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入学#5
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「どうしても友達って必要?オレだけじゃ駄目?」
「……は?」
「柊にはオレがいるんだからいいじゃん!他に友達なんていらないでしょ?」
「いやお前友達じゃなくて弟……」
「弟だけど友達だよ!そうでしょ!生まれた時から一緒なんだから!」
「そりゃ双子だからな……」
「オレは、柊にとってオレが常に一番じゃなきゃイヤだーー!」
「ええー……」
ついには泣き出した祥吾に、俺はどうしたらいいかわからなかった。
弟は弟で、友達とは違うだろ……
「馬鹿だな、お前」
「……え?」
「お前は俺にとって唯一の弟だろ。常に一番に決まってんじゃねえか」
「しゅ、柊……」
「お前以上の奴なんていないよ。これからずっとな」
こんな弱くて面倒くさい俺の側にいつも文句も言わず居てくれる弟が、一番でないはずがない。
すると柊はさらに目を潤ませ、俺にがばっと抱き付いてきた。
「柊!オレも柊が常に一番だからね!」
「はいはい」
「絶対!絶対離れないから!ずっと一緒だから!」
「うん……」
ぐりぐりと肩に顔を押し付けられながら、俺はいつまでそう言ってくれるだろうか、なんて考えていた。
***
最終的に俺は入学式に参加することになった。
『入学式にいくのは許可するけど、体がつらくなったらすぐ誰かに言うこと!いいね!』
そう祥吾に釘を刺されたが、俺は入学式に出られるという高揚感で喉の痛みも忘れていた。
これならなんとか最後まで持つかもしれない。
入学式は滞りなく勧められた。
去年までは、来賓の祝辞を喋っている間立ったまま聞かされていたらしいのだが、祥吾が理事長に圧力をかけたらしく、今年はそれもなかったので、長時間立っていることもなく貧血を起こすこともなかった。
だけど案の定、風邪を引いた俺の体は、入学式の途中から熱を持ち始めた。
頭は熱いのに、体には寒気が走っていた。
(うう……まずい、やっぱり熱が……)
でも、これくらいの熱ならまだ耐えられる。よくあることだからだ。
大丈夫、なんとかなると頭の中で必死に唱えながら、入学式が終わるのを待っていた。
腕をさすりながら耐えていると、「おい、」と隣に座っていた人から小声で話しかけられた。
「……え?」
「大丈夫かよ」
「あ……」
話しかけてきたのは、昨日、木に落ちそうになったところを助けてくれた挙句に介抱までしてくれた、あのイケメンだった。
……て、あのイケメン俺と同い年だったのかよ!
背高いし俺を軽々受け止めてたから、てっきり上級生かと思った。
「お前、昨日の奴だろ?」
「あ……そ、そうだけど」
「顔赤いけど、熱あんじゃねえのか」
……ばれている。
でも、ここで医務室に連れていかれるわけにはいかない!
俺は笑って誤魔化した。
「そ、そんなことないけど?」
「さっきから腕さすってんじゃねえか」
「こ、これは今日寒いから……」
「今日今年一番の暖かさだって天気予報で言ってたぞ」
「うっ……」
駄目だ。万事休すだ。
こうなったら、ただもう頼むしかない。
「……お願い、せめて入学式が終わるまでは言わないで」
「……何でだよ」
「入学式の進行を邪魔したくないし、それに……せめて高校の入学式には、最後まで出たいんだよ」
小学校の時も中学の時も入学式には出れなくて、あとでベッドの上で祥吾からどんな感じだったのか聞いただけだった。
だから今日この場に居られることが本当に嬉しいのだ。
せめて、最後までこの雰囲気を味わいたい。
「……わかった」
「……!」
「その代わり、終わったらさっさと医務室行けよ」
「う、うん!」
嬉しさでつい声が大きくなってしまい、慌てて口を押さえた。
「……言った後に押さえても意味ねえだろ」
「あ、あはは……だよね」
すると彼は突然制服の上着を脱いだ。
そしてそれを、俺の膝にかけた。
「え、あの……」
「寒気、少しはましになんだろ」
「あ……りがとう」
膝にかけられた制服は、人肌でほんのりあたたかく、心なしか寒気が和らいだ気がした。
また……この人に助けられてしまったな。
『――それでは、以上を持ちまして、高等科入学式を終了いたします。皆様ご起立ください』
膝の制服のお陰で寒気も和らいで、最後まで乗り切ることができ、気が抜けたのか。
「あ……あれ?」
席から立ち上がろうとした瞬間、強烈な眩暈に襲われて――
