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波乱#1

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~柊司side~

歓迎会の日の翌朝。
寮の部屋で朝食を食べながら、祥吾はとても憤慨していた。
その頬には絆創膏が張られている。

「あんなに追いかけられると思わなかった!」

どうやら祥吾は昨日の歓迎会でファンに追いかけまわされたらしい。
その際にもみくちゃにされて頬を引っかかれたのだという。
祥吾は顔もいいし、さらには陸上部のエースということもあり、一年にして既に親衛隊が出来始めているらしい。

「やめてっていっても追いかけてくるし、そのせいで柊のところに行けなかったし!もう最悪ー!」
「……それで、誰かに捕まったのか?」
「それは意地でも阻止した!好きでもない奴とデートなんてしてたまるか!」

祥吾の怒りは収まりそうになく、俺はこっそりため息を吐いた。

昨日の歓迎会で予想以上に疲れていたらしい俺は、ハルに運んでもらっている間に眠ってしまってから一度も目覚めることはなく朝を迎えた。
しっかり寝たので体調は元に戻ったが、俺は別の問題が頭を占めていた。

――昨日、生徒会長に対してゲロをぶちまけてしまったことが。

よりにもよって生徒会長に、あんな粗相をしてしまったなんて……!

「柊?どうしたの?具合悪い?」
「い、いや……違う。昨日やらかしたこと思い出して……」
「昨日?そういえばオレが帰ってきたとき、柊もう寝てたから歓迎会でどうだったのか聞いてないけど……何かあったの?」

俺は祥吾に昨日やらかしたことを洗いざらい話した。

「……いやそれ、柊は悪くないよ!全面的に会長が悪い!」
「でもゲロぶちまけたのは事実だし……やっぱり謝らないと」
「謝る必要なんてないよ!むしろオレの柊にそんな仕打ちしたなんて……どうしてやろうか……」

祥吾は黒い笑顔を浮かべながら、ミニトマトに思いっきり箸を突き刺した。

「いや何もするなよ!?この学校のアイドルの生徒会長に手出したらどうなるか……」

確実にこの学校の生徒を敵に回すことになるだろう。

「なら理事長を使うよ」
「だからそれはやめろって!」

理事長ってそう簡単に使うもんじゃないし!

「だとしても、一回文句は言わないと気が済まない!柊、今日一緒に生徒会室行こう!」
「いやお前本当にやめろよ!?俺一人で行くから!」

何とか祥吾を宥めて、俺は粗相をしたことを謝るべく、生徒会室へ行くことにした。

――この時点の俺はまだ、自分が何をやらかしたのか、その本当の失態を知らなかった。


とりあえず会長に謝りに行くのはあとにして、まず教室に入ると、クラスメイトが一斉にこっちを見てきた。

(……なに?)

何となく居心地の悪さを感じながら席に着いた。
すると北峯君が声をかけてきた。

「二宮君、おはよう」
「あ、おはよう……あ、あのさ、なんか今日、雰囲気違くない……?」
「……もしかして二宮君、掲示見てない?」
「掲示?」

首をかしげると、北峯君は「昨日の新入生歓迎会の結果の掲示だよ」と言った。

「あ、それってもう出てるんだ?」
「うん……、そうなんだけど……」
「?」
「二宮君さ……生徒会長のデート相手になってたよ」
「……へ?」

意味が分からない俺は、間抜けな声しか出なかった。

「ちょ、ちょっと意味が……」
「心あたりないの?」

確かに昨日の歓迎会で会長に出会って運ばれたけど……まさかあれで!?

「あ……あるといえばあるけど……。俺、自分の端末気が付いたらなくなってたから、誰に捕まったのか見てなくて……」
「そうなの?……それにしても、これはちょっとまずいことになったね」
「ど……どういうこと?」
「今の会長が誰かを捕まえたのって、多分今回が初めてなんだよね」
「そ、そうなの!?」
「うん。だからこの状況……親衛隊が黙ってないかも」
「……!」

親衛隊は、ファンクラブみたいなもので、同時に、抜け駆けを防止するような役目も果たしてるというのも聞いた。
会長は、今まで誰一人捕まえたことはなく、捕まったこともない。
=デートをしたことがある人もいない。
その初めてのデート相手が俺。

ということはつまり……?

「……やばくない?」
「うん……正直やばいね」

あれは事故なのに!
俺がたまたま会長の進路に出ちゃって、捕まっちゃっただけなのに!

「うちは校則が厳しいし、直接危害を加えるような行為はしないと思うけど……嫌がらせなんかはあるかも。デートをさせないように妨害してきたりとか……」
「ええ!?俺……別に会長とデートしたいわけじゃないのに……!」

むしろ会長とデートしたい人に全然譲るのに!

「お、俺がデート断れば大丈夫だよね!?」
「いや……そうもいかないかも」
「何で!?」
「うちで一番人気のある会長のデート相手を断るとなると……それはそれで角が立つと思うよ。会長のデート相手を断るなんて何様か、ってね」
「ええええ!?」

なんだそれは!
どうあがいても地獄じゃないか!

『あれが会長のデート相手かよ』
『なんかダサくね?』
『あんな奴が会長とデートするなんて、信じられない!』

というか既にもういろんな人から睨まれているような気がするんだけど!?

「……これは、なるべく角が立たないようにするしかないね。……頑張って、二宮君」
「ちょっ……北峯君!匙投げないで!」

取り残された俺は教室の隅で、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。

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