異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第8章―再会

告白#1

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***

『伊月……遅いなぁ』

――前世のあの日――運命が変わった日。
俺は、伊月と共に暮らし始めた記念日のお祝いの為に、いつもより贅沢に食材を使った料理を作って待っていた。
仕事が立て込んでしまって少し帰るのが遅くなると、伊月からスマホにメッセージが届いたのが六時間程前。
それに俺は、焦らないでゆっくり帰ってきてと返信をした。
それからは音沙汰がなく、もうすぐ日付が変わろうとしていた。

そのときだった。
無機質な電子音が持っていたスマホから鳴り響いた。

『あ……伊月かな?』

しかしスマホの画面に表示されていたのは待ち人の名前ではない、知らない番号だった。

『……もしもし』

怪しいとは思ったが、通話ボタンをタップし耳に当てた。すると聞こえてきたのは低い男の人の声だった。

『榊原伊月さんの同居人の方でしょうか』
『はい、そうですが……』
『私は○○警察署刑事一課の□□と申します』
『け、警察?警察の方が、どうして……』
『――つい先程……榊原伊月さんが道端で亡くなっているのが発見されました』

俺はその言葉に思わずスマホを取り落としそうになった。

『え、う、嘘……』
『本来はご親族の方へ連絡をさせていただくのですが、榊原さんのお持ちのものには親族の方の連絡先がなく……唯一連絡先として登録されていた貴方へご連絡をさせていただきました』

どんどん電話の向こうの声が遠くなっていくのを感じた。
言われていることが理解できなかった。

でも理解はできなくても、頭の隅では聞いていたらしい。
気付いたら俺は、警察に言われたとおりに警察署の遺体安置所に来ていた。

無機質な部屋の真ん中に、ピクリとも動かず横たわる伊月が居た。
空から降ってきた何かにぶつかったという彼の頭は隠されていたけど、でも顔は綺麗だった。
――目の前に横たわる彼が、もう生きていないなんて、信じられなかった。

『伊月……、なんでそんなところで寝てるんだよ』

伊月は、実は朝が弱かったから、俺がいつも先に起きて、何時までも寝ようとする彼を起こしていた。
だから、話しかければいつもみたいに起きてくれるんじゃないかなんて思って。

『起きてよ……。伊月、なんで起きないの……』

気付けば俺は動かない彼の体に縋りついていた。

『伊月……!起きてよ!ねえ!!伊月!!』
『――須藤さん!落ち着いてください!!』

起きない伊月の身体を無茶苦茶に揺すろうとしたら警察の人に止められた。
それでも抵抗して伊月の身体に手を伸ばしたが、伊月が起きるはずもなく、俺は別室に連れていかれてしまった。


――それからは怒涛だった。
伊月を殺した物が何かはわからないままだったが、空から何かが降ってきたことに関しては目撃者が多数居たので、伊月の死は事件性は無いと判断されて警察の捜査は早々に終わった。
だが、捜査が終わっても伊月が俺のところに戻ってくることは無かった。

結局俺は、世間的にはただの同居人でしかなかったからだ。たとえ恋人だろうが、一生一緒に居ると約束しようが、所詮結婚も出来ない俺達の繋がりは、赤の他人にとってはそんなものでしかなかった。
伊月の遺体は、伊月の家族に引き取られた。――伊月のことを見向きもしなかった家族の下に。
俺は葬式には出られたけど、伊月のことなんてどうでもいいと考えていた家族によって執り行われた葬式は実に簡素なものだった。

そして伊月の存在はあっという間にこの世から消えた。

――俺の心だけを置き去りにして。


***


「……っ!」

――自身の荒い息遣いで目が覚めた。
息を整えながら身体を起こすと、着ていた寝間着がぐっしょりと汗で濡れていた。
頭もぼーっとするし、ユリアスが言っていたとおり夜中になって熱が上がったようだ。

「この夢……久々に見たな」

先程まで見ていた夢は、この世界に転生した当初は毎日のように見ていた夢だった。
まだ、この世界に慣れてなくて、体調も不安定でしょっちゅう死にかけていた頃に。
でも最近は殆ど見ることもなくなっていたのに、今更こんな夢見るってことは、やっぱり俺、不安なんだな……。

「――ミハル?」
「……!」

そのとき、誰かが部屋に入ってきた。

「起きていたんだな。随分魘されていたようだが、気分は悪くないか?」
「お、お母様……こんな時間に、どうして……」

部屋に入ってきたのは母だった。母はその手にお湯の入った桶とタオルを持っていた。

「お前は昔から熱を出すとこれくらいの時間に魘されていたから、今日ももしかしたらと思ってな」
「え……そ、そうでしたか……?」
「ああ」

母が苦笑しながらサイドチェストに桶を置くのを、俺は縮こまりながら見つめた。

「随分と汗を掻いたようだな。拭くから少し服を脱がすぞ」
「あ……、ごめんなさい……」
「謝ることはない」

母は湯の入った桶でタオルを絞ると、俺の服を脱がせて体を拭いてくれた。
昔はよくこうやって母が体を拭いてくれたものだった。昔の俺は身体が弱すぎて満足に湯浴みも出来なかったので、せめてものと母は、当主業で忙しい傍ら俺の部屋に来ては体を拭いてくれたのだ。

久々に母に身体を拭かれる懐かしさと、母の優しい手使いの気持ちよさに俺は目を閉じた。

「よし、終わったぞ。じゃあ次は服も着替えような」
「いや、あの、服は自分で着れますから……」
「そう遠慮するな。最近は子供たち皆、手がかからなくなって寂しかったんだ。だからたまにはこの母に世話を焼かせてくれ」
「う……わかりました」

いつも強気な母に少し寂し気に笑いながらそんなこと言われてしまったら、抵抗なんて出来なかった。


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