62 / 80
第7章―友愛
気になること#1
しおりを挟む
~レナルド視点~
首都を散策してから数日。
科学技術研究会は滅茶苦茶ギスギスしていた。
「……」
主な原因は不機嫌さを隠そうともしないダニエルである。
研究会に新たに入った2年のジル=ブランセンパイが実は魔法使いであったことがこの街に出た時に判明してからというものの、ダニエルはずっとこうだった。
そのジルセンパイは実家の方でなにやら用があるとのことで、ここ数日は研究会に顔を見せていなかった。
『魔法使いであったことを隠していたのは申し訳ありません。……ですが、科学技術に興味があるのは本当です』
ジルセンパイは実家の方に帰る前にオレとダニエルにそう言い残していた。
『……今更そんなこと言われても、信じられると思ってるの?』
『それも重々承知です。でも本当です』
ジルセンパイはダニエルに冷たく睨まれても、毅然としていた。
『センパイが科学技術に興味持ったのって、何がきっかけだったんだ?』
俺がそう聞くと、ジルセンパイが掛けていた眼鏡を外しながら答えた。
『この眼鏡……マナが見えすぎないようにしてくれるもので、これ自体は昔からあったんですけど、あまり性能が良いとは言えませんでした』
ジルセンパイはマナが視認できる特殊体質だったが、マナが見えすぎる所為で、頭痛がしたりしてかなり苦労していたらしい。
マナが見えすぎないようにする特殊眼鏡でだましだまし過ごしていたが、成長するにつれて眼鏡の性能が追い付かなくなった。
でも、科学技術がここ数年で少し進歩したおかげで、特殊眼鏡の加工技術が上がり、今は昔に比べるとかなり楽に過ごせているそうだ。
『僕が今、楽に過ごせてるのは科学技術が進歩したおかげです。なので科学技術を研究したいという思いが湧いてきたんですよ』
彼が言っていたことは、オレは嘘じゃないと思った。
研究会に入った一番の目的はミハルの護衛だけど……科学技術を研究したいと思ったのも本心なんだろう。
ダニエルもそれはわかっていると思うが……頭でわかってても心が追い付かないんだろう。
ミハルに聞いた話だと、ダニエルは昔から科学技術の研究者になるのが夢だったけど、魔法使いにそれを馬鹿にされたことがあって、それ以来ダニエルは魔法使いを目の敵にしているようだ。
「おい、ダニエル」
「……何?」
「いい加減ジルセンパイのこと許してやれよ」
「別に許すも何も、怒ってないし」
「嘘つけ」
口を尖らせながら言うダニエルにオレは肩を竦めた。
「怒ってない奴はそんなギスギスした雰囲気出さねえんだよ」
「だから怒ってないって!」
「じゃあ何だよその態度」
「……あの人がまだ隠し事してるからだよ」
ダニエルは苦々しく呟いた。
「あの人……多分ジル=ブランって名前じゃない」
「……はあ?なんだって?」
「ジル=ブランっていう生徒は確かに居るけど、多分あの人は違う」
「……どういうことだよ」
「魔法使いなら姿も偽れるでしょ。あの人、魔法でジル=ブランに成りすましてるんだよ」
「何でそんなこと……」
「あの人、ミハルの護衛を誰かに頼まれたからここ入ったって言ってたよね。だからでしょ」
ダニエルが言うには、本来の姿と名前ではセンパイを遣わせた人間がわかってしまうから姿を偽っているのではないかということだった。
「それならそれでもいいけど、せめて代表の僕には素性は言ってほしいんだよね。万が一何かあったら対処できないしさ。それに、ミハルの護衛を頼んだ奴のことも気になるし」
「まあ……それはそうだな」
オレもジルセンパイを遣わせたという奴のことは気になっていた。
ミハルには殆ど交友関係は無いにも関わらず、彼を気にかけている謎の人物が居るというのは薄気味悪さを感じる。
「でも、オレは知らねえ方が良いって言われたぞ」
「何それ。彼がそう言ってたの?」
「ああ。『レッドグレイヴの貴方はより一層知らない方が良いと思います』って言われた」
「それをもっと早く言えよ。……成程ね」
今のやり取りでダニエルは何か掴んだらしい。やはり巷で天才児と呼ばれているだけはあるようだ。
そのダニエルはおもむろに椅子から立ち上がると、オレに何かを投げて寄越した。
「それ、僕らの寮の部屋の鍵だから。僕が帰るまでミハルのことよろしく」
「それはいいけど、お前どこ行くんだよ」
「裏取ってくる。ちょっと時間かかるかもだから、その間は活動休みね」
「は?ちょっと待……」
困惑するオレを余所に、ダニエルはそれだけ言い残すと部屋を出て行った。
アイツ、割と勝手だよな……。
「――まぁいいか。しばらくミハルのこと独り占めできそうだし」
オレは受け取った鍵をポケットに突っ込むとミハルのいる寮へと向かった。
首都を散策してから数日。
科学技術研究会は滅茶苦茶ギスギスしていた。
「……」
主な原因は不機嫌さを隠そうともしないダニエルである。
研究会に新たに入った2年のジル=ブランセンパイが実は魔法使いであったことがこの街に出た時に判明してからというものの、ダニエルはずっとこうだった。
そのジルセンパイは実家の方でなにやら用があるとのことで、ここ数日は研究会に顔を見せていなかった。
『魔法使いであったことを隠していたのは申し訳ありません。……ですが、科学技術に興味があるのは本当です』
ジルセンパイは実家の方に帰る前にオレとダニエルにそう言い残していた。
『……今更そんなこと言われても、信じられると思ってるの?』
『それも重々承知です。でも本当です』
ジルセンパイはダニエルに冷たく睨まれても、毅然としていた。
『センパイが科学技術に興味持ったのって、何がきっかけだったんだ?』
俺がそう聞くと、ジルセンパイが掛けていた眼鏡を外しながら答えた。
『この眼鏡……マナが見えすぎないようにしてくれるもので、これ自体は昔からあったんですけど、あまり性能が良いとは言えませんでした』
