上 下
73 / 80
第8章―再会

立ちはだかるもの#1

しおりを挟む

――二週間後。

俺は研究会の合宿のため、グリーンウッド領内にあるダニエルの生まれ故郷の港町へ向かった。
二週間前に出してしまった熱は昨日までに何とか下がった。母の貸してくれた魔石のお陰かもしれない。

伊月と再会するのは、明日の予定だ。
伊月は今日の昼まで別の場所で公務をしているそうなので、その後グリーンウッド領まで来て、次の日、ダニエルとジルベール先輩が用意してくれたコテージで俺と落ち合うことになっている。

そんなわけで伊月と落ち合うまで俺は、ダニエルとレナルドと一緒に、ダニエルが昔住んでいたという港町を観光していた。
ちなみにジルベール先輩は伊月と一緒に居て、今日の夜、伊月と一緒にこちらに向かうそうだ。

でも、俺はつい昨日まで寝込んでいたということもあって、早々にバテてしまった。

「ミハル、大丈夫?」
「……う、うん……ごめん、折角案内してくれてるのに……」
「そんなの気にしなくていいから。……明日が本番なんだから、今日はもう休もう」
「え、でも……」
「いいから休むよ。顔色も悪いし、本当は息苦しくなってるんじゃないの。そんなんじゃ明日皇子に会えないよ」
「う……」

ダニエルは相変わらず目ざとかった。息がちょっとしづらくなってることもバレていた。

「ちょっとこの辺、マナが濃いからかもな」

そのときレナルドが辺りを見回しながらそう言った。

「濃いの?この辺」
「ああ。多分あれじゃねえか。市場の魚の鮮度保つ魔法具」
「……あー、あれか」

レナルドが示した先にある市場を見たダニエルが、納得したように頷いた。
……本当いろんな所に魔法具あるな……。折角、昔、ダニエルが教えてくれた市場に来られたのに、結局全然近くで見られないし……。ほんのちょっとマナが濃い場所に行くだけでこれだ。
せめてもう少しマナに耐性があれば良かったのに……。

そんなことを考えていると、目の前でレナルドがしゃがんだ。

「乗れよ。宿まで連れてってやるから」
「そ、そんな、悪いよ」
「いいから乗れって。どうせ歩くのは無理だろ?」
「……うう」

その通りなので何も言えなかった。

俺は自分の情けなさに凹みつつもレナルドの背中に乗った。
そしてレナルドに今日泊まる予定の宿まで運んでもらっているうちに、俺は眠ってしまった。


***


~ダニエル視点~


「……ミハル寝ちゃったね」
「なんか色々気にしてたみたいだしな。明日のことも不安なんだろ」
「そうなんだろうね……」

ミハルは、前世の恋人とは死に別れたような状況だったらしいから、本当に会えるのか心配になるのも無理はない。
それについ先日まで寝込んでいたらしいし、今日も本当は街に出られる体調じゃなかったようだけど、僕の生まれ故郷を実際に見たかったと言われてしまっては、僕にはそれ以上止めることができなかった。
レナルドにも何かあったら担いで行くからと言われてしまったし。

その言葉通りミハルを担ぐことになったレナルドを見やりながら、僕は言った。

「君さ……家で家族と対立してるって本当なの?」

僕のその言葉にレナルドは「そうだけど」とあっさりと返した。

「そうだけどって……軽いな」
「三番目の兄貴が、オレがブラックウェルのミハルと関わってんの親父にチクりやがったんだよ。だったらもう開き直るしかねーじゃん?だってオレ、ミハルとは対立したくねえし」

彼より三つ上だという三番目の兄はアカデミーに入学していて、セザール皇子とも関わりを持っていると聞いた。セザール皇子と関わっているところを見ると、彼の兄は純然たる現皇帝派なのだろう。

「それ……大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。チクった兄貴のことは剣でねじ伏せてやったし!オレんちは自分の主張を貫きたきゃ強さで示すのが家訓だからさ。――それにどうせ、オレは家は継げねえしな。成人したら家出るつもりだから問題ねえよ」

