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第0章―世界から拒絶された俺たち
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今度は黒い空間から巨大な狼が姿を現した。
『あれ?いた!急に出てきた!いやー、オレひとりだと思ってたっすから誰かいてチョーうれしいっす!!あの、ここどこかわかるっすか!?』
流暢に話す巨大狼は俺たちを見て嬉しそうに尻尾を振った。
見た目凄く獰猛な狼のようだが、中身は完全に犬だな。
「残念だけど、私たちにもここがどこだかわからないのよ」
『そうっすか……残念っす……』
堕天使が言うと、もげそうなくらい振られていた尻尾がしゅんと垂れた。やはり犬だな……。
「貴様はただの狼……というわけではないよな?」
『オレっすか?オレは「フェンリル」っす!!神狼っすよ!!』
狼は胸を張るように答えた。
「あら。私もフェンリルは知っているけど、こんなハイテンションではなかったし、喋らなかったわよ?完全に神のペット扱いだったわ」
「俺の知ってるフェンリルは俺の家の番犬だったが……見た目もお前よりグロかったぞ。頭三つあったからな」
俺のフェンリルは勇者の襲撃があったときに勇者一行に殺されたな……。結局アイツの墓も作れないまま俺も死んでしまったようだが……
『オレはオレっすよ?フェンリルもオレだけっす!!』
「成程……どうやら私たち、全員別の世界から来ているようだわ」
「だから互いに面識がないのだな」
いわゆる異世界というやつなのだろう。
俺を殺した勇者も別世界から呼ばれた人間であったようだし、異世界という概念はある。
堕天使も死神もこのフェンリルも、皆別の世界からこの黒い空間に集められたといえば納得できる。
「……で、神狼は……どうして死んだ?」
死神がフェンリルに聞いた。するとフェンリルは首を傾げた。
『死んだ?いやオレ死んでないっすよ!』
「なんだと?」
『オレ、とにかく腹が減ってて、自分の周りのものなんでも喰いまくって……気が付いたらここに居たっすよ!』
「……どういうことかしら」
「まったくわからんな」
どうやらこのフェンリルは本能の赴くままに動くタイプらしく、細かいことは考えないようだ。考えられないのかもしれないが。
「とにかく、この狼さんもここのことは何もわからないようね……どうしたらいいのかしら。結構前からここにいるようだけど、時間が経ってるような感じもしないし……」
堕天使の言葉どおり、俺はもう随分長いことここに居るような気がしているが、しかし時間が経っているようにも感じられなかった。
「もうほかには……ここには誰もいないのか……?」
「――あれ、なんだ。誰かいるじゃん」
他に誰かいないかと辺りを見回した死神の言葉に答える声があった。
黒い空間から、今度は聖なる力を纏った男が現れた。
この感じは――
「――勇者か!?貴様!!」
俺の一番嫌いな存在である、勇者の纏う力と同じであった。
「え、俺?ああ、確かに勇者だったけど?でもついさっき処刑されたからもう勇者じゃなくなったけどね。いうなら、元勇者ってとこかな」
「処刑……されただと?」
よくよく見てみると、この目の前にいる勇者は俺を殺した勇者ではなかった。
元勇者と名乗ったその男は、俺の言葉に肩をすくめた。
「うん、そう。俺は魔王を倒すべく勇者になって、魔法だの剣術だの、つけられる力はなんでもつけて、魔王を倒したんだけど……魔王の脅威が去ったら今度は、魔王を倒すような力を持った俺が脅威だなんて言われ出してね。それでついさっき処刑されたってわけさ」
「……そんな戯言を言って……俺が信じると思うのか?」
「信じてもらわないと困るなあ。だって本当のことだし」
元勇者だという男はあっけらかんと笑った。その態度はとてもつい先程処刑された人間とは思えなかった。
「もしその話が本当だとして……あなたは人間たちの為に戦ったのに、処刑されたということでしょう?何故そんな風に笑っていられるの?」
堕天使がいたわるように言った。
「ん~……まあ、ある程度予想はついてたしね。それに処刑されちゃったものはもう仕方ないしさ」
「……達観してるわね」
「でも、俺を処刑するって決定したクソ王はぶっ殺してやりたいな~とは思ってるけどね」
「そういう感情はまだあるみたいで安心したわ」
堕天使の言葉に苦笑いを零した元勇者は、周りを見回して言った。
「それよりここが死後の世界ってことでいいの?君たちも死んだの?」
「私やそこの魔王さんや死神さんは確かに死んだ記憶があるわ。でもフェンリル……狼さんはそんな記憶はないと言っているわ」
『オレはなんでも喰いまくって気が付いたらここに居た!』
「ふ~ん……よくわかんないけど、それじゃあ死後の世界ではないのかな。じゃあここは何なんだろう?」
元勇者がそう言ったときだった。
『――お集まりいただきました皆さ~ん!!こちらに注目してくださ~~~い!!』
漆黒の空間には似つかないハイテンションな声が、空間中に響き渡った。
謎の声は『こちら』なんて言ったが、そこら中に声が反響しているのでどこを向いたらいいかわからない。
『こっちだってば、こっち!』
「だからどっちだ」
「わんわん反響してて、どこから聞こえてるのかわからないよ」
俺と元勇者が言うと、声は『ああ、そういえば音量調節を忘れてた』と言った。
――カッ!