ジルセンパイはマナが視認できる特殊体質だったが、マナが見えすぎる所為で、頭痛がしたりしてかなり苦労していたらしい。
マナが見えすぎないようにする特殊眼鏡でだましだまし過ごしていたが、成長するにつれて眼鏡の性能が追い付かなくなった。
でも、科学技術がここ数年で少し進歩したおかげで、特殊眼鏡の加工技術が上がり、今は昔に比べるとかなり楽に過ごせているそうだ。
『僕が今、楽に過ごせてるのは科学技術が進歩したおかげです。なので科学技術を研究したいという思いが湧いてきたんですよ』
彼が言っていたことは、オレは嘘じゃないと思った。
研究会に入った一番の目的はミハルの護衛だけど……科学技術を研究したいと思ったのも本心なんだろう。
ダニエルもそれはわかっていると思うが……頭でわかってても心が追い付かないんだろう。
ミハルに聞いた話だと、ダニエルは昔から科学技術の研究者になるのが夢だったけど、魔法使いにそれを馬鹿にされたことがあって、それ以来ダニエルは魔法使いを目の敵にしているようだ。
「おい、ダニエル」
「……何?」
「いい加減ジルセンパイのこと許してやれよ」
「別に許すも何も、怒ってないし」
「嘘つけ」
口を尖らせながら言うダニエルにオレは肩を竦めた。
「怒ってない奴はそんなギスギスした雰囲気出さねえんだよ」
「だから怒ってないって!」
「じゃあ何だよその態度」
「……あの人がまだ隠し事してるからだよ」
ダニエルは苦々しく呟いた。
「あの人……多分ジル=ブランって名前じゃない」
「……はあ?なんだって?」
「ジル=ブランっていう生徒は確かに居るけど、多分あの人は違う」
「……どういうことだよ」
「魔法使いなら姿も偽れるでしょ。あの人、魔法でジル=ブランに成りすましてるんだよ」
「何でそんなこと……」
「あの人、ミハルの護衛を誰かに頼まれたからここ入ったって言ってたよね。だからでしょ」
ダニエルが言うには、本来の姿と名前ではセンパイを遣わせた人間がわかってしまうから姿を偽っているのではないかということだった。
「それならそれでもいいけど、せめて代表の僕には素性は言ってほしいんだよね。万が一何かあったら対処できないしさ。それに、ミハルの護衛を頼んだ奴のことも気になるし」
「まあ……それはそうだな」
オレもジルセンパイを遣わせたという奴のことは気になっていた。
ミハルには殆ど交友関係は無いにも関わらず、彼を気にかけている謎の人物が居るというのは薄気味悪さを感じる。
「でも、オレは知らねえ方が良いって言われたぞ」
「何それ。彼がそう言ってたの?」
「ああ。『レッドグレイヴの貴方はより一層知らない方が良いと思います』って言われた」
「それをもっと早く言えよ。……成程ね」
今のやり取りでダニエルは何か掴んだらしい。やはり巷で天才児と呼ばれているだけはあるようだ。
そのダニエルはおもむろに椅子から立ち上がると、オレに何かを投げて寄越した。
「それ、僕らの寮の部屋の鍵だから。僕が帰るまでミハルのことよろしく」
「それはいいけど、お前どこ行くんだよ」
「裏取ってくる。ちょっと時間かかるかもだから、その間は活動休みね」
「は?ちょっと待……」
困惑するオレを余所に、ダニエルはそれだけ言い残すと部屋を出て行った。
アイツ、割と勝手だよな……。
「――まぁいいか。しばらくミハルのこと独り占めできそうだし」
オレは受け取った鍵をポケットに突っ込むとミハルのいる寮へと向かった。
37
お気に入りに追加
3,009
あなたにおすすめの小説
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う
ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園
魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的
生まれ持った属性の魔法しか使えない
その中でも光、闇属性は珍しい世界__
そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。
そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!!
サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。
__________________
誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です!
初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。
誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
転生したからチートしようと思ったら王子の婚約者になったんだけど
suzu
BL
主人公のセレステは6歳の時に、魔力および属性を調べるために行う儀式に参加していた王子の姿を見て、前世の記憶を思い出す。
そしてせっかくならチートしたい!という軽い気持ちで魔法の本を読み、見よう見まねで精霊を召喚したらまさかの精霊王が全員出てきてしまった…。
そんなにところに偶然居合わせしまった王子のライアン。
そこから仲良くなったと思ったら突然セレステを口説き始めるライアン?!
王子×公爵令息
一応R18あるかも
※設定読まないとわからなくなります(追加設定多々)
※ショタ×ショタから始まるので地雷の方は読まないでください。
※背後注意
※修正したくなったらひっそりとやっています
※主人公よく寝ます
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる