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第8章―再会
立ちはだかるものがあったとしても
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~イツキ視点~
――ようやく再会を果たした美陽と話をしていたら突然美陽の様子が変わった。
呆然と立ち尽くす俺を押しのけて処置を始めたのは、ウィリアム=ブラックウェル――美陽の今世の父親にして主治医でもあるその人だった。
現在彼は首都に滞在しているが、美陽が倒れたと聞いて首都から来て、今着いたところだったのだろう。相当急いできたのか、彼の髪や服装は少し乱れていた。
その後、病院の看護師や別の医師などもやってきて、病室内は騒然となった。
俺はその様子をただ部屋の隅で見ていることしかできなかった。
――数時間後、美陽はようやく落ち着き、再び眠りについたと、ウィリアム=ブラックウェルから知らされた。
処置の途中で邪魔だと部屋から追い出されたので、ずっと気が気でなかったが、落ち着いたと聞いて俺は胸を撫で下ろした。
「父さん……ミハルはどうして、また……」
「……詳しく検査しないとまだ確定とは言えないけど。……マナの影響がまた出てきてしまったとしか考えられないよ」
「そんな……どうして……。ミハルはマナを弾くアイテムをずっとしてたのに」
ダニエル=グリーンウッドが青い顔でそう呟くと、ウィリアム=ブラックウェルは考え込む仕草をした。彼にも思い当たる原因はわからないようだ。
そのとき、ずっと黙っていたレナルド=レッドグレイヴが口を開いた。
「最近……全体的に空気中のマナが濃くなってる。多分、その所為じゃないかと思う」
その発言にダニエル=グリーンウッドが驚いたように彼を見た。
「それ、この街だけじゃなかったの……?」
「首都とかこの街は、魔法具が多いからそんなもんだって思ってたけど……この前レッドグレイヴの領地に帰った時にも、マナが濃いって思ったんだ。でもほんの少しの差だったから、オレ、そんな深く考えてなかった……」
「……君はマナが感じられるの?」
ユリアスがそう聞いたのに、レナルドは頷いた。それに俺は驚いた。マナを感じられる人間が居たとは。
ジルのようにマナを視認できる人も珍しいが、レナルドのようにマナを感じ取れる人間も珍しい。
「ほんのちょっとの差でも、ミハルには大きな影響が出るって、オレ、頭じゃわかってたのに……考えが至らなかった。オレがちゃんと考えてれば……」
そう言って項垂れたレナルドの頭を、ウィリアム=ブラックウェルが優しく撫でた。
「君が責任を感じることじゃないよ。教えてくれてありがとう」
「……はい」
「そうとなれば、検査の為にミハルを移動させないとね」
ウィリアム=ブラックウェルがそう言ったとき、待合室に人が入ってきた。
その人は黒い艶やかな長い髪を後ろで束ね、強い意志を感じさせる紫色の瞳を持った女性だった。
この国唯一の女性公爵にして美陽の母――アリサ=ブラックウェル公爵だった。
「ウィル、すまない。遅くなった」
「いや、大丈夫。うちの領地からここまでは遠いからね」
「先程この病院の医師から聞いたが……ミハルはまた発作を起こしたそうだな」
「うん……多分またマナ不適合症の影響が出てしまったんだと思う。だからすぐに検査しないと」
「そうか。そうだと思って、ミハル専用の馬車を持ってきた」
「ありがとう」
公爵夫妻の会話を、俺は茫然と聞いていた。――やっと会えたのに、美陽は何処かへ連れていかれてしまうのか?
