33 / 41
転校生#1
しおりを挟む
~柊司side~
相変わらず外は雨が降り続いていて、今日も今日とて頭痛はするが、起き上がれないほどではなかった。
結局この二週間、頭痛に加えて風邪も引いてしまい、熱を出して丸々寝込んでしまったのだ。
多少出席日数は優遇してもらっているとはいえ、これ以上は成績的にもまずいだろう。
俺は身体を起こして制服に着替え部屋を出ると、朝食の準備をしていた祥吾が駆け寄ってきた。
「柊!もう起きて大丈夫なの?頭は痛くない?」
「ちょっと痛いけど、これくらいなら平気だよ」
「そう?ならいいけど……ご飯は食べられそう?」
「うん、ちょっとなら。薬も飲まなきゃいけないし」
「わかった、じゃあ用意するね!」
祥吾は笑って朝食の準備を再開した。その顔に少し安堵の色が見えたので、俺は申し訳ない気持ちになった。
この二週間ずっと心配かけてしまっていたからな……。本当に俺、何時まで経っても弟に心配かけてばかりの駄目な兄貴だ……。
祥吾が用意してくれた消化にいい朝食を食べながら内心落ち込んだ。
「そうだ、柊。柊のクラスに転校生来たのって教えたっけ?」
「え?転校生?こんな時期に?」
「そうなんだよ、変だよね」
転校生とは……。またもや俺はタイミングが悪かったようだ。
「その転校生ってどんな奴?」
「……一目見たらわかるよ」
「どういうこと?」
「すごく特徴的だから……色んな意味で」
特徴的って……なんだろうか。
「結構面倒だから、柊は転校生には近づかない方がいい!絶対に!」
「そ、そこまで?」
「うん、絶対近づいちゃ駄目だからね!!」
祥吾にここまで言わせる転校生……一体何者なんだ……。
俺はまだ見ぬ転校生に対し既に若干不安になった。
「それじゃあとでね」
「うん、また」
一緒に登校した祥吾と別れ教室に入った途端、俺は異様な空気を感じ取った。
なんだかよくわからないが、教室内の空気がピリピリしているように感じた。
「――二宮君。おはよう」
「あ……北峯君。おはよう」
俺に気付いて挨拶してくれた北峯君の顔は、なんだか少し疲れているように見えた。
「もう具合はいいの?」
「う、うん。とりあえずは……まだ全快じゃないけど……。それより、北峯君こそなんか疲れてる?」
「ああ、はは……うん、ちょっとね……」
そう言って北峯君は目を逸らした。
いつもシャキッとしている北峯君がこんな反応をするなんて。一体どうしたんだろうか。
「何かあったの?」
「……うちのクラスに一週間前、転校生が来た話は聞いてる?」
「ああ、うん。朝、祥吾に聞いたよ」
「その転校生がね……それはもう色々と……すごいんだよ」
「そ、そうなんだ……」
祥吾だけでなく、北峯君にまで『すごい』と言われる転校生って……
より一層転校生に会うのが怖くなってきたところで、教室の前の扉がけたたましく開かれた。
「皆!!おはよう!!」
――現れたのは、毛玉だった。
違う、毛玉を頭に乗せた人だった。
「な、何……あの頭」
「あれ見たらやっぱり驚くよね」
驚く俺の隣で北峯君が苦笑していた。
そりゃそうだ。ヒジキのような黒くてモジャモジャした頭に、目がわからないほどの瓶底眼鏡。今時あんな眼鏡見たことない。
「も、もしかしてあれが……」
「うん。噂の転校生ね」
……すごいって、あの容姿のことだったのか?
若干遠巻きにされている転校生は、そんなのお構いなしにクラスメイト達に片っ端から挨拶している。見た目に反して結構社交的なようだ。
そんな転校生の後ろに、二つの人影があった。
「琉偉、早く奥入ってよ」
「……」
なかなか奥へ行かない転校生の背中ををやんわり押したのは、爽やかな笑顔が印象的な瀬川君だ。確か祥吾と同じ陸上部だったはず。
そんな瀬川君の手を無言で睨み付けているのは、目つきが鋭い都筑君だった。彼はハルに負けず劣らず、ここらへんでは有名な不良らしい。
二人とも顔がいいのでこの学校では人気が高いと聞いたことがある。
あの二人が、転校生の友達なのかな?
