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自覚#2
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~柊司side~
祥吾に胸の内を打ち明けた翌日の昼。
俺は一人、校舎の屋上に居た。最近雨が続いていたけど、梅雨の晴れ間なのか、珍しく青空が広がっていた。穏やかな風が、一人佇む俺の髪を揺らす。
篠北先生の診察を終えた後、いつもなら空き教室でお昼を食べるけど、今日はそんな気分になれず、気付いたらここに来ていた。
祥吾も俺の話を聞いて思うことがあったのか、いつもなら俺にべったりなのに、今日はお昼を要らないと言ったら素直に頷いてくれた。
屋上からは、この学校の広い敷地が一望出来た。
改めて見ると本当に、この学校は広い。あまりにも広くて……屋上に一人居る自分がちっぽけな存在に思えてくる。
まだ、この学校で過ごした時間は三か月もないけど……色々あったなと思い起こす。
その中でも一番、大きな出来事は……
――そのとき、背後で屋上の扉が開いた。
「……シュウ」
「あ……、ハル……」
屋上の扉を開けたのは、ハルだった。
何だか久しぶりに姿を見た気がする。最近はお昼になっても学校に来てないことが多かったから。
「なんか久しぶりだな……ハル。元気だった?」
「俺は別に……お前こそどうなんだ」
「うん、まあ……そこそこかな」
ハルが居ない間も俺は吐いたり倒れたりしたが、わざわざそれを言う気にはなれなかった。
それにしてもハルは、なんでここに来たんだろうか?
「ハル……、なんでここに来たの?最近、学校にも来てなかったのに」
「……」
理由を聞いたら、ハルは口を噤んでしまった。
そもそも、俺はハルがなんでいつも学校をサボりがちなのかもよく知らない。……なんだかんだ、俺たちは友達だと言いつつも、お互いまだ知らないことも多かった。
この学校に来て、一番の大きな出来事。それは……間違いなく、ハルとの出会いだ。
俺にとっては、それが一番大きかった。……初めて出来た、俺の友達。
ハルにとっても……そうだったらいいのに。
「……なあ、シュウ」
「ん……?」
「お前、学校辞めんのか」
「……、誰から聞いたの?」
「……お前の弟」
「フフッ、やっぱり」
――何となく、ハルがここにきたときから、わかっていた。
ハルは、祥吾に言われてここに来たんだろうってことを。
昨日話をしてから祥吾は、何か考え込んでいたからだ。祥吾も俺の隠し事に敏感だけど、俺だって祥吾の兄だから、アイツの考えてることはわかるのだ。
「祥吾に俺を説得するよう言われた?」
「……」
「だと思った」
訊くとハルはあからさまに目を逸らしたので、俺は笑った。
「ハルは……」
「確かに俺はあいつに話を聞いてここに来た。でも、説得しろとは言われてねえ」
「え……」
ハルは優しいな、と言おうとしたところで、彼が急に口を開いたので俺は固まった。
「じゃあ……何で?」
「辞めんなよ」
「……っ」
「学校辞めんな。それを言いに来た」
ハルは、真剣なまなざしで俺を見ていた。
「……それ、説得って言うんじゃ……」
「説得ってのは納得させることだろ。俺はそうするつもりはねえよ。ただ……俺の希望を言いに来ただけだ」
「希望、って……」
「俺はお前に辞めてほしくない」
ハルは依然俺を見つめたまま、そう言った。
「な、何で……?」
「まだ一緒に居てえから」
「……な……」
全く顔色を変えずにそう言い放ったハルに、俺が逆に赤面してしまった。
「な、なんだよ、それ……」
「辞めたらもう会えなくなる。それは俺が嫌だ」
「な、何で嫌なの……」
「お前しか居なかったから」
「……?」
「俺を見た目や噂だけで判断しなかった奴はお前だけだったから」
ハルのその言葉に、俺は息を呑んだ。
確かにハルには色んな噂があるのは聞いていた。それに、北大路一族だというだけで遠巻きにされていることも知っていた。
でも、そんなものは……ハル自身とは全く関係ないものだって、俺は思っていた。
