異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第7章―友愛

深思#3

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『言ってもいいが、誰にも言わないな?』
『俺がただ知りたいだけなので、誰かに言うつもりはないです』
『ならいい。……美陽は俺の前世の恋人だよ』
『前世……ですか?』
『信じられないなら信じる必要はない』
『いえ、信じます』
『随分あっさり信じるな』
『俺は前世の存在は元々信じてますので』

マナが生まれた時から視認できた俺は、生物の「魂」というものも認知が出来た。
この世の生物は皆、体と魂にそれぞれマナを宿しているからだ。
体を薄く覆うマナと、その中心に渦巻いているマナ。体に宿るマナが薄く覆われているマナで、中心に渦巻いているマナが魂に宿るマナだと俺は思っていた。
「魂」があるなら、前世というものがあったってなんらおかしいことではない。俺はそう考えていた。

『で、その前世の恋人と何を約束したんですか?』
『本当にお前、ずけずけ来るな……』

イツキ皇子は呆れながらも前世の恋人とした「約束」を教えてくれた。

『その「約束」を破ったくらいでそんなに魘されるものですか?』
『――俺達にはお互いしかいなかった。だから何があっても側に居るって、絶対に一人にしないって約束したんだ。なのに、俺はそれを守れなかったから』

彼の言い分は、当時の俺にはやはり理解出来なかった。
そういう風に思える相手を俺は当時も――今も知らないので。

『その約束をもう一度果たすために、こうして転生して、美陽のことも一緒に転生させるよう願ったが……約束を破った俺を、美陽はもう許してくれない気がして……そう思うと、怖いんだよ』
『……怖い、ですか?』
『美陽に拒絶されたら俺はもう生きていけない。皇宮の中で命を狙われながら生きるなんて……もう出来ない』
『……』

それは彼が初めて見せた本音だった。
――恋人をそこまで想う彼の、その心の内を俺はすべて理解できたわけではなかった。
俺は生まれてから今まで、生きるためにただ一人で力を磨いて生きてきたからだ。魔法が使えなければ俺は父に存在は認められず、今頃は路頭に迷っていた。だからそうはならないよう、一人でひたすら力を付けてきた。その過程で、誰かとその苦労を分かち合おうなどとは考えたこともなかった。

でも、目の前で、恋人に許されないのが怖いと、もしそうなったら生きていくことが出来ないと嘆く人間を放っておける程、俺は冷血漢でもなかった。

『俺は貴方の恋人のことはよく知りませんが、一回約束を破ったくらいで許さないような人なんですか?』
『……そんなことは……』
『じゃあ大丈夫でしょう。そこまで恋人を想っているのならもう少しその恋人を信じてあげたらいいんじゃないですか』
『……。確かに、そうだな』

俺の言葉が効いたのかはわからないが、それからイツキ皇子の瞳が変わった。
それまでどこか諦めたような瞳をしていた彼は、その日から何か決意をした瞳になっていた。
それから彼の怪我は急速に回復し――数週間後、彼は同じく回復した従者と共に皇宮へと戻っていった。
皇宮へ帰る前、彼は律義に俺へ挨拶に来た。

『お前、ジルベール……といったか?』
『そうですが』
『――ありがとう』
『……は?』
『お前のお陰で少し心が変わった』
『はあ……』

俺としては礼を言われるようなことをした覚えが無かったので曖昧に頷くことしかできなかった。
だがそれでも彼は満足したのか、口角を上げると「また会おう」と言って去っていった。彼が笑ったところを見たのはそれが初めてだった。
俺は彼の最後の言葉を社交辞令だと思っていたが、それから何度も公務の間に彼が俺に会いに来るようになるとは、この時の俺はまだ知る由もないのだった。


***
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