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第0章―世界から拒絶された俺たち
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『魔王様!お願いします……逃げてください!もう勇者がそこまで――』
『逃げる?そんなこと、できるわけがないだろう!それより、貴様が逃げろ!』
『嫌です!僕は最期まで貴方の側に――』
――彼奴が俺へ伸ばした手は、届かなかった。
***
――どこだ、ここは?
周りを見回して、最初に浮かんだのは、それだった。
俺の名前はベリアル。魔界の王だった。
だが、つい先ほど、魔界まで攻めてきた勇者によって……不本意だが、非常に不本意だが――俺は勇者によって殺されたはずだ。
この俺の胸をあの勇者の忌々しい聖剣が貫いたのをはっきり覚えているからだ。
思い出したら、ふつふつと怒りが沸き上がってきた。
最初俺達魔族に喧嘩を吹っかけてきたのは人間共だというのに……
それはともかくとして、本当にここはどこなのだろうか。
周りは何もなく、どこまでも続く黒い空間が広がっているだけだ。
もしかしてここが死後の世界なのだろうか?
だが俺は冥界の王とも知り合いだったし、冥界にも行ったことはあるが、こんな何もない空間ではなかった。
「誰かいないのか」
何も返ってはこないだろうとは思ったが、声を出してみた。
「……そこに誰かいるの?」
そうしたら、驚いたことに声が返ってきた。
「誰だ?貴様は。姿を現せ」
そういうと、別の存在の姿が現れた。
それは背中に漆黒の翼を携えた女だった。
「私はルミアル。堕天使よ」
「堕天使だと?」
「そういうあなたは、魔族のようね」
「そうだが。というか魔王だ」
「それはおかしいわね。私の知っている魔王は貴方ではなかったけど?」
「それを言うなら、俺も貴様のような堕天使は知らんぞ」
俺も、ルミアルと名乗った堕天使も、お互いに見覚えはなかった。
おかしい。俺は仮にも魔王であった存在だ。堕天使も知らない存在はいなかったはずだが……
「まあいいわ。こんなよくわからないところだもの、私の知らない魔王がいてもおかしくはないでしょう。それよりあなた、私のほかに誰かと会わなかったかしら」
「残念だが、会ってない」
「そう……本当に残念だわ。私もあなた以外とは会ってないのよ。ついさっき次元の狭間に飛ばされたかと思ったら次の瞬間にはここに居て、誰もいないし周りになにもないしで、困っていたのよ」
「貴様も死んだのか?」
俺がそう問うと、堕天使は顎に手を当て考えた。
「私としては死んだつもりはなかったのだけど、流石の私でも次元の狭間では生きられないから、死んだのでしょうね……。『も』ということは、あなたも死んだということでいいのかしら」
「……ああ、ついさっき勇者によってな」
「あらそうなの。それはご愁傷様ね」
全くそう思っていなさそうな堕天使は、もう一度辺りを見回した。
「それじゃあここは死後の世界ってことになるのかしら。それにしたって何もないわね……。誰かほかにいないの?なんて、いるわけないわよね」
堕天使がそういって肩をすくめたときだった。
「……そこに誰か……いるのか」
俺達以外の別の声がして、黒い空間から別の存在が姿を現した。またか。
そこにいたのは暗い色のローブを身にまとい、大鎌をもった骸骨だった。
「あら。いないと思ったらいたわ」
「お前たちは……魔族と、堕天使か?」
「そうだけど、そういうあなたは……死神かしら」
「そうだが……。なぜこんなところに来たのかわからない……ここはどこだ?」
「残念だけど、私たちもよくわかってないのよね」
死神の顔は骨なので表情はよくわからないが、困惑している雰囲気が出ていた。
「死神なら、死後の世界のことは知ってるんじゃないのか?」
「……死後の世界?」
「私たちのあいだで、ここは死後の世界じゃないかと思っていたところなのよ。なぜなら私たち二人とも、死んだところでここに居たから」
「……そうか……。だが、俺も死後の世界のことは知らない……。俺は魂を刈って冥界に送るだけの存在だから」
残念ながら、死神にもここがどこなのかはわからないようだ。
そして死後の世界がどんなところなのかもわからずじまいだった。
「死神さん、あなたも死んだあとここに居たということでいいのかしら?」
「というか死神って死ぬのか?」
俺が聞くと、死神は言った。
「……死神だって生きてる……。生きてる以上は死ぬのは当然だ。俺は、死神界における禁忌を犯して処刑されて死亡した」
「死神の間にも処刑ってあるのね。何をしたの?」
「……本来刈らねばならない魂を刈らなかった……。だから処刑された」
それはつまり……
「本来死ぬはずの命を生き永らえさせたということか?」
「……そうだ。でも俺は、禁忌だとしても、彼女に生きてほしかった……」
死神が急にしんみりした空気を出してきた。
「……大切だったのね。その命が」
「そうだ……死ぬような病気であったのにもかかわらず、とても健気で可憐で美しい魂を持った……少女だった。ずっとそのままでいてほしくて俺は……」
「刈るはずの魂を刈らなかったのね」
「ああ、そして俺はその魂を操作して……ずっと少女のままでいるようにした……」
「……ん?」
……なんだか雲行きが怪しくなってきたんだが。
「そのままでいてほしかったから……幼気な少女の姿のままでな……。そうしたら魂操作の罪で処刑された」
「……待て、魂を刈らなかったから処刑されたんじゃないのか?」
「そんなことで処刑はされない……。だけど俺は魂をいじった……」
「……ずっと少女のままでいてほしくてか?」
「そうだ……俺は少女にしか興味はない……」
変態じゃねえか!!
「あなたはむしろ処刑されるべきだったわね」
「幼気な少女の魂をいじるとは……何というやつだ」
「……死神界の長からもそう言われた……何故だ?」
「まったく悪いと思っていないところが性質悪いな」
「そうね」
堕天使と頷きあったが、当の死神は全くわかっていなさそうで、首を傾げていた。
「とにかく、死神さんも死んでここにきたわけね。それなら他にもまだいそうなものだけど……私たち三人だけなのかしら」
『だれか!だれかいないっすか!?だれかー!!』
「……まだいるようね」
『逃げる?そんなこと、できるわけがないだろう!それより、貴様が逃げろ!』
『嫌です!僕は最期まで貴方の側に――』
――彼奴が俺へ伸ばした手は、届かなかった。
***
――どこだ、ここは?
周りを見回して、最初に浮かんだのは、それだった。
俺の名前はベリアル。魔界の王だった。
だが、つい先ほど、魔界まで攻めてきた勇者によって……不本意だが、非常に不本意だが――俺は勇者によって殺されたはずだ。
この俺の胸をあの勇者の忌々しい聖剣が貫いたのをはっきり覚えているからだ。
思い出したら、ふつふつと怒りが沸き上がってきた。
最初俺達魔族に喧嘩を吹っかけてきたのは人間共だというのに……
それはともかくとして、本当にここはどこなのだろうか。
周りは何もなく、どこまでも続く黒い空間が広がっているだけだ。
もしかしてここが死後の世界なのだろうか?
だが俺は冥界の王とも知り合いだったし、冥界にも行ったことはあるが、こんな何もない空間ではなかった。
「誰かいないのか」
何も返ってはこないだろうとは思ったが、声を出してみた。
「……そこに誰かいるの?」
そうしたら、驚いたことに声が返ってきた。
「誰だ?貴様は。姿を現せ」
そういうと、別の存在の姿が現れた。
それは背中に漆黒の翼を携えた女だった。
「私はルミアル。堕天使よ」
「堕天使だと?」
「そういうあなたは、魔族のようね」
「そうだが。というか魔王だ」
「それはおかしいわね。私の知っている魔王は貴方ではなかったけど?」
「それを言うなら、俺も貴様のような堕天使は知らんぞ」
俺も、ルミアルと名乗った堕天使も、お互いに見覚えはなかった。
おかしい。俺は仮にも魔王であった存在だ。堕天使も知らない存在はいなかったはずだが……
「まあいいわ。こんなよくわからないところだもの、私の知らない魔王がいてもおかしくはないでしょう。それよりあなた、私のほかに誰かと会わなかったかしら」
「残念だが、会ってない」
「そう……本当に残念だわ。私もあなた以外とは会ってないのよ。ついさっき次元の狭間に飛ばされたかと思ったら次の瞬間にはここに居て、誰もいないし周りになにもないしで、困っていたのよ」
「貴様も死んだのか?」
俺がそう問うと、堕天使は顎に手を当て考えた。
「私としては死んだつもりはなかったのだけど、流石の私でも次元の狭間では生きられないから、死んだのでしょうね……。『も』ということは、あなたも死んだということでいいのかしら」
「……ああ、ついさっき勇者によってな」
「あらそうなの。それはご愁傷様ね」
全くそう思っていなさそうな堕天使は、もう一度辺りを見回した。
「それじゃあここは死後の世界ってことになるのかしら。それにしたって何もないわね……。誰かほかにいないの?なんて、いるわけないわよね」
堕天使がそういって肩をすくめたときだった。
「……そこに誰か……いるのか」
俺達以外の別の声がして、黒い空間から別の存在が姿を現した。またか。
そこにいたのは暗い色のローブを身にまとい、大鎌をもった骸骨だった。
「あら。いないと思ったらいたわ」
「お前たちは……魔族と、堕天使か?」
「そうだけど、そういうあなたは……死神かしら」
「そうだが……。なぜこんなところに来たのかわからない……ここはどこだ?」
「残念だけど、私たちもよくわかってないのよね」
死神の顔は骨なので表情はよくわからないが、困惑している雰囲気が出ていた。
「死神なら、死後の世界のことは知ってるんじゃないのか?」
「……死後の世界?」
「私たちのあいだで、ここは死後の世界じゃないかと思っていたところなのよ。なぜなら私たち二人とも、死んだところでここに居たから」
「……そうか……。だが、俺も死後の世界のことは知らない……。俺は魂を刈って冥界に送るだけの存在だから」
残念ながら、死神にもここがどこなのかはわからないようだ。
そして死後の世界がどんなところなのかもわからずじまいだった。
「死神さん、あなたも死んだあとここに居たということでいいのかしら?」
「というか死神って死ぬのか?」
俺が聞くと、死神は言った。
「……死神だって生きてる……。生きてる以上は死ぬのは当然だ。俺は、死神界における禁忌を犯して処刑されて死亡した」
「死神の間にも処刑ってあるのね。何をしたの?」
「……本来刈らねばならない魂を刈らなかった……。だから処刑された」
それはつまり……
「本来死ぬはずの命を生き永らえさせたということか?」
「……そうだ。でも俺は、禁忌だとしても、彼女に生きてほしかった……」
死神が急にしんみりした空気を出してきた。
「……大切だったのね。その命が」
「そうだ……死ぬような病気であったのにもかかわらず、とても健気で可憐で美しい魂を持った……少女だった。ずっとそのままでいてほしくて俺は……」
「刈るはずの魂を刈らなかったのね」
「ああ、そして俺はその魂を操作して……ずっと少女のままでいるようにした……」
「……ん?」
……なんだか雲行きが怪しくなってきたんだが。
「そのままでいてほしかったから……幼気な少女の姿のままでな……。そうしたら魂操作の罪で処刑された」
「……待て、魂を刈らなかったから処刑されたんじゃないのか?」
「そんなことで処刑はされない……。だけど俺は魂をいじった……」
「……ずっと少女のままでいてほしくてか?」
「そうだ……俺は少女にしか興味はない……」
変態じゃねえか!!
「あなたはむしろ処刑されるべきだったわね」
「幼気な少女の魂をいじるとは……何というやつだ」
「……死神界の長からもそう言われた……何故だ?」
「まったく悪いと思っていないところが性質悪いな」
「そうね」
堕天使と頷きあったが、当の死神は全くわかっていなさそうで、首を傾げていた。
「とにかく、死神さんも死んでここにきたわけね。それなら他にもまだいそうなものだけど……私たち三人だけなのかしら」
『だれか!だれかいないっすか!?だれかー!!』
「……まだいるようね」
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