そう隣の北峯君に聞くと、彼は「友達……ならまだいいんだけどね……」と疲れた顔で言った。
「あッ!昇ー!!」
とかなんとか言っていたら、北峯君が転校生に呼ばれた。隣で北峯君が小さく「ゲッ……気付かれた」と言っていたのは気のせいだろう……多分。
「おはよう!!昇!!」
「……うん、おはよう」
「どうした?げんきねーなー?おれが挨拶したらしっかり返せよなー!挨拶は『いちにちのきほん』だっておじさん言ってたぞー!」
うん、間近に来られるとわかる……これはこちらの元気が吸い取られる感じの陽気さだ……。
だが病み上がりにはキツイ。声が大きいから頭にも響くし……。
「ん?あれ?お前……誰だ?」
と思っていたらこちらの存在に気付かれた。やばい。祥吾に転校生には関わるなって言われたのに。
だがこの状況で回避できるものではないだろう。
「二宮柊司です……」
「しゅうじか!しゅうじも転校生なのか?」
「え?」
「だって今日初めてみたからさあ!」
「あ、ああ~……」
そうか、転校生からしたらそう思うか。俺、転校生来てから一度も登校してなかったもんな。
「そうじゃなくて……ここ二週間休んでたんだ」
「ん?なんで?」
「体調崩してて……」
「え!?じゃあ二週間もねてたのか!?しゅうじはよわっちーんだな!!」
大声でそう言われてかなり心にグサッときた。いや、その通りなんだけども……。
笑ってるから悪気はないんだろうが、良くも悪くも素直な性格をしているらしい。
成程……これは関わりたくない人も出てきそうな感じだ。
「あれ?てことはしゅうじって、おれの席のとなりか?ずっとおれのとなり空いてるから気になってたんだよな!」
「……え?」
北峯君に目配せすると、彼はゆっくり頷いた。
――マジか……。
「なんだ!しゅうじ、おれのとなりだったのかー!あ、おれは琉偉っていうんだ!!これからよろしくなしゅうじ!!」
「ハイ……」
真夏の太陽のような笑みを浮かべる転校生を目の前にして、俺は内心泣いた。
相変わらず外は雨が降り続いていて、今日も今日とて頭痛はするが、起き上がれないほどではなかった。
結局この二週間、頭痛に加えて風邪も引いてしまい、熱を出して丸々寝込んでしまったのだ。
多少出席日数は優遇してもらっているとはいえ、これ以上は成績的にもまずいだろう。
俺は身体を起こして制服に着替え部屋を出ると、朝食の準備をしていた祥吾が駆け寄ってきた。
「柊!もう起きて大丈夫なの?頭は痛くない?」
「ちょっと痛いけど、これくらいなら平気だよ」
「そう?ならいいけど……ご飯は食べられそう?」
「うん、ちょっとなら。薬も飲まなきゃいけないし」
「わかった、じゃあ用意するね!」
祥吾は笑って朝食の準備を再開した。その顔に少し安堵の色が見えたので、俺は申し訳ない気持ちになった。
この二週間ずっと心配かけてしまっていたからな……。本当に俺、何時まで経っても弟に心配かけてばかりの駄目な兄貴だ……。
祥吾が用意してくれた消化にいい朝食を食べながら内心落ち込んだ。
「そうだ、柊。柊のクラスに転校生来たのって教えたっけ?」
「え?転校生?こんな時期に?」
「そうなんだよ、変だよね」
転校生とは……。またもや俺はタイミングが悪かったようだ。
「その転校生ってどんな奴?」
「……一目見たらわかるよ」
「どういうこと?」
「すごく特徴的だから……色んな意味で」
特徴的って……なんだろうか。
「結構面倒だから、柊は転校生には近づかない方がいい!絶対に!」
「そ、そこまで?」
「うん、絶対近づいちゃ駄目だからね!!」
祥吾にここまで言わせる転校生……一体何者なんだ……。
俺はまだ見ぬ転校生に対し既に若干不安になった。
「それじゃあとでね」
「うん、また」
一緒に登校した祥吾と別れ教室に入った途端、俺は異様な空気を感じ取った。
なんだかよくわからないが、教室内の空気がピリピリしているように感じた。
「――二宮君。おはよう」
「あ……北峯君。おはよう」
俺に気付いて挨拶してくれた北峯君の顔は、なんだか少し疲れているように見えた。
「もう具合はいいの?」