すると、真っ暗だった空間が突如目がつぶれるかと思うくらいの光に照らされた。
「ま、眩しい……消滅する……」
『うわあああ!なんも見えないっすー!!まぶしいい』
「神狼さんは獣だから目がいいのね」
「お前サングラスなんて持ってたのか……」
死神や神狼は眩しさに目をやられていたが、堕天使はどこからか出したサングラスを装着して平然としていた。
ようやく明るさに目が慣れ、光が照らされている方を見ると、そこに一つの人影があるのがわかった。
『はい!こんにちは世界から拒絶された皆さん!!お集まりいただきありがとうございます!というかオレが集めたんだけどね(笑)』
その人影はよくわからない形の棒?上が丸くて下が筒になっているものを持って立っていた。
その背中には純白の羽が三対ついている。
「キンキン反響してたのはマイクのせいか~……」
元勇者がそんなことを呟いていたが、マイクとはなんだろうか?
「おい、貴様はなんだ?まあ察しはつくが……」
『はい、魔王くんの疑問にお答えしましょう!オレはぁ、超えら~~い神様です!!』
「……神?あなたが?本当に?」
横を見ると、堕天使が今にも人一人殺せそうなくらいの殺気を纏って自称『神』を睨み付けていた。
『まあまあ落ち着いて堕天使ちゃん。オレは君の大嫌いな神とは違うから。むしろオレあの神より超えらいから、超』
「……どういうこと?返答によっては殺すわよ」
『だから落ち着きなさいって。流石、実際に神を殺した堕天使ちゃんは違うね~』
からかうように言う神に対し、俺は堕天使の怒りのボルテージがさらに上がっていくのを横にいて感じていた。
「やっぱりあなたはここで殺すわ」
『やめてぇ!オレは君ごときには殺せないよ!何しろオレはすべての世界の統括をしている神のなかの神!だからね!』
ドヤ顔で言い放った神に俺も殺意が沸いた。
「堕天使。あの神殺すぞ。俺も協力してやる」
「あらありがとう」
『君たち人の話聞いてた!?』
うるさい神は無視し、俺達は力を籠めようとした。
……が、なぜかうまく力が溜まらず、すぐに霧散してしまった。
「な……どういうことだ?」
「神……あなたがなにかしたの?」
『ここはオレが創った簡易的な空間だからね。創造主の許可なしに力を使うことはできないよ』
「なんだと……?」
「君たちみたいな人外に遠慮なしに力をぶっ放されちゃったらいくらオレの創った空間といえどぶっ壊されちゃうからね~。だから今の君たちは、何の力もありません!大人しく話を聞いた方がいいよ?」
神は、したり顔でこちらを見ていた。ムカつく。
「それで、そのえら~い神様が、俺たちを集めてどうするつもりなのかな?」
イラつきを募らせる俺と堕天使とは対照的に、元勇者は落ち着いた笑顔でそう神に聞いた。
『よく聞いてくれました!……あ~やっと話が進められるよ』
後半の方は小さく呟いていたが、俺にはバッチリ聞こえていた。多分他の奴らも聞こえていただろう。
神は一度咳払いし、マイクを握り直すと俺達に向かって指を突きつけて言い放った。
『世界から拒絶された皆さん!君たちの命はオレが預かりました!もう一度世界に受け入れてほしくばオレの為に働くのだ!』
「「「「『……は?』」」」」
――五人全員の声が重なった。
『あれ?いた!急に出てきた!いやー、オレひとりだと思ってたっすから誰かいてチョーうれしいっす!!あの、ここどこかわかるっすか!?』
流暢に話す巨大狼は俺たちを見て嬉しそうに尻尾を振った。
見た目凄く獰猛な狼のようだが、中身は完全に犬だな。
「残念だけど、私たちにもここがどこだかわからないのよ」
『そうっすか……残念っす……』
堕天使が言うと、もげそうなくらい振られていた尻尾がしゅんと垂れた。やはり犬だな……。
「貴様はただの狼……というわけではないよな?」
『オレっすか?オレは「フェンリル」っす!!神狼っすよ!!』
狼は胸を張るように答えた。
「あら。私もフェンリルは知っているけど、こんなハイテンションではなかったし、喋らなかったわよ?完全に神のペット扱いだったわ」
「俺の知ってるフェンリルは俺の家の番犬だったが……見た目もお前よりグロかったぞ。頭三つあったからな」
