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間章2―すべてのはじまり
二人だけの幸せ#1
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~伊月視点~
俺が美陽と出会ったのは小学一年のときだった。俺と美陽は違う小学校に通っていたが、偶々道端ですれ違い目があった瞬間、俺達は「同じだ」と思った。
――家族から邪魔なものとして扱われている。その点で俺と美陽は同じだった。
美陽は、実親を物心つく前に亡くしてから伯父一家に引き取られて暮らしていたものの、役立たずの穀潰しだと言われていた。
俺は、父親が実母と離婚した後に迎えた後妻と――父と後妻との間に生まれた子供に邪魔者扱いされていた。
ちなみに俺の実母は俺が三歳の頃に家を出て行って以来一度も顔を合わせたことはない。
そして後妻――義母は俺が実子より出来が良いことを勝手に逆恨みして、わざと食事を俺の分だけ作らなかったり、俺の洗濯物だけ洗わず放置してきたりと幼稚なことをしてきた。
そして父と後妻の子供――異母弟は、頭は弱いが、ないことをでっちあげることに関しては上手かった。
何か不都合なことがあれば、上手いこと父親たちに嘘を吹き込み、俺を悪者に仕立て上げた。
それにより、実父でさえも次第に俺を毛嫌いするようになり、俺は家で居場所を失くしていった。
だが、美陽の家庭環境は俺よりも悪かった。
美陽の伯父一家は、美陽を召使のように扱っていた。
毎日の家事の殆どを美陽に任せて、自分たちだけ外食に行ったり旅行に行ったりしている一方、家事が少しでも滞ると美陽を「出来損ないだ」となじった。
少しでも抵抗をすると、自分たちが引き取ってやったことを盾にして、美陽が反抗できないように支配した。
それでも美陽は「自分の所為だから」と彼らを責めるようなことは一度も言ったりしなかった。
そんな美陽の危うくも純粋な心に、俺は惹かれた。そんな彼の心を、守りたいと思うようになった。
共に家庭に居場所がない俺達は、自然と意気投合した。
そして一緒に過ごすうちに互いが大事な存在へと変わるのに、時間は要らなかった。
家族の誰にも必要とされない俺達だが、互いだけは互いに必要としている。それだけで俺達の心は満たされた。
この頃から既に俺には、美陽と一生共に居たいという気持ちは芽生えていたが、その思いが決定的になったのは小学三年の秋のことだった。
いつも二人で会うときに使っている公園。その公園で俺達は学校が終わったら落ち合って、日が傾くまでの短い時間を共に過ごした後、離れるのを惜しみつつ帰りたくもない家に帰っていた。
その日の前日も、俺達はいつものように放課後にその公園で会って、「また明日」と約束して別れた。
そしてその次の日、その日は休日だったから俺は起きて早々家を出ると美陽へ会いに公園に向かった。
――俺が公園に着くと、美陽は既に、公園に唯一あるベンチで座っていた。
美陽は俺を見つけるなり、赤い顔で困ったような笑みを浮かべると、糸が切れたかのように俺の方に凭れ掛かってきた。そして触れたその体の熱さに俺は息を呑んだ。
「美陽……お前、いつからここに居たんだ!?」
「……昨日の夜……、つかさのお気に入りのマグカップ、割っちゃって……、追い出されちゃって」
「……ッ」
つかさとは、美陽の伯父の子――つまり美陽の従弟だ。伯父夫婦からはかなり溺愛されていると聞いていた。
そのつかさのマグカップを昨夜、洗い物の最中に割ってしまってつかさが泣き喚いた結果、激高した伯父から「外で反省しろ」と家から追い出されてしまったらしい。
そして追い出されたあと、行く当てのない美陽はこの公園で一晩を明かしたようだった。
秋の夜は長いし冷え込む。そんな中一晩中外になんていたら、体調を崩すのは当たり前だった。
「マグカップ割ったくらいで、こんなことすんのかよ……!」
「……俺が、悪いの。おれが、やくたたずでなにもできないから……いけないの……」
うわ言のように呟く美陽の体を、俺は思いっきり抱きしめた。
「違う、美陽は悪くない……!」
伯父の家の家事の殆どを任されている美陽は、寝る間もなく働いているのを俺は知っていた。
マグカップを割ってしまったのも、その連日の疲れが出たからに違いない。だというのにあの家族は、美陽を労わるどころかマグカップ一つ割っただけで家から追い出すなんて。
――このとき俺の中で、将来の目標が決まった。
「美陽……俺、絶対いつかあの家からお前を連れ出してみせるから……それで、二人で一生一緒に暮らそう」
「……ほんと……?……ふふ、伊月と、ずっと一緒なら……きっと……しあわせだね」