「う、うん。とりあえずは……まだ全快じゃないけど……。それより、北峯君こそなんか疲れてる?」
「ああ、はは……うん、ちょっとね……」
そう言って北峯君は目を逸らした。
いつもシャキッとしている北峯君がこんな反応をするなんて。一体どうしたんだろうか。
「何かあったの?」
「……うちのクラスに一週間前、転校生が来た話は聞いてる?」
「ああ、うん。朝、祥吾に聞いたよ」
「その転校生がね……それはもう色々と……すごいんだよ」
「そ、そうなんだ……」
祥吾だけでなく、北峯君にまで『すごい』と言われる転校生って……
より一層転校生に会うのが怖くなってきたところで、教室の前の扉がけたたましく開かれた。
「皆!!おはよう!!」
――現れたのは、毛玉だった。
違う、毛玉を頭に乗せた人だった。
「な、何……あの頭」
「あれ見たらやっぱり驚くよね」
驚く俺の隣で北峯君が苦笑していた。
そりゃそうだ。ヒジキのような黒くてモジャモジャした頭に、目がわからないほどの瓶底眼鏡。今時あんな眼鏡見たことない。
「も、もしかしてあれが……」
「うん。噂の転校生ね」
……すごいって、あの容姿のことだったのか?
若干遠巻きにされている転校生は、そんなのお構いなしにクラスメイト達に片っ端から挨拶している。見た目に反して結構社交的なようだ。
そんな転校生の後ろに、二つの人影があった。
「琉偉、早く奥入ってよ」
「……」
なかなか奥へ行かない転校生の背中ををやんわり押したのは、爽やかな笑顔が印象的な瀬川君だ。確か祥吾と同じ陸上部だったはず。
そんな瀬川君の手を無言で睨み付けているのは、目つきが鋭い都筑君だった。彼はハルに負けず劣らず、ここらへんでは有名な不良らしい。
二人とも顔がいいのでこの学校では人気が高いと聞いたことがある。
あの二人が、転校生の友達なのかな?
そう隣の北峯君に聞くと、彼は「友達……ならまだいいんだけどね……」と疲れた顔で言った。
「あッ!昇ー!!」
とかなんとか言っていたら、北峯君が転校生に呼ばれた。隣で北峯君が小さく「ゲッ……気付かれた」と言っていたのは気のせいだろう……多分。
「おはよう!!昇!!」
「……うん、おはよう」
「どうした?げんきねーなー?おれが挨拶したらしっかり返せよなー!挨拶は『いちにちのきほん』だっておじさん言ってたぞー!」
うん、間近に来られるとわかる……これはこちらの元気が吸い取られる感じの陽気さだ……。
だが病み上がりにはキツイ。声が大きいから頭にも響くし……。
「ん?あれ?お前……誰だ?」
と思っていたらこちらの存在に気付かれた。やばい。祥吾に転校生には関わるなって言われたのに。
だがこの状況で回避できるものではないだろう。
「二宮柊司です……」
「しゅうじか!しゅうじも転校生なのか?」
「え?」
「だって今日初めてみたからさあ!」
「あ、ああ~……」
そうか、転校生からしたらそう思うか。俺、転校生来てから一度も登校してなかったもんな。
「そうじゃなくて……ここ二週間休んでたんだ」
「ん?なんで?」
「体調崩してて……」
「え!?じゃあ二週間もねてたのか!?しゅうじはよわっちーんだな!!」
大声でそう言われてかなり心にグサッときた。いや、その通りなんだけども……。
笑ってるから悪気はないんだろうが、良くも悪くも素直な性格をしているらしい。
成程……これは関わりたくない人も出てきそうな感じだ。
「あれ?てことはしゅうじって、おれの席のとなりか?ずっとおれのとなり空いてるから気になってたんだよな!」
「……え?」
北峯君に目配せすると、彼はゆっくり頷いた。
――マジか……。
「なんだ!しゅうじ、おれのとなりだったのかー!あ、おれは琉偉っていうんだ!!これからよろしくなしゅうじ!!」
「ハイ……」
真夏の太陽のような笑みを浮かべる転校生を目の前にして、俺は内心泣いた。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
1,379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる