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第2章―人間と契約

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翌朝、俺はまだ眠り続けていたいところに鞭打って、今日から行く高校の制服というものを着て、昨日のロビーに行った。
ちなみにこのクソボロイ建物、以前は下宿施設だったらしく、ロビーは兼共同リビングだったようだ。
トイレと風呂は共同で、キッチンも共同のものしかなかった。
そして布団はめちゃくちゃカビ臭かった。次の週末干さないと駄目だな……。それまでに生きていればだが。

共同リビングに着くと、全員そこに居た。
やはり俺が最後か……

「本当に藤間は寝坊助だね~」
「うるさい結城。俺に早起きという概念はないんだ」
「それは困るわね。これからは当番制で朝ご飯を用意していくことになったから、改善して頂戴」
「なんだそれは……いつ決めた」
「先ほどあなた以外の全員で決めたのよ」
「俺もその話し合いに入れろ!何勝手に決めている!」
「あなたが起きるの遅いのが悪いのよ」
「ぐ……」

天満の言う通りだから俺は何も言い返せなかった。
その後、俺達は天満が作ったという朝食を食べ、高校へと向かった。


***


「ここが……学校か」
「ふーん、意外と大きいね~」
「大きいか?魔王城より小さいが?」

高校の校舎を見た結城の感想に俺は首を傾げた。

「魔王城と比べちゃ駄目でしょ。藤間って馬鹿なの?」
「あ゙ん!?」
「そこ、喧嘩しない。行くわよ」

結城と火花を散らしながら高校とやらに足を踏み入れた。

校長室で、この高校の校長だという禿げたおっさんと挨拶をし、それぞれ編入するクラスを伝えられた。

俺は1年A組に編入することになった。
他の連中は、天満が2年A組、結城が2年B組、新田は2年C組、狼谷が1年B組となった。

「なぜ俺と狼谷は1年なんだ」
「さあ?馬鹿だからじゃない?」
「俺は馬鹿ではない!!」
「オレだって馬鹿じゃないっすよ!?」

結城はいちいち失礼な奴だな!

「1年でも2年でも、どちらだっていいでしょう?いいからいくわよ。ここからが重要なのだから……」

天満の言う通りだった。
そうだ。俺達は、転入して一週間の間に契約する人間を見つけなければ……死ぬのだ。


――こうして俺達の運命の一週間が始まった。


「えーっと、君が藤間或斗君ね。俺が1年A組担任の宗田だ。この時期に転入するなんて珍しいし、色々聞かれると思うが……。まあうまくやれよ」
「貴様に言われるまでもない」
「……本当、うまくやれよ」

担任だという若い男の案内で、俺は所属のクラスとなる1年A組に足を踏み入れた。
担任と共にクラスに入ってきた俺を、部屋にいた人間たちが物珍しそうな目で見てきた。

「転校生を紹介するぞ。はい、挨拶」

宗田に挨拶を促されたが、俺は何を言えばいいのかわからず、黙っていると宗田が言った。

「おい、何黙ってる?」
「挨拶とは何を言えばいいんだ?」
「は?……えーと、名前と、転校前はどこに居たのかとか……そういうこと言えばいいんじゃねえの?」

成程、名前と、前どこに居たのかか……

「藤間或斗だ。ここに来る前は……」

魔王だった、と言おうとして踏みとどまる。
そういえば、正体は契約する人間以外に言ったら駄目なんだったか……。
ならば何と言えばいいのだろうか。
魔界とも言えないし……すると……魔王城?
だが魔王城も魔王って入っているな……なら魔王城から魔王を取って……

「城に居た」

途端に教室中がざわついた。……何かまずかったか?

「……城って何?」
「城は……城じゃね?」
「え……じゃあ転校生ってまさか、王子!?」
「王子ってどこの国のだよ!」

城に居たと言ったら、何故か俺が王子だと勘違いされた。

「王子というよりは王だったが?」
「「「王!!?」」」

そう言ったらまたざわついた。

「ちょ、ちょっと待て!何を言ってるんだお前は!」
「貴様が言ったのだろう?前居た場所を言えと」
「いや言ったけど!!(城に居たなんて言うと思わねえだろ!!)」

宗田が焦っていたが、俺は訳がわからなかった。宗田に言われたとおりに前居た場所を言っただけなのに。

「あー……もういいわ。とりあえず質問はいろいろあるだろうが、HR終わった後にやってくれ。藤間、お前の席は三上みかみの隣な」
「どこだ?」
「後ろのあの空いている席だ」

後ろの列を見ると確かに一席空いており、空いている席の横には、前髪が長く、背丈の小さい男子生徒が座っていた。
そいつに目を向けたら、びくりと肩を震わせ、顔を逸らされた。
大半の生徒が俺を好奇の目で見ている中、その反応は逆に目立った。

空いていた席に着くと、宗田が言った。

「三上、転校生に色々教えてやってくれ。じゃあ朝のHR終わりな(俺はもう疲れた)」

若干疲れたような顔をしていた宗田が教室を去ると、途端にクラスメイトに囲まれた。

「ねえねえ、城に居たってどういうこと!?」
「王ってなんだよ!」
「お金持ちだったの~?」

人間というものは本当にうるさいな……

「黙れ」
「えー、なにそれ感じ悪~い」
「ねえねえ城ってどんなところなの~?」

黙れと言っても黙らないとは……かつての部下たちは、こういえばすぐ黙ったのに……
その後無視を貫いたところ、飽きたらしい人間たちはだんだんと俺から離れて行った。
人間は飽きるのも早いな。


そして初めての人間の学校の授業が始まった。

「えーと……転校生の……藤間君?でしたっけ?」
「なんだ?」

数学とやらの授業中、中年くらいの男性教師が話しかけてきた。

「何でその……机の上に何もないんですか?教科書は……?」
「教科書?」

なんだそれは?

「俺は何も持っていない」
「え?えーっと……前の学校で使っていたものとかも……ないんですかね?」
「ない」

そもそも学校には何か持ってくるべきものがあったのか?
そう言ったら教師が素っ頓狂な声をあげた。

「ええ?そ、それじゃあノートや筆記用具も持ってないんですか?」
「持ってない」
「……そうですか」

数学教師は諦めたように肩を落とした。

「それじゃあ、とりあえず三上君……藤間君に教科書見せてあげて」
「……へっ!?あっ……はい……」

教師に言われた隣の三上という小さい男子が机を寄せ、教科書を中央に置いた。

「ど、どうぞ……」
「ふむ……」
「あ……」

教科書をぺらぺらとめくり、一通り目を通し、三上に教科書を返した。

「え、もういいんですか……?」
「いらん。覚えた」
「えっ……!?」

そのあとは机に脚をかけ、寝た。
ざわざわと周りがうるさかったが、構わず寝た。

「おい、寝たぞ……」
「転校生マジ不思議すぎるんだけど……」
「……はい皆さん、彼は置いて授業再開しますよ~……(彼は何しに学校に来たんだろうか?)」

俺が寝た後の教室には、微妙な空気が流れていたようだった。

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