俺は腕の中で笑う美陽の顔を見て誓った。――この笑顔を最期のときまで絶対に守り抜くと。
俺が美陽と出会ったのは小学一年のときだった。俺と美陽は違う小学校に通っていたが、偶々道端ですれ違い目があった瞬間、俺達は「同じだ」と思った。
――家族から邪魔なものとして扱われている。その点で俺と美陽は同じだった。
美陽は、実親を物心つく前に亡くしてから伯父一家に引き取られて暮らしていたものの、役立たずの穀潰しだと言われていた。
俺は、父親が実母と離婚した後に迎えた後妻と――父と後妻との間に生まれた子供に邪魔者扱いされていた。
ちなみに俺の実母は俺が三歳の頃に家を出て行って以来一度も顔を合わせたことはない。
そして後妻――義母は俺が実子より出来が良いことを勝手に逆恨みして、わざと食事を俺の分だけ作らなかったり、俺の洗濯物だけ洗わず放置してきたりと幼稚なことをしてきた。
そして父と後妻の子供――異母弟は、頭は弱いが、ないことをでっちあげることに関しては上手かった。
何か不都合なことがあれば、上手いこと父親たちに嘘を吹き込み、俺を悪者に仕立て上げた。
それにより、実父でさえも次第に俺を毛嫌いするようになり、俺は家で居場所を失くしていった。
だが、美陽の家庭環境は俺よりも悪かった。
美陽の伯父一家は、美陽を召使のように扱っていた。
毎日の家事の殆どを美陽に任せて、自分たちだけ外食に行ったり旅行に行ったりしている一方、家事が少しでも滞ると美陽を「出来損ないだ」となじった。
少しでも抵抗をすると、自分たちが引き取ってやったことを盾にして、美陽が反抗できないように支配した。
それでも美陽は「自分の所為だから」と彼らを責めるようなことは一度も言ったりしなかった。
そんな美陽の危うくも純粋な心に、俺は惹かれた。そんな彼の心を、守りたいと思うようになった。
共に家庭に居場所がない俺達は、自然と意気投合した。
そして一緒に過ごすうちに互いが大事な存在へと変わるのに、時間は要らなかった。
家族の誰にも必要とされない俺達だが、互いだけは互いに必要としている。それだけで俺達の心は満たされた。
この頃から既に俺には、美陽と一生共に居たいという気持ちは芽生えていたが、その思いが決定的になったのは小学三年の秋のことだった。
いつも二人で会うときに使っている公園。その公園で俺達は学校が終わったら落ち合って、日が傾くまでの短い時間を共に過ごした後、離れるのを惜しみつつ帰りたくもない家に帰っていた。
その日の前日も、俺達はいつものように放課後にその公園で会って、「また明日」と約束して別れた。
そしてその次の日、その日は休日だったから俺は起きて早々家を出ると美陽へ会いに公園に向かった。
――俺が公園に着くと、美陽は既に、公園に唯一あるベンチで座っていた。
美陽は俺を見つけるなり、赤い顔で困ったような笑みを浮かべると、糸が切れたかのように俺の方に凭れ掛かってきた。そして触れたその体の熱さに俺は息を呑んだ。
「美陽……お前、いつからここに居たんだ!?」
「……昨日の夜……、つかさのお気に入りのマグカップ、割っちゃって……、追い出されちゃって」
「……ッ」
つかさとは、美陽の伯父の子――つまり美陽の従弟だ。伯父夫婦からはかなり溺愛されていると聞いていた。
そのつかさのマグカップを昨夜、洗い物の最中に割ってしまってつかさが泣き喚いた結果、激高した伯父から「外で反省しろ」と家から追い出されてしまったらしい。
そして追い出されたあと、行く当てのない美陽はこの公園で一晩を明かしたようだった。
秋の夜は長いし冷え込む。そんな中一晩中外になんていたら、体調を崩すのは当たり前だった。
「マグカップ割ったくらいで、こんなことすんのかよ……!」
「……俺が、悪いの。おれが、やくたたずでなにもできないから……いけないの……」
うわ言のように呟く美陽の体を、俺は思いっきり抱きしめた。
「違う、美陽は悪くない……!」
伯父の家の家事の殆どを任されている美陽は、寝る間もなく働いているのを俺は知っていた。
マグカップを割ってしまったのも、その連日の疲れが出たからに違いない。だというのにあの家族は、美陽を労わるどころかマグカップ一つ割っただけで家から追い出すなんて。
――このとき俺の中で、将来の目標が決まった。
「美陽……俺、絶対いつかあの家からお前を連れ出してみせるから……それで、二人で一生一緒に暮らそう」
「……ほんと……?……ふふ、伊月と、ずっと一緒なら……きっと……しあわせだね」
俺は腕の中で笑う美陽の顔を見て誓った。――この笑顔を最期のときまで絶対に守り抜くと。
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