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入学#2
しおりを挟む「どこだ?」
辺りを見回してもそれらしき影はない。
ふと上を見上げると、桜の木の枝に、小さなブチ模様の子猫がぷるぷると震えながらうずくまっていた。
「……もしかして、上ったのに下りられなくなったのか?」
時折みゃあ、とか細く鳴いているのを見ていると、なんだか放っておけない気持ちになった。
「おーい、おいで!」
そう叫んで手を伸ばしても、当然だが猫には届かない。猫も震えて一歩を踏み出そうとしない。
「どうしよ……」
困って辺りを見回すと、普段は門番が居るのだろう小さい待機所の側に、梯子が置かれているのに気が付いた。
これで登れば、猫に届くかもしれない。
梯子は俺の腕では重かったが、引きずりながらなんとか木の元に立てかけると、ゆっくりと登った。
「おいで、下ろしてあげるから!」
枝の先にいる猫に手を伸ばし、必死に呼びかける。
すると、言葉が通じたのかはわからないが、猫は震えがらもゆっくりと俺の手の方にやってきた。
猫は、少し俺の手の匂いを嗅ぐと、すりっとすり寄ってきた。
俺はすり寄ってきた隙を狙い、猫を両手でつかむことができた。
「やった!……って、あっ!?」
俺は、猫をキャッチできて喜んだ拍子に、ずりっと梯子にかけていた足を滑らせてしまった。
「やばっ!」
落ちる!
俺は来る衝撃に備えるためぎゅっと目を瞑った。
――ドサッ!!
「……あれ?」
――痛くない?
おそるおそる、目を開けた。
すると目の前に、男の自分でも見惚れるような、切れ長の目をした金髪のイケメンが居た。左右の耳には沢山のピアスが付けられている。
「危ねえな、気を付けろ」
「え?あの……」
「お前、随分軽いな。飯ちゃんと食ってんのか」
「へ?」
言われて俺はようやく、自分がこのイケメンに抱えられているのに気が付いた。
もしかしなくてもこのイケメンが落ちそうになった俺を助けてくれた?
「す!すみません!ありがとうございました!お、下ろしてください!」
ばたばた足をばたつかせるとイケメンは俺を下ろしてくれた。
すると途端に眩暈がして、思わずその場にうずくまった。
「おい、大丈夫か」
「……っ」
木に登るなんて柄にもないことをしたからだろうか。
いつもより眩暈がきつく、返事ができない。
ずきずきと頭も痛み始め、頭を抑える。
「痛……ッ」
「頭か」
頷きだけで応えると、イケメンは近くにあった俺と祥の荷物を示した。
「これはお前の荷物か?」
「は、い」
「薬はあんのか」
「ありま、す」
「どっちに入ってる」
「青い方……」
「わかった。開けるぞ、いいな」
そう言うとイケメンはすぐに俺の荷物を開け、常備薬をまとめている袋を取り出した。
その中からいつも頭痛がしたときに飲んでいるものを選び、パッケージから開けてくれた。
さらにいつも薬を飲むように常備している水のペットボトルも開けてくれた。
「ほら、飲め」
俺は痛みでもうろうとしながら、差し出された薬を飲みこんだ。
あとはずっと痛みが治まるまで、息を整えながらじっとするしかない。
イケメンは痛みが治まるまで、俺の背を撫でてくれていた。
「……す、すみません。もう大丈夫です」
お礼をいいながらイケメンをもう一度よく見ると、イケメンはものすごく眉を顰めていた。
「……随分薬が多いな。何か持病でもあるのか」
「えーっと……持病というか、元々体が弱くて……」
これという病気というわけではないのだが、いつも何かしら体に不調が起こる。
つまり、そういう体質なのだ。
なまじ病気ではないだけに、こうやって何か起こったら薬で症状に対処するしかないというのが厄介なところだった。
「いつものことなんで、気にしないでください。落ちそうなところも助けてもらっちゃったのに、介抱までしてもらっちゃって……ホントすみませんでした」
「いや別に……」
微妙な顔をしているイケメンに礼を言い、さらに俺が落ち着くまで待っていてくれた子猫にも礼を言った。
……そういえばこのイケメン、どれがどの薬か言ってなかったのに頭痛薬出してくれたな……
さらに頭痛薬にも色々種類があるのに、一番即効性のあるものを即座に出していた。
薬に詳しいのかな?
「よくあの大量の薬の中から頭痛薬がどれかわかりましたね。俺でもよくどれだかわからなくなるのに」
「……たまたまだ」
そう言ったイケメンの表情は固く、俺はそれ以上聞くのをやめた。
そのときだった。
「――柊!!その男誰!!!?」
現れたのは祥吾だった。
イケメンを指さしてわなわなと震えていた。
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