俺にとってのハルは、困っていたら助けてくれて、手が暖かくて、優しい……普通の男の子だった。
「お前が、この学校に来なかったら……多分、俺達は出会えなかった。そして、これからも……多分この学校でしか、俺達は一緒に居られねえ」
「……」
「だからせめて、この学校に居る間だけは……一緒に居てえんだよ、俺は」
ハルが、こんな風に気持ちを話してくれたのは、初めてだった。
……そうか。ハルにとっても、俺との出会いは……一番の思い出だったのか。
「……こんな、すぐ倒れて迷惑ばっかかけるような俺と……一緒に居たいの」
「ああ」
「これからも、多分、俺は……何度も倒れて、迷惑ばっかりかけるけど……それでもいいの」
「いいよ。俺が何度でも助けてやる」
ハルは俺の方へと近づくと、俺を包み込むように抱きしめた。
相変わらず暖かい、ハルの腕の中だった。
とくとくと、ハルの鼓動が俺に伝わる。
ハルの腕の中で、彼の顔を見た時――情愛に揺れる瞳と目が合った。
その時――俺はすとんと気が付いた。
――俺はハルが好きだってことに。
まさか、初めての恋が――初めての友達に対するものだなんて、思わなかった。
「ハル……俺……、んっ」
目が合った瞬間、ハルの顔が目の前に迫り――口が塞がれた。彼の柔らかい唇が俺の唇と重なる。
「ん……、ぁ……っ」
キスなんてしたのは、初めてだった。――俺、ハルに初めてを全部奪われてる……。
でもハルは、初めてで戸惑う俺のことなんてお構いになしに、俺の口の中を舌で掻きまわして……ようやく俺を解放した。
当然俺は、初めてのことに身体がついて行けず――解放された瞬間、ぐったりとハルに凭れ込んでしまった。
「……はあ、はあ……は、ハル……」
「……悪い。止めらんなかった」
「うう……」
キスの合間ほとんどうまく息を吸えなかった俺は酸欠で頭がぐるぐるしていた。
しかも、ハルが好きだと気付いたその次の瞬間にはキスされていて、最早混乱状態だった。
「な、なんで……」
「一緒に居たいっつったろ」
「だ、だからって、キスまで……」
「お前も欲しそうな顔してたじゃねえか」
「そ、そんな顔、してな……」
「嘘付くな」
ハルには嘘とか言われたが、本当にそんなつもりはなかった。
でも……ハルの俺を見つめる瞳とかち合ったとき、確かに自分でもこれを望んでしまったような気がする。
「もう俺……動けないよ」
「俺が運んでやる」
「また運ばれるの、俺……」
「俺以外に運ばれんなよもう」
「誰にも運ばれるつもりないよ!!」
「じゃあ歩けるか?」
「……」
そう言われてつい目をそらしてしまうと、ハルが可笑しそうに笑った。
――俺が一番好きな、ハルの笑顔だった。
***
祥吾に胸の内を打ち明けた翌日の昼。
俺は一人、校舎の屋上に居た。最近雨が続いていたけど、梅雨の晴れ間なのか、珍しく青空が広がっていた。穏やかな風が、一人佇む俺の髪を揺らす。
篠北先生の診察を終えた後、いつもなら空き教室でお昼を食べるけど、今日はそんな気分になれず、気付いたらここに来ていた。
祥吾も俺の話を聞いて思うことがあったのか、いつもなら俺にべったりなのに、今日はお昼を要らないと言ったら素直に頷いてくれた。
屋上からは、この学校の広い敷地が一望出来た。
改めて見ると本当に、この学校は広い。あまりにも広くて……屋上に一人居る自分がちっぽけな存在に思えてくる。
まだ、この学校で過ごした時間は三か月もないけど……色々あったなと思い起こす。
その中でも一番、大きな出来事は……
――そのとき、背後で屋上の扉が開いた。
「……シュウ」
「あ……、ハル……」
屋上の扉を開けたのは、ハルだった。
何だか久しぶりに姿を見た気がする。最近はお昼になっても学校に来てないことが多かったから。
「なんか久しぶりだな……ハル。元気だった?」
「俺は別に……お前こそどうなんだ」
「うん、まあ……そこそこかな」
ハルが居ない間も俺は吐いたり倒れたりしたが、わざわざそれを言う気にはなれなかった。
それにしてもハルは、なんでここに来たんだろうか?
