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兄と弟#1
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~祥吾side~
オレと柊司が、この北斗学園に入学してきて早くも三か月目に突入した。
現在6月初旬。6月といえば、梅雨に入る時期だ。
北斗学園のある地域も、先週梅雨入りしたと発表があった。
梅雨は、誰もがジメジメしていて嫌だと思う時期。
オレだって嫌だけど、柊司にとっては、もっと嫌な時期だと思う。
今日の天気はじめっとした雨。
朝からしとしとと雨が降っていた。
――ピピピピ……
朝ご飯と昼のお弁当の準備をしていると、寝室の方から目覚まし時計の鳴る音が聞こえてきた。
数秒して、音が止まる。
でも、何分経っても寝室から柊司は出てこなかった。
起きてこない理由に予想はついているけど、念のため確かめるべく手を止めて寝室を覗いた。
なるべく音を立てないようにドアを開けると、柊司はまだベッドの上で、頭を抱えるようにして寝ていた。
そっと近づいて小さな声で声をかけた。
「……柊?大丈夫?」
「……、……あたま……、いたい」
柊司は、唸るように言った。
「……うん、痛いよね。待ってて、今、何か食べるものと薬持ってくるね」
雨の日は、柊司はいつも頭が痛くなるのだが、その雨の日が続く梅雨は本当につらいらしい。
それに、頭痛だけじゃない。
湿気が多くなるこの時期は、毎年必ず体調を崩していた。
今はまだ頭痛以外に症状はないようだけど、このままだと他にも出てくるかもしれないな……。
実は朝から雨だとわかっていたから、今日はお粥を作っていた。
お粥をよそい、頭痛薬も持ってもう一度寝室へ戻った。
「柊、起きて。薬とお粥、持ってきたから」
「……やだ……」
「うん、頭痛くて起きたくないのはわかるけど。食べて薬飲まないと結局痛いままだよ」
頭が痛いときの柊司は、いつもより態度が幼くなってとても可愛いんだけど、心を鬼にして声をかけた。
ぐずる柊司を何とか起こしてお粥を食べさせて、薬を飲ませた。これも慣れたものだ。
柊司は、薬を飲んでもまだ頭が痛いようで、動けないままだった。
「今日は寝てなね。何かあったら連絡して」
「……うん……。ごめん……」
「謝らなくていいから。じゃ、朝練行ってくるね」
本当は、つらそうな柊司を置いてまで部活の朝練なんて行きたくないけど、柊司はいつも、自分の世話でオレが部活や学校を休むことを気にするから、仕方がなかった。
「祥……、いってらっしゃい」
すると柊司は、本当は話すのも頭に響くはずなのに、にこりと笑みを浮かべてそう言った。
「……っ、い、いってきます!」
その笑顔があまりにも可愛すぎて悶え叫びそうになったけど、何とか堪えたオレを誰か褒めてほしい。
朝練の時間。
雨でグラウンドは使えないため、今日の朝練は校舎内でのストレッチとなった。
二人一組でストレッチをする間も、寮で寝ている柊司のことが気になって仕方がない。
まったく身が入らなかった。
「今日は二宮、また『あの日』みたいですね……」
「そのようだな……。あれじゃあストレッチやらせる意味もないから二宮だけ先に上がらせよう」
「そうしましょう」
そんなオレの様子を見かねた部長と顧問は、オレだけ先に上がるように言った。
「え、いーんですか!?じゃ、先に上がりまーす!」
オレはこれ幸いと、さっさと道具を片付けて挨拶して先に上がった。
今の時間なら、授業始まるまでの間にもう一度柊の様子を見に行ける!と浮かれ気分で寮に戻った。
「……あいつ、『あの日』じゃなきゃ、真面目に練習やるんだがな」
「仕方ないですよ。だって二宮、陸上やってるのも兄と一緒にこの学校に居る為だと明言してますからね……」
意気揚々と去っていくオレを、顧問と部長がため息を吐きながら見ていたなんて、オレは知る由もない。
ちなみに『あの日』とは、『二宮の兄が体調崩して休んでいる日』のことだが、もちろんオレはそのことも知らない。
寮の部屋に戻って寝室を覗くと、柊司は薬が効いたのか、ぐっすりと眠っていた。
でもまだちょっと痛いのか、少し眉間に皺が寄っていたけど、起きたばかりよりは随分楽そうな寝顔になっていた。
柊司の寝顔を時間ぎりぎりまでたっぷり堪能して、今度こそ校舎へ向かった。
正直オレはあまり、教室に行きたくない。
何故なら……
「あっ!皆!二宮君来たよっ!」
「二宮くーん!今日もカッコ可愛いー!」
――教室に入るといつも、こういう歓声が上がるからである。
この学校にいる生徒のほとんどがホモかバイなのは知っている。
でも、ここまであけすけにしてくるということまでは知らなかった。
大体ガン無視してるんだけど、それでもこうやって歓声を上げてくるその精神には感服する。
柊司以外の人間にモテても全然嬉しくないんだけど。
はあ、とため息を吐きながら席に着くと、「憂いた二宮君もステキー!」なんて声が聞こえた。
……こいつらって、顔がよければなんでもいいんだろうか。
この学校に入学してから幾度も感じてきた居心地の悪さを感じつつ、午前の授業を終えた。
昼休みになり、いつもなら柊司と昼食を食べるために空き教室へ向かうところだけど、今日は柊司は休みだ。
さてどうするかと考えていると、教室の扉が開いた。そして誰かが中に入ってくる。
