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第2章―人間と契約

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昼休みになり、俺達は進捗状況を共有するため屋上に集まっていた。

「え?じゃあ藤間、何にも持たないで来たの?何しに学校来てんだよ!!」
「契約する人間を探すためだろう?」
「そりゃそうだけど!!」

けらけらと大笑いする結城がムカついたので殴ろうとしたが躱された。

「早速随分と目立つような行動を取っていたのね、あなた」
「なにがだ」
「自覚ないから困るよね~ホント」
「あ゙あ!?」
「でも本当に困るわ。正体がばれたら、私たちは連帯責任で全員首をはねられるのよ。もっと慎重になりなさい」
「……」

確かに天満の言う通りだったが、俺は目立つようなことをした覚えはなかったので、慎重になれと言われてもどうしたらいいかわからなかった。

「そういう貴様らは契約できそうな人間は見つけたのか?」
「いやあ、まだ一日も経ってないしねえ……」

結城がいうと、天満たちも頷いた。
さらに新田が溜息を吐いたので、どうしたのかと結城が聞くと、奴は「クラスの連中が近づいてこなくなった」と言った。

「はあ?まだ一日目じゃん。なんでそんなことになるのさ」
「クラスメイト達の家族構成を事細かに聞いていたら、気が付いたら避けられていた」
「なんでそんなこと……」
「家族に幼い少女がいないか確認をしていた」
「「「ああ……」」」

納得がいった。
こいつ本当ぶれないな。


――ばたん!!

そのとき、屋上の扉が勢いよく開かれ、狼谷がなだれ込んできた。

「すいませんっす!遅れたっす!」
「遅かったわね。何をしていたの?」
「クラスの人間と遊んでたっす!そしたらクラスメイトとぶつかって、お互いに鼻血が出て、ほけんしつってところで治療してもらってたっすよ」
「そうだったの。それにしても、もうそんなに仲良くなったのね」
「人間と話ができるのが嬉しくって、つい話しかけまくっちゃったっす!」
「唯一人型じゃなかったのに、一番コミュ力高いね」

底抜けに明るい顔で笑う狼谷の鼻の穴には綿が詰められていた。

「藤間と新田は見習うべきだね」
「ちょっと待て。新田が見習うのはわかるが、何で俺まで見習わなきゃならんのだ」
「話しかけてくる人間たち無視してずっと寝てたんでしょ?それじゃいつまで経っても契約する人間は見つからないよ」
「ぐっ……」

結城がいうことはもっともだが、俺は元々人間が嫌いだ。
俺は人間たちのせいで死んだようなものだったからな。
そう言ったら天満に諭された。

「そうは言うけど、契約できないままだと私たちは全員また死ぬのよ?」
「それはわかっているが……」

しかし嫌なものは嫌なので俺は口を尖らせた。

「じゃあもうちょっと歩み寄らないとね~」
「人間って結構面白いっすよ!」
「……わかった」

結城と神谷にも諭され、俺はしぶしぶ頷いた。不本意だが、また死ぬのはもっと不本意だ。
この後、午後の授業の開始の予鈴がなったので解散し、所属のクラスへそれぞれ戻った。

他の奴らにそう言われたので、俺は午後の授業は起きてクラスの連中を観察していた。
どんな奴が契約できそうかなどを考えながら。


こうして一日目は終わった。



――二日目。
教科書を持たないのはおかしいと他の奴らに言われたので、次の日はちゃんと教科書を持って登校した。ちなみに教科書はオンボロ屋敷の自分の部屋にちゃんと用意されていた。一日目は全く気付かなかったが。

二日目の一時間目は英語の授業だった。

「はい、では授業はじめますヨ~。では教科書の30ページを開いて~」

教科書の内容は昨日覚えたが、一応教師の言う通りページを開いた。

「では今日は~28日だから~……出席番号28番の三上祐太クン!30ページの英文を読んでくだサ~イ」

指名を受けた三上は立ち上がったが、何も読もうとしない。

「おや三上クン?どうしまシタ?」
「……ごめんなさい。教科書を忘れました」
「おや~、それはいけませんネ~。仕方ないですネ。では隣の藤間クン、三上クンに見せてあげてくだサ~イ」

教師にそう言われたので、三上に教科書を渡した。

「……ありがとうございます」

三上が俺の教科書を見て英文を読んでいる中、俺は気が付いていた。
三上の手元に、ボロボロに引き裂かれた英語の教科書があるのを。

最初は、たまたまそうなっているだけなのかと思っていた。だが、三上の教科書はどの授業のものでもボロボロだった。
昨日までは綺麗だったはずだ。見せてもらったのだから覚えている。

そして、三上への行為はそれだけではなかった。

三上が廊下を歩いていれば、足をかけて転ばせる。
三上に掃除当番を押し付ける。

――極めつけは、これだった。

「お前、キモいのに何でいつも学校来んの?」
「お前が来ると空気が澱むんだよな~」
「つうわけだから、俺らが綺麗にしてやるよ!」
「っ!」

校舎裏で、三上にホースで水をかけている三人の男子生徒たち。

「おらおら、もっと綺麗にしてやんよ!!」
「……ッ!」

――プチン、と何か頭の中で切れる音がした。

「何をやっている?」
「あ?」
「んだよお前」
「何をやっているのかと聞いているんだ」

俺は四人のもとへ近づいていく。

「はあ?お前に関係ねえだろ?」
「お前転校生だろ?関わると碌なことないぜ?」
「俺は……」

――ガァン!!