「おい!!危な―――」
俺はそのまま意識を失った。
***
「……ん……」
目を覚ますと、白い天井が目に入った。
周りには誰もおらず、白いカーテンに囲われたベッドの上に寝ていた。
「ここどこ……ッ、ゴホッ!」
声を出したら途端に咳が出て止まらなくなった。
喉が焼けるように痛い。
一人寝たまま咳き込んでいると、カーテンが勢いよく開かれた。
「柊ーーー!!」
「うぐっ!!」
そして腹にタックルされ、俺はさらに咳き込んだ。
「きゅ、急に抱き付くな……」
「ご、ごめん!全然目を覚まさないから心配で感極まって……!」
ベッドに寝ている病人にタックルをかましてきたのはやはり祥吾だった。
顔が涙と鼻水まみれになっている。
「やっぱり無理矢理にでも休ませればよかったー!ごめん柊、オレのせいでー!」
「いや……行くって言ったのは俺だし……お前のせいじゃないよ」
「でもごめんー!!」
「わかった、わかったから……どいてくれ」
腹がそろそろ限界だ。
「なあ、ここどこ……?医務室?」
「うん、そうだよ。入学式の終わりに倒れて運ばれたんだよ」
「やっぱりそうか……」
この景色はよく見た光景だから、想像には難くなかった。
「それで、今何時……?夜だよね?」
「夜は夜だけど……入学式から一週間後の夜だよ」
「へー、一週間か……一週間!!!!??ッ、ゲホゴホ!!!」
「あー駄目だよそんな叫んだら!」
驚きで叫んだせいでまた咳き込んだ。
「ま、マジで一週間!?俺一週間も寝てたの!!?」
「うん……やっぱり結構疲れがたまってたんだね。一週間ぐっすりだったよ」
「う……嘘だろ……?じゃあ俺、初っ端から一週間も休んじゃったってこと……?」
「うんまあ……そういうことだね」
俺は、自分の体の弱さを舐めていた……
せっかく入学式には出られたのに……!
結局最初の一週間で休んでしまったら……!
「入学式出てないのと一緒じゃねえかよ!!!――ぐはぁっ」
「ぎゃー!!吐血した!!だから叫ぶなって言ったのに!!」
再び朦朧としてきた意識の中、俺は涙した。
――さよなら……俺の楽しい学園生活……
***
「……は?」
「柊にはオレがいるんだからいいじゃん!他に友達なんていらないでしょ?」
「いやお前友達じゃなくて弟……」
「弟だけど友達だよ!そうでしょ!生まれた時から一緒なんだから!」
「そりゃ双子だからな……」
「オレは、柊にとってオレが常に一番じゃなきゃイヤだーー!」
「ええー……」
ついには泣き出した祥吾に、俺はどうしたらいいかわからなかった。
弟は弟で、友達とは違うだろ……
「馬鹿だな、お前」
「……え?」
「お前は俺にとって唯一の弟だろ。常に一番に決まってんじゃねえか」
「しゅ、柊……」
「お前以上の奴なんていないよ。これからずっとな」
こんな弱くて面倒くさい俺の側にいつも文句も言わず居てくれる弟が、一番でないはずがない。
すると柊はさらに目を潤ませ、俺にがばっと抱き付いてきた。
「柊!オレも柊が常に一番だからね!」
「はいはい」
「絶対!絶対離れないから!ずっと一緒だから!」
「うん……」
ぐりぐりと肩に顔を押し付けられながら、俺はいつまでそう言ってくれるだろうか、なんて考えていた。
***
最終的に俺は入学式に参加することになった。
『入学式にいくのは許可するけど、体がつらくなったらすぐ誰かに言うこと!いいね!』
そう祥吾に釘を刺されたが、俺は入学式に出られるという高揚感で喉の痛みも忘れていた。
これならなんとか最後まで持つかもしれない。
入学式は滞りなく勧められた。
去年までは、来賓の祝辞を喋っている間立ったまま聞かされていたらしいのだが、祥吾が理事長に圧力をかけたらしく、今年はそれもなかったので、長時間立っていることもなく貧血を起こすこともなかった。
だけど案の定、風邪を引いた俺の体は、入学式の途中から熱を持ち始めた。
頭は熱いのに、体には寒気が走っていた。
(うう……まずい、やっぱり熱が……)
でも、これくらいの熱ならまだ耐えられる。よくあることだからだ。
大丈夫、なんとかなると頭の中で必死に唱えながら、入学式が終わるのを待っていた。
腕をさすりながら耐えていると、「おい、」と隣に座っていた人から小声で話しかけられた。
「……え?」
「大丈夫かよ」
「あ……」
話しかけてきたのは、昨日、木に落ちそうになったところを助けてくれた挙句に介抱までしてくれた、あのイケメンだった。
……て、あのイケメン俺と同い年だったのかよ!
