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入学#3

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「オレの柊になに密着してるの!?離れろよ!!」
「何だ?こいつ」
「弟です……。祥、あのな、この人は、俺を助けてくれた人で……」
「助けた!?なんかあったの!?」
「こいつが木から落ちて頭痛に苦しんでいたから助けた」
「木から落ちた!!!?頭痛!!?」

しゅばっと俺の元に駆け寄った祥吾は俺の頭を確認するように撫で始めた。

「大丈夫!?もう痛くない!?」
「大丈夫だよ。この人が助けてくれたし……」
「そっか、よかった……」

祥吾はほっと胸をなでおろした次の瞬間、ぐりんと首をイケメンに向けた。

「柊を助けてくれたのはありがたいけど、密着する必要ないだろ!」
「ただ背中を撫でてやってただけだが?」
「ななな撫でたぁ!?」
「落ち着け祥。本当にただ介抱してもらってただけだから……」

祥吾の俺に対して過保護すぎるところ、本当に何とかしたい。

「心配しなくても手なんざ出してねえよ」
「いや!信用ならない!この学園に居る男なんか、全然信用できないね!」
「それを言うならお前もだろ」
「や、やめろって!」

敵意むきだしの祥吾を落ち着かせるため、俺は祥吾の頭を撫でた。
ヒートアップしている祥吾を落ち着かせるには一番これが効果的だ。

「祥、やめろ。俺の恩人にそれ以上敵意むけるな」
「恩人!?この変態が!?」
「勝手に変態にするなよ!本当にただ介抱として背中撫でてもらってただけだよ。変なとこ触られてないから大丈夫」
「……本当だね?」
「本当だって!」

そこまで言ってようやく、祥吾は落ち着きを取り戻した。

「なんだ、変態じゃなかったか。兄を助けてくれてどうもありがとうございます」
「……コイツ本当何なんだ?」
「過保護な弟です……」

そう言ったらイケメンがとても気の毒そうな目を俺に向けてきた。
やめて……そんな目で見るのやめて……

「(なんかめんどくさそうだから)俺はもう行く」
「あ……」

イケメンは引き留める間もなく行ってしまった。
名前……聞きそびれたな……
去っていく姿を目で追っていると、祥吾に引っ張られた。

「柊、迎えの車来てるから行こう?」
「あ……ちょっとまって」
「ん?」
「じゃあな、猫。もう無理して登るなよ」

最後まで残っていた猫にそういうと、にゃあと返事をして去っていった。


***


「遠路はるばるお疲れさまでした、二宮柊司君、祥吾君。私はこの北斗学園理事長の、北斗ほくと明保あきやすといいます」

車で運ばれ着いた学園本部の入り口で、俺達は理事長に出迎えられた。
理事長は眼鏡をかけた、優し気な雰囲気のあるイケメンだった。柔らかな笑顔がとても眩しい。

「わざわざ迎えをもらってしまってすみませんでした。よろしくお願いします」
「いいんですよ。では理事長室までどうぞ」

理事長室に着くと、ソファに腰掛けるよう促された。

「まずはご入学おめでとうございます。ご実家から遠いのに入学いただきましてこちらとしても嬉しい限りです」
「いえ、そんな。オレに都合がよかったので入学させてもらったまでなので」
「ふふ……(都合をよくした、の間違いでしょう)」

理事長と祥吾は互いに笑顔を向けていたが、目が笑ってなかった。怖い。
横で震えていると、理事長がぽんと手を叩いた。

「柊司君はお疲れでしょうから、挨拶もそこまでにして、この学園について簡単に説明いたしましょう。祥吾君にはすでに少し話していますがね」

理事長はそういうと目の前のテーブルに紙を広げた。どうやらこの学園の地図らしい。

「この学園は初等科、中等科、高等科、そして大学とすべての建物がこの敷地内に立っておりまして、それぞれの寮も敷地内にあります。お二人がこれから入学する高等科はこのエリアですね」

高等科は敷地の南東付近にあり、その近くに、高等科の寮もあった。

「それで、柊司君には気になるところだと思いますが、医務室は各学科に備えられていますので、敷地を回る必要はありません。そして寮には必ず看護師が駐在するようにしております。あと、どうしても病院での治療が必要となった場合は大学に医学部がありまして、一般の方も来る病院となっておりますから、不測の事態が起きても大丈夫ですのでご安心ください」

元々医科大学が発展した学園であるらしく、医療には特に力を入れているのだと理事長は言った。

「そして寮のお部屋ですが、通常は二人部屋でして、相部屋になる方はこちらが指定するのですが、二宮君たちはご事情もありますのでお二人同室にさせていただきました。あと通常は看護師のみ駐在することになっているのですが、高等科は二宮君たちが居る間は医師も駐在するように変更いたしましたので」
「え……、もしかして俺の為に、ですか?」
「ええ(祥吾君にそうするよう脅されたのでね)」

うわあ……俺、すげえ迷惑かけてんじゃん……

「すみません……俺の為に」
「いいのですよ。学びの機会はたとえどんな事情があれど、すべての方に平等に与えられるべきものです。そのためのサポートをするのが、我々教育機関の務めですから」

そう言い放った理事長は、顔のよさもあいまって、非常に格好良かった。

「あ……、ありがとうございます……」

こんな風に言ってくれる教育者がいるなんて思わなかった。
俺は今まで、先生からは小学校の時も中学の時も、いつも腫物を触るような扱いをされてきた。
中には俺を厄介だといっている先生が居ることも知っていた。
だから、本当に嬉しくて……つい、涙が零れ落ちた。

「柊!?大丈夫、どっか痛い!?」
「ち、ちが……うれしくて思わず……」

そのとき、ふわ、と頭が撫でられた。
顔を上げると、理事長が優しい笑顔を浮かべて俺の頭を撫でていた。

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