぶん笹本&中山)
「いや、もう公式じゃん!?」
真人、両手で顔を覆う。
「お前が火つけたんだから責任持ちなよ……」
早紀は、すでに“諦めとツッコミ”のバランス感覚が名人級である。
そこへ――ふわっと、教室に現れるピンクの旋風。
「おっはようございますぅ~♡ え!? 何これ!? “イスズリくん”!? キャワイイ~~♡」
そう、増渕先生である。
「先生、あの、これ冗談なんで……あんまり信じないで……」
「え~? 先生ね、ちょっと“イスの気持ち”になって考えること、最近大事だと思ってたのぉ~」
「どんな悟り開いてんの!?」
「先生、ちょっとメッセージ書いてきていい?」
「やめて!?!」
そして、放課後。
黒板の隅に、もう一つの紙が貼られていた。
『ますぶちせんせいへ
いつもふんわり座ってくれてありがとう。
たまにペン落とすけど、拾ってくれてうれしいです。
あしたもがんばってください。
–イスズリより』
「お前書いたな!!??」
「いや違う!!マジで俺じゃない!!俺こんなやさしい文章書けねぇ!!」
これはもう“学校中を巻き込んだ茶番”になるか――と思ったそのとき。
職員室から、給食を運んでいた用務員さんがふらっと来て言った。
「あー、ごめんごめん、その机の中に入れてたの、昨日の“図工の時間”の作品メモだったわ。
イスの気持ちになって手紙を書くっていう課題。増渕先生が出したやつだよ」
――静寂。
真人、硬直。
早紀、深呼吸。
増渕先生:「あ! あれぇ!? そういえば出したかも~♡ すっかり忘れてたぁ~!!」
クラス:「忘れてたんかーーーーーい!!!!」
◆ラストシーン
その日の夕方。
真人は一人、机に向かってこう呟いた。
「……ふっ……俺の勘、今回ばかりは当たってたな……」
「どこがだよ」
「“机がしゃべった”ってのは、つまり“人の気持ちが机にこもった”ってことだったんだ」
「なにうまいこと言ってる風にまとめてんだよ……」
「でも俺、もう机には優しくする。だって机、働いてるもんな……俺よりも」
「確かにそれはそう」
早紀は笑いながらそう答えた。
こうして、“イスズリくん事件”は完全に幕を閉じた――
はずだった。
次の日の朝。真人の机の上には、また一枚の紙が置かれていた。
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「新キャラ出たァァァァァ!!!!!!」
(つづく)
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