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入学#4

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「色々とつらい思いもされてきたのでしょう。大丈夫です。ここでは貴方をのけ者にするようなことはいたしません。そのようなことは私が許しませんのでね」
「理事長さん……」

さらにぶわ、と涙が出そうになったが堪えて涙をぬぐった。

「すみません、見苦しいところを」
「いえ、見苦しいなど…………」

すると突然理事長が言葉を止めたので何事かと顔を上げた。

(いつまで頭撫でてるんですか?あと今、柊の泣き顔に見惚れていましたね?)
(!!ま、まさか……私は大人ですよ……ハハハ)

「……?」

何故かまた祥吾と理事長が笑い合っていた。
心なしか今度は理事長の笑顔が引きつっているように見えた。

「……理事長さん?」
「!……ごほん。えー……柊司君、あなたは少し危険ですね」
「へ!?」

急に何!?

「えー……ここからはこの学園の裏事情といいますか、ちょっと厄介な事情がこの学園にはございまして……」
「厄介な事情……?」
「この学園は初等科から高等科まで男子校なのですよ。そして、高等科の生徒の殆どが、中にはエスカレーター式に上がり、学生生活のほとんどをこの学校で過ごす場合が多く……そうなりますと、恋愛対象もその……異性ではなく、同性になる方が非常に多くおりまして」
「は……?」
「そのため、この学校は同性愛者が他の学校に比べて非常に多い」

話をあまり理解できず混乱している俺の横で、祥吾が言った。

「つまりね、この学校の生徒の9割はホモかバイなんだよ」
「はあ!!!???ッげほ、ゴホッ!!」
「あー大丈夫?急に叫ぶから……」
「叫びたくもなるわ!!」

とんだ魔窟じゃねえか!!

「とてもいい子たちなのですよ。生徒会を筆頭に、決して非人道的な行為はしないよう生徒独自のルールが構築されていますので、決して無理矢理何かされるということはありません」
「いや、だけど!」
「ですが柊司君のような子だと……中にはよこしまな気持ちを考える子もいるかもしれません。そうなっては困るでしょうから、かたちだけでも変装なさるのがよろしいかと」
「変装!?学校で変装しなきゃなんないの!?」
「変装といっても大したものじゃありませんよ。眼鏡をかけるだけでも顔の印象は大分変わりますからね」

そう言って理事長が取り出したのは縁が太めの黒縁眼鏡だった。

「眼鏡ですか……?俺、目だけはいいんですけど……」

どこかしこも弱っちい俺の体の唯一のいい部分は視力と聴力で、眼鏡をかけなくてもいいことが数少ない自慢だったのに……

「勿論度は入っていませんよ。でもこれをかければ危険は減るでしょう」

さあ、と眼鏡を目の前に差し出され困った俺は隣の祥吾に助けを求めた。

「祥、俺眼鏡なんかかけたくな……」
「かけて」
「え」
「自分の身を守りたければかけて」

祥吾もそっち側かよ!

「「さあさあさあ」」
「うう……っ!」

……結局俺は勝てなかった。

度がない眼鏡とはいえ、ガラス越しの視界はちょっと違和感がある。

「おお、かなり雰囲気変わりますねえ」
「うん!いい感じに野暮ったいよ!これなら誰も柊に見向きもしないね!」
「それはそれで悲しくなるんだけど」

性的対象として見られないのはいいけど、誰にも見向きされないのはそれはそれで嫌だな……
でも自衛のためだし仕方がないか……

「では、これからの学園生活、是非楽しんでくださいね」

理事長はそう言って見送ってくれたが、正直あんな話を聞いて楽しめる気は全くしなかった。


***


入寮の手続きは既に理事長が終えてくれていたらしく、すんなり部屋に入れた俺達は、長旅の疲れもあって、寝るのに必要なものだけ出してその日は就寝した。

そして次の日、俺は喉の差すような痛みで目を覚ました。
唾を呑みこむとさらにツキンと痛む。

「……やっぱりか」

これはもしかしなくても、風邪を引いた。
ほぼ初めてしたといってもいい大移動で、俺の体は疲れをためていたらしい。
そういう日の後は、必ずといっていいほど風邪を引いていたので、今日も例外ではなかった。
でもまだ喉が痛いだけなので、何とか今日の入学式には出られるだろう。
俺はベッドから起きて朝支度を始めた。

支度を済ませて寝室から出ると、祥吾は既に起きていた。

「柊、体はどう?」
「あー、うん平気。入学式には出られる」
「……本当?ちょっと声かすれてるけど」

努めて何ともない風で話したが、この目ざとい弟にはすぐばれた。

「……ごめん。本当は喉がちょっと痛い」
「やっぱり。昨日疲れたし、絶対風邪引いてると思った。今日は休みなよ」
「だけど喉が痛いだけだからさ。流石に最初の日にまで休めねえよ」
「駄目。どうせ熱まで出すに決まってる」
「うぐ……」

体調に関しては、全面的に祥吾が正しい。
今まで風邪を引いて熱を出さずに済んだことがなかった。
だけど今日は入学式だ。最初の日が一番大事なのに、休めるわけがない。

過去、小学校の時も中学のときも、俺は入学式に出席できたことがなかった。
当然だが入学式に出られなかったせいで俺はクラスになじむことができず、9年間ほぼ友達が居らずボッチ状態だったのだ。
高校ではそれは避けたい!俺だって友達欲しい!

そう祥吾に言ったら、祥吾は目を潤ませて俺を見つめてきた。

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