「……あの、美陽を何処に連れて行くんですか?」
するとウィリアム=ブラックウェルが答えた。
「マナ不適合症の専門病院。――ミハルの為に創った、専門病院だよ」
その病院は美陽がマナ不適合症だと判明した6歳の頃に設立が計画され、その二年後に完成した病院だった。
普通の病院では受けられない、マナ不適合症の人のための特別な検査や治療が受けられ、美陽はその病院でずっと定期的に検査を受けてきたらしい。
昔はブラックウェル領地内に一つしかなかったが、今は首都など主要な都市にも設立され、現在は国内に三か所あるそうだ。
「ここからだとやっぱり首都が一番近いかな」
「そうだな」
ブラックウェル公爵は夫の言葉に頷くと通信用の魔法具で連絡を取り始め、ウィリアム=ブラックウェルは病院内のスタッフに美陽を転院させるための指示を始めた。
そして数分後、ストレッチャーに寝かされた美陽が運び出されていった。
――再び顔を見ることもできないまま、美陽は連れていかれてしまった。
ようやく会えたのに、またすぐ離れ離れになってしまったことがショックで動けないでいると、後ろから肩を叩かれた。
「――皇子。帰りますよ」
そう言ってきたのはユリアスだった。
「……そんな、急に……」
「これ以上貴方はここに留まるべきじゃない。またいつ貴方を狙う勢力が現れるかわかりませんから」
「……だが」
「それにここに居る意味ももうないでしょう。――ミハルはもう居ないのだから」
「……」
確かに彼の言う通りだった。もう俺がここに居る意味はない。
俺がここに来たのは、美陽と会うためだからだ。その目的はもう達成したのだから、また何か起こる前に皇宮に帰れと彼は言っていた。
「ここまで連れてきた以上、貴方のことは無事に皇宮まで送り届けます。でももうこれきりです。ブラックウェル家が皇族である貴方に協力するのは」
ユリアスは冷徹な目で俺の姿を映していた。
彼は、これ以上俺と美陽を関わらせたくないのだろう。俺は常に命を狙われていて、そうでなくても今世の美陽は身体が弱いのに、さらに俺のことで心労をかけたくないのだというのが痛いほど伝わってきた。
「それでもなお、貴方がこれから先もミハルと関わることを望むなら――誰にも揺らがされない地位を手に入れてください。ミハルがこれ以上心配しなくて済むように」
俺はユリアスのその言葉に一瞬息を飲んだが、すぐに彼の目を見つめ返した。
「元より、そのつもりで居ました。必ず手に入れます。そしてそのとき今度こそ、美陽を迎えに来ます」
俺の返答に対して、ユリアスは表情を変えることはなかった。
彼は微塵も俺がその言葉を果たせるとは思っていないようだった。
――期待されていなくても、別にいい。
無理だと思われても、どんな邪魔が入ろうと、俺は絶対に今度こそ美陽との約束を果たす。
俺は再び決意を新たにしながら、ユリアスと共に皇宮へと戻ったのだった。
***
――ようやく再会を果たした美陽と話をしていたら突然美陽の様子が変わった。
呆然と立ち尽くす俺を押しのけて処置を始めたのは、ウィリアム=ブラックウェル――美陽の今世の父親にして主治医でもあるその人だった。
現在彼は首都に滞在しているが、美陽が倒れたと聞いて首都から来て、今着いたところだったのだろう。相当急いできたのか、彼の髪や服装は少し乱れていた。
その後、病院の看護師や別の医師などもやってきて、病室内は騒然となった。
俺はその様子をただ部屋の隅で見ていることしかできなかった。
――数時間後、美陽はようやく落ち着き、再び眠りについたと、ウィリアム=ブラックウェルから知らされた。
処置の途中で邪魔だと部屋から追い出されたので、ずっと気が気でなかったが、落ち着いたと聞いて俺は胸を撫で下ろした。
「父さん……ミハルはどうして、また……」
「……詳しく検査しないとまだ確定とは言えないけど。……マナの影響がまた出てきてしまったとしか考えられないよ」
「そんな……どうして……。ミハルはマナを弾くアイテムをずっとしてたのに」
ダニエル=グリーンウッドが青い顔でそう呟くと、ウィリアム=ブラックウェルは考え込む仕草をした。彼にも思い当たる原因はわからないようだ。
そのとき、ずっと黙っていたレナルド=レッドグレイヴが口を開いた。
「最近……全体的に空気中のマナが濃くなってる。多分、その所為じゃないかと思う」
その発言にダニエル=グリーンウッドが驚いたように彼を見た。
「それ、この街だけじゃなかったの……?」
「首都とかこの街は、魔法具が多いからそんなもんだって思ってたけど……この前レッドグレイヴの領地に帰った時にも、マナが濃いって思ったんだ。でもほんの少しの差だったから、オレ、そんな深く考えてなかった……」