僕はあっけらかんと言い放ったレナルドに驚いた。
ミハルに聞いた話だと、幼い頃の彼はレッドグレイヴ家の子息であることを誇りに思っていて、だからレッドグレイヴ家当主の父親に認められるために強さを求めていたそうだ。
その彼が、まさか家を出るつもりでいたとは思わなかった。

「レッドグレイヴ家に残らなくていいの?君、お父さんに認められたいから強くなりたかったんじゃないの」
「それはガキの頃の話だな。――今は、ミハルのために強くなりたいって思う。オレはミハルを一人にしたくない。だからそのためならオレは、レッドグレイヴじゃなくなってもいい」

そうきっぱりと言い放ったレナルドが、僕は眩しく見えて目を細めた。

「……そうなんだ。じゃあ家出たらどうするつもりなの?」
「そうだなー。ミハルと一緒に居てえし……ブラックウェル騎士団の入団試験でも受けるかな」
「……いいの、それ」
「何が?」
「ミハルがイツキ皇子と再会して、皇子が皇帝になったら、ミハルはイツキ皇子と一緒に居るようになるんじゃないの?そうしたら離れ離れになるよ」
「そんならオレも付いてくぜ。騎士として側に居る分は問題ねーだろ?」
「……君はそれでいいんだね」

あくまでミハルと共に居ることが大事らしいレナルドは、僕とは考えが違うらしい。

「一緒に居るだけじゃ駄目なのか?」
「……僕は……本当は、それ以上の存在になりたい。でも前世の恋人なんて……絶対敵わないのに。でも僕、諦め切れないんだよ」
「……」

言ってからハッと気づいてレナルドを見やると、彼は目を丸くしていた。
――こんなこと、コイツに言うつもりなかったのに。
イツキ皇子とミハルを会わせることも自分で了承してセッティングまでしたのに、結局未練たらたらじゃないかと馬鹿にされるかもしれない。

「……ごめん今の忘れて」
「――ミハルはお前の気持ち、ちゃんとわかってると思うぜ。だから今はそれでいいんじゃねーか」

しかしレナルドはただそれだけ言うと、ミハルを担ぎ直して再び歩き始めた。
その言葉は僕の心にすとんと入ってくると同時に、ミハルは彼のこういうところを感じ取ったから、最初の友達になったのかもしれないと思った。
でも、一つ下のコイツにこんなことを言われるのがなんだか癪だったので軽く足を踏んづけてやった。

「お前僕より一つ下のくせに生意気なんだよ!」
「いてえな!何すんだ!」
「いいから行くよ。ミハルを早く休ませてあげないと。ほらそんなところで止まってないで早く」
「お前が踏んづけてきたんだろうが!」

レナルドと言い争いながら宿に戻る間で、心の中にあったもやもやはいつの間にか無くなっていた。
これなら僕は、ミハルと皇子が再会した後も笑っていられると、そっと笑みを浮かべた。

――でも、このときの僕らはまだ知らなかった。

ときに運命というものは、残酷に立ちはだかってくるということを。


***

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

転生したからチートしようと思ったら王子の婚約者になったんだけど

suzu
BL
主人公のセレステは6歳の時に、魔力および属性を調べるために行う儀式に参加していた王子の姿を見て、前世の記憶を思い出す。 そしてせっかくならチートしたい!という軽い気持ちで魔法の本を読み、見よう見まねで精霊を召喚したらまさかの精霊王が全員出てきてしまった…。 そんなにところに偶然居合わせしまった王子のライアン。 そこから仲良くなったと思ったら突然セレステを口説き始めるライアン?! 王子×公爵令息 一応R18あるかも ※設定読まないとわからなくなります(追加設定多々) ※ショタ×ショタから始まるので地雷の方は読まないでください。 ※背後注意 ※修正したくなったらひっそりとやっています ※主人公よく寝ます

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...