俺のフェンリルは勇者の襲撃があったときに勇者一行に殺されたな……。結局アイツの墓も作れないまま俺も死んでしまったようだが……
『オレはオレっすよ?フェンリルもオレだけっす!!』
「成程……どうやら私たち、全員別の世界から来ているようだわ」
「だから互いに面識がないのだな」
いわゆる異世界というやつなのだろう。
俺を殺した勇者も別世界から呼ばれた人間であったようだし、異世界という概念はある。
堕天使も死神もこのフェンリルも、皆別の世界からこの黒い空間に集められたといえば納得できる。
「……で、神狼は……どうして死んだ?」
死神がフェンリルに聞いた。するとフェンリルは首を傾げた。
『死んだ?いやオレ死んでないっすよ!』
「なんだと?」
『オレ、とにかく腹が減ってて、自分の周りのものなんでも喰いまくって……気が付いたらここに居たっすよ!』
「……どういうことかしら」
「まったくわからんな」
どうやらこのフェンリルは本能の赴くままに動くタイプらしく、細かいことは考えないようだ。考えられないのかもしれないが。
「とにかく、この狼さんもここのことは何もわからないようね……どうしたらいいのかしら。結構前からここにいるようだけど、時間が経ってるような感じもしないし……」
堕天使の言葉どおり、俺はもう随分長いことここに居るような気がしているが、しかし時間が経っているようにも感じられなかった。
「もうほかには……ここには誰もいないのか……?」
「――あれ、なんだ。誰かいるじゃん」
他に誰かいないかと辺りを見回した死神の言葉に答える声があった。
黒い空間から、今度は聖なる力を纏った男が現れた。
この感じは――
「――勇者か!?貴様!!」
俺の一番嫌いな存在である、勇者の纏う力と同じであった。
「え、俺?ああ、確かに勇者だったけど?でもついさっき処刑されたからもう勇者じゃなくなったけどね。いうなら、元勇者ってとこかな」
「処刑……されただと?」
よくよく見てみると、この目の前にいる勇者は俺を殺した勇者ではなかった。
元勇者と名乗ったその男は、俺の言葉に肩をすくめた。
「うん、そう。俺は魔王を倒すべく勇者になって、魔法だの剣術だの、つけられる力はなんでもつけて、魔王を倒したんだけど……魔王の脅威が去ったら今度は、魔王を倒すような力を持った俺が脅威だなんて言われ出してね。それでついさっき処刑されたってわけさ」
「……そんな戯言を言って……俺が信じると思うのか?」
「信じてもらわないと困るなあ。だって本当のことだし」
元勇者だという男はあっけらかんと笑った。その態度はとてもつい先程処刑された人間とは思えなかった。
「もしその話が本当だとして……あなたは人間たちの為に戦ったのに、処刑されたということでしょう?何故そんな風に笑っていられるの?」
堕天使がいたわるように言った。
「ん~……まあ、ある程度予想はついてたしね。それに処刑されちゃったものはもう仕方ないしさ」
「……達観してるわね」
「でも、俺を処刑するって決定したクソ王はぶっ殺してやりたいな~とは思ってるけどね」
「そういう感情はまだあるみたいで安心したわ」
堕天使の言葉に苦笑いを零した元勇者は、周りを見回して言った。
「それよりここが死後の世界ってことでいいの?君たちも死んだの?」
「私やそこの魔王さんや死神さんは確かに死んだ記憶があるわ。でもフェンリル……狼さんはそんな記憶はないと言っているわ」
『オレはなんでも喰いまくって気が付いたらここに居た!』
「ふ~ん……よくわかんないけど、それじゃあ死後の世界ではないのかな。じゃあここは何なんだろう?」
元勇者がそう言ったときだった。
『――お集まりいただきました皆さ~ん!!こちらに注目してくださ~~~い!!』
漆黒の空間には似つかないハイテンションな声が、空間中に響き渡った。
謎の声は『こちら』なんて言ったが、そこら中に声が反響しているのでどこを向いたらいいかわからない。
『こっちだってば、こっち!』
「だからどっちだ」
「わんわん反響してて、どこから聞こえてるのかわからないよ」
俺と元勇者が言うと、声は『ああ、そういえば音量調節を忘れてた』と言った。
――カッ!