背高いし俺を軽々受け止めてたから、てっきり上級生かと思った。
「お前、昨日の奴だろ?」
「あ……そ、そうだけど」
「顔赤いけど、熱あんじゃねえのか」
……ばれている。
でも、ここで医務室に連れていかれるわけにはいかない!
俺は笑って誤魔化した。
「そ、そんなことないけど?」
「さっきから腕さすってんじゃねえか」
「こ、これは今日寒いから……」
「今日今年一番の暖かさだって天気予報で言ってたぞ」
「うっ……」
駄目だ。万事休すだ。
こうなったら、ただもう頼むしかない。
「……お願い、せめて入学式が終わるまでは言わないで」
「……何でだよ」
「入学式の進行を邪魔したくないし、それに……せめて高校の入学式には、最後まで出たいんだよ」
小学校の時も中学の時も入学式には出れなくて、あとでベッドの上で祥吾からどんな感じだったのか聞いただけだった。
だから今日この場に居られることが本当に嬉しいのだ。
せめて、最後までこの雰囲気を味わいたい。
「……わかった」
「……!」
「その代わり、終わったらさっさと医務室行けよ」
「う、うん!」
嬉しさでつい声が大きくなってしまい、慌てて口を押さえた。
「……言った後に押さえても意味ねえだろ」
「あ、あはは……だよね」
すると彼は突然制服の上着を脱いだ。
そしてそれを、俺の膝にかけた。
「え、あの……」
「寒気、少しはましになんだろ」
「あ……りがとう」
膝にかけられた制服は、人肌でほんのりあたたかく、心なしか寒気が和らいだ気がした。
また……この人に助けられてしまったな。
『――それでは、以上を持ちまして、高等科入学式を終了いたします。皆様ご起立ください』
膝の制服のお陰で寒気も和らいで、最後まで乗り切ることができ、気が抜けたのか。
「あ……あれ?」
席から立ち上がろうとした瞬間、強烈な眩暈に襲われて――
「おい!!危な―――」
俺はそのまま意識を失った。
***
「……ん……」
目を覚ますと、白い天井が目に入った。
周りには誰もおらず、白いカーテンに囲われたベッドの上に寝ていた。
「ここどこ……ッ、ゴホッ!」
声を出したら途端に咳が出て止まらなくなった。
喉が焼けるように痛い。
一人寝たまま咳き込んでいると、カーテンが勢いよく開かれた。
「柊ーーー!!」
「うぐっ!!」
そして腹にタックルされ、俺はさらに咳き込んだ。
「きゅ、急に抱き付くな……」
「ご、ごめん!全然目を覚まさないから心配で感極まって……!」
ベッドに寝ている病人にタックルをかましてきたのはやはり祥吾だった。
顔が涙と鼻水まみれになっている。
「やっぱり無理矢理にでも休ませればよかったー!ごめん柊、オレのせいでー!」
「いや……行くって言ったのは俺だし……お前のせいじゃないよ」
「でもごめんー!!」
「わかった、わかったから……どいてくれ」
腹がそろそろ限界だ。
「なあ、ここどこ……?医務室?」
「うん、そうだよ。入学式の終わりに倒れて運ばれたんだよ」
「やっぱりそうか……」
この景色はよく見た光景だから、想像には難くなかった。
「それで、今何時……?夜だよね?」
「夜は夜だけど……入学式から一週間後の夜だよ」
「へー、一週間か……一週間!!!!??ッ、ゲホゴホ!!!」
「あー駄目だよそんな叫んだら!」
驚きで叫んだせいでまた咳き込んだ。
「ま、マジで一週間!?俺一週間も寝てたの!!?」
「うん……やっぱり結構疲れがたまってたんだね。一週間ぐっすりだったよ」
「う……嘘だろ……?じゃあ俺、初っ端から一週間も休んじゃったってこと……?」
「うんまあ……そういうことだね」
俺は、自分の体の弱さを舐めていた……
せっかく入学式には出られたのに……!
結局最初の一週間で休んでしまったら……!
「入学式出てないのと一緒じゃねえかよ!!!――ぐはぁっ」
「ぎゃー!!吐血した!!だから叫ぶなって言ったのに!!」
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