異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん

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第7章―友愛

気になること#2

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~レナルド視点~

「あれ、レナルド……?どうしたの?今日の研究会の活動もう終わったの?」
「ああ。センパイも居ないし、ダニエルもどっか行っちまったからな」
「そうなの?」

ミハルとダニエルの寮の部屋を訪ねると、少し顔の赤いミハルに出迎えられた。
ミハルは街に行って疲れが出たのか、あの後熱を出してしまったので、ここ数日はアカデミーの授業を休んでいた。

「体調どうだ?」
「うん、大分熱下がったよ」
「ホントか?」

熱を確かめるためにミハルの額に手を当てると、まだ平熱とは言えない熱さを感じてオレは顔を顰めた。

「まだ熱いじゃん」
「こ、これでも下がったんだよ……本当に」
「これじゃまだ授業は出れねえな」
「でもそろそろ出ないと勉強遅れちゃう……」
「気持ちはわかるけど、でもダメだ」

明日には授業に復帰したいと言うミハルを宥めてベッドに寝かせた。

「これくらいなら全然大丈夫なのに……」
「ミハルの大丈夫は全然信用できない」
「えー……」

ベッドに横になりながら不満そうに頬を膨らますミハルにオレは内心、彼も変わったなと思っていた。
――昔、オレと同じ病室で入院してたときのミハルは、こういうふうに不満を出したことはなかったからだ。

あの頃のミハルは、どんなにきつくてつらい治療でも、不満を漏らすことも弱音も吐いたこともなかった。
5歳のオレは、そんなミハルを見て「つよい」って思ってたけど。

今となっては、当時のミハルは誰にも言わずに一人で耐えてたんだなと思う。
きっと、言えなかったのだ。当時の彼は。
つよくて、やさしすぎるばかりに、彼は人に頼ることを知らなかったのだ。

不満も弱音も言えなかった彼が、今は年相応に不満を漏らせていることがオレは嬉しい。
――そういう相手に、自分がなれたことが嬉しかった。

「いいからもう寝ろよ。寝れば早く治るだろ」
「うーん……でも今日も朝から寝てたから今、眠くないんだよなぁ」
「ったく、しょうがねえなあ」

オレはベッドサイドに置かれた椅子に腰かけると、すぐそばにあるサイドチェストから懐かしいものを見つけたのでそれを手に取った。

「じゃあ眠くなるまでコレやるか」
「わ、レナルドとのチェス久々だね!」
「眠くなるまでだぞ」
「うん!」

嬉しそうに笑うミハルと一緒にチェス盤に駒を並べながら、オレは懐かしさに胸を一杯にした。


しばらくミハルとのチェスを楽しんでいたが、やがて眠気が訪れたのか途中で彼はすやすやと眠ってしまった。
眠ってしまった彼に布団を掛けてチェス盤を仕舞うと、もう一度ミハルの顔を見つめた。

先程まで楽しそうにチェスをしていたミハルの寝顔は、今は険しかった。泣き出しそうにも見える。
ミハルは、熱を出すといつもこうだった。

「……いつき……」

――そして、寝言でオレの知らない誰かの名前を呼ぶのも同じ。
かつて入院していたあのときも、そうだった。

5歳のオレはそれを疑問に思いながらも深くは気にしていなかったけど、今は凄く気になる。

――「いつき」とは誰なのか。
――何故その名前を呼ぶときはいつもつらそうなのだろうか。

気になることは沢山あるけれど、それをミハルに聞くことは出来ない。
彼も寝ているときに名前を呟いていることなんて気付いていないだろうし、聞くことで彼につらい思いをさせるのも嫌だった。

「ミハル……」

だからオレにできることといったら、少しでも眠る彼の心が安らぐように手を握ることくらいしかないのだった。

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