途端に、ざわっと教室内が騒然となる。
この教室内の反応で、誰が来たかは見なくてもわかった。
オレと柊司が、この北斗学園に入学してきて早くも三か月目に突入した。
現在6月初旬。6月といえば、梅雨に入る時期だ。
北斗学園のある地域も、先週梅雨入りしたと発表があった。
梅雨は、誰もがジメジメしていて嫌だと思う時期。
オレだって嫌だけど、柊司にとっては、もっと嫌な時期だと思う。
今日の天気はじめっとした雨。
朝からしとしとと雨が降っていた。
――ピピピピ……
朝ご飯と昼のお弁当の準備をしていると、寝室の方から目覚まし時計の鳴る音が聞こえてきた。
数秒して、音が止まる。
でも、何分経っても寝室から柊司は出てこなかった。
起きてこない理由に予想はついているけど、念のため確かめるべく手を止めて寝室を覗いた。
なるべく音を立てないようにドアを開けると、柊司はまだベッドの上で、頭を抱えるようにして寝ていた。
そっと近づいて小さな声で声をかけた。
「……柊?大丈夫?」
「……、……あたま……、いたい」
柊司は、唸るように言った。
「……うん、痛いよね。待ってて、今、何か食べるものと薬持ってくるね」
雨の日は、柊司はいつも頭が痛くなるのだが、その雨の日が続く梅雨は本当につらいらしい。
それに、頭痛だけじゃない。
湿気が多くなるこの時期は、毎年必ず体調を崩していた。
今はまだ頭痛以外に症状はないようだけど、このままだと他にも出てくるかもしれないな……。
実は朝から雨だとわかっていたから、今日はお粥を作っていた。
お粥をよそい、頭痛薬も持ってもう一度寝室へ戻った。
「柊、起きて。薬とお粥、持ってきたから」
「……やだ……」
「うん、頭痛くて起きたくないのはわかるけど。食べて薬飲まないと結局痛いままだよ」
頭が痛いときの柊司は、いつもより態度が幼くなってとても可愛いんだけど、心を鬼にして声をかけた。
ぐずる柊司を何とか起こしてお粥を食べさせて、薬を飲ませた。これも慣れたものだ。
柊司は、薬を飲んでもまだ頭が痛いようで、動けないままだった。
「今日は寝てなね。何かあったら連絡して」
「……うん……。ごめん……」
「謝らなくていいから。じゃ、朝練行ってくるね」
本当は、つらそうな柊司を置いてまで部活の朝練なんて行きたくないけど、柊司はいつも、自分の世話でオレが部活や学校を休むことを気にするから、仕方がなかった。
「祥……、いってらっしゃい」
すると柊司は、本当は話すのも頭に響くはずなのに、にこりと笑みを浮かべてそう言った。
「……っ、い、いってきます!」
その笑顔があまりにも可愛すぎて悶え叫びそうになったけど、何とか堪えたオレを誰か褒めてほしい。
朝練の時間。
雨でグラウンドは使えないため、今日の朝練は校舎内でのストレッチとなった。
二人一組でストレッチをする間も、寮で寝ている柊司のことが気になって仕方がない。
まったく身が入らなかった。
「今日は二宮、また『あの日』みたいですね……」
「そのようだな……。あれじゃあストレッチやらせる意味もないから二宮だけ先に上がらせよう」
「そうしましょう」
そんなオレの様子を見かねた部長と顧問は、オレだけ先に上がるように言った。
「え、いーんですか!?じゃ、先に上がりまーす!」
オレはこれ幸いと、さっさと道具を片付けて挨拶して先に上がった。
今の時間なら、授業始まるまでの間にもう一度柊の様子を見に行ける!と浮かれ気分で寮に戻った。
「……あいつ、『あの日』じゃなきゃ、真面目に練習やるんだがな」
「仕方ないですよ。だって二宮、陸上やってるのも兄と一緒にこの学校に居る為だと明言してますからね……」
意気揚々と去っていくオレを、顧問と部長がため息を吐きながら見ていたなんて、オレは知る由もない。
ちなみに『あの日』とは、『二宮の兄が体調崩して休んでいる日』のことだが、もちろんオレはそのことも知らない。
寮の部屋に戻って寝室を覗くと、柊司は薬が効いたのか、ぐっすりと眠っていた。
でもまだちょっと痛いのか、少し眉間に皺が寄っていたけど、起きたばかりよりは随分楽そうな寝顔になっていた。
柊司の寝顔を時間ぎりぎりまでたっぷり堪能して、今度こそ校舎へ向かった。
正直オレはあまり、教室に行きたくない。
何故なら……
「あっ!皆!二宮君来たよっ!」
「二宮くーん!今日もカッコ可愛いー!」
――教室に入るといつも、こういう歓声が上がるからである。
この学校にいる生徒のほとんどがホモかバイなのは知っている。
でも、ここまであけすけにしてくるということまでは知らなかった。
大体ガン無視してるんだけど、それでもこうやって歓声を上げてくるその精神には感服する。
柊司以外の人間にモテても全然嬉しくないんだけど。
はあ、とため息を吐きながら席に着くと、「憂いた二宮君もステキー!」なんて声が聞こえた。
……こいつらって、顔がよければなんでもいいんだろうか。
この学校に入学してから幾度も感じてきた居心地の悪さを感じつつ、午前の授業を終えた。
昼休みになり、いつもなら柊司と昼食を食べるために空き教室へ向かうところだけど、今日は柊司は休みだ。
さてどうするかと考えていると、教室の扉が開いた。そして誰かが中に入ってくる。
途端に、ざわっと教室内が騒然となる。
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