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選んだその先に#4(第一部最終話)
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「おや、北大路君ではないですか。もしかして、柊司君を迎えに来てくださったのですか?」
「ああ。……コイツもう連れてって良いんだよな」
「ええ」
「じゃあ行くぞシュウ」
「え、ちょ、ちょっと待ってよハル!」
ハルは俺の手を掴むとそのまま俺を連れて行こうとするので、必死で踏ん張って彼を止めた。
父さんに何も言わずに寮に帰るのは流石に申し訳なさすぎる。
「と、父さん!今日はありがとう!またね!」
「あ、ああ。元気でやるんだぞー……」
困惑気味の父さんに、ハルは小さく頭を下げると、今度こそ俺を引き摺っていってしまった。
「……もしかしてあの金髪イケメン君が……」
「そのようですね。北大路君は入学当初から何かと柊司君を気にかけてくれてましたから」
「マジか……柊司アイツ意外と面食いなんだな……」
取り残された父さんと理事長がそんな会話をしていたなんて、ハルに着いて行くのに必死だった俺は知らない。
***
「乗れ」
「う、うん」
俺はハルに促され、彼の跨る自転車の後ろの荷台に、遠慮がちに乗った。
「おい、ちゃんと捕まれ。落ちるぞ」
「捕まるって……?」
「こう」
自転車の二人乗りをしたことがない俺はどうしたらいいかわからず戸惑っていると、ハルが俺の手を取って自身のお腹に回させた。
つ、捕まるってこういう感じなのか……
お腹に回した両手を離れないように組ませると、どうしてもハルの体に密着する形になってしまう。
ハルのぬくもりと匂いが強くなって、俺は顔を赤らめた。
そんな俺のことを知ってか知らずか、ハルは小さく笑うと自転車をこぎ始めた。
自転車が走り出すと、心地良い風が体を吹き抜けていく。
俺は実は、自転車には乗れない。だから自転車に乗ったのは、これが初めてだったりする。
自転車に乗るってこんな感じなんだなと、俺は寮に着くまでの間、初めての感覚を楽しんだ。
――ハルはいつも俺に、色んな初めてをくれる。
寮に着いて自転車を自転車置き場に置いたハルは、また俺の手を取って歩き始めた。
ハルは普通に俺の手を取ってくるけど、正直俺はハルに手を取られるたび緊張していた。こんな風に誰かと手を繋いだことはなかったからだ。
勿論祥吾とは、小さい頃は良く手を繋いでたけど……成長した今ではそれも無くなっていたし。
だから手を繋ぐって、結構抵抗があることだと思うんだけど……ハルは恥ずかしくないのだろうか……。
「ね、ねえハル」
「なんだ」
「ハルは手繋ぐのって、よくするの……?」
「なんでそんなこと聞く?」
「だって……今も普通に俺の手……」
「……」
ハルは俺とつないだ手を見つめると、フッと笑った。
「だってお前、こうやって掴んでおかねえと途中で行き倒れそうだし」
「そ、そんなこと……!」
ない、とも言い切れないのが悲しい。
「冗談だよ。……俺が繋ぎたいだけだ」
「……!」
そんなことを言われたら、どう反応したらいいかわからなかった。
ただ、繋がる手と自身の顔が熱くなるのを感じていた。
ハルと手を繋いだまま、寮の部屋の前までやってきた。
この部屋の中では祥吾が俺の帰りを今もそわそわしながら待っているに違いない。――まだ、祥吾には俺が学校を続けることを言っていなかったから。
祥吾にはこの一週間、ずっと気を揉ませてしまったから早く安心させてあげたい。
けど、ハルと繋いだ手を離すのがなんだか名残惜しくて、中々ドアノブに手を掛けられないでいると、繋いだ手をぐい、と引かれた。
突然手を引かれて、バランスを崩した俺が倒れ込みそうになったのを、手を引いた本人――ハルに支えられた。
「は、ハル?何を……、んっ」
ハルは倒れこんできた俺の身体を支えながら、俺の顎を掴むとおもむろにキスをしてきた。
「……ぷは!何すんだよいきなり!」
「見せつけ」
「は?」
何を言っているのかと思ったら、背後で部屋のドアが開いていることに今、気付いた。
「……北大路治良ぃぃぃ!!何してんだこのヤロー!!」
「しょ、祥!!?」
そしていつの間にか部屋から出てきていたらしい祥吾が叫んだ。
「お、おま、いつから見て……」
「柊の気配がドアの向こうからしたから開けてみたら何やってんだよこの野郎!!やっぱり『友達』どころじゃなかったじゃねえか!!」
「――ああ、もう認める。そういうわけでコイツ俺のもんだからよろしく」
「何がよろしくだふざけんな!!」
ハルと祥吾が言い争っている中、俺は羞恥に見舞われていた。
まさか弟にキスしてるところを見られるなんて……!