俺は、ホースの繋がれていた蛇口を思いっきり蹴り上げた。
蛇口はいとも簡単に吹っ飛び、水があふれ出す。

「っ!冷てえ!」
「てめえ何してんだよ!!」
「俺は、他人を陥れるような行為をする醜い輩が一番嫌いなんだよ!!」

そう叫びながら、三人に向かって拳をふるおうとした。
その時だった。

――ビーッ!ビーッ!ビーッ!

『警告!警告!』
「ッ!?」

頭の中で、大音量の警告音が鳴りだした。

『世界の生き物に危害を加えてはいけません!警告!警告!』
「……警告ってこれかよ!!」

俺は忘れていた。
この世界では、俺は【邪魔】以外に危害を加えることはできないことを。
というかめちゃくちゃうるせえ!!

「藤間!!何をしているの!!」
「……天満!?」

あまりのうるささに頭を抱えていたところに現れたのは、天満だった。

「ちっ、人が来た!」
「行くぞ!」

天満が現れたことで、醜い輩三人はその場を去っていった。
三人が去っていったことで、ようやく頭の中で鳴り響いていた警報音も収まった。

「天満……貴様、何故ここに来た?」
「あなたが警報を鳴らしたからでしょう!」
「警報って、貴様らにも鳴るのか!?」
「どうやらそのようね……二日目でいきなり鳴らすとは思わなかったわ」
「……すまん」

あの時警報が鳴らなかったら、俺は間違いなくあの三人を殴っていた。

「……あなた、きちんと自覚している?私たちのなかの一人でも規則ルールを破れば、全員首切られるのよ?」
「……わかっている」
「わかっているのならもっと行動には責任を持ちなさい!」
「……悪かった」

天満は項垂れる俺のことを、ゴミを見るような目で一瞥したのち、うずくまる三上の前にしゃがみこんだ。

「あなた大丈夫?」
「え……」
「これ、使って。あまり役に立たないかもしれないけど」

天満は、びしょ濡れの三上にハンカチを差し出した。
そのあと、俺の方にもう一度来ると、耳元で言われた。

「藤間。行動には気を付けなさい。このままではあなたも私も、契約する前に首切られて死んでしまうわよ」
「……」
「あとその子のこと、保健室に連れて行きなさい。びしょ濡れの状態じゃ授業は受けられないでしょう。あなたもね」

天満はそう言い残し、去っていった。
確かに、俺もびしょ濡れだった。蛇口を蹴り上げたときに噴き出した水のせいだった。

俺は未だ座り込んだままの三上を抱き上げた。

「と、藤間君!?」
「保健室行くぞ」
「ぼ、僕歩けるので……!」
「構わん。いいから行くぞ」
「あっ……ちょっ……」

俺は三上を抱き上げたまま保健室へ向かった。


保健室にいくと、保健医がびしょ濡れ状態の俺達をみて目を丸くした。

「ど、どうしたのそれ!大丈夫!?」

保健医が慌てて持ってきたタオルで体を拭いたが、濡れてしまった制服はタオルで拭く程度ではどうにもならなかった。

「このままだと風邪ひいちゃうわね……。先生着替え持ってくるから、体拭いて待ってて」

保健医が着替えを調達しに保健室を開けたのを見計らって、俺は三上に話しかけた。

「おい、三上」
「……えっ?あっ、はい……?」
「貴様はいつもああなのか」
「……、そうです」
「毎日か」
「……」

沈黙は肯定だった。……どいつもこいつも……

「許せんな」
「え……?」
「貴様をいじめている連中も、それを黙って見ているだけの連中も」

そうだ、許せない。
いじめる奴も、見ているだけの奴らも、そして。

「あの状況を甘んじて受け入れている貴様もな」
「……っ」

三上は、俺の言葉に唇を噛み締めた。

「何故言い返さない?何故何も声を上げない?貴様は、水をかけられても、貴様は避けようともしなかった。そのような態度だから、あの連中もつけ上がるんだ」
「……」
「黙っていては、現状は変えられないぞ」

そう言った後、保健医が着替えを持って帰ってきたため、この話は中断された。
その後、俺達は授業に戻ったが、その日、三上はずっと俯いたままだった。

ちなみに俺は放課後教師に呼び出され、蛇口を蹴り飛ばしたことについて反省文を書かされた。
こんなことをやっている場合ではないのに……。

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