「……君はマナが感じられるの?」
ユリアスがそう聞いたのに、レナルドは頷いた。それに俺は驚いた。マナを感じられる人間が居たとは。
ジルのようにマナを視認できる人も珍しいが、レナルドのようにマナを感じ取れる人間も珍しい。
「ほんのちょっとの差でも、ミハルには大きな影響が出るって、オレ、頭じゃわかってたのに……考えが至らなかった。オレがちゃんと考えてれば……」
そう言って項垂れたレナルドの頭を、ウィリアム=ブラックウェルが優しく撫でた。
「君が責任を感じることじゃないよ。教えてくれてありがとう」
「……はい」
「そうとなれば、検査の為にミハルを移動させないとね」
ウィリアム=ブラックウェルがそう言ったとき、待合室に人が入ってきた。
その人は黒い艶やかな長い髪を後ろで束ね、強い意志を感じさせる紫色の瞳を持った女性だった。
この国唯一の女性公爵にして美陽の母――アリサ=ブラックウェル公爵だった。
「ウィル、すまない。遅くなった」
「いや、大丈夫。うちの領地からここまでは遠いからね」
「先程この病院の医師から聞いたが……ミハルはまた発作を起こしたそうだな」
「うん……多分またマナ不適合症の影響が出てしまったんだと思う。だからすぐに検査しないと」
「そうか。そうだと思って、ミハル専用の馬車を持ってきた」
「ありがとう」
公爵夫妻の会話を、俺は茫然と聞いていた。――やっと会えたのに、美陽は何処かへ連れていかれてしまうのか?
「……あの、美陽を何処に連れて行くんですか?」
するとウィリアム=ブラックウェルが答えた。
「マナ不適合症の専門病院。――ミハルの為に創った、専門病院だよ」
その病院は美陽がマナ不適合症だと判明した6歳の頃に設立が計画され、その二年後に完成した病院だった。
普通の病院では受けられない、マナ不適合症の人のための特別な検査や治療が受けられ、美陽はその病院でずっと定期的に検査を受けてきたらしい。
昔はブラックウェル領地内に一つしかなかったが、今は首都など主要な都市にも設立され、現在は国内に三か所あるそうだ。
「ここからだとやっぱり首都が一番近いかな」
「そうだな」
ブラックウェル公爵は夫の言葉に頷くと通信用の魔法具で連絡を取り始め、ウィリアム=ブラックウェルは病院内のスタッフに美陽を転院させるための指示を始めた。
そして数分後、ストレッチャーに寝かされた美陽が運び出されていった。
――再び顔を見ることもできないまま、美陽は連れていかれてしまった。
ようやく会えたのに、またすぐ離れ離れになってしまったことがショックで動けないでいると、後ろから肩を叩かれた。
「――皇子。帰りますよ」
そう言ってきたのはユリアスだった。
「……そんな、急に……」
「これ以上貴方はここに留まるべきじゃない。またいつ貴方を狙う勢力が現れるかわかりませんから」
「……だが」
「それにここに居る意味ももうないでしょう。――ミハルはもう居ないのだから」
「……」
確かに彼の言う通りだった。もう俺がここに居る意味はない。
俺がここに来たのは、美陽と会うためだからだ。その目的はもう達成したのだから、また何か起こる前に皇宮に帰れと彼は言っていた。
「ここまで連れてきた以上、貴方のことは無事に皇宮まで送り届けます。でももうこれきりです。ブラックウェル家が皇族である貴方に協力するのは」
ユリアスは冷徹な目で俺の姿を映していた。
彼は、これ以上俺と美陽を関わらせたくないのだろう。俺は常に命を狙われていて、そうでなくても今世の美陽は身体が弱いのに、さらに俺のことで心労をかけたくないのだというのが痛いほど伝わってきた。
「それでもなお、貴方がこれから先もミハルと関わることを望むなら――誰にも揺らがされない地位を手に入れてください。ミハルがこれ以上心配しなくて済むように」
俺はユリアスのその言葉に一瞬息を飲んだが、すぐに彼の目を見つめ返した。
「元より、そのつもりで居ました。必ず手に入れます。そしてそのとき今度こそ、美陽を迎えに来ます」
俺の返答に対して、ユリアスは表情を変えることはなかった。
彼は微塵も俺がその言葉を果たせるとは思っていないようだった。
――期待されていなくても、別にいい。
無理だと思われても、どんな邪魔が入ろうと、俺は絶対に今度こそ美陽との約束を果たす。
俺は再び決意を新たにしながら、ユリアスと共に皇宮へと戻ったのだった。
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