すると、真っ暗だった空間が突如目がつぶれるかと思うくらいの光に照らされた。
「ま、眩しい……消滅する……」
『うわあああ!なんも見えないっすー!!まぶしいい』
「神狼さんは獣だから目がいいのね」
「お前サングラスなんて持ってたのか……」
死神や神狼は眩しさに目をやられていたが、堕天使はどこからか出したサングラスを装着して平然としていた。
ようやく明るさに目が慣れ、光が照らされている方を見ると、そこに一つの人影があるのがわかった。
『はい!こんにちは世界から拒絶された皆さん!!お集まりいただきありがとうございます!というかオレが集めたんだけどね(笑)』
その人影はよくわからない形の棒?上が丸くて下が筒になっているものを持って立っていた。
その背中には純白の羽が三対ついている。
「キンキン反響してたのはマイクのせいか~……」
元勇者がそんなことを呟いていたが、マイクとはなんだろうか?
「おい、貴様はなんだ?まあ察しはつくが……」
『はい、魔王くんの疑問にお答えしましょう!オレはぁ、超えら~~い神様です!!』
「……神?あなたが?本当に?」
横を見ると、堕天使が今にも人一人殺せそうなくらいの殺気を纏って自称『神』を睨み付けていた。
『まあまあ落ち着いて堕天使ちゃん。オレは君の大嫌いな神とは違うから。むしろオレあの神より超えらいから、超』
「……どういうこと?返答によっては殺すわよ」
『だから落ち着きなさいって。流石、実際に神を殺した堕天使ちゃんは違うね~』
からかうように言う神に対し、俺は堕天使の怒りのボルテージがさらに上がっていくのを横にいて感じていた。
「やっぱりあなたはここで殺すわ」
『やめてぇ!オレは君ごときには殺せないよ!何しろオレはすべての世界の統括をしている神のなかの神!だからね!』
ドヤ顔で言い放った神に俺も殺意が沸いた。
「堕天使。あの神殺すぞ。俺も協力してやる」
「あらありがとう」
『君たち人の話聞いてた!?』
うるさい神は無視し、俺達は力を籠めようとした。
……が、なぜかうまく力が溜まらず、すぐに霧散してしまった。
「な……どういうことだ?」
「神……あなたがなにかしたの?」
『ここはオレが創った簡易的な空間だからね。創造主の許可なしに力を使うことはできないよ』
「なんだと……?」
「君たちみたいな人外に遠慮なしに力をぶっ放されちゃったらいくらオレの創った空間といえどぶっ壊されちゃうからね~。だから今の君たちは、何の力もありません!大人しく話を聞いた方がいいよ?」
神は、したり顔でこちらを見ていた。ムカつく。
「それで、そのえら~い神様が、俺たちを集めてどうするつもりなのかな?」
イラつきを募らせる俺と堕天使とは対照的に、元勇者は落ち着いた笑顔でそう神に聞いた。
『よく聞いてくれました!……あ~やっと話が進められるよ』
後半の方は小さく呟いていたが、俺にはバッチリ聞こえていた。多分他の奴らも聞こえていただろう。
神は一度咳払いし、マイクを握り直すと俺達に向かって指を突きつけて言い放った。
『世界から拒絶された皆さん!君たちの命はオレが預かりました!もう一度世界に受け入れてほしくばオレの為に働くのだ!』
「「「「『……は?』」」」」
――五人全員の声が重なった。
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