「ハル……、なんでここに来たの?最近、学校にも来てなかったのに」
「……」
理由を聞いたら、ハルは口を噤んでしまった。
そもそも、俺はハルがなんでいつも学校をサボりがちなのかもよく知らない。……なんだかんだ、俺たちは友達だと言いつつも、お互いまだ知らないことも多かった。
この学校に来て、一番の大きな出来事。それは……間違いなく、ハルとの出会いだ。
俺にとっては、それが一番大きかった。……初めて出来た、俺の友達。
ハルにとっても……そうだったらいいのに。
「……なあ、シュウ」
「ん……?」
「お前、学校辞めんのか」
「……、誰から聞いたの?」
「……お前の弟」
「フフッ、やっぱり」
――何となく、ハルがここにきたときから、わかっていた。
ハルは、祥吾に言われてここに来たんだろうってことを。
昨日話をしてから祥吾は、何か考え込んでいたからだ。祥吾も俺の隠し事に敏感だけど、俺だって祥吾の兄だから、アイツの考えてることはわかるのだ。
「祥吾に俺を説得するよう言われた?」
「……」
「だと思った」
訊くとハルはあからさまに目を逸らしたので、俺は笑った。
「ハルは……」
「確かに俺はあいつに話を聞いてここに来た。でも、説得しろとは言われてねえ」
「え……」
ハルは優しいな、と言おうとしたところで、彼が急に口を開いたので俺は固まった。
「じゃあ……何で?」
「辞めんなよ」
「……っ」
「学校辞めんな。それを言いに来た」
ハルは、真剣なまなざしで俺を見ていた。
「……それ、説得って言うんじゃ……」
「説得ってのは納得させることだろ。俺はそうするつもりはねえよ。ただ……俺の希望を言いに来ただけだ」
「希望、って……」
「俺はお前に辞めてほしくない」
ハルは依然俺を見つめたまま、そう言った。
「な、何で……?」
「まだ一緒に居てえから」
「……な……」
全く顔色を変えずにそう言い放ったハルに、俺が逆に赤面してしまった。
「な、なんだよ、それ……」
「辞めたらもう会えなくなる。それは俺が嫌だ」
「な、何で嫌なの……」
「お前しか居なかったから」
「……?」
「俺を見た目や噂だけで判断しなかった奴はお前だけだったから」
ハルのその言葉に、俺は息を呑んだ。
確かにハルには色んな噂があるのは聞いていた。それに、北大路一族だというだけで遠巻きにされていることも知っていた。
でも、そんなものは……ハル自身とは全く関係ないものだって、俺は思っていた。
俺にとってのハルは、困っていたら助けてくれて、手が暖かくて、優しい……普通の男の子だった。
「お前が、この学校に来なかったら……多分、俺達は出会えなかった。そして、これからも……多分この学校でしか、俺達は一緒に居られねえ」
「……」
「だからせめて、この学校に居る間だけは……一緒に居てえんだよ、俺は」
ハルが、こんな風に気持ちを話してくれたのは、初めてだった。
……そうか。ハルにとっても、俺との出会いは……一番の思い出だったのか。
「……こんな、すぐ倒れて迷惑ばっかかけるような俺と……一緒に居たいの」
「ああ」
「これからも、多分、俺は……何度も倒れて、迷惑ばっかりかけるけど……それでもいいの」
「いいよ。俺が何度でも助けてやる」
ハルは俺の方へと近づくと、俺を包み込むように抱きしめた。
相変わらず暖かい、ハルの腕の中だった。
とくとくと、ハルの鼓動が俺に伝わる。
ハルの腕の中で、彼の顔を見た時――情愛に揺れる瞳と目が合った。
その時――俺はすとんと気が付いた。
――俺はハルが好きだってことに。
まさか、初めての恋が――初めての友達に対するものだなんて、思わなかった。
「ハル……俺……、んっ」
目が合った瞬間、ハルの顔が目の前に迫り――口が塞がれた。彼の柔らかい唇が俺の唇と重なる。
「ん……、ぁ……っ」
キスなんてしたのは、初めてだった。――俺、ハルに初めてを全部奪われてる……。
でもハルは、初めてで戸惑う俺のことなんてお構いになしに、俺の口の中を舌で掻きまわして……ようやく俺を解放した。
当然俺は、初めてのことに身体がついて行けず――解放された瞬間、ぐったりとハルに凭れ込んでしまった。
「……はあ、はあ……は、ハル……」
「……悪い。止めらんなかった」
「うう……」
キスの合間ほとんどうまく息を吸えなかった俺は酸欠で頭がぐるぐるしていた。
しかも、ハルが好きだと気付いたその次の瞬間にはキスされていて、最早混乱状態だった。
「な、なんで……」
「一緒に居たいっつったろ」
「だ、だからって、キスまで……」
「お前も欲しそうな顔してたじゃねえか」
「そ、そんな顔、してな……」
「嘘付くな」
ハルには嘘とか言われたが、本当にそんなつもりはなかった。
でも……ハルの俺を見つめる瞳とかち合ったとき、確かに自分でもこれを望んでしまったような気がする。
「もう俺……動けないよ」
「俺が運んでやる」
「また運ばれるの、俺……」
「俺以外に運ばれんなよもう」
「誰にも運ばれるつもりないよ!!」
「じゃあ歩けるか?」
「……」
そう言われてつい目をそらしてしまうと、ハルが可笑しそうに笑った。
――俺が一番好きな、ハルの笑顔だった。
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