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転機#2
しおりを挟む――理事長室での会話から一日後。
放課後の生徒会室で、生徒会長の北條亮介は一人パソコンに向かっていた。
一時間程前にはほかの役員も仕事をしていたが、それぞれ仕事を終え既に寮に戻っている。
何故北條だけ残っているのかといえば、単純に仕事量が多いからである。
そのとき、突如生徒会室の扉がけたたましく開かれた。
「亮ちゃん!!亮ちゃんりょうちゃんりょーちゃーーーん!!聞いてきいてきいて!!大ニュースだよーーー!!」
そんな叫び声とともに勢いよく入室してきたのは、既に寮に帰ったはずの生徒会会計の天沢悠馬であった。
「……なんだ悠馬、うるさいぞ」
テンションが普段の倍以上である天沢の姿を見て、嫌な予感がした北條は顔を引き攣らせながらそう言った。
「あ、ごめんごめん!つい興奮しちゃってさぁ!!だってもう、ヤバいんだよ!何がヤバいって、もうとにかくヤバいんだよ!!」
「……何がどうヤバいんだ」
「よく聞いてくれました!!あのね!ついに来たんだよ~~!!」
「何が」
「王道転校生が!!」
天沢はハイテンションのまま、パソコンへ向かう北條の顔の前に書類を突き出した。
「見て、この転校生の履歴書の写真!!瓶底眼鏡に、あきらかにカツラですといわんばかりのヒジキ頭!!」
「……(紙が近すぎて見えねえ)」
「もうこの時点でどう考えても王道転校生!神はオレに味方した!王道学園に入学した甲斐があった!ばんざーい!!」
書類を放って手を挙げて喜ぶ天沢をよそに、北條は天沢の放った書類を手に取った。
「……『齋藤琉偉』だと?」
その名前に、北條は聞き覚えがあった。
「琉偉……まさかあの……、だが名字が……」
考え込む北條のことはお構いなしに天沢は話を続けた。
「王道転校生といえば、モジャモジャ頭に瓶底眼鏡!まさに完璧!!まさしく王道!!こんなことってあるんだね!!生きててよかったぁぁ!!」
「……そうか、よかったな……」
ついには歓喜の涙を流し始めた天沢に、北條はもうただそう言うことしかできなかった。
昔からこのテンションの天沢の話に付き合わされてきた北條だが、流石に泣かれたのは初めてだったので、他にどうすることもできなかった。
「ああ~~!まさか生きててこんな幸運に出会えるなんて!王道転校生によってもたらされる様々なイベントを想うだけでご飯三杯イケちゃうよ!!王道一匹狼不良を手懐けて爽やか君をオトして……ああ!でもうちって王道ホスト教師がいないんだよなあ~、それが居ればもう完璧だったのに!!!」
「……」
「でも何より一番のメインは生徒会とのカップリングだよね~~!!転校初日での副会長との邂逅に、食堂での生徒会遭遇イベント!!ここで双子当てゲームしてあっさり当てて、わんこ懐かせてチャラ男が目の色変えて……そ・し・て!ここが一番の見どころ!物怖じしない転校生に俺様生徒会長が『気に入った……』か~ら~の、ディープキスぅぅぅ!!キタアアア!!流石会長!そこにしびれる憧れるゥ!!ああああ!!これが生で見られるなんて!!本当に生きててよかったぁあああ!!」
テンションが上がりすぎておかしなことになっている天沢は北條の肩をばしばしと叩いて喜びを全身で表現していた。
最早ついて行けない北條だったが……一つだけ言っておきたいことがあった。
「喜んでいるところ悪いが……その生徒会って、俺達のことじゃないか?」
「……え?」
その瞬間、天沢は石のように固まった。
「……あああああ!!本当だぁあああ!!生徒会って、オレ達じゃねーか!!」
「逆に何故それを忘れられるんだ」
「ってことは……生徒会フラグ全滅……!!?」
天沢は頭に手を当てよろりとよろめいた。
「そうだよ、生徒会ってオレ達じゃん……!!双子は既にカップル成立済みだから転校生に興味持つわけないし、真と美里ちゃんはそもそも恋愛に興味ないし、オレは論外だし!!!」
「……」
「……ねえ亮ちゃん。今の聞かなかったことにしてさ、一発食堂で転校生にディープキスぶちかましてくれない?」
「ふざけんな」
天沢はショックで大分頭がおかしくなっているようだ。
「というかお前が今言わなくても、後でいずれにしろ転校生のことは生徒会に知らされるんだから意味ないぞ」
「うわああああん!!」
ついには床に手をついて天沢は泣き出した。
「生徒会カプが全滅だなんて……!!じゃあ何のための王道転校生なんだよ!!一番の見どころが潰れたんじゃ王道転校生なんてただのトラブルメーカーだよ!!親衛隊無駄に刺激するだけだよ!!」
「それは困るな」
「はあ……もうありえない……生徒会×王道転校生が見られないんじゃオレ、一体何のために王道学園に入学したんだろう……鬱だ……しにたい」
「この短い時間でとんでもないテンションの乱高下だな」
先程まで生きててよかったと喜んでいた人間と同一人物とは思えない。
「はああ……もう最悪だよ……。こうなったらもうチワワちゃんたちに朝から晩まで癒してもらうしかない……亮ちゃん、しばらくオレ、仕事休むね……」
「は!?悠馬テメエふざけんな!!仕事はちゃんとやれよ!?オイコラ!」
天沢は北條の言葉には応えず、がっくりと肩を落として生徒会室を出て行った。
「……頼むからこれ以上俺の仕事を増やさないでくれ……」
キリキリと痛みだした胃を押さえ、北條は項垂れた。
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