「柊にそれ以上触ったら許さないからな!!」
「俺のもんに触って何が悪い?」
「柊はお前のものじゃねーよ!!」
そんな感じで寮の廊下で騒いでいたものだから、何事かと他の部屋の人たちが顔を覗かせ始めていた。
「ちょ、ちょっと二人とも!他の人たち見てるから……!」
「……ん?ああ、本当だな。――んじゃシュウ。また明日な」
「えっ、あ、うん……また明日」
「あっ待てよ北大路治良!!オレは絶対認めないからなぁ!!」
祥吾の捨て台詞もお構いなしに、ハルは余裕綽々で去っていった。
そんな彼に対して憤慨する祥吾を宥めながらも、俺は「また明日」と言い合えることの嬉しさを噛み締めていた。
――第一部 完
「ああ。……コイツもう連れてって良いんだよな」
「ええ」
「じゃあ行くぞシュウ」
「え、ちょ、ちょっと待ってよハル!」
ハルは俺の手を掴むとそのまま俺を連れて行こうとするので、必死で踏ん張って彼を止めた。
父さんに何も言わずに寮に帰るのは流石に申し訳なさすぎる。
「と、父さん!今日はありがとう!またね!」
「あ、ああ。元気でやるんだぞー……」
困惑気味の父さんに、ハルは小さく頭を下げると、今度こそ俺を引き摺っていってしまった。
「……もしかしてあの金髪イケメン君が……」
「そのようですね。北大路君は入学当初から何かと柊司君を気にかけてくれてましたから」
「マジか……柊司アイツ意外と面食いなんだな……」
取り残された父さんと理事長がそんな会話をしていたなんて、ハルに着いて行くのに必死だった俺は知らない。
***
「乗れ」
「う、うん」
俺はハルに促され、彼の跨る自転車の後ろの荷台に、遠慮がちに乗った。
「おい、ちゃんと捕まれ。落ちるぞ」
「捕まるって……?」
「こう」
自転車の二人乗りをしたことがない俺はどうしたらいいかわからず戸惑っていると、ハルが俺の手を取って自身のお腹に回させた。
つ、捕まるってこういう感じなのか……
お腹に回した両手を離れないように組ませると、どうしてもハルの体に密着する形になってしまう。
ハルのぬくもりと匂いが強くなって、俺は顔を赤らめた。
そんな俺のことを知ってか知らずか、ハルは小さく笑うと自転車をこぎ始めた。
自転車が走り出すと、心地良い風が体を吹き抜けていく。
俺は実は、自転車には乗れない。だから自転車に乗ったのは、これが初めてだったりする。
自転車に乗るってこんな感じなんだなと、俺は寮に着くまでの間、初めての感覚を楽しんだ。
――ハルはいつも俺に、色んな初めてをくれる。
寮に着いて自転車を自転車置き場に置いたハルは、また俺の手を取って歩き始めた。
ハルは普通に俺の手を取ってくるけど、正直俺はハルに手を取られるたび緊張していた。こんな風に誰かと手を繋いだことはなかったからだ。
勿論祥吾とは、小さい頃は良く手を繋いでたけど……成長した今ではそれも無くなっていたし。
だから手を繋ぐって、結構抵抗があることだと思うんだけど……ハルは恥ずかしくないのだろうか……。
「ね、ねえハル」
「なんだ」
「ハルは手繋ぐのって、よくするの……?」
「なんでそんなこと聞く?」
「だって……今も普通に俺の手……」
「……」
ハルは俺とつないだ手を見つめると、フッと笑った。
「だってお前、こうやって掴んでおかねえと途中で行き倒れそうだし」
「そ、そんなこと……!」
ない、とも言い切れないのが悲しい。
「冗談だよ。……俺が繋ぎたいだけだ」
「……!」
そんなことを言われたら、どう反応したらいいかわからなかった。
ただ、繋がる手と自身の顔が熱くなるのを感じていた。
ハルと手を繋いだまま、寮の部屋の前までやってきた。
この部屋の中では祥吾が俺の帰りを今もそわそわしながら待っているに違いない。――まだ、祥吾には俺が学校を続けることを言っていなかったから。
祥吾にはこの一週間、ずっと気を揉ませてしまったから早く安心させてあげたい。
けど、ハルと繋いだ手を離すのがなんだか名残惜しくて、中々ドアノブに手を掛けられないでいると、繋いだ手をぐい、と引かれた。
突然手を引かれて、バランスを崩した俺が倒れ込みそうになったのを、手を引いた本人――ハルに支えられた。
「は、ハル?何を……、んっ」
ハルは倒れこんできた俺の身体を支えながら、俺の顎を掴むとおもむろにキスをしてきた。
「……ぷは!何すんだよいきなり!」
「見せつけ」
「は?」
何を言っているのかと思ったら、背後で部屋のドアが開いていることに今、気付いた。
「……北大路治良ぃぃぃ!!何してんだこのヤロー!!」
「しょ、祥!!?」
そしていつの間にか部屋から出てきていたらしい祥吾が叫んだ。
「お、おま、いつから見て……」
「柊の気配がドアの向こうからしたから開けてみたら何やってんだよこの野郎!!やっぱり『友達』どころじゃなかったじゃねえか!!」
「――ああ、もう認める。そういうわけでコイツ俺のもんだからよろしく」
「何がよろしくだふざけんな!!」
ハルと祥吾が言い争っている中、俺は羞恥に見舞われていた。
まさか弟にキスしてるところを見られるなんて……!
「柊にそれ以上触ったら許さないからな!!」
「俺のもんに触って何が悪い?」
「柊はお前のものじゃねーよ!!」
そんな感じで寮の廊下で騒いでいたものだから、何事かと他の部屋の人たちが顔を覗かせ始めていた。
「ちょ、ちょっと二人とも!他の人たち見てるから……!」
「……ん?ああ、本当だな。――んじゃシュウ。また明日な」
「えっ、あ、うん……また明日」
「あっ待てよ北大路治良!!オレは絶対認めないからなぁ!!」
祥吾の捨て台詞もお構いなしに、ハルは余裕綽々で去っていった。
そんな彼に対して憤慨する祥吾を宥めながらも、俺は「また明日」と言い合えることの嬉しさを噛み締めていた。
――第一部 完
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感想ありがとうございます!
格好つききらない感じの俺様会長が私のツボです笑
感想をいつもありがとうございます!
風紀委員でした笑
王道学園には外せませんよね!
いつも感想をありがとうございます😊
さて、誰でしょうか…笑